孤帆の遠影碧空に尽き

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インド  モディ政権下で進む富の集中 相続税のないインド モディ首相は導入否定

2024-04-30 23:11:54 | 南アジア(インド)

(ムンバイ中心部に広がるスラムと、その奥にそびえ立つ高層ビル。このコントラストが、歪な格差を象徴している(撮影/佐藤大介)【2020年11月2日 佐藤大介氏 現代ビジネス】)

【確かに貧困率は改善 しかし、依然として大きな格差が存在】
インドでは現在総選挙が行われており、モディ首相率いる与党・インド人民党の勝利が予想されています。
(今回の下院議員選挙は4月19日〜6月1日に7回に分けて投票があり、結果が判明する開票作業は6月4日に一斉に行われます。)

モディ首相が支持されている背景には、インドが達成した経済成長、国際社会での存在感の高まりなどがあげられています。

経済成長によりインド最大の問題である「貧困」が改善しているのは事実です。

****インドの貧困率は11%に低下、直近9年で大幅に改善****
インド政策委員会(NITI Aayog)は1月15日、「2005年度以降のインドにおける多次元貧困(注)」と題した報告書を公開し、2013年度に29.17%だった貧困率が、2022年度には11.28%と、直近9年間で大幅に改善したとの推計を発表した。

同報告書では、政府の貧困削減策により、その間に約2億4,820万人が多次元貧困から救われたとされている。とりわけ、ウッタル・プラデシュ(UP)州では5,940万人、ビハール州で3,770万人、マディヤ・プラデシュ(MP)州で2,300万人、ラジャスタン州では1,870万人が多次元貧困を脱した。政府は、全国的に行った無料の食料配布プログラムなどが功を奏したとみている。

インドは、国連の定める「持続可能な開発目標(SDGs)」のうち、多次元貧困に関する目標については、達成期限である2030年より大幅に前倒しで達成する見通しだ。

他方で、州ごとによる貧富の格差は大きい。インド準備銀行(RBI)が公表する2022年度の1人当たりGDP(実質)のデータによれば、首都ニューデリーのあるデリー準州が27万1,019ルピー(約48万円、1ルピー=約1.8円)であるのに対し、UP州は4万7,066ルピー、ビハール州で3万1,280ルピー、MP州で6万5,023ルピー、ラジャスタン州は8万6,134ルピーと、場所によっては9倍程度の差がある。

また、過去10年間の推移をみても、その差はわずかながらも拡大傾向にある。貧困率の低下だけでなく、今後、どのように格差拡大を是正していけるかが課題となる。

(注)多次元貧困とは、単なる金銭的な欠如だけでなく、健康や教育など、人々が経験しうるさまざまな形態の貧困のこと。【1月22日 JETRO】
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****インドの貧困の理由は?現状・解決に向けた取り組み、私たちにできることを紹介****
(中略)
インドの貧困問題
「そんなに経済が発展しているのに、貧困問題があるの?」と不思議に思う人もいるでしょう。しかし、インドはあまりに多様で、格差の大きい社会なのです。

まず貧困の定義について世界銀行は以下のように定めています。
「国際貧困ライン」 1日1.90ドル(約200円)以下で暮らす人々を「貧困層」として設定。

世界銀行によると、世界の貧困率は1990年には36%だったのに対して、2015年には10%まで減少しました。(中略) では、インドの貧困状況はどのようになっているのか、見ていきましょう。

高い貧困率と地域差
外務省の調査によると、1973年にはインドの貧困率は54.9%を占め、実に国民の半分以上が貧困層に属していました。

しかし高い貧困率は年々改善を続け、国連開発計画(UNDP)の調査によると、2005-06年から2019-21年の15年間で、4億1,500万人もの人々が貧困から抜け出したと言われています。特に、栄養や衛生、調理用燃料、資産の分野で大幅な改善を達成しました。

しかし、貧困の発生率は都市部と農村部で大きな開きがあります。インド全体の貧困率は2015-16年では36.6%でしたが、2019-21年には農村部で21.2%に、都市部では9.0%~5.5%になったと報告されています。

2015年の世界の貧困率が10%だったのに対して、インドの都市部の貧困は、世界水準と同程度あるいは下回るほどに改善していることがわかるでしょう。

しかし農村部での貧困率は依然として高く、農村地域が貧困層の90%近くを占めているという調査もあり、インドにおける貧困問題は地域差が大きいことがわかります。

徐々に貧困を改善してきたインドですが、新型コロナウイルスの影響によって貧困の状況が後退してしまうのではないかとも推測されています。事実、経済封鎖により少なくとも4億人以上の人が失業したとも言われており、今後の動向に注意が必要です。

インドの貧困問題の原因
近年、改善してきたとはいえ、インドではまだまだ多くの人が貧困に苦しんでいる状況です。では、インドの貧困の原因とは一体なんでしょうか。

ここからは、インドの貧困の特徴と言える「格差社会」と「カースト制度」について見ていきましょう。

格差社会
インドは日本をはるかにしのぐ「格差社会」と言われています。以下は、2000年から2020年までの、インドにおける所得別人口の推移を表しています。

低所得層は、2000~2020年の間に95.6%から66.4%まで減少。逆に中間層は、同期間で4.1%から32.8%にまで増加しました。インドでは経済発展も目覚ましく、今後はこの中間層がますます増えることが予測されています。

しかし依然として格差が大きいことに変わりはなく、インドでは富の85%は人口の10%が所有しているとも言われるほどです。

さらに、地域間格差もあります。インドでは以前より北部や東部、北東部の貧困率が高く、特に北東部では改善が遅れています。2004年から2011年の州別貧困率を見ると、東部のオディシャ州は57.2%から32.6%に、北部のビハール州は54.4%から33.7%に改善しました。

しかし、依然として貧困率が30%を超える州は多く、中でも北東部のアルナチャル・プラデシュ州やアッサム州では貧困率が30%台のまま大きな変動が見られません。インド政府はこの北東部に位置する7州すべてを、財政上の優遇措置が受けられる特別カテゴリー州に分類していますが、目立った効果は見られていないのが現状です。

他にも、保健医療格差やジェンダー格差、世代間格差、情報の格差、民族による格差、環境格差などインドには多くの格差が存在しています。(後略)【2023年12月18日 Spaceship Earth】
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【モディ政権下で富の集中が進行 大半の国民はぎりぎりの生活】
上記両記事も指摘するように、「絶体的貧困」の残存と併せて、「格差」の問題が存在します。

****富裕層がインドの富の40%所有-モディ政権下で格差急拡大****
インドではモディ首相就任後の10年間に貧富の差が急激に拡大し、上位1%の富裕層が国の富の40%を所有するようになったことが、新たな調査で分かった。

格差問題の著名専門家トマ・ピケティ氏を含むエコノミストの研究によると、上位1%に相当する約920万人が総所得の22.6%を稼いでおり、1920年代にさかのぼるデータでは最高のシェア。

また、上位1%は、世界第5位の経済大国であるインドの富の40%以上を所有している。エコノミストらは主に中産階級の犠牲の上に成り立っている成長だと述べた。

エコノミストらはインドの現代のブルジョアジー主導の「ビリオネアによる支配」が、英国によるインド植民地支配時代よりも不平等になっていると指摘。貧富の差がさらに拡大すればインドの社会不安をあおりかねないと警告した。

1990年代初頭のインド経済の自由化以降、貧富の差は拡大したが、「2014-15年から22-23年にかけて」富の集中という点で上位層の台頭が特に顕著になったと研究者らは分析した。

この時期はモディ首相が政権を握り、ムケシュ・アンバニ氏やゴータム・アダニ氏に代表されるインドの富豪層が成長した時期と重なる。インドの野党は長い間、モディ政権が「縁故資本主義」で、政府との契約で特定の企業を優遇していると批判している。【3月22日 Bloomberg】
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富の集中度はブラジルや米国を上回っていることも報告されています。

こうした格差の存在は貧困層へ教育機会が提供されていないことで、一定の人々は低賃金労働から抜け出せず、貧困と格差の再生産にもつながります。

****高成長のインド経済、モディ氏の成果と格差の現実****
(中略)
<大半の国民はぎりぎりの生活>
(中略)リライアンス・インダストリーズ(RELI.NS), opens new tabを経営するインド随一の大富豪、ムケシュ・アンバニ氏は最近、息子のために豪華絢爛な婚前祝賀会を開いてニュースの見出しを飾った。

しかし、アンバニ氏とやはり大富豪のゴータム・アダニ氏は、再生可能エネルギープロジェクトにも数十億ドルを投じている。閣僚や企業は大量の外国直接投資が押し寄せると予想しているが、年間の流入額は縮小しつつある。セクターごとの成長率もまだら模様だ。

HSBCの首席インドエコノミスト、プランジュル・バーンダリ氏によると、ハイテク製造業、ITサービス、スタートアップ企業で構成される「ニュー・インディア」経済で働く人々は労働人口の5%に過ぎないが、GDPの15%を担う存在だ。

零細企業や農業など残りの経済分野は遅れを取っている。農村部や出稼ぎ労働者にも多少は経済成長の「おこぼれ」が届いているとはいえ、年率6.5%程度の持続的な成長を達成するには、こうした「オールド・インディア」経済を押し上げる必要がある、とバーンダリ氏は言う。

インドの富裕層は高価なダイソンの空気清浄器を買い、モルジブで休暇を過ごしている。ところが、GDPの約60%を占める個人消費全体で見ると、今年は3%と過去20年間で最も低い伸びにとどまる見通しだ。

家計貯蓄(ネットベース)は過去50年間で最低となっている。国民のうち8億人ほどは今後さらに5年間、政府の穀物配給を受ける条件を満たすほど貧しい。つまり大半の国民は経済の繁栄をおう歌するどころか、生き延びるのが精いっぱいということだ。

実際、人口が増えると同時に就職難も高じている一方、現在の賃金水準に甘んじて働きたいという意欲も低下。労働市場における生産年齢人口の割合は55%と、2000年の61%から下がった。(後略)【4月13日 ロイター】
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【相続税がないインド 議論は昔からあるもののモディ首相は導入否定】
格差是正に効果がある税制として相続税がありますが、インドには相続税がありません。(インドの他、イタリア、中国、タイ、マレーシア、インドネシアなども相続税はありません)

相続税導入の議論はされています。下記は約10年前の記事です。

****28年ぶり復活か インドが模索する相続税の再導入****
貧富の格差が大きいインドで、相続税の復活論議がにわかに熱を帯びてきた。28年前の撤廃以来、相続税のない税体系は所得格差を広げたとされ、その復活は社会問題の是正へ一石を投じるはず。

だが支持派も反対派も社会的意義はそっちのけで賛否を戦わせ、政府側はほとんど口をつぐんだままだ。一体、何が起きているのか。(後略)【2013年1月19日 日経】
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そして今回選挙でも・・・

****モディ印首相、相続税の導入懸念を払拭 「貧困解消せず」****
インドのモディ首相は29日に掲載されたタイムズ・オブ・インディアとのインタビューで、相続税は格差問題の解決にはならず、これまで「一度も貧困を解消したことはない」と指摘した。総選挙でモディ氏が再選を果たせば相続税が導入されるとの懸念を払拭した。

相続税と富裕層税は総選挙で争点となっている。モディ氏率いるインド人民党(BJP)と最大野党の国民会議派は、互いにそうした税制を支持していると非難し合っている。

モディ氏は、相続税などは「解決策に見せかけた危険な問題だ」とし、これまで成功したことは一度もなく、「誰もが等しく貧しくなるように」富を分配してきただけだと指摘。「不和を生み出し、平等へのあらゆる道を閉ざし、憎悪を生み、国の経済・社会的構造を不安定にする」と述べた。【4月30 ロイター】
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議論はあるものの、インド人民党・国民会議派ともに導入には反対とのことのようです。
経済活動を牽引する富裕層の経済インセンティブを阻害し、成長の足かせになる・・・との判断でしょうか? あるいは支持者・お友達の大富豪のご機嫌を損ねるということでしょうか?

インドのように格差是正が重要課題となっているはずの国にあっては不思議な状況です。
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