孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

キプロス  南北再統合に向けて交渉再開 「キプロス史のページをめくる」年になるか?

2017-01-09 23:52:01 | 欧州情勢

これまでもときどき取り上げてきた、分断状態にあるキプロスにおける南北再統合の話が再び動く気配があるようです。

****スイスで再統合交渉再開=合意へ機運も予断許さず―キプロス****
40年以上分断が続く地中海のキプロス島の再統合をめぐり、南部のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北部の北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)のアクンジュ大統領が9日、スイスのジュネーブで交渉を再開した。

包括合意に向けた機運が高まっているが、再統合後の連邦制下でそれぞれが管轄する地域の線引きや安全保障問題などの難題を残しており、予断を許さない状況だ。
 
現在の交渉は2015年5月、国連の仲介の下で再開された。アイデ国連特使は、17年が「キプロス史のページをめくる歴史的機会」の年になると期待を示す。

しかしAFP通信によると、アクンジュ大統領は8日、「厳しい一週間になる」と慎重姿勢を表明し、アナスタシアディス大統領も「重要問題で大きな(意見の)相違がある」ことを認めた。
 
9日からの首脳会談で合意できれば、12日に双方の後ろ盾となっているギリシャとトルコ、旧宗主国である英国の3カ国が加わり、再統合後の安全保障問題について協議する。

トルコ政府は、北側に駐留しているトルコ軍部隊を一定数残すなどして「保証国」として影響力を保持したい考えだ。【1月9日 時事】 
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キプロスが分断された経緯を超簡単に触れると以下のとおりです。

****分断されたキプロス*****
エーゲ海の小さな島国“キプロス”は鹿児島県ほどの大きさ。1960年イギリスから独立しましたが、ギリシャ系住民とトルコ系住民の反目があり、1974年にギリシャの軍事政権の介入でギリシヤ併合賛成派がクーデターを企てたため、トルコがトルコ系住民の保護を理由に軍事介入。3日間で島の北部3分の1を占領しました。

以来、北キプロスはトルコ軍が支配する土地になり、15万人のギリシヤ系住民が追放されました

現在は島の北側3分の1がトルコ系の北キプロス・トルコ共和国(承認はトルコのみ)、南側の残り3分の2がギリシャ系のキプロス共和国(EU加盟)と、分断された状態が続いています。【2014年3月12日ブログ“キプロス 再統合交渉、天然ガス開発で再浮上”より再録】
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膨大な犠牲者を出しながら世界各地で続く紛争、大国間のパワーゲーム、相次ぐテロ・・・・そうした目まぐるしく変化する国際情勢にあって、エーゲ海の小さな島国“キプロス南北再統合”というのはあまり注目されることもないマイナーな話題ではあります。

ただ、“分離・独立”の動き、キリスト教徒とイスラム教徒の対立といった話は掃いて捨てるほどあるなかで、キリスト教(正教会)のギリシャ系住民と、イスラム教のトルコ系住民の和解・再統合が実現するかも・・・・というキプロスの動向には個人的には興味を惹かれます。

“和解”とは言っても、もちろん“実利”が優先するはなしでしょう。

“北”側には、経済的に遅れた状況を、EU加盟国でもある“南”との再統合で改善した思惑があります。
“南”側の思惑は何でしょうか? 北に残してきた土地などの資産回復でしょうか?(“北”にも、分断によって土地などを“南”に残してきたという問題があります。)後ろ盾ギリシャの経済が最悪な今、北に市場を広げたい考えもあるでしょう。

これまでも再統合への機運が高まったことはありますが、なかなか進展しません。
“北”には経済的にも優位で、人口も多い“南”に呑み込まれるのではないか・・・との不安があります。
“南”には経済水準が格段に落ちる北側とは今更一緒になりたくないという考えもあります。

“北”には3万人以上のトルコ軍が駐留し、分断後にトルコから来た入植者が多数住んでいる問題もあります。

何より、内戦で家族・肉親を殺された双方の遺恨もありますし、キリスト教とイスラム教という相容れ難い文化の違いが両者間にはあります。

再統合が実現するかどうかには、それぞれの後ろ盾であるギリシャとトルコの考えも強く影響します。

財政事情が悪化しているギリシャは、正直なところキプロスどころではないのでは?
トルコにとっては、キプロス問題を解決することが懸案であるEU加盟の条件のひとつです。ただ、EU加盟への関心を失ったように見えるエルドアン大統領は、その意味での関心はあまりなくなったかも。

今回の2015年5月、国連の仲介の下で再開された交渉は、アメリカ・オバマ政権も後押ししてきたようです。

****キプロス再統合、年内合意へ期待=北部に新大統領、米長官も前向き****
南北分断が41年続く地中海の島国キプロスで、今年は再統合への道筋が開けるのではないかと期待が高まっている。再統合交渉を支援してきた米国のケリー国務長官も4月「永続的な進展を今年は果たせる」と明るい見通しを口にした。南北協議が17日、再び行われ、一層の「進展」が待たれる。
 
4月の北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)の大統領選で南北和解に前向きな新大統領が誕生した。これを受け、5月15日、国連管理下にある「分断の象徴」、首都ニコシアの緩衝地帯で、南部のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北キプロスのアクンジュ大統領が再統合交渉を再開。2014年10月に交渉が中断されて以来、7カ月ぶりだった。
 
「いいスタート」(アクンジュ大統領)を切った協議は、往来増進につながる南北境界での検問所の増設、電力網の統合、携帯電話ネットワークの相互接続で合意。これまでとは違う良好な雰囲気が維持され、交渉は17日で3回目だ。
 
再統合により、北キプロスはトルコへの財政・軍事的依存を軽減したい考え。トルコにとっては、かつての熱意は衰えたとはいえ、キプロス問題の解決は欧州連合(EU)加盟への布石となる。
 
一方、ギリシャ危機のあおりで南側も金融を中心に経済が苦しい。再統合で経済環境を一新し、景気の浮揚を狙いたいところだ。
 
しかし、再統合への道のりは険しい。交渉の行方は、北キプロスでの権益を守ろうとする「トルコが鍵を握る」と言われる。トルコでは7日の総選挙以降、新政権発足に向けた連立協議が進行中で、政権の構成次第ではキプロスの交渉の進展を左右する可能性もある。
 
また、再統合には南北双方でその是非を問う住民投票を行う必要もある。南側がEUに加盟した04年にも住民投票は行われたが、南側の反対多数で再統合案は無効となった。【2015年6月17日 時事】
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2015年末にはケリー長官が“南”“北”双方を訪問し、「和解は手の届くところにある」との発言もありました。

交渉は2016年も続き、昨年11月7日の交鈔では「年内合意を目指し」とも言われ、交渉に立ち会った国連・潘基文事務総長は問題の解決は「手の届くところにある」とも発言していまし。しかし、合意できませんでした。

****キプロス再統合交渉、合意達せず****
南北分断が続く地中海キプロス島の再統合交渉を巡り、仲介役の国連は22日、スイス西部モンペルランで行われていた集中協議が合意に達せず終了したと発表した。最大の焦点である再統合後の管轄地域の区分について双方の溝が埋まらなかった。
 
モンペルランで7~11日と20~21日に実施された集中協議には南のキプロス共和国(ギリシャ系)のアナスタシアディス大統領と北キプロス・トルコ共和国(トルコのみ承認)のアクンジュ大統領が出席した。国連によると両氏は帰国を決めた。(後略)【2016年11月22日】
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上記のような経緯を受けての、冒頭記事にある“再統合交渉再開”です。

“難題を残しており、予断を許さない状況”としか言いようのない状況ではありますが、前進を期待しています。

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