
(会場に集まる「国民対話会議」の出席者=ダマスカスで2025年2月24日、AP【2月25日 毎日】
いかにもアラブ的な光景ですが、TVニュースで見たところ、会議の締めくくりの声明は女性が読み上げていました。そうした“女性を決して排除していない”という国際社会への配慮は持ち合わせているようです。)
【クルド人勢力は招かれなかった国民対話会議で国民融和を議論】
アサド政権が崩壊したシリアでは、旧反体制派の主力組織「シャーム解放機構(HTS)」の指導者アハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏がシリア暫定政権のトップに就任し、大統領選挙は4,5年先になるとの見通しとしていることなどは、2月7日ブログ“シリア 「新生シリア」に向けてHTS指導者のシャラア暫定大統領始動 影響力拡大を狙うトルコ”でも取り上げました。
もちろん課題山積。 北部のクルド人勢力とトルコの対立(トルコはHTSの支援国)、南ではイスラエルの攻撃、更にIS復活の動きなど。
そうしたなかで、国民融和に向けた「新生シリア」の基盤を話し合う国民対話会議が25日開かれました。ただし、クルド人勢力は招待されておらず、早くも国民融和の道が険しいことを示しています。
****シリアで国民対話会議、クルド人は招かれず 武力衝突と宗派対立も続き国民融和は見通せず****
昨年12月にアサド前政権が崩壊したシリアの首都ダマスカスで25日、国家再建策を話し合う国民対話会議が開かれた。
多民族・多宗派のシリアでは国民の和解が課題だが、北東部を実効支配する少数民族クルド人の地元当局者や、米軍と連携するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)は招かれなかった。ロイター通信が伝えた。
会議にはシリア人約600人が出席した。現地に駐在する外交官は招待されなかったもよう。冒頭で演説したアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は、「(国の)強さは団結にある」と述べて国民融和の重要さを訴えた。各地の民兵組織は単一の軍の指揮下に入るべきだとも主張した。
出席者は司法制度や憲法、国家機構などテーマ別に6つのグループに分かれて討議した。討議結果に法的拘束力はないが、イスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する暫定政府は3月1日に期限を迎えることから、後継の新体制に基本政策を提言する役割を担ったようだ。
一方、国内の軍事衝突や宗派対立が沈静化するかは見通せない。シリア人権監視団(英国)は25日、暫定政府の軍部隊とトルコ軍が北部アレッポでSDFと武力衝突したと伝えた。トルコ軍は24日、戦闘機でアレッポを空爆したという。HTSはトルコとの結びつきが深いとも指摘される。
また、同監視団は25日、所属宗派を巡る事件などで今年に入り150人以上が殺害されたとする集計結果を公表した。中部のホムスでは約80人、ハマでは40人以上が犠牲になった。
軍事衝突や宗派対立が深刻化すれば、国内の全勢力が参加する政権樹立の時機を失うことになりかねない。欧米や周辺のアラブ諸国もシリアの内政を注視しているようだ。【2月26日 産経】
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暫定政府軍及びトルコの攻撃を受けるクルド人勢力(「シリア民主軍(SDF) クルド人民防衛隊(YPG)を主体とする)としては、SDFを含む各勢力の武装解除は承諾しかねることでしょう。
*****シリア国民対話、軍以外の武装認めず=クルド人勢力が反発*****
シリアで各地の民族や宗教の代表らが参加して今後の国の在り方などを議論する「国民対話会議」が25日、閉幕した。国営通信によれば、閉幕後の声明では正規軍以外の武装組織は非合法として認めない方針を確認。
また、「民族や宗教宗派に基づく差別を拒み、全てのシリア人の平和的共存の原則をつくる」として、多様な国民の融和実現への決意を示した。
各勢力の武装解除や軍・治安機関の再編を進めるシャラア暫定大統領は、会議での演説で「国家が武器を独占することは義務だ」と主張。シリア北東部を実効支配するクルド人勢力を暗にけん制した。
AFP通信によると、クルド側は「会議は国民を代表しておらず、その結果は履行しない」と反発し、分断の解消は見通せない状況だ。【2月26日 時事】
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これまでクルド人勢力はアメリカが進めるIS掃討作戦の地上部隊の役割を担ってきましたが、トランプ大統領は「シリアなど放っておけ」という基本姿勢ですから、これまでのようなアメリカのバックアップは期待できず、トルコと暫定政府の強い圧力を受けることになると予想されます。
【ISの勢い「再び活発」 クルド人勢力が管理する元IS戦闘員の存在】
一方、米軍が掃討作戦を続けてきたISは勢いを取り戻しつつあるとも報じられています。
****シリアでISの勢い「再び活発」 人権監視団、暫定政府に懸念****
シリア人権監視団(英国)のアブドルラフマン代表は11日までに、シリアで昨年12月のアサド政権崩壊後、過激派組織「イスラム国」(IS)の勢いが「再び活発化している」とし、IS再興の恐れがあると述べた。
政権崩壊後の暫定政府は国内を部分的にしか支配できておらず、統治能力が不十分だと懸念を示した。訪問先のエジプト・カイロで共同通信の取材に応じた。
暫定政府は過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導。HTS指導者のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)暫定大統領は全武装組織の解散を表明した。ただ、アブドルラフマン氏は約30の武装集団がシリアで活動中と指摘。ISと同様に過激思想を持つ一部集団がISに加わり、活動を拡大させているとした。
同氏は暫定政府に関し、人員不足と言及。首都ダマスカスと北西部イドリブ周辺を掌握するが影響力が及んでいない地域があり「国内情勢は依然、不安定だ」と述べた。
イスラム教アラウィ派や前政権関係者への「復讐」が横行し、市民らが宗派などを理由に殺害されたとも語った。【2月11日 共同】
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その1S捕虜1万人近くをクルド人勢力が域内の収容施設に管理しています。
このIS捕虜が再び戦闘に参加する事態となれば、シリアの状況に大きく影響しますし、世界のテロ状況にも関係してきます。
このことは以前からシリアについて議論する際に指摘されてきた重要なファクターですが、「どうしてクルド人勢力はそんな厄介なものを引き受けてきたのだろう?」と疑問に思っていました。
しかし、IS捕虜収容施設管理はクルド人勢力にとって取引のカードとして使えるもののようで、クルド人勢力とアメリカとの間でこれまでも“かけひき”がなされてきたとも。
****シリア国内乱戦と核の恐怖****
「(2024年)12月8日、トルコが支援するシリア国民軍が、トルコ国境に近いクルド人支配都市のマンビジュでクルド人武装組織YPG(前出SDFの中核)を攻撃しました。10日にもコバニという別の町でYPGに激しい攻撃を仕掛けています。両戦闘ではトルコ空軍戦闘機が、地上部隊の進撃を空爆支援しました。
YPGの戦略的な重要性、つまり米国が今もYPGを支援し続けている理由は、YPGがISのテロリストたちの収容施設を管理しているからです。
シリア北東部の中心には、ISのテロリスト9000名以上を収容する20ヵ所の施設があります。そこをYPGが警備、管理運営している。もちろん、その資金源は米国です。
今回、トルコがYPGを攻撃しましたが、YPGの司令官は米政府がトルコを止めないことに不満を表明しました。さらに、YPGとトルコが支援する武装グループとの戦闘が激化するなか、YPGの主要部隊は『ISの容疑者を収容している刑務所の警備から、戦闘員を前線に回さざるを得なくなった』と発表しました。
これはYPGが米政府に対し、『われわれを見捨てるのであれば、ISのテロリストを野に放つぞ』という脅しです」(菅原氏(国際政治アナリスト))
トルコはなぜ、クルドに対して攻撃したのか。
「シリアの内戦は2011年に勃発しましたが、その頃のクルド勢力はシリア北東部のトルコとの国境沿いの地域をコントロールしているだけでした。しかし、今やシリア全土の3分の1を支配している。トルコはこれを押し戻そうとしています」(菅原氏)
しかし、それは米国が嫌がるはずだ。
「そうです。だから、これまでオバマ政権の時からバイデン政権に至るまで、クルドとの関係を維持し続けていました。
ただし、状況が変わったのは前トランプ政権の時です。トランプはトルコのエルドアン大統領ととても親しく、彼の話を聞いて『わかった。お前に任すから、我々は退くよ』と言ってしまいました。
米軍はトランプに『クルド民兵に任せている元IS戦士の収容所の管理ができなくなるので大変だ』と説明しましたが、トランプには理解不能。そこで米軍は『石油の利権が獲られます』と説明すると、トランプは乗せられて『石油は押さえないとダメだ』と言ってYPGとの関係を続けることにしました」(菅原氏)
つまり、クルド人民兵組織YPGは、「元IS兵士9000人を野に放つ」という"核兵器"を所持しているのだ。
しかし、トランプ次期大統領はトルコのエルドアン大統領に、再び「任せたぜ」と言いそうである。(後略)【2024年12月22日 小峯隆生氏 週プレNEWS “「シリアの首都・ダマスカスはなぜ陥落したのか?」その理由と今後の展開を専門家が徹底解説!”】
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クルド人勢力にとっては、今後もこの元IS戦闘員の存在は暫定政権との間で「取引」のカードになるのでしょう。
それにしても、石油とかレアアースとかカネの匂いのするものにしか興味を示さないトランプ氏の存在は世界の様々な紛争に影響します。
トランプ大統領を動かすには、いくら道理を説いても無駄で、カネの匂いをチラつかせるしかない・・・石破首相の対米1兆ドル投資とか・・・ということのようです。
【暫定政権はイスラエル軍の南部からの撤退を求めるも、攻撃を続けるイスラエル】
話を25日の国民対話会議に戻すと、シリア南西部に侵攻しているイスラエルに対して撤退を求めています。
****「イスラエル軍は撤退を」 シリアが「国民対話会議」で共同声明****
シリアの各地域や宗教の代表らが国家像を協議する「国民対話会議」は25日閉幕し、「シリアの融和を維持し、どのような分断も拒否する」との共同声明を発表した。また、イスラエル軍がシリア南西部に侵攻していることを非難し、「無条件の即時撤退」を求めた。
イスラエル軍は昨年12月のアサド政権崩壊後に占領地のゴラン高原を越えてシリア側に入り、駐留を続けている。ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は23日、シリア軍が「首都ダマスカスより南へ来ることを認めない」と語り、シリア南部を「非軍事化」すべきだと主張した。
国営シリア・アラブ通信などによると、共同声明では「イスラエルの首相による挑発的な発言を拒否する」と表明し、国際社会に対して侵攻を止めるよう訴えた。(後略)【2月26日 毎日】
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しかし、イスラエルにとっての利益しか念頭にないネタニヤフ首相は聞く耳持たないでしょう。
*****イスラエル軍、シリア南部や首都近郊を空爆 「軍事拠点標的」****
イスラエル軍は25日、シリアの首都ダマスカス近郊の町と同国南部を空爆した。シリアの治安筋や放送局が伝えた。
治安筋とシリアテレビによると、複数のイスラエル軍機がダマスカスの南約20キロの町を攻撃。治安筋は軍事拠点が標的になったと述べたが、詳細は明らかにしなかった。
また、シリアテレビと住民によると、イスラエル軍は南部ダラア県の町も空爆した。
イスラエル軍はその後、司令部や武器保管施設を含むシリア南部の軍事拠点を攻撃したと発表した。
イスラエルのカッツ国防相の報道官は声明で「空軍はシリア南部を平穏な状態に戻す新たな政策の一環として、同地域を激しく攻撃している。メッセージは明確だ。シリア南部がレバノン南部のようになることを許さない」と述べた。
イスラエルは、昨年12月に国際武装組織アルカイダ系の団体が前身の組織「シャーム解放機構(HTS)」が主導する反体制派がアサド政権を打倒したことを受け、国連が監視するシリア国内の非武装地帯に地上部隊を派遣した。【2月26日 ロイター】
治安筋とシリアテレビによると、複数のイスラエル軍機がダマスカスの南約20キロの町を攻撃。治安筋は軍事拠点が標的になったと述べたが、詳細は明らかにしなかった。
また、シリアテレビと住民によると、イスラエル軍は南部ダラア県の町も空爆した。
イスラエル軍はその後、司令部や武器保管施設を含むシリア南部の軍事拠点を攻撃したと発表した。
イスラエルのカッツ国防相の報道官は声明で「空軍はシリア南部を平穏な状態に戻す新たな政策の一環として、同地域を激しく攻撃している。メッセージは明確だ。シリア南部がレバノン南部のようになることを許さない」と述べた。
イスラエルは、昨年12月に国際武装組織アルカイダ系の団体が前身の組織「シャーム解放機構(HTS)」が主導する反体制派がアサド政権を打倒したことを受け、国連が監視するシリア国内の非武装地帯に地上部隊を派遣した。【2月26日 ロイター】
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暫定政権の国内統治、国民融和への道は不透明で険しいです。
【EU 一部の制裁措置を停止】
明るい材料としては、EUがシリアに対する一部の制裁措置を停止したということが。
****EU、対シリア制裁を一部停止 エネルギー・銀行分野など****
欧州連合(EU)は24日、シリアに対する一部の制裁措置を直ちに停止した。エネルギー、銀行、輸送、復興に関連する制限措置が対象。
EUはシリアの個人や経済部門を対象にさまざまな制裁を実施しているが、昨年12月にシャーム解放機構(HTS)を中心とする勢力がシリアのアサド大統領を追放して以降、対リシア政策の見直しを進めている。
EUは24日にブリュッセルで開催した外相会合で、石油、ガス、電力に関する制限措置と輸送部門に対する制裁を停止することに合意。
また、銀行5行に対する資産凍結を解除したほか、シリア中央銀行に対する制限措置を緩和した。人道援助を促進する例外規定も無期限に延長した。
シリアのシェイバニ外相は「国民の重しになっている不当な制裁を緩和するため、この2カ月間、協議と外交努力を進めてきた」とし「特定分野の一部制裁を停止する今回のEUの決定を歓迎する」とXに投稿した。
EUは武器取引、軍民両用製品、監視用ソフト、シリアの文化遺産の国際取引など、アサド前政権に関連する他の一連の制裁は維持した。
EUは制裁の停止が適切であることを確認するため、シリア情勢の監視を続けると表明した。【2月25日 ロイター】
EUはシリアの個人や経済部門を対象にさまざまな制裁を実施しているが、昨年12月にシャーム解放機構(HTS)を中心とする勢力がシリアのアサド大統領を追放して以降、対リシア政策の見直しを進めている。
EUは24日にブリュッセルで開催した外相会合で、石油、ガス、電力に関する制限措置と輸送部門に対する制裁を停止することに合意。
また、銀行5行に対する資産凍結を解除したほか、シリア中央銀行に対する制限措置を緩和した。人道援助を促進する例外規定も無期限に延長した。
シリアのシェイバニ外相は「国民の重しになっている不当な制裁を緩和するため、この2カ月間、協議と外交努力を進めてきた」とし「特定分野の一部制裁を停止する今回のEUの決定を歓迎する」とXに投稿した。
EUは武器取引、軍民両用製品、監視用ソフト、シリアの文化遺産の国際取引など、アサド前政権に関連する他の一連の制裁は維持した。
EUは制裁の停止が適切であることを確認するため、シリア情勢の監視を続けると表明した。【2月25日 ロイター】
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