孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  今後の動向が注目されるモルシ政権の独自路線

2012-08-24 23:06:28 | 北アフリカ

(1973年10月 第4次中東戦争 スエズ運河を渡河するイスラエル軍戦車 
“flickr”より By Israel Defense Forces  http://www.flickr.com/photos/idfonline/6208234518/

シナイ半島は1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領。第4次中東戦争ではゴラン高原の対シリア戦と並んで、シナイ半島での対エジプト戦が主戦場となりました。エジプト軍は周到な準備をもってイスラエル軍を奇襲し、スエズ運河を渡ってシナイ半島に侵攻、イスラエル軍に甚大な被害を与えました。しかし、態勢を立て直したイスラエル軍が反撃に出て、シナイ半島を制して逆にスエズ運河を渡河しカイロに迫りました。

この第4次中東戦争でエジプト空軍を指揮して緒戦でイスラエル軍に大打撃を与えたのがムバラク前大統領で、国民的英雄となり、後の大統領への道を歩むことになります。
戦後、キャンプ・デービッド合意及び翌年の平和条約を受けて、シナイ半島はエジプトに返還されますが、エジプト軍の兵力配備は制約されています。

イスラエルを国家承認する平和条約はアラブ世界の猛反対を受けましたが、当時のサダト大統領が断行。しかし、これを批判する者に暗殺されます。国内的にも“反米・反イスラエル”の強い世論がありますが、エジプトは平和条約締結でシナイ半島を手にするほか、アメリカからの巨額の支援を受けることになります。
なお、シナイ半島はイスラエルだけでなく、ハマスが実効支配するパレスチナ・ガザ地区とも接しています。

【「アラブの盟主」】
軍部との対立が注目されていたエジプトのモルシ大統領が今月12日、軍トップであるタンタウィ軍最高評議会議長・国防相を更迭し、軍最高評議会が大統領権限の一部や立法権を掌握するとした暫定憲法修正を無効とする一連の決定を行い、権力掌握に動きだしたことは、8月15日ブログ「エジプト モルシ大統領、タンタウィ軍最高評議会議長を更迭 軍とも合意のうえ、権限掌握へ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120815)でも取り上げたところです。

その後もモルシ大統領は、外交・軍事で独自の動きを見せています。
外交面では、非同盟諸国首脳会議への出席のため、アメリカ・イスラエルの宿敵とも言えるイランを訪問することが発表され、対米追随を脱し“「アラブの盟主」の復権を狙う”とも評されています。

****エジプト:イランに接近…大統領、断交後初訪問へ****
エジプトのモルシ大統領が、30日にイランで始まる非同盟諸国首脳会議に出席することが固まった。79年のイラン・イスラム革命直後に両国が断交して以来、初の首脳訪問。
米国偏重だったムバラク前政権の外交を修正し、「アラブの盟主」の復権を狙う。核開発問題やシリア情勢で孤立するイランもエジプトとの関係修復で米欧に対抗したい思惑もあり、両国の「正常化」に向けた利害は合致している。

 ◇「アラブの盟主」復権狙う
中国外務省の発表によると、モルシ大統領は28〜30日に中国を公式訪問。そのままイランに向かう日程。同首脳会議を主催するイランが招待していた。イランのアフマディネジャド大統領との会談も予想される。
モルシ氏は22日にはカイロで国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事と初会談し、経済再建への支援を要請。今後は訪中を経て9月23日には訪米し、オバマ大統領と会談する方向で、外交活動を活発化させる。
イラン訪問はこうした積極外交の一環。

エジプトとイランの外交関係は、エジプトがイスラム革命で追放されたパーレビ国王を受け入れ、79年、イスラエルと平和条約を締結したことで険悪化し、断交した。
ムバラク前政権下のエジプトは親米・親イスラエル路線を推進し、イランとの関係は一向に改善しなかった。また、過度の「米国追従」はアラブ社会の反発も招き、エジプトの中東での地位は低下。昨年2月の前政権崩壊を受け「バランスの取れた外交関係」(エジプト外務省)を構築する路線に軌道修正している。

しかし、イランとの急接近は、核開発問題でイランの封じ込めを図る米国やサウジアラビアが反発するとみられる。政権基盤が依然、不安定なモルシ大統領がイランとの関係改善でどこまで踏み込めるのか微妙な情勢だ。
イランは前政権崩壊直後から関係改善を模索。外務省幹部を繰り返し派遣し、6月にはアフマディネジャド大統領がイスラム系のモルシ大統領誕生を「友人かつ兄弟である国の大統領就任を祝福する」と歓迎した。

イランは、最大の同盟国シリアが内戦で不安定化し、友好国だったトルコともシリア情勢を巡る確執が先鋭化して地域での孤立を深めている。エジプトは対イスラエル戦略上も重要で、国交回復を実現してエジプトを自国側に引き寄せたい狙いもあるとみられる。「モルシ氏来訪」で地域での求心力回復をアピールしたい考えだ。【8月23日 毎日】
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なお、30日にイランで始まる非同盟諸国首脳会議については、国連の潘基文事務総長も、イランによる政治利用を懸念するアメリカなどの反対論を押し切る形で参加を表明しています。

シナイ半島に戦車部隊
中東地域において「アラブの盟主」と認められるためには、軍事的にイスラエルと対抗しうると目されることが必要条件ともなります。
エジプトがイスラエルとの平和条約(79年締結)を今後どのようにするのか・・・・継続するのか、破棄するのかは、ムバラク政権崩壊以来、世界が大きな関心を寄せている問題でもあります。

平和条約でエジプト軍の軍事展開が制約されていたシナイ半島では、イスラム過激派が活動を強め、8月の政変のきっかけともなったエジプト軍の国境警備兵ら16名が殺害されるという事件が起きています。
政変でトップが交代したエジプト軍は、イスラム過激派掃討のためとして、イスラエルの了解なしにシナイ半島に戦車部隊を投入するなどの兵力増強を図っています。

イスラム過激派掃討自体はイスラエルも望むところですが、戦車部隊投入となると別問題になります。
イスラエルのネタニヤフ首相はエジプトに対し撤退を求めていますが、エジプト側は“自国の治安維持上の必要によるもので、イスラエル等の許可を得る筋合いではない”と突っぱねたそうです。

****シナイ半島情勢*****
シナイ半島については、イスラエルがエジプトが一方的に(1979年平和条約に従いイスラエルの同意を得ずに)戦車等を送り込んだことに対して、ネタニアフ首相がその撤去を求めていましたが、22日付のal arabiya net はエジプトがこの要求を拒否したとして、エジプト治安筋がシナイ半島のエジプト軍は、過激派の掃討作戦に従事しており、エジプトとしては自国の治安維持上の必要により、シナイ半島に部隊を展開しており、イスラエル等の許可を得る筋合いではないと語ったと報じています。

他方、23日付のy net news は、エジプト中東通信(政府系)の報じるところとして、シナイ半島には1600名に近い過激派が隠れており、エジプト軍はそのうち120名のテロリストを追い求めて、作戦を展開していると伝えています。

記事の要点は以上の通りですが、要するにシナイ半島からのイスラム過激派の掃討はイスラエル、エジプト双方の共通の利益になるが、他方シナイ半島へのエジプト軍および重火器の配備に関して、イスラエルの同意を得るか否かという問題はムルシー政権にとって機微な問題で、今後ともシナイ半島情勢は両国関係にとって難しい問題を提起するものと思われます。【野口雅昭氏 8月23日 中東の窓】http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/********************

この事態にアメリカも懸念を表明しており、エジプト側に“配慮”を要請しています。

****米国:エジプトに配慮要請…イスラエル国境の兵力増強****
クリントン米国務長官は22日、エジプトのアムル外相との電話協議で、同国東部シナイ半島でのエジプト軍の兵力増強に対するイスラエルの懸念に配慮するよう要請した。米国務省のヌーランド報道官が23日の記者会見で明らかにした。イスラエル国内では、イスラム過激派掃討を理由にシナイ半島での兵力を増強するエジプトへの警戒心が高まっており、オバマ政権はエジプト軍の動向に強い関心を寄せている。

昨年の民主化要求運動「アラブの春」でエジプトのムバラク政権が崩壊した後、シナイ半島には「権力の空白」に乗じて過激派が集結。パレスチナ自治区ガザ地区との境界付近では5日、武装集団がエジプト軍兵士16人を殺害後にイスラエル領内への侵入を試み、イスラエル軍に阻止された。

事件を受け、エジプト軍はシナイ半島での兵力増強に着手し、イスラエルとの国境付近に戦車部隊の投入を開始した。だが、エジプト・イスラエル平和条約(79年締結)は、シナイ半島でのエジプトの兵力展開に制限を設けており、イスラエル国境付近での兵力展開は軽武装の警察部隊に限定されている。
このためイスラエル側は、過激派掃討を歓迎する一方、戦車部隊の投入は条約違反に当たると指摘し、エジプト軍の動向に警戒心を強めている。

ヌーランド報道官は会見で「我々は安全保障のための強固な作戦に関心を抱いている」と、エジプト軍による掃討作戦の行方を注視する考えを強調した。その上で「同時に我々は、近隣国との良好な意思疎通にも関心を抱いている」と述べ、イスラエルとの意思疎通を十分に図るようエジプトのモルシ政権をけん制した。

エジプト軍の動向に対する米国とイスラエルの警戒心の背景には、エジプトのモルシ大統領の支持基盤である穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団が、これまでに何度もイスラエルとの平和条約の見直しに言及してきた経緯もある。【8月24日 毎日】
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モルシ大統領の支持基盤である“穏健派イスラム原理主義組織”と評されるムスリム同胞団がパレスチナの過激派ハマスを生んだ母体組織であることは周知のところで、ハマスは「同胞団パレスチナ支部」を名乗っています。
モルシ大統領は当選後の演説で「あらゆる国際条約を守る」と述べ、イスラエルとの平和条約を維持する考えを示していますが、今後の成り行き次第では・・・とも思えます。

現実志向
もっとも、ムスリム同胞団が急速な“反米・反イスラエル”の方向を見せているという訳ではなく、かなり抑制的に現実志向で動いているとも報じられています。

“現実志向は外交にも表れる。米国の懸念は、親米政権が倒れた後に、アラブ民衆の間で「反米・反イスラエル」感情が噴き出すことだろう。意外かもしれないが、同胞団は、民意の暴走を抑える立場である。
昨夏に若者たちがカイロのイスラエル大使館を包囲した時、同胞団はメンバーのデモ参加を禁じた。米国が今夏、ムルシ大統領の誕生で、素早く外交的に対応した理由が、そこにある。”【8月23日 朝日】

また、タンタウィ軍最高評議会議長に代わって国防相に就いたシシ氏は米陸軍大学校の修士課程で学んだ親米派だそうです。

****エジプトを変える静かな革命****
軍の腐敗を突破口に親米派のシシを新国防相に据えたモルシの狙い

エジプトで静かな「革命」が起きた。モルシ大統領がタンタウィ国防相を解任し、元軍情報部トップのシシ(57)を後継に据えたのだ。
20年以上も国防相を務めた76歳のタンタウィは、昨年2月のムバラク政権崩壊以来、軍最高評議会議長に就任し、エジプト政界で大きな影響力を持つ人物とみられてきた。

そのタンタウィから国防相をシシに交代させた今回の出来事は、モルシにとって1つの勝利と言えそうだ。モルシの出身母体はイスラム組織のムスリム同胞団。一部の評論家によると、シシは軍に送り込まれたイスラム教徒のスパイだという。

この説の真偽はともかく、より明らかなのはシシとアメリカのつながりだ。
シシは軍情報部のトップを務めていた際、軍司令部にとって「軍人の忠誠心を維持する上で重要な人物」だったと、米海軍大学院のロバート・スプリングボーグは言う。シシは、不満を抱える軍人の多くから支持を得られることを確信していた。

タンタウィはエジプトがソ連と緊密な関係を結んでいた60年代にソ連軍の下で訓練を受けた。その後、アメリカがエジプト軍に資金を提供するようになったが、タンタウィとその部下たちはアメリカに親近感を持つ軍人
に疑いのまなざしを向けた。

若い将校の多くはアメリカ軍のプロ意識に「感化されていた」とスプリングボーグは言う。「だがまじめなエジプト人将校、とりわけアメリカで高い評価を得た者は冷遇された」
シシは05~06年、米陸軍大学校の修士課程で学んだ。エジプト軍歩兵部隊の指揮経験もある。何より披は、軍の資金で幹部が私腹を肥やし、軍の活動が非効率化している、との軍人たちの怒りを熟知している。

今月初め、エジプトとパレスチナ自治区ガザの境界付近にある検問所を武装集団が襲撃し、国境警傷兵ら16人を殺害。エジプト軍に屈辱を与えた。
モルシとシシはこの機会を見逃さなかった。直後にモルシは情報機関の幹部らを更迭。1週間後には、タンタウィの解任とシシの任命を発表した。

米政府は安堵した。パネッタ国防長官は、シシは「米軍とエジプト軍の関係の重要性を理解している」と語った。
注目すべきなのは「(前任者との)年齢の差ではなく、考え方の違いだ」というのがスプリングボーグの見方だ。【8月29日号 Newsweek日本版】
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エジプト軍が財政的にアメリカからの支援に依存していることは周知のところですが、そうした財政的現実、あるいはアメリカで学んだ経験より、“アラブの大義”“アラブの盟主”が優先することもあり得ることです。
特に“シシは軍に送り込まれたイスラム教徒のスパイ”ということであれば・・・

恐らく、同じイスラム主義を基盤として政権を掌握し、現実路線をとりながらも独自色発揮で国際的存在感を強めているトルコ・エルドアン政権あたりがひとつのモデルとなるのではないでしょうか。
いずれにしても、独自路線を模索するエジプトの今後が注目されます。

モルシ政権の今後については、ムスリム同胞団への権力集中を警戒する世俗主義勢力との力関係も影響します。
今日24日(金曜日)にカイロで、世俗主義者、左派、リベラルなどの反ムスリム同胞団勢力と同胞団やイスラム主義勢力の双方が“百万人集会”を計画しているそうです。
双方の動員力(ムスリム同胞団側に相当の分がありそうですが)が、ひとつの目安にもなると思われます。

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