孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  党大会・権力移譲を控えて、改めて表面化する政治体制改革論議

2012-03-01 22:08:38 | 中国

(広東省・烏坎(ウーカン)村 3月3日に行われる村民委員会の主任(村長)選に向け、それを監視する独立選挙委員会の委員を選出する村民投票の様子 これまで村民委員会の選挙はきちんと行われたことがなく、村の指導者たちが非公開で委員たちを選んできたそうです。 “flickr”より By pengjo  http://www.flickr.com/photos/pengjo/6930708391/

【「危機に陥るよりも、批判にさらされる方がよい」】
中国において、このところ改めて「改革開放」の重要性を強調する新聞論調や温家宝首相の発言が目立つこと、その背景に、今年秋の党大会に向けた権力闘争での改革派のアピールがあるのでは・・・という話は、2月6日ブログ「中国  温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120206)でも取り上げたところです。

故トウ小平氏が、国内の保守派の反発で停滞していた改革開放路線で不退転の決意を示した「南巡講話」が始まって20年を迎えた1月18日には、“東方早報は関連記事を48ページにわたって掲載する異例の報道ぶりで、「現在の中国にもトウ氏が残した言葉を当てはめて『再改革』が必要だ」などと主張。人民日報系の環球時報は社説で「政治改革の継続」に踏み込んだ”【1月19日 産経】とのことで、2月には広東省を視察した温家宝首相が「われわれが直面する挑戦と困難は少なくないが、問題解決のカギは依然として改革開放にある」と発言しています。

“今年1~2月は1992年の南巡講話から20年の節目だが、共産党・政府は記念行事を行っていない。党最高指導部で公に同講話に言及したのは温氏が初めて。政治体制も含めてたびたび改革推進を主張する温氏と、社会の安定維持を重視する保守派指導者の間で、改革をめぐる路線に違いが出ている可能性も指摘されている”【2月6日 時事】

2月23日には、「党の喉と舌」と呼ばれる人民日報が中国共産党に「政治改革」を進言する署名記事を掲載しています。
****政治改革しなければ、危機に」、中国共産党機関紙・人民日報が論評記事―米華字メディア****
2012年2月23日、秋に開催される中国共産党第18回全国代表大会(十八大)を控え、中国共産党機関紙・人民日報をはじめとする複数の中国メディアが「政治改革」の必要性を訴えている。米華字サイト・多維新聞が伝えた。

注目されているのは、人民日報の「観点」ページに掲載された「人民日報論評部」の署名記事「改革深化の認識論」シリーズの第1弾「危機に陥るよりも、批判にさらされる方がよい」。中国共産党系メディアが「経済体制改革」に言及したことはあったが、「政治体制改革」がここまで堂々と呼び掛けられたことはこれまでなかった。

記事は、改革には悶着(もんちゃく)が付きもので、自ら面倒事を作り出しているようなもの、しかも完璧な結果が得られないというリスクも伴うが、「改革しなければ党は危機に陥ることになる。大政党による長期政権が衰退した海外の例をよく見ておくべきだ」と忠告。さらに、「大なたを振るう気迫も持たず、少しばかり修正を加えるようなやり方では、最終的に改革は停滞し、袋小路に追いつめられることになる」と指摘した。

改革開放の父・トウ小平氏の「南巡講話」から20年、逝去から15年を迎え、中国メディアは相次いで「改革」を唱える論評記事を掲載している。国営新華社通信は「改革開放を堅持しなければならない」、南方報業グループの各メディアも、「解放日報」(上海市の共産党委員会機関紙)で改革開放を訴えた周瑞金(ジョウ・ルイジン)氏の論評を掲載した。

中国本土ではこうした動きを受け、熱い議論が巻き起こっている。「党の喉と舌」と呼ばれる人民日報が中国共産党に「政治改革」を進言したことは大きな意味を持つからだ。ネット上では多くのユーザーが、「人民日報がだんだんと(文革を終え、改革開放に突き進むことになる)『70年代末』の雰囲気を醸し出してきた」と大きな関心を寄せている。【2月26日 Record China】
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重慶副市長失脚事件に見る権力闘争
党大会を控えての権力闘争ということでは、2月10日ブログ「中国  重慶副市長失脚事件の“改革開放路線からの転換”への影響」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120210)でも取り上げた、重慶副市長失脚事件と、国家の役割拡大を主張し、「赤い文化」路線をアピールする、「ニューレフト」の旗手として注目されている薄熙来・重慶市党委書記への影響も話題になりました。
この事件で、秋の党大会での薄氏の最高指導部入りは「厳しい情勢となった」と言われています。

この問題は、胡錦濤国家主席率いる共産主義青年団(共青団)グループと、次期国家主席が予定されている習近平氏や薄熙来氏など元高級幹部子弟で構成する太子党グループの権力闘争と見られています。

****中国、党大会控え権力闘争 共青団VS太子党****
“亡命”事件 重慶市公安トップに胡錦濤派
中国中南部の重慶市の公安局トップに胡錦濤総書記(国家主席)直系の共産主義青年団(共青団)出身者が就任したことが注目されている。重慶市は、胡錦濤派と競合する元高級幹部子弟で構成する太子党グループの強い影響下にあり、重慶市の重要ポストを胡派が獲得したことは、同派が水面下の勢力争いで大きくリードしたことを意味する。今回の人事は、秋の中国共産党大会後に発足する太子党の習近平政権の求心力に影響を与える可能性がある。

中国各紙によると、重慶市江津区の関海祥党委書記(42)が17日までに、同市の公安局党委書記に任命された。前任者は6日に米国の総領事館を訪問し亡命を求めたとみられる王立軍重慶市副市長だ。現在、王氏は当局に拘束され、北京で取り調べを受けている。(後略)【2月20日 産経】
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“薄氏は2007年に重慶に赴任してから、胡政権が主張する「調和のとれた社会の実現」と一線を画し、文化大革命を連想させる毛沢東を賛美するキャンペーンを展開した。その保守色の強い政治手法に胡主席は不快感を抱いていたとされる”“習近平氏は政権発足の前に、重要な盟友(薄煕来氏)を失ったといえる。胡錦濤派の影響力は今回の事件で強化された”【同上】とも。

共産党による実質的一党支配体制ではありますが、こうした派閥間の権力闘争が、一種の与野党間の争いに近い効果ももたらしているようです。かつての自民党のようなものでしょうか。ただ、密室での闘争ですから、すべて権力者間の取引・妥協で方向が決まる点は、民主主義における与野党の議論とはやはり別物です。

【「烏坎村に学べ」】
話を「改革開放」に戻すと、政治改革の象徴として注目されたのが、広東省の烏坎(ウーカン)村での住民争議が党支部・市当局に勝利する形で、自治組織の存続保証、村長選挙のやり直しなどが認められた“事件”です。

****全人代2012〉中国民主化、道半ば****
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が5日、開幕する。今秋に予定される共産党指導部の大幅な世代交代を控え、胡錦濤(フー・チンタオ)・温家宝(ウェン・チアパオ)体制にとっては最後の年の全人代だ。現指導部が9年間にわたって訴えた改革の現状と、次期指導部に引き継がれる課題を報告する。

■広がる「烏坎村に学べ」
「春が帰って来た。一人一票、あしたを選ぶ」。村のあちこちの壁を紅色のポスターが埋めていた。
広東省の烏坎(ウーカン)村。29日、3月3日にある村民委員会の主任(村長)選に向けた候補者演説会が開かれた。村民たちが昨年、共産党の村支部書記の40年近い専横に抗議し、やり直しを認めさせた村長選だ。
村の中ほどにある野外劇場前は、開始前から1千人を超す村民たちでいっぱいになった。立ち見は車道まではみ出し、動けなくなったバイクや車の人々も舞台に見入った。(中略)

烏坎村での村民側の「勝利」を受け、改革派の党長老らを顧問に迎える雑誌「炎黄春秋」の呉思編集長は「党が住民との闘争という考え方を変え、住民の権利保護の問題として対応した点が大きい」と話す。
呉氏らは昨年末、北京市内で緊急討論会も開いた。集まったのは、1980年代に政治体制改革を唱えた胡耀邦元総書記の息子の胡徳平氏ら改革派知識人たち。党の柔軟な対応をめぐり、驚きと興奮の発言が相次いだという。

「烏坎村に学べ」。村レベルでの民主化を求める動きは広がりを見せる。
広東省・広州市郊外の望崗村では今年1月、約1千人の村民が市庁舎前でデモをした。書記が村の土地を親族に安く貸したり、地下鉄工事の補償金を着服したりしたとの訴えだった。
2月中旬に村民代表と面会した謝暁丹副市長は要求を受け入れ、調査を約束した。さらに、デモ参加者の処分の有無について、副市長はしばらく沈黙してから答えた。「心配するな」
村民代表の一人、黎偉常さん(77)は、デモが不問に付されたのは温家宝首相の後押しがあったからだと思っている。

ちょうどそのころ、温首相は広東省を視察。望崗村に近い農村で「土地は農民の財産。この権利が保障されていないことが問題の根源だ」と語っていた。烏坎村などでの村民自治の動きに対し、党中央指導者が初めて公にした支持と理解の表明と受けとめられている。

■「権利を尊重」竜頭蛇尾
確かに温首相は就任以来、民主化を進める政治体制改革の必要を何度も口にしてきた。しかし、改革の進み具合については否定的な見方も少なくない。
2004年の全人代で初めて行った政府活動報告で「村民の自治と都市住民の自治を充実させ、大衆の民主的権利を尊重する」と言い切っていたが、その後の報告では改革に割かれる言葉自体が減った。胡―温体制下、政府に抗議する住民の動きを封じる警察力は強化され、「政治体制改革は後退した」(作家の朱健国氏)との受け止めもある。

7年前、「農民自治の里程標」と期待されながらも、挫折に終わった村があるのも事実だ。
土地を勝手に売った疑惑で村長の罷免(ひめん)運動が起きた広州市太石村だ。村民たちは、人口約2千人の中の800人余の署名を集め、村長の罷免を果たした。新たな村長を選ぶ選挙のための選挙委員選では、党が推薦した候補は全員落選し、村民が推した7人が当選した。

ところが、数日後、この7人全員が体の不調などを理由に辞任を表明した。誰も何も語らないが、署名も396人が撤回し村長罷免は立ち消え、今も同じ男が村長を続ける。
「村を制御できなくなることを当局が恐れたのでしょう」。中山大学の院生として村を調査した黄海濤さん(32)は、当局が7人に何らかの圧力をかけた可能性を指摘する。
地元警察は、法的なアドバイスをしていた弁護士や運動の中核にいた村民を拘束した。黄さんらも調査をやめるように大学から言い渡された。

温首相はこの直前にも、広東省を訪れ、「民衆の利益」の重要性を訴えていた。それだけに、黄さんは「彼は行動が伴っていない。今後も同じだ」と失望感をあらわにする。
各地の住民運動に注目する北京在住の作家は、こう突き放した。「結局のところ、党は保身の論理で動いている」【3月1日 朝日】
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【「規則に従わないなら家族を皆殺しせよ」】
中国の一党支配体制の歪は、地方当局が住民の人権や「民衆の利益」を無視する横暴・不正に端的に表れています。
一人っ子政策に関して、下記のように報じられています。

****中国の一人っ子政策、脅迫調のスローガン廃止へ****
中国政府は地方政府に対し、「一人っ子政策」の脅迫調のスローガンを中止するよう命じた。国営英字紙・上海日報が前週末に報じた。

中国政府が禁止させるスローガンは以下のようなものだ。
「規則に従わないなら家族を皆殺しせよ」
「2人目を許可するくらいなら、おまえの子宮をこすり取る」
「避妊手術をしなければ家を解体する」
「捕まれば、避妊手術させる。逃げれば追いかける。自殺したければ縄か毒薬の瓶をやろう」

上海日報は、どの地方当局が、これらスローガンを利用しているかについては明らかにしていない。(後略)【2月29日 AFP】
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「一人っ子政策」のもたらした歪については、これまでも取り上げたことがありますが、今回驚いたのは、そのスローガンです。
まるで悪徳金融業者の「腎臓を売って金払え」といった借金取り立てのような言い様です。
これを見ると、中国地方当局の人権に関する認識は、悪徳金融業者のそれと大差ないようです。
やはり“大衆の民主的権利を尊重する政治体制改革”が必要に思われます。
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