孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン北西部のイスラム武装勢力をめぐるパキスタン・アフガニスタン・アメリカの関係

2012-08-08 23:47:07 | アフガン・パキスタン

(パキスタン・タリバン運動の指導者ハキムラ・メスード司令官(左から2人目) 今年1月に米軍の無人機攻撃で死亡したとも言われています。“flickr”より By samandar_jahan http://www.flickr.com/photos/54361884@N05/6285495772/

米軍が無人機攻撃をやめるまでは、接種を禁止
先月、パキスタン北西部のアフガニスタン国境部族地域で、ポリオワクチン接種がパキスタン・タリバン運動などのイスラム武装勢力によって妨害されているとの記事がありました。

****パキスタン 武装勢力が予防接種妨害 「米のスパイ活動だ」、禁止を通達****
パキスタン北西部のアフガニスタン国境に近い部族地域の一部で、子供へのポリオのワクチン接種が、「米国のスパイ活動だ」と非難するイスラム武装勢力の妨害によって延期に追い込まれた。

昨年5月、国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者の潜伏先がニセの予防接種運動によって特定され、米国に殺害されたといわれているためだ。武装勢力はワクチン接種の禁止を通達、ポリオウイルス根絶への障害となっている。

17日には、南部カラチのアフガン人難民キャンプの近くで、接種のために移動中の世界保健機関(WHO)のガーナ人医師が銃撃を受けて負傷する事件もあり、妨害行為が激化しているもようだ。
現地からの報道によると、政府は16~18日の3日間、5歳までの子供を対象にポリオのワクチン接種を行う予定だった。

しかし、部族地域を拠点とするイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」や軍閥指導者が先月、ワクチン接種は「米国が子供たちに毒を盛り、イスラム教徒を減らそうとしているものだ」と非難した。さらに、米国がテロ掃討の一環として行っている部族地域などへの無人機攻撃をやめるまでは、接種を禁止するとしている。

現地の一部では戒厳令が敷かれるなど、ワクチン接種を安全に行うのは難しい状況でもある。政府当局者は16日、フランス通信(AFP)に「部族地域のうち南・北ワジリスタン地区とカイバル地区の一部で延期した」と明かした。

パキスタンはアフガニスタン、ナイジェリアと並ぶポリオの流行地とされ、昨年は過去最多の198件の発症が確認された。【7月18日 産経】
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“ウサマ・ビンラーディン容疑者の潜伏先がニセの予防接種運動によって特定され、米国に殺害された”というのは、パキスタン人医師のシャキール・アフリディ医師がアメリカCIAの依頼を受けてワクチン接種の名目で潜伏先と思われる邸宅に入り、DNAサンプルを入手、これがウサマ・ビンラーディン容疑者特定の証拠となったというものです。

その後、アフリディ医師は、アメリカによるビンラーディン容疑者殺害に反発するパキスタン当局によって拘束されており、国家反逆罪の罪で禁固33年の刑が科されたと報じられています。

****米CIAのビンラディン容疑者潜伏先特定に協力、パキスタン人医師に禁固33年****
パキスタン現地のドーン(DAWN)は24日、政府高官の話として、米中央情報局(CIA)による国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の潜伏先特定に協力したパキスタン人のシャキール・アフリディ医師に対し、国家反逆罪で禁固33年の刑と罰金32万パキスタンルピー(約28万円)が下ったと報じた。アフリディ氏は昨年7月からパキスタン軍に拘束されている。

ビンラディン容疑者は昨年5月、パキスタンに潜伏していたところを米海軍の特殊部隊に急襲され殺害された。パキスタン政府が米国によるビンラディン容疑者殺害を手助けした者に対する処分を行うのは初めて。
アフリディ氏は偽の予防接種キャンペーンを装って、ビンラディン容疑者のDNA採取を試みたとされている。パネッタ米国防長官は今年1月、アフリディ氏がCIAの協力者で、同氏と彼のチームがビンラディン容疑者発見に重要な役割を果たしたとしていた。

米政府は今回の判決に激しく反発。米国務省は、「パキスタン政府にアフリディ氏を拘留したり罰する理由は見当たらない」との声明を発表しており、今後米国とパキスタンの関係が再び悪化する可能性がある。(後略)【5月24日 新興国情報EMeye】
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イスラム武装勢力のポリオワクチン接種妨害は、アメリカによる無人機攻撃への報復的な面がありますが、結果的に、この地域の子供たちにポリオ感染の犠牲がしわ寄せされるのは残念なことです。

パキスタンの越境攻撃頻発で、アフガニスタン国防相・内相解任
パキスタン北西部を拠点とするパキスタン・タリバン運動(TTP)などイスラム武装勢力はパキスタン国軍に追われるとアフガニスタン側に越境し、これを追う形でパキスタン国軍による越境攻撃が頻発しており、アフガニスタン側で問題となっています。

****アフガン、国防相と内相を解任へ 議会が決議****
アフガニスタンのワルダク国防相とモハマディ内相の解任が確実になった。同国の治安権限は2014年に駐留国際部隊からアフガン側に完全移譲される予定だが、治安ポストの要職2人の解任によって大きな影響を与える可能性がある。
同国下院が4日、解任を決議、カルザイ大統領は5日、決議を受け入れる意向を表明した。2人は後任が決まるまで職務を続ける。

パキスタンの反政府武装勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)などは、パキスタン国軍の攻撃を受けると、隣国アフガンに逃げ込む。パキスタン国軍は追撃のため、アフガン東部へもたびたび越境攻撃を行っている。ここ数カ月、ロケット弾などによる攻撃が頻発し、民間人にも犠牲が出ているため、アフガン側では反発が高まっており、国防相と内相は、パキスタンの越境攻撃に適切な対応をしてこなかったとして批判を浴びていた。パキスタン軍は「攻撃を受けた際に武装勢力に応戦しているだけ」と主張している。【8月6日 朝日】
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ISIとCIA 無人機攻撃問題で長官が会談
一方、米軍はパキスタン側に越境する形で、パキスタン・タリバン運動(TTP)などに対する無人機攻撃を続けており、2009年にはTTPの前の指導者、バイトゥッラー・メスード司令官が、無人機による爆撃で死亡しています。
また、今年1月には、後を継いだハキムラ・メスード司令官も米軍の無人機攻撃で死亡したとみられるの情報が報じられています。TTP側はこの情報を否定しています。

パキスタン側は、米軍に無人機攻撃で民間人被害が出ていることや、越境攻撃で主権を侵害されているとして反発しており、アメリカとパキスタンの関係改善の大きな障害となっています。

****情報機関 米パ、トップ会談へ 無人機空爆で協議綱引き****
パキスタンの情報機関、3軍統合情報部(ISI)のイスラム長官が1日から3日間の日程で訪米し、米中央情報局(CIA)のペトレイアス長官と会談する。イスラム長官は、米国がパキスタンでテロ掃討のために行っている武装勢力への無人機攻撃を中止するよう改めて要求する方針だが、米国はこれに難色を示しているとされ、協議の行方が注目される。

イスラム長官の訪米は今年3月の就任以来初めて。両国関係が悪化する中、ISI長官の訪米は約1年間実現していなかったため、両国情報機関トップの対話は、関係改善へ向けたステップと受け止められている。
AP通信によると、会談を前にパキスタンのレフマン米大使は米国でのテレビ電話会議に参加し、無人機攻撃の中止要請について「妥協する気はない」と強硬姿勢を示した。

米パ関係は昨年5月に米軍がイスラマバード近郊でパキスタン側に知らせないまま国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者を殺害して以来、かつてないほど冷え込んだ。11月には米軍の空爆でパキスタン兵24人が死亡する事件があり、パキスタンはアフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)軍向けの物資供給路を閉鎖して関係悪化は決定的になった。

しかし、7月初めに米側が空爆について謝罪したことをパキスタン側が受け入れて供給路を再開、31日には両国が覚書に調印した。一方で米国は、パキスタン議会が「再開には無人機攻撃の中止が必要だ」と主張していたことに応じていないもようだ。

APによれば、パキスタンは米側が無人機攻撃をやめるかわりに、パキスタン軍が米軍の偵察情報の提供を受けて、F16戦闘機で武装勢力への空爆を行うことを提案しているが、合意に至っていない。
それどころか、パキスタン軍が最近数カ月で、同国内の武装勢力がアフガン側に越境したとの情報を52回にわたってNATO軍に報告したとしていることについて、米軍が主体となっているNATO軍側は29日、「正しくない」と否定。両者間の溝も改めて浮き彫りになっている。【8月1日 産経】
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“パキスタン軍が米軍の偵察情報の提供を受けて、F16戦闘機で武装勢力への空爆を行う”というのは、米軍の無人機攻撃以上に被害が拡大する懸念があります。
会談結果については、“米当局者は会談を「生産的だった」と述べたが、内容の詳細については明らかにしなかった”【8月4日 産経】とのことです。

ただ、無人機攻撃については国際法違反ではないか・・・との批判が、パキスタンだけでなく国際的に広くあり、国連が水面下でアメリカに説明を求めているとも報じられています。
暗殺者を送り込むのは許されないのに、他国に無人機を送り込んで暗殺を繰り返すのは法的に許されるのか・・・という批判です。

一方、パキスタンのISIについては、かねてよりアフガニスタンのタリバンなどイスラム武装勢力を支援しているとアメリカから批判されています。
アメリカ・パキスタン関係に限れば、無人機攻撃問題よりは、ISIや国軍によるイスラム武装勢力支援の方が重大な問題に思われます。
アメリカと敵対するイスラム武装勢力を支援しながら、アメリカと協力する形でTTPなどの掃討作戦を行うパキスタンの行動は、非常に分かりづらいもがあります。

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1 コメント

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Unknown (消印所沢)
2012-08-12 04:01:19
>アメリカと敵対するイスラム武装勢力を支援しながら、アメリカと協力する形でTTPなどの掃討作戦を行うパキスタンの行動は、非常に分かりづらいもがあります。

 国軍と政府とが,別々の方針を持っている,と考えると分かり易いかと.
 パキスタンでは軍事戦略は,国軍の専管事項であって,大統領も簡単には口出しできないのです.
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