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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリアをめぐり緊張が高まるイスラエルとトルコ 新たな火種にも

2025-04-13 22:48:22 | 中東情勢

(3月13日、イスラエル軍のシリア・ダマスカスで空爆により破壊された建物。【3月14日 新華社】)イスラエル軍はシリアの首都ダマスカスにあるパレスチナ・イスラーム・ジハード運動の司令部を攻撃したと発表)

4月4日ブログ“シリア 暫定政権の形は整いつつはあるものの、国民融和の実現には大きな懸念も”でも取り上げたように、新たな国家建設を目指すシリア暫定政権にとって、政権自身の対応以外に、トルコとイスラエルという関係国の動向が大きな影響を及ぼします。

トルコは暫定政権のいわば後ろ盾、スポンサー的な立場にありますが、シリア北部を支配するクルド人勢力とは敵対関係にあります。トルコ国内におけるクルド人勢力PKKが停戦を宣言したことで、シリア北部クルド人勢力とトルコの関係も緩和するのか注目されています。

イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆しています。

そのイスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、シリア暫定政権の後ろ盾であるトルコはイスラエルのシリア空爆を批判、両者の関係が悪化しています。

****トルコ外相、イスラエルのシリア攻撃を批判 「地域の不安定化もたらす」****
トルコのフィダン外相は4日、イスラエルによるシリアの軍事施設への攻撃は、シリア新政権の敵対勢力への対応力低下につながるとの見方を示した上で「地域の不安定化をもたらす」と指摘した。北大西洋条約機構(NATO)外相会合が開かれていたブリュッセルで、ロイターのインタビューに応じた。

フィダン氏は「シリアでイスラエルと対立するような事態は望んでいない」としながらもシリアの安全保障は自国で決めるべきだとも言及した。

トルコは2023年以降、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃をパレスチナ人に対するジェノサイド(民族大量虐殺)だとして激しく非難してきた。シリアの新政権発足後、イスラエル軍が現地に数週間にわたり攻撃を加えており、トルコはこれがシリア領への侵害だと非難している。

一方、イスラエルは自国と敵対する勢力をシリアに一切入れないと主張している。

フィダン氏は、過激派組織「イスラム国」(IS)や武装組織クルド労働者党(PKK)がシリアで「正規軍の不在で軍事力が一部不足」している「過渡期」の状況に乗じることは望ましくないと主張。イスラエルによる攻撃が、ISなどのテロ行為や脅威に対処する新政権の力を失わせていると述べ「シリアの安全保障を脅かすだけでなく、地域の将来的な不安定化につながる」と強調した。

トルコは、シリア再建を支援することを表明するほか、西側諸国にシリア制裁を解除するよう求めている。

先週米政府当局者と会談したフィダン氏は、米政権がシリアに関する政策や制裁を見直しているとの認識を示した。新政権となったシリアには異なるアプローチが必要だとし、西側の同盟国にトルコの見解を伝えているとも言及した。【4月5日 ロイター】
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トルコはシリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画していると言われており、イスラエルのシリア空爆はそのあたりを牽制する狙いがあるとも指摘されています。

****トルコがシリアと軍事協定締結を模索か イスラエルは空爆で警告、中東の新たな火種に****
シリアを巡るトルコとイスラエルの対立が深刻化してきた。

イスラエル軍は4月初めにシリア国内の軍事基地を空爆したが、シリア暫定政府と軍事協定を結んで軍駐留を計画するトルコを牽制する狙いだったという見方が浮上した。シリアを舞台とする地域の軍事大国同士の駆け引きは、中東の新たな火種となりつつある。

イスラエル軍は2日、シリア中部ハマやホムスなどにある少なくとも3カ所の基地を空爆した。ロイター通信によるとトルコはここ数週間、軍の視察チームをこれらの基地に派遣して滑走路や格納庫、インフラなどの状態を調べていた。一部の基地は空爆により滑走路や管制塔が破壊され、使用不能になったもよう。

暫定政府は昨年末、アサド前政権の打倒に貢献したイスラム過激派「シリア解放機構(HTS)」が主導する。トルコのエルドアン政権も前政権とは敵対しており、暫定政府と親密な関係にあるとされる。

イスラエルのカッツ国防相は、空爆はシリアの「保護国」化を図るトルコへの警告だと述べた。イスラエルはトルコがシリアにロシア製防空システムや無人機を配備し、制空権を握りかねないと警戒していたとの指摘もある。

トルコ、イスラエルともシリアには軍事的に関与してきた。トルコはシリア北東部の少数民族クルド人の民兵組織について、自国内のクルド人の非合法武装組織の分派とみなし、越境攻撃を行ってきた。

1967年にシリアの要衝ゴラン高原を占領したイスラエルは前政権の崩壊後、残された軍事施設や兵器が暫定政府などに利用されるのを防ぐとして、シリアをたびたび空爆している。

イスラエルのメディアによると、トランプ米大統領は7日、自身はエルドアン大統領と良好な関係にあると述べ、会談したイスラエルのネタニヤフ首相に「トルコとの間に問題があるなら私が解決できる」と調停を申し出た。

一方のエルドアン氏は8日も「拡張主義」などとしてイスラエル批判を続け、「シリアの安定に向けて責任を全うする」と関与を継続する姿勢を強調した。

同氏はガザで戦闘が始まった2023年10月以降、イスラム原理主義組織ハマスは「土地と住民を守るために戦うムジャヒディン(イスラム戦士)」だとして支持を表明し、イスラエルとの関係は冷え込んでいた。【4月9日 産経】
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緊張の高まりはトルコ・イスラエル両国の偶発的衝突も招きかねませんので、その衝突回避の協議も行われています。

****イスラエルとトルコが協議開始 シリアでの偶発的衝突回避巡り****
イスラエルとトルコ両政府は9日、シリアでの偶発的な衝突を避けるため、アゼルバイジャンで協議を始めた。ロイター通信が10日、報じた。

シリアではアサド政権崩壊後にトルコが影響力を強めるほか、イスラエル軍も一部地域で駐留を続けており、衝突防止の枠組みの構築を目指すという。  

イスラエルメディアによると、イスラエル当局者は、トルコがシリア中部パルミラ地区で検討しているとされる基地設置について、「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。それを防ぐのは、シリア政府の責任だとも指摘した。

一方、トルコのフィダン外相は「シリアでイスラエルとの対立は望まない」と述べた。  

内戦が続いてきたシリアでは昨年12月、シャラア暫定大統領が率いる反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)などの攻勢を受け、アサド政権が崩壊した。反体制派を支援していたトルコはシリアでの影響力を強めており、暫定政権との軍事協力にも前向きな姿勢を示している。  

ロイターは7日、トルコが防衛協力の一環として、シリアにある三つの空軍基地を視察していたと報じた。トルコの視察後、イスラエル軍がこれらの空軍基地を空爆しており、イスラエルとトルコの衝突の危険が指摘されていた。  
イスラエルはアサド政権崩壊後、過激派組織の流入を防ぐ名目で、シリア南部に軍を駐留させ、シリアの軍事基地も空爆している。イスラエルはトルコのシリアでの影響力増大を警戒しており、サール外相は「トルコがシリアを保護領にしようとしている」と非難している。【4月11日 毎日】
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上記のような偶発的衝突回避の協議はなされているものの、両者の対立は続いています。
トルコ・エルドアン大統領は、イスラエルがシリアに分断の種をまき、アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難しています。

****イスラエルがアサド政権打倒「革命」を「ご破算」に トルコ大統領****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は11日、イスラエルがシリアに分断の種をまき、同国のバッシャール・アサド前政権が打倒された「革命」を「ご破算」にしようとしていると非難した。(中略)

エルドアン氏は地中海に面したリゾート、南部アンタルヤで開催された外交フォーラムで、「イスラエルは民族的・宗教的つながりをあおり、シリアの少数派を暫定政府に敵対させることで、(アサド政権が転覆した)12月8日革命をご破算にしようとしている」と主張。

同日アンタルヤ入りしたシャラア氏は、フォーラムの傍らでエルドアン氏と会談。トルコ大統領府は、握手する両首脳の写真をX(旧ツイッター)に投稿した。

中東の大国であるトルコとイスラエルは、政治的に不安定なシリアをめぐって影響力争いを繰り広げているが、今週、緊張緩和を目指して協議を開始したばかりだった。

イスラエルは国境地帯からシリア軍を遠ざけるために空爆と地上侵攻を開始しており、トルコに批判されている。
シリアの消息筋によると、トルコはシリア国内に「軍事拠点」を複数設置したいと考えており、その一つは先週イスラエルの攻撃を受けたホムス県の「T4基地」内とされる。 【4月12日 AFP】
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【両国指導者 対外緊張は好都合?】
なお、トルコ国内ではエルドアン大統領の最大の政敵イマモール・イスタンブール市長逮捕への批判があります。

****市長逮捕に異議申し立て イスタンブール 弁護団が裁判所に****
3月に汚職容疑で逮捕されたトルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長の弁護団は7日、市長に逃亡の恐れがないとして、逮捕は「違法」だと主張する異議申立書を裁判所に提出した。地元メディアが報じた。

市長はエルドアン大統領の最大の政敵だとされる。申立書は逮捕について「独立性と公平性を失った司法当局による政治的動機に基づく決定だ」と批判した。

野党は逮捕に反発し、各地で抗議デモが開かれている。【4月8日 産経】
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****トルコ野党党首「来年までに大統領選を」 エルドアン氏政敵、市長逮捕は不当****
トルコ最大野党・共和人民党(CHP)のオゼル党首は9日、日本経済新聞社の取材に応じた。同党に所属するイスタンブールのイマモール市長(職務停止中)の逮捕は不当だと改めて訴え、民意を問う大統領選を遅くとも2026年までに実施するよう求めた。(後略)【4月11日 日経】
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こうした国内問題を抱えるエルドアン大統領としては、国民の目を外に向けるイスラエルとの緊張高まりは好都合かも。

国内で国民からの批判を受けるネタニヤフ首相も事情は同じ。戦争していないと政権を維持できず、政治生命も危うくなる状況です。

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