(中国支援の橋の隣で、再開通した「日本カンボジア友好橋」【4月3日 共同】)
【フン・セン首相とタイのプラユット暫定首相の「歴史的」旅】
日本と韓国のように、隣り合う国同士というのは、いろんな歴史的経緯や現在の領土問題・経済問題、あるいはライバル心等々によって、あまり仲が良くないということはごく普通に見られることです。
隣国であるだけでなく、言語的にも非常に近いタイとカンボジアの関係も、カンボジア側からすれば圧倒的なタイの経済力に対する屈折した思いもあって、芳しくありません。
2008年に始まったプレアビヒア寺院の帰属をめぐるタイとカンボジアの国境紛争も、そうした関係を背景としてのものであり、また結果的に、複雑な関係を更に複雑化させるものでもありました。
そうしたカンボジア・タイ関係ですが、独裁色を強めるカンボジアのフン・セン政権と、タイの軍事政権・プラユット政権という似た者同士ということもあってか、最近は順調なようです。
****カンボジアとタイを結ぶ鉄道、45年ぶりに開通****
カンボジアとタイを結ぶ鉄道が22日、45年ぶりに正式に開通した。隣り合う両国間の移動時間の縮小と貿易の促進が狙いだ。
カンボジアのフン・セン首相とタイのプラユット・チャンオーチャー首相は、タイ側の国境で開かれた調印式に出席した。両首相はその後、タイ政府が寄付した車両に乗りカンボジアのポイペトへ移動。列車から降りた2人は、固く握り合った手を掲げ、両国旗を振る群衆の歓声を受けた。
フン・セン首相は、今回の2人の旅を「歴史的」と評し、タイ政府による、両国を結ぶ鉄道復旧の取り組みに感謝の意を表した。さらに、この鉄道がカンボジアと他の隣国との関係を深め、経済と貿易を拡大させることに期待も寄せた。
カンボジア政府は昨年、首都プノンペンからタイ国境へ向かう全長370キロの鉄道の、最終区間の運行を再開していた。 【4月23日 AFP】
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両国間の経済関係を強化・発展させるものとなるように期待しますが、個人的にもこの地域の観光の際に利用してみたいという思いも。
【急速に拡大する中国の影響力 「利益を得るのは富裕層と権力者だけだ」】
最近のカンボジアは従前からのタイとの関係に加えて、中国との関係が深まっていることは周知のところで、ASEAN内にあっては“中国の代弁者”的な立ち位置にもなっています。
****中国系投資で「第2のマカオ」目指す街、カンボジア・シアヌークビル****
(中略)シアヌークビルは今、急速に中国人の賭博師や投資家らを呼び寄せる街へと変化している。そのスピードは、置き去りにされている地元住民らを不安にさせるほどだ。(中略)
カンボジアで崇拝されている故国王にちなんで名付けられたシアヌークビル州の州都シアヌークビルは、かつてのどかな漁師町だった。だが、最初は欧米のバックパッカー、次いでロシア人富裕層らに注目され、現在は中国系の投資によって、中国本土からの観光客のための巨大なカジノスポットに姿を変えつつある。
カジノは中国では禁止されているが、アジアのラスベガスと称されることもある中国特別行政区のマカオには、大規模なギャンブルビジネスを認める特別な法律がある。
そのマカオに代わる新たな人気カジノスポットとなりつつあるのが、シアヌークビルだ。目下、中国系カジノ約50軒とホテル複合施設数十軒が建設されている。(中略)
共産主義国である隣国・中国との親密な関係が意味するものは、かつて貧困国だったこの東南アジアの国に対する巨額投資だ。多額の資金がカンボジア経済に流入したが、中国のこれまでの劣悪な人権侵害についてはほとんど問題視されたことがない。
■一帯一路構想の要衝都市
中国からの投資が最も顕著なのが、同国が推進する広域経済圏構想「一帯一路」の要衝となるシアヌークビルだ。この構想には、シアヌークビルと首都プノンペンとを結ぶ高速道路の建設計画も含まれている。
ユン・ミン州知事によると、2016〜18年の中国官民によるカンボジアへの投資額は10億ドル(約1100億円)に上る。シアヌークビルの現在の人口の約30%は中国人が占めており、その数はここ2年間で急増したという。
中国はまた大々的な軍事交流も模索しており、周辺国と領有権を争う南シナ海へのアクセスが容易なシアヌークビルの北のココン州沿岸沖に、海軍基地の建設を目指しているのではないかとの臆測に拍車をかけている。
シアヌークビルの港では最近、中国の巨大な軍艦3隻がドック入りしたが、カンボジアのフン・セン首相は港湾建設の可能性を強く否定した。
また同首相は最近、北京を訪問した際に、中国からの5億8800万ドル(約640億円)の経済支援、および2023年までに両国間の貿易額を100億ドル(約1兆1000億円)に引き上げるという約束を携えて帰国した。
不動産サービス大手CBREによると、同市の不動産価格は過去2年間に高騰し、1平方メートル当たり500ドル(約5万4000円)程度だった海岸近くの物件価格は5倍にも値上がりしているという。州知事は「彼らは、われわれの潜在能力を見込んで投資をしている」と話す。
だが新たな土地開発は、土地の所有権をめぐる昔からの争いを鎮めることをより困難にしている。カンボジアでは富や影響力が法律に勝り、政府とつながりをもつ富豪や実業家が土地を手に入れてきた歴史がある。
スピアン・チア地区のスン・ソファト代表は、「中国によるシアヌークビル州への巨額投資は、貧困層には何の恩恵もない」「利益を得るのは富裕層と権力者だけだ」と語った。 【2月17日 AFP】
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【中国とインフラ支援を競争する日本】
こうしたカンボジアの中国への傾斜で面白くないのが、従来からカンボジアを含む東南アジアで大きな影響力を有してきた日本。
中国に対抗するようにカンボジアへの支援も行ってはいます。
****カンボジアで大きな橋が開通して渋滞解消へ・・・そこには日本の支援があった!=中国メディア****
中国メディア・東方網は9日、日本の支援によりカンボジアで進んでいた「カンボジア―日本友好大橋」の建設プロジェクトがほぼ完了し、現地の新年を前に開通する見込みであると報じた。
記事は、カンボジアメディアの報道として、今月6日までにプノンペンにある「日本・カンボジア友好橋」の全体修繕工事がすでに97%完成しており、同国の公共工事・交通担当大臣が現場の工事状況を視察に訪れたと伝えた。
全長971メートルのこの橋はもともと「チュルイ・チョンバー橋」という名前で1960年年代に完成したものの、70年に内戦の影響で爆破されてそのままになっていたという。その後92年に日本による無償援助で橋の修復が進められ、95年には再び通れるようになった。
記事は、最初の完成から50年以上、再開通から20年以上が経過して老朽化した橋を補修すべく、日本政府が「日本・カンボジア友好大橋」修繕プロジェクトとして、国際協力機構(JICA)を通じて工事費用を無償提供したと紹介。
修繕工事は2017年9月15日に着工し、今年6月に竣工する予定だったが、作業がスムーズに進んだことで、4月に迎える現地の正月であるクメール正月前に開通できる見込みだと伝えている。
そして、経済の急速な発展に伴って自動車の数が増え続けていることで橋の補修が急務とされてきたため、今回の開通により現地道路の渋滞状況が大きく改善されることになると紹介した。
この橋はプノンペン北部を流れるトンレサップ川に架かっているもので、その隣には中国の借款により建設された「第2チュルイ・チョンバー橋」が通っている。
まさに東南アジア地域における日本と中国のインフラ支援競争を象徴する場所であり、このために中国メディアも今回の「日本橋」の開通に注目したようである。【3月11日 Searchina】
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【独裁色を強めるフン・セン政権 厳しい対応の欧米】
ただ、“体力勝負”となるようなインフラ支援競争を中国とやっても、日本に勝ち目があるのか・・・?
その問題以前に、フン・セン首相が独裁色を強める現在のカンボジアの状況を考えるとき、中国と争うような支援をしていていいのか?という問題も。
その点では、人権問題に敏感なEUはカンボジアに厳しい姿勢をとっています。(もちろん、EUも単に人権を問題にしているだけでなく、最終的にはカンボジアにおけるEUの利益を見据えてのことでしょうが)
****EU、カンボジアへの特恵関税見直し手続き開始 人権問題理由に****
欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会は11日、カンボジアの人権や民主主義を巡る問題を理由に、同国産品の輸入の際に現在適用している特恵関税制度について、停止すべきかどうかを決定する手続きに入った。
欧州委は今後12カ月をかけて同制度の適用継続・停止を決定、適用停止が決まった場合には決定の6カ月後から実施する。
EUには、武器や弾薬を除く貧困国からのすべての輸入品について関税を免除する「武器以外すべて(EBA)」と呼ばれる貿易協定があり、カンボジアも適用対象になっている。
EUはカンボジアの最大の貿易相手で、2018年はカンボジアの輸出の45%がEU向けだった。【2月12日 ロイター】
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“カンボジアの国会は(2018年12月)13日、フン・セン政権により昨年、解党に追い込まれた旧最大野党、救国党の幹部118人の政治活動復帰に道を開く法案を可決した。「民主主義の危機」だと厳しく政権を批判する欧米などからの圧力をかわす狙いとみられる。”【2018年12月13日 毎日】というように、フン・セン政権独裁化の歯止めとして圧力が一定に奏功している面もあるようです。
もっとも、上記措置に関して言えば、118人の政治活動復帰が認められたわけではなく(あくまでも“道を開く”ということです)、実際に政治復帰できるかは政権の意向次第ということで、むしろ政権側はそのあたりを政治的に利用する動きもあるようです。
****政治活動禁止の2人政界復帰へ カンボジア、野党分断の懸念****
カンボジアのシハモニ国王は15日、政治活動が禁じられた旧最大野党カンボジア救国党の関係者2人の政界復帰を認める決定をした。地元メディアが16日伝えた。
救国党を解党に追い込んだフン・セン政権が設けた救済手続きに沿った措置。2人が復帰を求めていた。政治活動が禁じられた118人中、政界復帰が認められたのは初めてとみられる。
救国党の一部有力者は「活動再開を認める権限は事実上、政権が握る。復帰の申請は政権の正当性を認めることになる」と救済に応じないよう求めていた。2人の政界復帰で救国党側が分断され、政権の批判勢力が弱体化する懸念がある。【1月16日 共同】
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【人権問題を無視する日本の伝統的“内政不干渉主義”】
いずれにしても日本など国際社会は、与党・政権を脅かすまでになった最大野党を解散に追い込むという強硬手段で政権維持に走るフン・セン政権にどのように向き合うのかという問題があります。
****「民主化と逆行」。独裁化するカンボジアに「NO」と言わない日本政府****
’93年5月23日、カンボジア。数十年に渡る内戦を経て、当時の国連事務総長特別代表であった明石康氏率いる国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の下、初めての民主的選挙が行われた。
残念ながら、この日に至るまでに、国連ボランティアの中田厚仁氏や文民警察官の高田晴行氏を含む多くの方々が命を落とされたが、少なからず日本はカンボジアの民主化に多大な貢献をしたのであった。
◆フン・セン首相による弾圧
それから25年の歳月が経過した’18年7月2日、日本。明石氏は、学者や専門家と共に、日本政府の政府開発援助(ODA)についての提言書を河野太郎外務大臣宛てに提出した。
「カンボジアでは、民主化と逆行する政策が加速している」という内容だ。つまり、カンボジアの民主化を率いた当本人が、同国の政治情勢やそれに対する日本政府の外交政策に懸念を示したのだ。
今、カンボジアでは何が起きているのか? そこには、国家の様々な側面において「独裁的」と判断せざるを得ない現実がある。
’93年の選挙後、「第二首相」という異例の役職についたフン・セン氏。’97年に第一首相に対して仕掛けた武力クーデターが成功し、以来30年以上に渡り権力を握っている。
フン・セン首相の政治手法は主に強権的であり、’18年7月の総選挙前にはその問題点が著しく表面化することとなる。
たとえば’17年11月には、議席数を大きく伸ばしていた最大野党であるカンボジア救国党を最高裁が解党した。さらには党員たちを議会から追放し、118人もの幹部たちに5年間の政治活動禁止を科した。
フン・セン首相は救国党が「カラー・レボリューション」を試みたという根拠なき主張の上、救国党解散要求に基づく訴訟を起こしていた。しかし、これに対して違法性を示す証拠は一切提出されなかった。(参照:REUTERS)
◆メディアだけでなく一般市民も被害に
調査報道などに力を入れていた現地の独立系メディアもまたフン・セン首相の標的となった。
カンボジア政府により不可解な630万米ドルもの追加税を課されたカンボジア・デイリー紙は、’17年に廃刊。プノンペン・ポスト紙は’18年にフン・セン首相と繋がりがあるとされるマレーシアの投資家によって買収され、また、ラジオ・フリー・アジア(RFA)とボイス・オブ・アメリカ(VOA)などクメール語放送を再放送するFMラジオ局も当局によって強制的に閉鎖された。(参照:AFP、日本経済新聞、The Cambodia Daily)
非政府組織(NGO)や一般市民も例外ではなく危機にさらされている。’15年以降、カンボジア政府は表現の自由や結社の自由をがんじがらめにするような法改正を次々に実行している。
たとえば、’15年に採択された「結社及び非政府組織に関する法律」の不当な解釈を根拠に、当局はNGOが開催するイベントなどを監視や干渉したり、時には組織として登録を試みている団体に対して「政治的中立性」など曖昧な理由でこの申請を拒否したりしている。
また、’18年2月にはカンボジア国王に対する不敬罪が成立し、フェイスブックの投稿を根拠に小学校の校長先生や床屋さんが不敬容疑で逮捕された。(参照:毎日新聞、The Phnom Penh Post、毎日新聞)
支持を集めていた最大野党は解党され、独立系メディアが口封じされ、市民社会は弾圧。「公平で自由」な選挙を行えるはずがない環境でも、’18年7月の総選挙は開催された。
フン・セン首相率いる与党のカンボジア人民党(CPP)が全125議席を獲得し、カンボジアはベトナムや中国と並び、事実上の独裁国家になった。(参照:日経新聞)
◆欧米諸国は厳しい対応
近年、国際社会はカンボジアの悪化する政治情勢に懸念を示し始めている。長きに渡って援助国だったスウェーデンは、教育と研究分野を除き、カンボジア政府への援助を終了することを発表。また米国政府は、カンボジア国民に対する援助を除き、軍事的援助などを停止した。
さらに欧州連合(EU)は、総選挙の資金援助を全面停止したうえ、「主要野党が恣意的に排除された選挙プロセスを正当なものとみなすことはできない」と批判。
国連人権理事会ではニュージーランドが、ドイツやイギリスを含む45か国を代表して、解党されたカンボジア救国党の復活を呼び掛けた。(参照:REUTERS、ホワイトハウス公式HP、REUTERS、REUTERS)
一方で日本政府は、カンボジア政府に対する明確な批判は避ける姿勢を取り、選挙監視団の派遣こそ直前に見送ったものの、カンボジア総選挙に約8億円の無賞資金協力として日本製選挙箱・ピックアップトラックなどを提供した。
また、カンボジア人民党が全125議席獲得し事実上の独裁国家が生まれたのにも関わらず、自民党の二階俊博幹事長は書簡で祝辞を述べた。’19年4月には、河野太郎外務大臣が政治的中立性に欠けているカンボジア選挙管理委員会の関係者などと日本で地方統一選の開票状況を視察した。(参照:外務省公式HP、KHMER TIMES)
◆中国の脅威に対抗を試みる日本政府
なぜ日本政府はこれほど強権的なフン・セン首相を支持しているのか?
その背景には、カンボジアでプレゼンスを増す中国政府の存在がある。日本は何十年もの間、カンボジアにとって最大と言って過言ではないほどの開発協力国であり、投資国であった。しかし、’10年頃には中国がそれに取って代わり、カンボジア最大の援助国となった。(中略)
つまり、フン・セン首相を中国に取られまいと、日本政府は民主主義的な価値観を犠牲にしてまで、カンボジア政府の機嫌取りをおこなっているのだ。
しかし、これは明らかに負け戦である。中国は一党支配体制であるため、独裁国家の支援をめぐって世論を検討したり、財源の支出について透明性を保つ必要に乏しい。日本政府が中国を援助額で負かすことはもちろん、より良い条件で提案することも非現実的だ。
日本政府の定める開発協力大綱は、「普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現」の項で、こう謳っている――『我が国はそうした発展の前提となる基盤を強化する観点から、自由、民主主義、基本的人権の尊重、 法の支配といった普遍的価値の共有や、平和で安定し、安全な社会の実現のための支援を行う』。(参照:外務省公式HP)
それならば日本政府は、矛盾を作り出している中国との競争ではなく、民主的及び人権的価値観こそをカンボジアとの外交関係の中心に置き、いかにしてカンボジアの人々の幸福や健康に貢献できるかを検討すべきだ。【4月23日 笠井哲平氏 ハーバービジネスオンライン】
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なお、日本政府の援助国内の人権弾圧に目を向けない内政不干渉主義は、カンボジアだけのことではなく、ミャンマーでもスリランカでも、いつも見られる行動です。その点では、国際的に評判が悪い中国と“似た者同士”です。
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