孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  アサド政権の暴力と恐怖による支配 米軍の民間人殺害隠蔽も

2021-11-14 23:31:30 | 中東情勢
(2回拘束されたシリア人画家のナジャ・ブカイが自らの拘束体験の記憶を元に描いた拷問「つるし」【11月2日 朝日】)

【比較的落ち着いた戦況 トルコ、対クルド人勢力への4回目の再進攻を準備中とも】
シリアでは反体制派がトルコを後ろ盾として依然としてイドリブを拠点として支配地域を維持していますが、最近はほとんど政府軍との衝突のニュースを目にしません。後出のトルコ関連の記事を読むと、政府軍が圧力を強めてはいるようですが。

政府軍支配地域についても、首都ダマスカスでの下記のようなテロがニュースになるのも、逆に言えば、そういう事件がほとんど起きないほどにダマスカスなどは落ち着いているということでしょう。

****攻撃で27人死亡=首都標的、最近では異例―シリア****
シリアの首都ダマスカスで20日、アサド政権軍の兵士らが乗ったバスに対する爆弾攻撃があり、少なくとも14人が死亡した。一方、反体制派が政権側への抵抗を続ける北西部イドリブ県でも砲撃があり、子供を含む13人が死亡した。
 
シリアの国営メディアによると、ダマスカスでは、事前に仕掛けられた爆弾2発が爆発した。アサド政権は「テロ攻撃」とみなしている。

シリアでは2011年に始まった内戦が現在も続いているが、ダマスカスの情勢は比較的落ち着いており、こうした攻撃があるのは最近では異例だ。【10月20日 時事】 
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ただ、反体制派を支援するトルコが、最大の関心事である北部のクルド人勢力に対し、再び越境攻撃を準備しているとの報道も。

トルコは、国内クルド人反政府勢力がシリア北部のクルド人勢力と連携しているとして、2016年に続き2018年にも越境攻撃し、それまで米軍のIS追討作戦に協力していたクルド人勢力からアフリンを奪い、トルコが支援する反体制派に治めさせる形で実質的支配下に置いています。(アメリカは、ここでも協力者を見捨てる形になりました)
その後も、2019年に3回目の進攻を実行しています。

****トルコ、シリア侵攻作戦を準備か ロシアと水面下協議も****
クルド系掃討で政権浮揚狙う

トルコが隣国シリアへの越境軍事作戦の準備を進めているもようだ。政府は侵攻の用意を表明しており、シリアに影響力を持つロシアと水面下の交渉を行っているとの情報もある。テロ組織とみなすクルド系武装勢力を掃討し、低迷する政権支持率回復につなげる思惑がある。

「いつでも必要な時に越境作戦を行う。テロ組織との戦いから退却することはない」。トルコ国営放送によると、エルドアン大統領はローマを訪れていた1日、同行記者団にこう語った。

シリアと国境を接するトルコ南部では10月、シリア側からの越境ミサイル攻撃を受けてトルコ人警察官2人が死亡した。トルコはクルド系武装勢力によるものだとして、越境軍事作戦で国境の安全を確保する考えを示唆している。

トルコの議会は10月26日、シリアとイラクへの派兵期限を2年延長した。シリア人権監視団(英国)は9月末以降、550台以上の軍用車両がトルコからシリア国内に入ったほか、トルコが支援するシリア反体制派がクルド系勢力の支配地近くに移動していると指摘する。

ロイター通信は4日、「軍事作戦の実施に必要な準備はまもなく完成する」とするシリア反体制派スポークスマンの話を伝えた。

トルコは2016年以降、3度にわたってシリアへの越境軍事作戦を実施し、国境沿いの一部地域を占領下に置いている。

テロ組織とみなすシリアのクルド系武装勢力を国境沿いから排除し、「安全地帯」を設ける考えだ。4度目の軍事作戦を実施する場合、現在の占領地域を分断するユーフラテ川以東の国境地帯が目標になるとみられている。

このタイミングで再び軍事作戦の実施をほのめかす理由について、シンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのオズギュル・ウンルヒサルジュクル氏は「経済の苦境から国民の関心をそらす狙いがある」とみる。20%近い高インフレで、エルドアン氏の支持率は複数の世論調査で軒並み過去最低水準に沈んでいる。

ウンルヒサルジュクル氏は、トルコが支援する反政府勢力がシリア北西部イドリブ県で守勢に立たされていることも背景にあると指摘する。

イドリブではおおむね停戦が維持されているが、アサド政権や後ろ盾になっているロシアの力が強く、トルコの勢力圏は徐々に後退している。こうした情勢を受けて「代わりの土地を取ってみせる必要がある」という。

中東のネットメディア「ミドルイースト・アイ」は、シリアでは対立する立場にあるトルコとロシアがひそかに協議していると報じた。クルド系勢力の拠点をトルコが占領するのをロシアが黙認する代わり、トルコがイドリブで主要幹線道路周辺から後退する案などが検討されているという。

もっとも、ロシアと同じくアサド政権を支援するイランや、クルド系勢力と協力関係にある米国などもトルコのシリア侵攻に反対する立場にある。

シンクタンクEDAMのアナリスト、シネ・オズカラシャヒン氏は、新たな軍事作戦が実施されるかは判断しがたいとした上で「実施されても規模は限定的だろう」とみる。【11月7日 日経】
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トルコは国境地帯からクルド人勢力を排除して緩衝地帯とする一方で、そこにトルコ国内に350万人以上いるとされるシリア難民の一部を帰還させるという計画も有しています。

【アサド政権 暴力と恐怖で支配する実態も】
上記のような話を除いては、軍事的には比較的安定しているとも言えるシリア情勢ですが、アサド政権は熾烈な暴力と恐怖によって支配を維持しているとも指摘されています。

****消える市民、秘密施設で死者数万人か アサド政権の拷問、指摘相次ぐ****
内戦下のシリアで、多くの市民が行方不明になっているとの指摘が相次いでいる。なかでもアサド政権の治安機関によって拘束されたケースが多いとされる。

国連の最新報告書は、混乱が始まった2011年以降、政権の秘密施設に収容された市民が拷問や性暴力にさらされ、死者数は数万人規模にのぼるとの見方を示している。
 
10年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」はチュニジア、エジプトの独裁政権を倒し、11年3月にはシリアに波及した。政治改革を求めて全国に広がったデモをアサド政権は徹底的に弾圧。反体制派や過激派組織が入り乱れる内戦に突入した後も、政権は治安機関をフル活用して、幅広い市民を対象に拘束を続けたとされる。
 
この問題に関して国連のシリア独立調査委員会は今年3月に報告書をまとめた。11年以降、アサド政権の収容施設での死者数は「控えめに見積もって数万人」とし、逮捕された人たちのうち数万人の居場所がわからないとしている。施設では少なくとも20種類の拷問が確認され、レイプを含めた性暴力も多数確認されているという。

■アサド政権は疑惑を全面否定
米財務省で経済制裁を管轄する外国資産管理室(OFAC)も今年7月、シリアのアサド政権による八つの拘束施設を制裁対象リストに加えた。同省の発表によれば、内戦下でアサド政権が収監した市民のうち少なくとも1万4千人が拷問の末に死亡した。

消息不明になったり、拘束されたりしたと伝えられる市民は13万人以上。その圧倒的多数はすでに死亡したか、家族との連絡が取れないまま拘束中と推定されるとしている。
 
国連調査委などは、アサド政権側が関与したと判断された拷問などについて、人道に対する罪、戦争犯罪にあたると警告を発してきた。
 
これに対し、アサド政権は「シリアに拷問を担当する部隊や政策はない」と全面的に疑惑を否定してきた。しかし、拷問の現場とされる収容施設は、外部の目が全く届かない状態にある。人権侵害の疑惑の全容は権威主義国家の壁に阻まれ、秘密に包まれている。【11月2日 朝日】
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拘束・拷問された者の証言からは恐怖政治の実態が浮かび上がります。

****シリア人権侵害、証言次々 17歳を2年半拘束、「自白」強要****
(中略)西部バニヤス出身のオマル・アルショグレ(26)がダマスカスの収容施設に連行されたのは2012年11月、17歳の時だったという。父親に連れられて反政権デモに参加して以来、何度か捕まったがいつも短期間で釈放された。だが、この時は事情が違った。

看守が交わす会話やほかの収容者の話から、オマルは自分が連行されたのが軍事情報部の収容施設、215支部だと知った。シリア国内には治安機関が管理する数十カ所の収容施設があるとされ、215支部は「死の支部」という異名をとる。国連人権理事会のシリア独立調査委員会は「最も死亡者数が多い施設」の一つに挙げている。

ペンチで生爪をはぐ。両手を縛って天井からつるす。タイヤの輪の中に体を押し込む。椅子を使って背中を無理やりのけぞらせる「ドイツ椅子」。通算2年半超に及ぶ拘束生活で、様々な拷問を受けたという。

オマルは数時間にわたって拷問を受けた後、一緒に拘束された17歳のいとこの女性ヌールについて聞かれた。尋問官には「ヌールは爆弾をつくって政権軍将校を殺した」という筋書きの「自白」を求められた。

「本当かうそかなんて関係ない。拷問に耐えられないから、尋問官が求める内容通りに証言した。しまいには『どんな答えがほしいのか』と聞いていた」

地下の雑居房は血まみれの男たちで満杯だった。開いたままの傷口にうじ虫がたかっていたのを覚えている。座る場所がないので、最初の4日間は立ち続けた。眠くなって倒れると、傷にぶつかって怒るほかの収容者から殴られた。ぶつかっても文句を言ってこないと思ったら、すでに息を引き取っている人だった。

拷問による傷の治療を受けられず、命を落とす収容者たち。立ちながら睡眠を取らねばならないほど満杯の房。最小限の食事。不衛生な環境で蔓延(まんえん)する皮膚病。国連調査委は、元収容者への聞き取りからまとめた報告書に、収容施設の壮絶な様子を描写している。

オマルが215支部に入って3カ月後、ともに収容されたいとこ、ラシッドが死んだ。拷問による腹部の痛みと飢えを訴えていた。遺体が別室に移されると、オマルは看守からペンを渡され、ラシッドの額に数字を書くように命じられた。この時から傷だらけの遺体に数字を書くことが、日々の仕事になった。

「こわいのは死ぬことじゃない。どんな死に方をするかだった」

 ■軍警察の遺体写真、5万枚流出
多くの市民がアサド政権の治安機関に捕まって姿を消し、拷問を受けて死んでいる――。この話が真実味を帯びたきっかけは、13年にシリアを逃れた軍警察の元カメラマンの男性(仮名「シーザー」)が仲間と秘密裏に持ち出した、5万枚以上に及ぶ遺体の写真だった。(中略)

 ■アサド大統領「拷問などない」 国連委「10年で数万人不明」
(中略)国連調査委が今年3月にまとめた最新報告書によると、この10年で政権に捕まり行方不明になっている人は数万人にのぼる。政権の施設で死んだ収容者の人数は不明としつつ、「控えめに見積もって数万人が死んだとみられる」とした。

こうした疑惑を大統領のアサド(56)は否定してきた。15年1月、米外交専門誌の取材でシーザーの写真についてこう答えた。「何も具体的なものはない。誰かからもらった写真を持ってきて、『これは拷問だ』とも言える。誰が写真を撮ったのか。彼(シーザー)のことを誰も知らない。すべては証拠のない疑惑にすぎない」

19年11月にロシアメディアのインタビューでドイツでの裁判について尋ねられたアサドはこう答えた。「シリアに拷問の政策などない。なぜ拷問など必要なのか。情報が必要だから? 我々は全ての情報を持っている」

13年から5年間にわたって拘束され、拷問を経験したという元収容者のムタズ・ビスキ(56)は、政権が拷問を通じて社会にメッセージを発していると考える。「釈放されれば、収容者は施設での残虐な実態を周囲に語る。治安機関はそれを織り込んでいる。『政権に刃向かえばとんでもない目に遭うぞ』と思わせることができるから」

拘束と拷問の恐怖は、シリア難民に帰還をためらわせる要因となっている。19年の国連難民高等弁務官事務所の調査では、周辺国で暮らすシリア難民のうち、「1年以内には帰国しない」と答えた人の最大の懸念は「治安」。「生計の手段」などとともに「拘束の恐怖」も挙げられている。

トルコ・イスタンブールで暮らすリハム・ムハンマド(27)もその一人だ。16年末まで1年近く拘束された記憶を振り返り、「拷問の叫び声を忘れられない。戻れば収監される可能性があるうちは絶対にシリアに帰らない」と語った。=敬称略【11月8日 朝日】
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拷問の恐怖と飢えから逃れるために治安機関への協力を約束して釈放された者は「スパイ」として活動することになります。アサド政権は治安機関が政権を支えてきたという「スパイ社会」の実態が指摘されています。
(“アサド政権支える、監視社会 シリア、密告し合う市民 尋問「スパイになれ」”【11月8日 朝日】)

【米軍の民間人殺害隠蔽】
一方で、民主主義のリーダーを自任するアメリカのシリアにおける軍事作戦が人道的だったかと言えば、そういうことでもありません。

****米軍、民間人犠牲の空爆隠蔽か=シリアの対テロ戦で―NY紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は13日、米軍が2019年3月にシリアで過激派組織「イスラム国」(IS)を掃討中、空爆で女性や子供を含む80人を殺害したにもかかわらず、その事実を隠蔽(いんぺい)していたと報じた。米軍内部から戦争犯罪に当たる可能性を指摘する声が上がったが、徹底した調査は行われなかったという。
 
空爆があったのは、シリア東部バグズ付近。米無人機が抵抗を続けるISの残党を監視していたところ、川岸に身を寄せ合っていた女性や子供らの一団をF15戦闘機が爆撃。砂煙が収まり、逃げ惑う人々の姿があらわになると、さらに2度にわたって爆弾を投下した。
 
米特殊作戦部隊による航空支援の要請に応じた爆撃とされるが、米軍は空爆の事実を公に認めてこなかった。国防総省監察官が独立調査を開始したが、報告書は遅れに遅れ、爆撃に言及した部分は削除されたという。
 
ほかの報告書も処理が先延ばしにされたり、機密指定を受けたりした。空爆現場は米軍主体の有志連合によって整地され、最上層部はこの空爆の事実を知らされなかったとみられる。
 
米中央軍は同紙に空爆で計80人が死亡したと認めた。ただ、その内訳はIS戦闘員16人と民間人4人で、残る60人については民間人かどうか不明と説明。自衛のための空爆で、「われわれ独自の証拠に基づいて調査が行われた」と主張した。【11月14日 時事】 
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戦闘に誤爆・巻き添え被害はつきもの・・・ではあるものの、隠蔽というのは人道に反します。
ただ、それをその時点で明らかにすれば世論の批判で戦闘遂行が困難になり、結局広範な暴力によって成り立つアサド政権や、暴力を隠そうともしないISが戦いに勝利することになるという現実も。
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