
(タイトルは“Mortgage Meltdown” 滝つぼに押し流される家々 黒い影は雄牛でウォール街を表したものとか “flickr”より By ocean.flynn
http://www.flickr.com/photos/oceanflynn/2345447723/)
【米:台湾への武器輸出承認】
アメリカ・ブッシュ米政権は今月3日、弾道ミサイルを撃ち落とす地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)330発や攻撃ヘリAH64D「アパッチ・ロングボー」30機などの兵器総額60億ドル(6420億円)相当を台湾に輸出すると米議会に通告しました。
潜水艦発射型対艦ミサイル「ハープーン」32発と歩兵携行式多目的誘導ミサイル「ジャベリン」182発、台湾空軍が保有する米国製F5、F16戦闘機の部品なども供与されます。
“今回の措置は、中台の軍事的均衡の安定化を図る狙いがある。しかし、台湾が米国に供与を求めていたディーゼル潜水艦や多用途ヘリUH60「ブラックホーク」は今回の輸出計画に含まれておらず、中国にも一定の配慮を示した形だ。”【10月4日 読売】とのこと。
もちろん、中国は「中国政府と国民はこの措置に断固反対する。同措置は中国の利益や中米関係に重大な影響を及ぼす」と非難しています。
“劉外務相報道局長は武器売却計画について、「中国と米国間の3つの共同コミュニケに盛り込まれた原則に違反する」とし、「これは中国の国内問題に著しく干渉し、国家の安全を危うくし、中台関係の平和的な発展を妨げるものだ」と指摘した。さらに「われわれは米国に対し、世界に中国は一つしかなく、台湾は中国の一部であると厳重に警告する」と述べた。そのうえで劉局長は米国に対し、武器売却計画を取りやめ、台湾との軍事関係を打ち切るよう求めた。”【10月5日 時事】
今日のニュースによると、中国は米国による台湾への武器売却計画に抗議し、米国との軍事交流の中止や延期を伝えてきたそうです。
【中国:最後の貸し手】
中国を意識したアメリカの戦略、中国の予想された反発・・・というところですが、一方で、金融不安への対応で巨額の資金を必要とするアメリカと中国の間では、中国が大量の米国債を引き受ける形で、アメリカ経済崩壊、世界恐慌発生を食い止める“最後の貸し手”として浮上しているという話もあります。
****中国:2000億ドル規模の米国債、新たに引き受けか****
米国が先週末に金融安定化法を可決したことを受け、中国が最大2000億ドル(約21兆円)規模の米国債を新たに引き受ける案が浮上している。金融不安の拡大で米国債への不安が高まる中、日本と並ぶ対米国債を保有する中国が資金を供給することでドル不安の再燃を回避する狙いがあると見られる。中国の複数のメディアが6日、香港紙「明報」を引用して報じた。
(中略) 胡錦濤国家主席は先月22日、米ブッシュ大統領との電話会談で米国の金融情勢を巡って協議しており、市場筋は「この際、ブッシュ大統領から米国の資金調達への協力を求められた可能性が高い」と指摘している。
米財務省の統計によると、中国の米国債保有額は7月末で5187億ドルと、日本の5934億ドルに次ぎ世界で2番目。最近数年間では、最大の引き受け手になっているとみられる。9日から始まる共産党の重要会議で議論されるのは必至だ。
米国債を大量に保有するアジア諸国では、米国債価格の下落(金利は上昇)により、金融不安に拍車がかかることに懸念が広がっている。韓国の李明博大統領は6日、24~25日に北京で開かれるアジア欧州会議(ASEM)首脳会合で、日中韓3カ国の首脳会談開催を提案する考えを表明したほか、中国人民銀行元政策委員の余永定氏も先月、一部メディアの取材に「米国債を大量に保有する国が、パニック売りで米国債の価格を急落させないよう、東アジア諸国間の話し合いが必要」と指摘するなど、協調態勢構築を模索する動きも出始めている。 【10月6日 毎日】
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【中国からの警告】
アメリカ経済を支える役回りが中国というのも面白い展開です。
なお、8月末から9月にアメリカ住宅債券市場の動揺が始まったのも中国からの“警告”によるものだそうです。
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中国政府はこの6月末時点で約6500億ドルの両住宅金融2社関連を中心とする米政府機関債を保有し、第2位の日本2600億ドルを大きく上回っている。豊富な石油収入を持つ中東産油国でも240億ドルに過ぎない。
中国はブッシュ大統領が北京五輪出席を正式表明する6月までは政府機関債を買い増ししてきた。ところが、北京五輪が終了した後の8月28日、大手国有商銀の中国銀行は米住宅金融2社の発行債券を約40億ドル減らしたと発表した。このニュースが号砲となって、住宅債券市場の動揺が始まった。中国銀行の発表は、党中央の警告と市場は受け取った。
ワシントンでは、ポールソン財務長官が急ぎ住宅金融2社への公的資金注入の具体策の検討に着手し、2社を米政府の直接管理下に置いて債券を買い支えると、9月7日の日曜に緊急発表した。発表前に、マコーマック財務次官(国際担当)は真っ先に北京の周小川人民銀行総裁に電話し、「安心してほしい」と説明。これに対し、中国人民銀行はただちに声明を発表して「この政策は前向きで市場を安定させる」と歓迎する意向を表明した。【9月30日 産経】
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このあたりの話を聞くと、今更ながらに米中が一蓮托生と言うか、運命共同体というか、もはや“相手を蹴落として自分だけが・・・”ということはありえない関係にあることが窺えます。
【馬政権の期待、今のところ不発】
中国と台湾の関係も微妙とところがあります。
冒頭のような最新兵器で侵攻に備えるという側面もありますし、微妙な感情もあります。
北京オリンピックのとき、野球1次リーグで台湾が中国に延長戦の末、サヨナラ負けしたことに台湾全体が衝撃を受けたとの記事もありました。
野球は台湾人が最も熱くなる種目で、野球では中国に優越感を持っていたためとか。
一方、今年3月に総統選挙に勝利した馬英九氏は中台融和による景気浮揚を1枚看板にしていました。
“雪解け”を演出するような政治家の交流はありましたが、実際のところは、中国からの台湾への観光客は期待したようには伸びていないとか。
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中国大陸の市民の台湾観光が解禁され3カ月が経過した。だが、台湾の馬英九政権が目標とした「1日当たり3000人」を大幅に下回り、解禁後初の大型連休となった中国の国慶節(建国記念日)の休暇(9月29日~10月5日)中も伸び悩む。中台間の経済交流の活性化を軸に、景気浮揚を公約に掲げた馬総統に対し失望感が広がっている。【10月4日 毎日】
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解禁から9月18日までの統計では1日平均226人。当初目標の3000人の10分の1に満たない状況で、期待された国慶節の大型連休も不発だったようです。
結局のところ、台湾を訪れる日本人観光客は減少しているものの、1日平均3000人を超え、国・地域別の観光客数では断然トップ。台湾観光業界の「日本人頼み」に変わりはない・・・ということです。
【金融不安が教えてくれるもの】
米中にしても、中台にしても、表面的な対立関係とは別に、実態としては一連托生的な関係にあることは、世界中の他の国々についても同様です。
今回の金融不安になにがしかの“功”があるとすれば、欧州への飛び火、世界同時株などによって、世界がひとつの舟(ドロ舟かどうかはともかく・・・)に乗っていることを改めて確認させてくれたことでしょう。
ロシアでは、主要株式指数で前週末終値比19.1%の暴落だそうです。
お互いに協調していかざるを得ない状況にあり、“新冷戦”なんて、ロシアにとっても“とんでもない話”です。
日本も同じでしょう。
今は日本企業による海外企業買収など、欧米企業より比較的体力が温存されているような活動が目立っていますが、世界経済の失速は当然に日本経済にも及びます。
そんな折、韓国の李明博大統領は6日、混乱する国際金融市場の沈静化策を協議する日本、中国、韓国3か国の首脳会合を行いたいという考えを示しています。
どれだけ実効ある対策が打てるかは別として、東アジアで隣接する、経済的にも一定の存在感を持つ3国(中国との関係で、台湾は入れる訳にはいかないでしょうから)が協調関係に向けて、大東亜共栄圏だかなんだかを話合うというのは、いろんな面での交流のきっかけになってくれれば・・・いいんじゃないでしょうか?
これも“功”のひとつでしょうか。
近い関係にあればあるほど、国境紛争や歴史問題でギクシャクするのは世の常ですが、そうは言っても文化・歴史を共有する数少ない国ですから、ごくごく単純に“仲良くありたいものだ”と思います。