孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  7年ぶりの地方選挙、ハマスはボイコット 止まらないイスラエルの入植地建設

2012-10-20 21:51:15 | パレスチナ

(今日20日に行われたパレスチナ地方選挙の投票の様子 7年ぶりということもあって、職員が投票の仕方を指導 “”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/8104860164/

【「国家」格上げ決議案は、11月の米大統領選挙後
パレスチナとイスラエルの和平交渉は、イスラエルの入植地建設によって中断を続けていますが、パレスチナ自治政府のアッバス議長は9月27日、国連総会の一般討論で演説し、現在のオブザーバー資格を「機構」から「国家」に格上げする国連総会決議案の提出を目指す方針を明らかにしました。
現在、パレスチナ自治政府を主導するパレスチナ解放機構(PLO)が、オブザーバー「機構」としての地位を認められています。オブザーバー「国家」資格があれば、投票権はないものの国連やその機関の討議に参加できます。

アッバス議長は昨年の国連総会中、国家としての国連加盟を潘基文(バン・キムン)事務総長に申請しましたが、付託を受けた安保理において常任理事国の米国が拒否権発動を明言するなかで、結局承認に必要な支持国を集めることができず、実現しませんでした。
アッバス議長が再び「国連カード」を切ろうとするのは、和平交渉で主導権を握るイスラエルに対抗するには国際社会の後押しが必要だとの切迫感があるためと見られています。

また、和平交渉は中断し、国連加盟も頓挫する状況に、住民には失望感が広がっているとされ、現在、住民の一番の関心は経済問題にあるとも言われています。自治区内ではこのところ、物価高騰や高失業率に抗議するデモやストライキが頻発、デモ隊と治安部隊との衝突も発生しています。
アッバス議長の「国家」格上げへの動きは、こうした住民の不満への対応とも見られます

“オブザーバー国家への格上げは、米国などが拒否権を行使できる安保理ではなく、国連総会での投票で過半数が賛成すれば可能となる。実現すれば、自治政府が目指すさまざまな国連機関への加盟にはずみがつくだけでなく、自治区住民の不満をやわらげるための政治的な実績作りにもなる。”【9月27日 産経】

一方で、“イスラエルやその後ろ盾の米国の反対は根強く、強行すれば肝心のイスラエルとの直接交渉がさらに難しくなるのは必至。米国や欧州から資金供給停止などの制裁が科される可能性もあり、国際社会からの援助とイスラエルに依存した自治区の経済がさらに悪化する恐れは強い”【同上】との指摘もあります。

アメリカ大統領選挙の結果も大きく影響します。ロムニー氏は先のイスラエル外遊で、エルサレムを「首都」と明言、さらにイスラエルとパレスチナ自治区の経済格差は「文化の違い」が原因と指摘するなど、あからさまなイスラエル寄りの姿勢が目立っています。

また、失言で問題となった5月にフロリダ州で開催された資金集めイベントでは「政治的な理由から、パレスチナ人は和平を望んでいない」とも発言していたことが明らかになっています。
ロムニー新大統領となれば、パレスチナ自治政府にとっては、今まで以上に厳しい状況ともなることが予想されます。

そのパレスチナ自治政府の「国家」格上げに関する取り扱い日程が明らかにされています。
****パレスチナ「国家」決議案、11月に国連総会へ****
国連総会のブーク・イェレミッチ議長(セルビア前外相)は3日の記者会見で、パレスチナが求める「国家」承認決議案が11月に国連総会で審議されるとの見通しを示した。
中東指導者らとの会談内容として語った。

外交筋によると、決議案はアラブ諸国が11月6日投開票の米大統領選後に提出する見込み。パレスチナ自治政府のアッバス議長は先の一般討論演説で、国連非加盟オブザーバーとしての地位を、現在の「機構」から「国家」に格上げする決議案の総会採択を求めていた。【10月4日 読売】
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【「分断を固定化する」懸念
パレスチナ自治政府内にあっては、自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配する強硬派ハマスの対立・分断が続いていますが、今日20日、7年ぶりに地方選挙が行われました。
ただし、ハマス支配下のガザ地区とイスラエルが併合した東エルサレムでは行われておらず、ヨルダン川西岸地区においても、ハマスはボイコットを決めています。

****パレスチナ:ヨルダン川西岸で7年ぶり選挙…賛否両論****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で20日、地方議会選が実施される。選挙は7年ぶりだが、悲願の独立国家樹立に有益か賛否両論がある。中心都市ラマラで有権者と立候補者の思いを聞いた。

◇ガザ、東エルサレムでは実施されず
パレスチナ人は、イスラエル占領下のヨルダン川西岸とガザに、東エルサレムを首都とした国家樹立を目指している。承認される見通しは立たないが、国家機能の整備は始まっている。地方選は、選挙実施や自治体運営の能力があることを内外に示すとの期待がある。

しかし今回の選挙は、パレスチナ自治政府が一定の行政権を持つ西岸に限られる。自治政府と対立するイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザと、イスラエルが併合した東エルサレムでは、実施されない。西岸にも多数の支持者がいるハマスは、立候補と投票のボイコットも決めた。このため、地方選が「分断を固定化する」との批判がある。

ラマラ中心部は選挙ムードが強く漂う。候補者の顔写真や横断幕があちこちに掲げられ、投票方法を絵で説明する選管のポスターもある。CD店店主のサーメルさん(48)は、「あらゆる問題は、選挙を通じてでしか解決できない」。投票には行くという。家具店店主のフサムさん(49)は占領下の生活を嘆き、「まず無能な自治政府を変えないと。市議選に意味はない」。棄権するつもりだ。

民間調査機関「アウラド」が9月下旬に行った世論調査では、有権者の72%が「投票する」と回答、「しない」の18%を大きく上回った。経済開発や雇用創出、行政サービスの効率化が、重要争点として挙げられた。

地方政党「この市の息子たち」の事務所を訪れた。ムサ・ハディド代表(47)ら候補者とスタッフが、戸別訪問の手順を話し合っていた。運動員約300人と手分けし「有権者1万3000人全員と接触する」。公約は下水道整備、渋滞解消、情報公開などだ。

党の支持母体は古くからの住民団体で、自治政府主流派組織ファタハのメンバーも加わる。ライバルは別のファタハ系政党と独立系政党だ。市議候補のタミ・ラフィディさん(36)は「生活に密着した問題は、許認可などで『占領』の問題に行き着く。選挙と運営に住民が関与すれば、将来的にはパレスチナ問題への取り組みに寄与する」と強調した。

◇パレスチナの選挙◇
地方選は04年12月〜05年12月▽自治政府議長選は05年1月▽評議会(国会)選は06年1月−−に、ヨルダン川西岸とガザ両地区で実施されたのが最後だ。評議会選では、イスラム原理主義組織ハマスが、自治政府主流派組織ファタハに圧勝し、それが07年6月からの両地区の分裂統治につながった。10年と11年には自治政府が地方選の日程を発表したが、ハマスがボイコットを表明して延期した。地方議会選は過半数を獲得した党の代表が首長に就く。【10月19日 毎日】
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ずっと延期されてきた選挙を、ここにきて強行する自治政府の意向については、“選挙実施や自治体運営の能力があることを内外に示す”とのことですが、選挙も長年行なえず、自治組織としての体裁・合法性すら疑わしくなりつつある現状への焦りもあるのでしょう。ただ、記事にもあるように「分断を固定化する」ことが多分に懸念されます。
ハマスとの統一政府協議は一進一退を続けていますが、今回地方選挙実施を受けて、ボイコットしたハマスがどのような対応に出るのか注目されます。
いずれにしても、パレスチナ内部の統一がない限り、イスラエルとの和平交渉も動きません。

【「誰も住んでいない場所にユダヤ人が住んで何が悪い?」】
イスラエルによる入植地建設の方は、あいかわらずの状況のようです。
国際法上はすべて“違法”ですが、イスラエル国内法に照らしても違法な入植活動すら十分に規制されず、既成事実化していくのが現実です。

****ヨルダン川西岸 パレスチナ無力、止まらぬ入植****
■直接和平交渉、中断から2年
イスラエルとパレスチナの直接和平交渉が中断されてから約2年が過ぎた。この間イスラエルは、パレスチナからの要求を無視する形で、占領地であるヨルダン川西岸の一部や東エルサレムでのユダヤ人入植地建設を推進、交渉再開はますます難しくなっている。入植地の「今」を探った。

エルサレムから北へ十数キロ、ヨルダン川西岸の荒涼とした丘陵地帯に、ユダヤ教典に登場する地名にちなみ「ミグロン」と呼ばれる入植地がある。住民は約300人。本来は隣接するパレスチナ人の村、ブルカなどの一部だったが、1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領、90年代末に入植が始まった場所だ。

イスラエル国内でミグロンは「違法入植地」と位置づけられている。イスラエルによる入植は国際法上、すべて違法とされるが、ミグロンの場合の「違法」とは、政府の正式な承認なしに建設されたことを指す。
ここで今年9月初旬、イスラエル軍が入植団を強制退去させた。以前から同国の裁判所が「違法状態の解消」を命じていたのを受け、当局が重い腰を上げた格好だ。
入植団側は、土地はパレスチナ人から購入したものだなどと主張したものの、契約書には、土地の売却者として故人の名前が記されるなど、偽造が疑われるものもあったという。

入植者が去ったことで、土地はパレスチナ側に返されることになるのか。
記者(大内)が訪ねた9月下旬、ミグロンは軍管理下に置かれ、パレスチナ人の入域は禁じられていた。
「本当は強制退去には反対だ」。警備にあたる兵士イェキールさん(21)は、入植者への同情を隠さず、現実にはあり得そうもない懸念さえ口にした。「入植地の撤去を認めていけば、(イスラエルが首都と主張する)エルサレムも手放すことになりかねない」。入植を違法ととらえる意識は、そこにはない。
                   ◇

入植地問題は、常に中東和平交渉の障害となってきた。2010年秋に約1年8カ月ぶりに行われた交渉は、イスラエルが入植凍結措置を解除したことで間もなく頓挫、その後は再開の糸口さえ見えていない。
国際的な批判に応える形でイスラエルは、西岸に100カ所以上あるとされる「違法入植地」の撤去を進める姿勢を示してはいる。しかしそれは、国内法で「合法」とされる入植地の既成事実化にもつながっているのが実情だ。

「ミグロンから入植者がいなくなっても、実は何も変わらない。むしろ状況は悪化している」。ブルカ村の長老アブデルカーデル・アマターン氏(72)は、深いため息をついた。
ミグロン入植団は強制退去後、わずか1キロほど離れた別の入植地で政府が用意した住宅に入居。ミグロンの土地が軍管理下にあることを考え合わせると、結果的に入植が強化されたとみることもできる。ブルカ村周辺の他の「違法入植地」は手つかずのままだ。

村への嫌がらせもある。約1年半前には村はずれのモスク(イスラム教礼拝所)で不審火があり、最近は収穫間近のオリーブの木が何者かに伐採される事件が起きた。「(事件があると)一応はイスラエル軍が来るが、いつもそれっきりだ」(アマターン氏)。
過激な入植推進派によるとみられるこうした犯罪行為は、イスラエル国内や西岸の入植地周辺で頻発している。
                   ◇
ヨルダン川西岸南部の都市ヘブロンには、町のど真ん中に入植地ベイト・ロマノが存在する。
同市でも第3次中東戦争後に入植が活発化。ユダヤ人入植者がパレスチナ人29人を殺害する事件(1994年)などが起き、その後、パレスチナ側が管理する地区と、ベイト・ロマノを含むイスラエル管理地区とに二分された。
入植地には鉄条網が張り巡らされ、内部ではイスラエル兵が警備にあたっている。兵士は、入植者数百人に対し千人を超すという。

その一方で、周辺のパレスチナ側のスーク(市場)は空き店舗が目立った。しばしば暴力にも発展する入植者や兵士らとのトラブルに疲れ、店を手放す人が後を絶たないためだ。
「(パレスチナ自治政府がある)ラマラの政治家が無策だから、イスラエルにつけ込まれるんだ」

94年の事件後、国連安全保障理事会の勧告で設立された「ヘブロン暫定国際監視団」の元職員で、パレスチナ人のサラヘッディン・シドルさん(41)は、着実に入植地が拡大する現状に憤り、現在のイスラエルとパレスチナとの関係を規定するオスロ合意を「見直すべきだ」と主張する。

パレスチナ人による自治を実現した93年のオスロ合意は、その後のパレスチナ国家樹立を視野に入れた和平交渉の基礎にもなった。
しかし、その過程でイスラエルは西岸の約6割の治安・行政権限を掌握。2002年以降、テロリスト流入阻止のためとして西岸で建設が加速した分離壁などにより、パレスチナ自治区は各地で寸断され経済的自立が一層困難になっている。

自治政府のアッバス議長は昨年の国連加盟申請が事実上失敗に終わったことを受け、国連での資格を従来の「オブザーバー機関」から「オブザーバー国家」に格上げすることを目指すと今年9月に表明した。和平プロセスへの失望が自治区内で深まる中、国際社会の後押しを期待しての動きとみられる。

ただそれは、パレスチナ側に入植を阻止し交渉を優位に持ち込むだけの力がないことの裏返しでもある。
ミグロン入植団のリーダー、イタイ・ヘモさん(33)はこう言い放った。「誰も住んでいない場所にユダヤ人が住んで何が悪い?」。環境が整えば、また入植活動を再開するつもりだという。

【用語解説】オスロ合意
1993年、ノルウェー政府の仲介により、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で結ばれた、(1)相互承認(2)ヨルダン川西岸とガザ地区のイスラエル占領地でのパレスチナ暫定自治の実施-を定めた合意。同年9月、米ホワイトハウスで調印式が行われ、94年以降、自治範囲が段階的に拡大された。

同合意を出発点とする、占領地の恒久的地位をめぐる交渉では(1)パレスチナ側が将来の独立国家の首都に想定する東エルサレムの地位(2)国境画定(3)難民帰還権などが主な争点。2000年に米国で行われたPLOのアラファト議長(当時)とイスラエルのバラク首相(同)の交渉でも溝は埋まらず、交渉はその後も停滞を続けている。【10月19日 産経】
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東エルサレムの地位、国境画定、難民帰還・・・どれをとっても解決が困難な問題ですが、少なくともイスラエルの入植地建設拡大を押しとどめて現状を維持しないと、時間とともに解決は更に遠のきます。イスラエルはそうしたなし崩し的な拡大を狙っているのでしょうが。
イスラエルに入植地建設凍結を強いることができるのはアメリカだけですが、ロムニー氏はもちろん、ユダヤ票をあてにするオバマ大統領にしても多くを期待できません。

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