孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア・チェチェン共和国カディロフ首長 ロヒンギャ迫害のミャンマー批判 プーチン大統領も黙認?

2017-09-24 22:20:24 | ロシア

(チェチェンのラムザン・カディロフ首長【9月22日 WSJ】)

【「ロシアが悪魔(ミャンマー政府)を支持するのなら、私はロシアの立場に反対だ」】
ミャンマー西部ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対してミャンマー政府軍等が“民族浄化”的な弾圧を行っているのではないかと、国連や人権団体などからミャンマー政府・スー・チー国家顧問への批判が集中している件は、再三取り上げているとおりです。

現段階でミャンマー政府支持を明らかにしているのは中国です。
公式の表明の有無は知りませんが、この種の人権問題ではロシアも自国利害を最優先して“内政不干渉”の立場をとることが多いので、今回ロヒンギャの件でも同様のスタンスかと思われます。

“9月6日、ミャンマー政府は、西部ラカイン州でイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装勢力と治安部隊の衝突が激化している問題について、国連安保理の非難決議採択を回避するため、中国とロシアに協力を求めていることを明らかにした。”【9月7日 ロイター】

そのロシアにあって、イスラム系住民が多いチェチェン共和国が、ロヒンギャに対する強い連帯、ミャンマー政府への批判を示しており、注目されています。

****ミャンマーの少数民族に連帯訴え チェチェンで大規模集会****
住民の多数がイスラム教徒のロシア南部チェチェン共和国で4日、ミャンマーで治安当局からの迫害を受けているとされるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの連帯を示す数千人規模の集会が行われ、参加者はロシアのプーチン大統領に影響力を行使するよう求めた。ロシア通信などが報じた。
 
参加者は集会で「ミャンマーで続くイスラム教徒の虐殺を止めろ」と主張。チェチェン共和国トップのカディロフ首長も「ロシアが悪魔(ミャンマー政府)を支持するのなら、私はロシアの立場に反対だ」と表明した。

ロシアではモスクワでも3日、ミャンマー大使館前で参加者約800人の集会があった。【9月4日 中日】
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****ロヒンギャ迫害にイスラム教のチェチェンが抗議****
<ミャンマーの少数民族ロヒンギャの迫害に、同じイスラム系のチェチェン首長が怒りを表明。しかしロシアはミャンマーとの関係が深いために頼りにはならない>

世界で今、最も迫害されているといわれるミャンマー(ビルマ)のイスラム系少数民族ロヒンギャ。彼らへの連帯を示す動きが思わぬ所で広がっている。

ロシア南部チェチェン共和国のカディロフ首長は、「イスラム教徒へのジェノサイド(大量虐殺)」を非難しないようなロシア政府には従わないとYouTubeで表明。首都グロズヌイでは、ロヒンギャへの暴力行為が増加していることに抗議する集会に多数の住民が参加した。(中略)
ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は、8月下旬以降で9万人近くに及ぶ。彼らの多くが、

ロシアのプーチン大統領の「歩兵」で、「アラーのしもべ」と自称するカディロフは、「ロシアが悪魔(ミャンマー当局)を支持するなら、私はロシアに反対する立場を取る」と明言した。

ロヒンギャ保護のためにチェチェン軍を出動させるのは地理的に難しいが、今の状況にいてもたってもいられないと吐露。「許されるなら核攻撃して、子供や女性、老人を殺した奴らを一掃したい」とまで発言した。

だが、カディロフ自身も決して清廉な人物ではなく、数々の人権侵害をめぐって非難されてきた。99~09年の第2次チェチェン紛争時にロシア政府への忠誠を誓って以来、チェチェンでの権勢を誇り、チェチェンとロシアの国益は一致すると主張してきた。

今回、ロシア政府との対立も辞さないと表明したのは異例だが、ロシアがミャンマー当局を支持することはないはずだと、譲歩するような発言もしている。

むしろ強い怒りの矛先は「懸念を表明するだけ」の国連に向けていた。カディロフは抗議集会にも参加し、プーチンが「あらゆる権威と世界における影響力を使って」ロヒンギャ迫害をやめさせるよう呼び掛けた。

だが皮肉にも、今年3月に国連でロヒンギャ迫害への非難声明案が協議された際、反対したのはロシアと中国だった。ロシアはミャンマー政府にとって、長年の貿易と軍事協力の相手国。「歩兵」の頼みは聞き届けられそうにない。
【9月15日 Newsweek】
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インドネシアやマレーシアなど、イスラム教徒を多く抱える国は、ミャンマーへの批判を強めています。
中国も、ウイグル族・回族などの少なからぬイスラム教徒を有していますが、回族は政府協調ですし、ウイグル族は“ものが言える”ような状況にありません。

ロシアも多数のイスラム教徒を抱えていますが、こちらは中国とは事情が異なります。

チェチェン共和国などイスラム教徒が多いロシア・北コーカサス地方はテロ活動などが頻発する“ホット”な地域で、ロシア・プーチン大統領の悩みの種であることは、中国・新疆ウイグル自治区とも似ています。

しかしイスラム系のチェチェン共和国・カディロフ首長はプーチン大統領の権威をさえ凌駕する“独自の立場”を確保しています。

このことは、カディロフ首長がプーチン大統領に従わないということではなく、その正反対に、カディロフ首長は常にプーチン大統領に対する露骨な“おべっか”と言うしかないような“称賛”を示しています。

“おべっか”にとどまらず、ウクライナ問題では多数の義勇兵を送り出すなどの、ロシア政府として公式には動きにくい部分で、プーチン大統領の意向を受けた動きなども行っています。上記記事で“プーチンの歩兵”を自称しているというのも、そのあたりの話です。

しかし、その一方で、プーチン大統領を悩ます“ホットソーン”を“力で支配”して安定化させていることで、チェチェン国内にあってはロシア中央政府の力も及ばない独自の権力を確立し、プーチン大統領もこれを黙認している状況にあります。

数々の人権侵害をめぐって非難される立場のカディロフ首長
“カディロフ自身も決して清廉な人物ではなく、数々の人権侵害をめぐって非難されてきた”云々については、問題が多々ありますが、最近では5月10日ブログ“ロシア 欧米からの批判が強まるチェチェンの同性愛者弾圧 同性愛者の居場所を奪う「同性愛宣伝禁止法」”でも取り上げた、同性愛者への虐待・弾圧が国際的に批判されています。

高まる国際批判に対し、カディロフ首長は「チェチェンには同性愛者はいない。だから弾圧もない」と言い放ち、全く相手にしていません。ロシア中央政府も「・・・・」といった感じです。

****チェチェンに「同性愛者いない」 迫害の指摘受け首長が言明****
「同性愛者はいない」 チェチェン首長
ロシア南部チェチェン共和国のカドイロフ首長は18日までに、米ケーブルテレビ局HBOとのインタビューで、チェチェンの男性同性愛者が迫害されているとの指摘に対し、「うちには同性愛者などいない」と主張した。

カドイロフ氏はさらに「もし同性愛者がいたら、カナダへ連れて行け」「我々の血を清めるために遠い場所へ連れ去ってくれ」などと語った。

CNNが入手した現地からの情報によると、チェチェンでは何百人もの男性の同性愛者が収監され、虐待を受けているとされる。

だがチェチェン当局の報道官は今年4月、共和国内に同性愛者は存在しないと主張し、迫害は「全くのうそ」だと断言していた。

HBOによるインタビューのテーマは、カドイロフ氏が新たに設立する格闘技団体などに関する話だった。だが同性愛者をめぐる報道について質問されると、同氏は「作り話だ。かれらは悪魔だ」「人間とはいえない」と言い放った。

カドイロフ氏はチェチェン独立派をはじめ、あらゆる反体制分子を抑え込んできた強権的な政策で知られる。2009年には新聞社とのインタビューで「売春と麻薬、同性愛は現代の毒だ」と語っていた。

ロシアのペスコフ大統領報道官は、カドイロフ氏の新たな発言について「きつい表現」だと認める一方、同氏の発言は文脈から切り離されて批判を受けることが多いとの見方を示した。【7月18日 CNN】
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ロシア政府との“役割分担・補完関係”?】
こうした“強権支配の独裁者”カディロフ首長の“ロヒンギャ擁護・ミャンマー政府批判”は“笑止”ではありますが、ロシア国内における“力のバランス”という観点では興味深いところです。

****イスラム圏で野心強めるチェチェン首長、ロシアにジレンマ****
ロヒンギャ問題にも関与強めるカディロフ首長とはどんな人物か
 
ミャンマーで約1カ月前にイスラム系少数民族ロヒンギャの集団脱出が始まったとき、イスラム世界の思いがけない一角から激しい抗議行動が起こった。ロシアのチェチェン共和国だ。
 
チェチェンのラムザン・カディロフ首長が9月4日に首都グロズヌイでロヒンギャとの連帯を叫ぶ抗議集会を主宰したのだ。当局の説明によれば、この集会には100万人が参加した。

カディロフ氏は対応策を幾つか提案したが、その中には、ミャンマーに核爆弾を投下して「イスラム教徒のジェノサイド(大量虐殺)」をやめさせるよう呼び掛けるものもあった。
 
モスクワ中心部では、イスラム教徒による別の大規模な抗議活動(これにもチェチェンの代表が関わっていた)が行われ、付近の交通がまひした。またミャンマーの外交官は一時的に大使館から退避することを余儀なくされた。
 
カディロフ氏は現在40歳。チェチェン共和国を中東の多くの国よりも厳しくイスラムの法と慣習を守る場所にした。そんな同氏にとってミャンマーのロヒンギャ危機は、世界的なイスラムのリーダーになる機会を提供する。

またグロズヌイやモスクワで展開されたこれらの抗議活動は、ロシアで最有力人物の1人としてのカディロフ氏の立場を確固たるものにしている。同氏がロシア国内に居住する推定2000万人のイスラム教徒を代表して発言するケースが増えているのだ。
 
遠くのイスラムの大義を利用することは、これまでも他の独裁的指導者の勝利戦略であり続けてきた。例えば、リビアの元最高指導者ムアンマル・カダフィはかつて、フィリピン南部のイスラム系反政府勢力を熱心に支持していた。
 
だが、カディロフ氏がいかに強力だとしても、国家元首ではない。そして、イスラム世界の指導者を装う同氏の自負は、ロシアにとっては政策上のジレンマになる。
 
カディロフ氏の最近の言動の多くは、ロシア政府の外交上の優先課題とは一致していない。ミャンマーに関して言えば、ロシアは長年、同国軍部の主要な支援者であり、武器供給者となってきた。

カディロフ氏がミャンマーについて扇動的な発言をしたことは、ロシア政府にとって都合が悪い時期だった。ウラジーミル・プーチン大統領がちょうど、ミャンマーと関係を深める中国を訪問していたからだ。
 
またカディロフ氏は数カ月前、エルサレム旧市街にあるアルアクサ・モスク(イスラム教の礼拝所)の敷地で金属探知機を導入するという治安上の新措置を決定したイスラエルを厳しく威嚇する姿勢を示した(イスラエルはその後、この措置を撤回)。

昨年には国際イスラム会議を招集し、サウジアラビアの支配的な宗派は神学上イスラムの範囲外にあると言明した。
 
ミャンマーの危機に介入したカディロフ氏の最近の発言は、ロシア指導部に不快感を与えた。モスクワの国営シンクタンク、ロシア国際問題評議会のアンドレイ・コルトゥノフ会長は「ロシアの外交政策は、大きな決定を下すという観点では極めて中央集権化されている」と指摘。「カディロフ氏の言動にはロシア外務省とロシア指導部全体がいら立っている」と語った。
 
一方でカディロフ氏は、より広範なイスラム世界でロシアのために貴重な役割を演じることもできる。折しも、ロシアはイラン主導のシーア派勢力と並んでシリア戦争に関与しているとして広く批判されている。
 
カディロフ氏は若い頃、反政府勢力メンバーとして、チェチェンの分離独立戦争でロシア軍と戦った。同氏の父親アフマド・カディロフ氏はロシアに対するジハード(聖戦)も宣言していたこともある。

その後くら替えし、モスクワとの和平協定に基づきチェチェン共和国の初代大統領に就任したが、2004年に反乱分子に暗殺された。
 
現在のチェチェンは、別の国のように感じられる。チェチェンの治安部隊は、建前上はロシアの監督下にある。だが、実際には第3代大統領(その後、首長に改名)になったカディロフ氏の「親衛隊」と化している。

同氏のインスタグラムのアカウントに流された軍事パレードでは、同氏への忠誠の誓いと「アラー・アクバル(神は偉大なり)」の歓声が交互に聞かれる。
 
こうした背景を持つカディロフ氏は、中東の既存イスラム主義運動にスンニ派の代替的理念を提供する。過激派組織「イスラム国(IS)」あるいはアルカイダの神学理論とは異なる同氏のイスラム主義は、スンニ派の流れをくむ比較的穏健な「スーフィー」の伝統が色濃く、シーア派に敵対的ではなく、地域の多くのスーフィー派にアピールしている。
 
カディロフ氏は過去1年間、イスラム圏、とりわけペルシャ湾岸諸国を訪問すると、ロシア連邦の一共和国の首長をはるかに上回る栄誉礼で迎えられた。それには、サウジアラビアさえ含まれている。同氏が最近になって神学論争で和解した国だ。
 
カーネギー・モスクワ・センターのドミトリ・トレーニン所長は「カディロフ氏は大きな野心を持った男だ。中東諸国で非公式なロシア特使としての役割を演じている」と指摘。

さらに「時にはロシアの公的立場から離れたり、この立場と矛盾する発言をすることもある。しかし、総じて言えば、大きなイスラム社会を抱え、それ故にあらゆるイスラム問題に関与する権利がある国としてロシアをアピールしている。そして、それはロシアの外交政策にとってポジティブになり得るのだ」と語っている。【9月22日 WSJ】
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どこまでプーチン政権指導部との“すり合わせ”がなされているのかわかりませんが、公式のロシア政府対応が反発を招きかねないイスラム関係において、カディロフ首長が政府見解とは異なるイスラム的発言を行い、イスラム圏からのロシア批判を緩和する・・・といった“役割分担・補完関係”があるとの指摘です。

それによって、カディロフ首長は“イスラム世界における指導者”という地位を獲得し、強烈な自尊心を満足させることができる・・・ということにもなります。

プーチン大統領がそうした“役割分担・補完関係”を積極的に望んでいなかったとしても、先述のように“厄介の種”チェチェンを安定化させているのはカディロフ首長の“力”ですから、さしものプーチン大統領も“黙認”するしかないのでしょう。

しかし、こうした“独自のふるまい”は“極めて中央集権化されている”ロシア政治体制にあっては軋轢を生みます。

好き放題にやることが許されていたカディロフ首長と、ロシア連邦保安局・プーチン政権中枢の間の緊張関係・対立も・・・・という話は、2015年4月26日ブログ「ロシア 野党指導者暗殺事件で消えない“黒幕”疑惑 政権の暴力装置カディロフ首長と政権中枢の対立も」でも取り上げたところです。

まあ、ロシアという“コップの中”の話ではありますが、プーチン大統領、大統領周辺の権力層、カディロフ首長のバランス・力関係というのは、興味深いところではあります。

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