孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  情勢は政権側有利に ロシア・中国の対応に変化も アナン特使の調停続く

2012-03-25 21:31:17 | 中東情勢

(アサド大統領とアスマ夫人、お子さん  家庭円満は結構なことですが、今も多くの国民が弾圧の犠牲になっています  “flickr”より By FreedomHouse2  http://www.flickr.com/photos/syriafreedom2/6855836744/ )

反政府側は拠点を失い、組織的にも混乱、未熟さ露呈
シリアでは政府軍による反体制派弾圧が続いており、国連推計で民間人だけで8000人以上が死亡したとされています。また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、昨年の反政府デモ弾圧が始まってから約1年間で難民が約23万人に達していると発表しています。

状況は、弾圧の手を緩めないアサド政権側に有利に、武器等の装備で劣る反政府側には不利に展開しており、反政府側は拠点を失い、組織的にも混乱があるようです。

****シリア反政府デモ発生1年 反体制派内紛、拠点失う 軍事介入、足並み乱れ****
シリアの反政府デモ発生から15日で1年を迎えた。内戦状態が長期化する中、アサド政権打倒を目指す反体制派の在外代表組織「シリア国民評議会(SNC)」では、最大勢力のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団を中心とした指導部主流派と、それに不満を抱く反主流派との権力闘争が表面化、14日には反主流派の十数人が脱退した。政権側は14日、反体制派拠点の北西部イドリブを制圧するなど攻勢を強めているが、反体制派は、そんな状況でもなお足並みがそろわない未熟さを露呈している。(中略)
  
背景にあるのは、反体制派内の路線闘争だ。自由シリア軍が唱える外国による軍事介入に積極的な反主流派には、武力を持つ同軍を味方につけ発言力を強めようとの思惑がちらつく。
これに対し、ガリユーン氏や同胞団が主導する指導部は、自由シリア軍への武器供与の必要性は認めるものの、軍事介入には慎重な立場をとる。指導部としては、同軍に“手綱”をつけて内戦の泥沼化を避けるとともに、SNC内の強硬論に歯止めをかける狙いがあるとみられる。

政権側は14日、西部ホムスに続きイドリブを制圧、隣国トルコには15日までに同市周辺から政権の弾圧を逃れて約千人が避難した。
昨年3月に最初の大規模デモが起きた南部ダルアー周辺や首都ダマスカス近郊では、反体制派はなお抵抗を続けているものの、軍事的には劣勢に追い込まれたとの見方が強い。国際社会が一致した対応を打ち出せずにいる中、SNCには事態打開への青写真作りが求められるが、今後も路線闘争が続けば、事態がアサド政権に有利に展開する可能性もある。【3月16日 産経】
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【「客観的見地に立った停戦メカニズム」について、アナン特使と対話継続
欧米のアサド政権批判に対し、ロシア・中国が政権を擁護する立場を崩さず、国際社会の統一的な対応も困難ななかで、シリア問題を担当する国連とアラブ連盟の共同特使コフィ・アナン前国連事務総長が今月10日、就任後初めてシリアの首都ダマスカスを訪問し、アサド大統領と会談しました。

アサド大統領は「テロ組織が活動している限り、いかなる対話も成功しない」と述べ、反体制派弾圧を続ける姿勢を示していますが、アナン氏側との対話継続には同意したとされています。

****国連停戦監視団派遣も=アナン特使の提案判明―シリア情勢****
反体制派弾圧が続くシリア情勢をめぐり、国連・アラブ連盟の特使を務めるアナン前国連事務総長が暴力停止を目指し、アサド政権に対して行った提案の内容が16日、分かった。
国連停戦監視団の派遣を盛り込んでおり、アサド政権は「客観的見地に立った停戦メカニズム」を検討するため、アナン氏側との対話継続に同意したという。複数の安保理外交筋が明らかにした。

アナン氏は11日のアサド大統領との会談で、治安部隊が人口密集地で重火器を使うことをやめさせ、部隊を撤退させるよう要請。また、人道支援目的の停戦を1日2時間行うほか、拘束されている人々のうち女性や子ども、平和的な政治活動家を優先して釈放するよう求めた。

アサド政権側は13日に回答し、武装した反政府勢力のいる地域から軍を撤退させれば、治安の真空地帯ができてしまうなどとして、提案の受け入れに難色を示した。アナン氏がこれを「不十分だ」と伝達したところ、政権側は協議を続ける考えに転じたという。アナン氏は18日に自身の交渉団をシリアに送る予定。

アナン氏は16日、国連安保理の非公開会合で映像を通じて、協議の経緯を説明。安保理外交筋によると、同氏は成果を得る可能性について「非常に厳しい」と述べたという。【3月18日 時事】
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従来の支持一辺倒から一定の圧力をかける方針に
アナン前国連事務総長による調停作業はその後も続いており、ロシア・中国もこれを支持する姿勢を見せています。

****安保理が議長声明「シリア特使全面支持*****
反体制派への武力弾圧が続くシリアをめぐり、国連安全保障理事会は21日、国連とアラブ連盟のシリア担当合同特使として和平調停役を担うアナン前国連事務総長に対し、「全面的に支持する」とした議長声明案を採択した。

議長声明は安保理決議と異なり、法的拘束力がないが、全会一致が条件。政権非難などが入っていないことから、過去2度の対シリア決議案の採決で拒否権を行使した中ロ両国も賛成にまわった。
声明採択は、国際社会全体の代表としてのアナン氏の立場が改めて確認されたことを意味する。即時停戦を求めるアナン氏の呼びかけに応ずるようアサド大統領に圧力を加えた形だ。

声明はフランスが提出。アナン氏への協力に加え、弾圧の停止や反体制派との対話、人道支援活動の受け入れなどを求めた。アナン氏とアサド大統領の協議を踏まえて、「必要であればさらなる対応も検討する」としている。
採択後、今月の議長のライアル・グラント英大使は「声明は、シリア政府に対して、アナン氏の要求に速やかに対応するように求める国際社会の一致したメッセージだ」と語った。【3月22日 朝日】
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今回議長声明には政権非難などが入っていないことで、ロシア・中国も支持にまわった形になっていますが、ここにきて、ロシア・中国の対応にも若干の変化が見らます。

****ロシア:シリア政府軍の一部撤退を要求****
シリアのアサド政権が反体制派への武力行使を続ける中、ロシア政府はシリアに対し、政府軍の一部撤退を要求するなど、従来の支持一辺倒から一定の圧力をかける方針に転じている。ロシアは25日にも、シリア情勢の調停役を担うアナン国連・アラブ連盟共同特使と協議し、事態打開へ力を入れる構えだ。

タス通信などによると、ロシア外務省筋は22日、アナン特使が24日にモスクワ入りするとの見通しを明らかにした。シリア反体制派の代表団も来週にロシアを訪問し、打開策を話し合うことも判明している。
ロシアのボグダノフ外務次官は22日、シリアに対し「アナン氏の指示(調停案)に直接取り組むことが大切だ」と指摘した。アナン特使が今月シリアを訪れた際に提示した▽人口密集地域での重火器の使用停止▽都市部からの部隊撤収▽1日2時間の人道支援目的の停戦実施--などの受け入れを促す考えを示した。

マルゲロフ上院外交委員長は「アサド(大統領)は最初の一歩として、大都市から軍を撤退すべきだ」と求めた。マルゲロフ氏は政府の外交政策を代弁することが多く、アサド政権へのいら立ちを表明した格好だ。
これまでロシアは2度にわたり、国連安保理が採択を試みたシリア非難決議案に拒否権を発動した。だが、安保理が21日に採択したアナン氏を全面支援する内容の議長声明に賛成しており、欧米諸国との協調に応じる姿勢を見せ始めている。【3月23日 毎日】
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****中国が反アサド政権へと方針変更*****
アサド政権による反体制派への弾圧が続くシリア。国連安保理は弾圧停止を求める決議案を採択しようとしてきたが、2度にわたって中国に阻まれてきた。

だがここに来て、中国の態度に変化が生まれているようだ。その背景には、中国が原油供給先として頼る国々が加盟している湾岸協力会議(GCC)との関係があるらしい。
「GCCの要のサウジアラビアはアサド政権を強く非難している」と、シリアのある政治評論家は言う。「中国はGCCを投資先などとしても重要視しているが、シリアヘの投資額は少ない。中国は(アサド寄りの)ロシアと足並みをそろえたことは大失敗だったと悔んでいる」

先日シリアを訪れた中国特使の李華新前駐シリア大使は、対話による解決をシリアのワリード・ムアレム外相や反体制派グループに求めた。これに対し、反体制派のある人物は中国の変化を指摘している。「以前ほどアサド政権を擁護しなくなるだろう」。

アサド政権に弾圧停止を求めるための3度目の安保理決議案の準備が進んでいる。今度は中国はどう動くだろうか。【3月28日号 Newsweek日本版】
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ただ、ロシア・中国も一気に方向転換という訳ではなく、国連人権理事会は23日、シリアの反政府勢力弾圧を非難し、人権状況を調査する国連特別報告者の任期延長を認める決議案を賛成41、反対3、棄権2で採択しましたが、これにロシアと中国は依然として反対しています。

シリア国内の情勢がアサド政権側に有利に展開していることで政権側にある程度の余裕ができ、ロシア・中国もこれ以上の泥沼化は避けたいという思惑があれば、アナン特使の調停で、政権批判を明確にしない形での停戦合意・・・といった道筋もありえます。

他の国の紛争にこれ以上足を突っこみたくない
アサド政権を批判している欧米側ですが、軍事介入といった形でシリアに引きずり込まれるのは避けたいのが政権・国民世論双方の本音でもあります。

****シリア介入を嫌がるアメリカ国民の本音****
「戦争疲れ」が広がるアメリカでは、市民の間でシリアへの軍事介入に反対する声が高まっているが

アフガニスタンなどでの軍事行動に辟易しているアメリカ国民としては、他の国の紛争にこれ以上足を突っこみたくないということなのだろう。
シリアのアサド政権による反体制派への武力弾圧を止めるため、米軍を派遣したり反政府勢力に武器を提供するのは反対だ――ピュー・リサーチ・センターがアメリカで行った最新世論調査では、回答者の過半数以上がこう答えた。

アメリカにはシリアの武力鎮圧に介入する責務はない、と答えた人は回答者の3分の2近い64%。シリア政府軍の残虐行為を止めさせるために空爆したり、反政府勢力に武器を提供することに反対だと答えた人の割合もほぼ同じだった。(1年前の調査では、アメリカがリビアで同様の行動を起こすことについても63%が反対した)。(後略)【3月19日 Newsweek】
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アサド政権が残存する形でも一定の事態改善があれば、欧米側としても手を打つことが考えられます。
その場合、はしごをはずされた反政府勢力の「シリア国民評議会(SNC)」や「自由シリア軍」がどうなるのか・・・というのが問題となりますが。

選挙や報道の自由に関するくだらない法律・・・・
手詰まり感のある欧米が、最近八つ当たり気味に標的にしているのが、アサド大統領の妻アスマ夫人(36)です。EUは23日、外相会議を開き、市民への弾圧を継続するシリアに対し、アスマ夫人の資産凍結やEUへの渡航禁止など制裁を拡大することを決めています。

アスマ夫人はイギリスで生まれ育ち、JPモルガンの投資銀行部門で働いた経歴もあり、華やかで欧米に通じる価値観をもった女性とみられていました。しかし、英ガーディアン紙は先週、アスマ夫人と大統領が個人的に送受信したとされる膨大な量の電子メールを入手。自国で起きている残虐行為とは無縁のような、贅沢な生活ぶりが暴露されています。

公表されたメールの内容によれば、アスマ夫人はネットショヅピングが大好きで、ロンドンからはシャンデリアに美術品、パリからは宝石や1万ドル以上もする装飾品を取り寄せるなど贅の極みを尽くしているとのことですが、それはともかく、アサド大統領の国内改革への姿勢は、あまりあてにならないようです。

****改革を悪ふざけのネタに****
アサドとアスマが交わしたメールの大部分はアラビア語ではなく英語で書かれており、中にはアサドが自ら約束した「改革」を悪ふざけのネタにしている内容もある。
「5時に帰宅する」という妻からのメールの返信に、アサドはこう書いている。「妻が自分の予定を夫にちゃんと伝えるなんて。これこそ国として採用すべき最高の改革だね。選挙や報道の自由に関するくだらない法律なんかより、こっちを採用しよう」【3月28日号 Newsweek日本版】
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まあ、価値観はともかく、夫婦仲は欧米的で悪くなさそうです。

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