孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  治安は改善したものの、なおも続くテロ活動も 中国支援で電力事情は改善

2019-04-18 23:01:25 | アフガン・パキスタン

(パキスタンでは、多くのイスラム教徒が人文字で襲撃事件のあったNZのモスクを作り、犠牲者への祈りをささげました。【414日 NHK】 “ISLAM IS PEACE”の文字も)

 

【南西部バロチスタン州では、活発な分離運動】

パキスタンについては、3月末から4月初めにかけてフンザ地方を旅行した際に、このブログにおいても現地で見聞きしたことや食べたものなどを取り上げました。

 

そのときも触れたように、かつてはパキスタンと言えば「テロ地獄」という言葉が連想されるような状況にもありましたが、最近は政府・軍部とも国内イスラム過激派を一掃する取り組みが進み、治安は大幅に改善されたようです。

 

もっとも、軍部中枢の情報機関と隣国アフガニスタンのタリバンやカシミール地方で対インド・テロ活動を行うイスラム過激派組織の関係がどうなっているかは、また別問題のようにも思えますが。

 

今回のインド・パキスタン関係の緊張の発火点となったインド治安部隊に対するジャム・カシミール州における自爆テロを行った「ジャイシュ・エ・ムハンマド(JeM)」や同様の対インドテロを行う「ラシュカレ・タイバ(LeT)」などはパキスタン軍中枢と緊密な関係にあると国際的には見られています。

 

そうした、軍コントロール下のテロ組織以外の、特に反政府活動を行うような過激派組織は一掃されたということでしょう。

 

以前はペシャーワル周辺の北西辺境州と呼ばれていた地域は、現在は「カイバル・パクトゥンクワ州」と名前が変わっています。

 

かつてはアフガニスタン国境地域はとトライバルエリア(連邦直轄部族地域 FATA)として政府コントロールが及ばない地域でもありましたが、2018年の憲法改正でFATAは廃止され、「カイバル・パクトゥンクワ州」に編入されたそうです。

 

そうしたことも、この一帯に跋扈していたイスラム過激派が軍によって一掃されたことの反映でしょう。

(その結果、かつては非常に危険なエリアとされていたペシャーワル周辺も、今は観光が可能になったとか)

 

しかしながら、国内テロがなくなった訳ではなく、特に南西部のバロチスタン州では、分離運動が活発で、しばしばテロが報じられています

 

****武装集団がバス襲撃、14人死亡=パキスタン****

パキスタン南西部バルチスタン州で18日、武装集団が幹線道路を走行中のバスを襲撃し、警察当局者によると14人が死亡した。死者の大半は治安要員という。

 

同州では分離独立を目指す過激派や、イスラム武装集団によるテロがたびたび起きている。

 

地元紙ドーンが警察の話として報じたところによれば、襲撃したのは15〜20人の迷彩服を着た集団。バスを停車させ、身分証明書を確認した上で14人を射殺した。同州では2015年にも武装集団がバスを襲撃し、約20人が死亡した。【418日 時事】 

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タリバンやバロチスタン分離王義者などの反政府テロリスト(パキスタンのテロリストは政府側と反政府側に大別できる)は、新疆のウイグル人に対する弾圧を敵視する立場で、中国のインフラ建設などをテロの標的としてきた。

 

バロチスタン州には、中パ経済回廊の重要拠点グワダル港があり、資源が豊富な州だが、かつてバロチスタン藩王国をパキスタンが軍事併合した歴史があり、「パキスタンの新疆」といえる土地柄だ。【「選択」4月号】

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このあたりの関係で、「新疆」での「東トルキスタン独立運動」を警戒し、またバロチスタンでの「一帯一路」事業を進めたい中国とパキスタン、そしてパキスタン軍のエージェント的存在のJeTなど「軍公認テロ組織」の共通利害関係がうまれています。

 

一方、反政府的なテロ組織にとっては、中国は攻撃対象ともなり、昨年11月には南部カラチの中国総領事館が襲撃を受ける事件も。

 

いすれにしても、バロチスタンでのテロは依然として活発です。

12日には州都クエッタで、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人を狙った自爆テロもあったばかりです。

 

****パキスタンの市場で自爆攻撃、20人死亡 異端視される少数民族が標的か****

パキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタにある混雑した果物市場で12日、イスラム教シーア派の少数民族ハザラ人を狙ったとみられる大規模な自爆攻撃があり、少なくとも20人が死亡、48人が負傷した。当局が発表した。

 

イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」の一派が犯行声明を出し、同国でシーア派に対する残虐な攻撃を多数仕掛けている武装集団「ラシュカレ・ジャングビ」と共同で行ったと発表。ただ現時点では、LeJからの確認は取れていない。

 

アフガニスタンとイランと国境を接するバルチスタン州は、パキスタン最大にして最貧の州であり、民族や宗派間の衝突、分離主義者による暴動が横行している。

 

イスラム教スンニ派の武装集団はハザラ人を異端者とみなしており、ハザラ人の顔立ちが中央アジア系で目立つことから攻撃対象となっている。

 

頻繁に攻撃を受けるため、クエッタ市内に2か所ある保護地区での生活を余儀なくされており、普段日用品を買いだめするために市場に行く際には警察の護衛がつくという。 【412日 AFP】AFPBB News

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【平和的な方法で犠牲者への連帯を示す】

もっとも、そうしたテロに加担しているのは一部の人間で、一般のパキスタン・イスラム教徒は平和を求めており、ニュージーランドでイスラム教徒が襲われた事件についても、平和的手段でのアピールを行っています。

 

****人文字のモスクでNZ銃撃事件の犠牲者追悼 パキスタン****

ニュージーランドでイスラム教の礼拝所が襲撃され50人が死亡した銃の乱射事件から15日で1か月となるのを前に、パキスタンでは、多くのイスラム教徒が人文字で事件のあったモスクを作り、犠牲者への祈りをささげました。

 

 

先月15日、ニュージーランド南部のクライストチャーチで、イスラム教の礼拝所、モスクが銃を持った男に襲撃され50人が死亡しました。

事件から1か月となるのを前に、9人の犠牲者の出身地であるパキスタンでは、地元のNGOの呼びかけで、数千人のイスラム教徒が白い民族衣装をまとって芝生の上に並び、襲撃された「ヌールモスク」を人文字で作りました。

また、「イスラムは平和である」という英語の文章も作られ、参加した人たちは何度も唱和しながら平和への祈りをささげ、犠牲者を追悼しました。

この事件で殺人などの容疑で訴追されたオーストラリア人の男は、イスラム教徒が白人の文化や伝統に対する脅威になっているという考えを持っていたとみられています。

主催したNGOのアフマド・アリさんは「平和的な方法で犠牲者への連帯を示すことでイスラム教は平和の宗教だという強いメッセージを世界に送りたい」と話しています。【414日 NHK】

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【「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」は「一帯一路」の生命線 一方で、微妙な国民感情も?】

パキスタンと中国の関係は、パキスタン・グワダル港に至るラインが「一帯一路」の“生命線”ともなっており、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の各種事業が進められています。

 

中国にとってパキスタンとの協力関係は非常に重要で、下記のような両国関係を悪化させるような報道(パキスタンのARYテレビ)には強く反発しています。

 

****「中国人が結婚餌にパキスタン女性の臓器売買」報道、中国側強く反論****

パキスタンで、同国女性に中国人男性を相手とする結婚を仲介する中国人の非合法グループが存在し、同グループはパキスタン女性に売春や臓器売買の強要もしているとの報道があった。

 

中国の駐パキスタン大使館は413日(現地時間)付で、結婚を仲介する非合法グループの存在を認めた上で、臓器売買は事実無根と強く反論した。

大使館はまず、「中国もパキスタンも法治国家であり、人身売買には断固として反対している。臓器売買はなおさらのこと、存在しない」と主張。

 

一方で、中国とパキスタンをまたぐ結婚を仲介する非合法組織が活動していることは認め「当事者から多額の費用を徴収し、違法に利益を得ている」と論じた上で、中国とパキスタンの若者は、「いずれも被害者」と主張した。(中略)

環球網は報道中の「臓器売買が存在」の主張について「西側の反中勢力の捏造(ねつぞう)によるデマ」と断じた。

中国とパキスタンは早い時期から極めて親密な関係を構築してきた。共にインドとは領土問題などで対立しており、インドへの対抗上とされている。(後略)【415日 Record China

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一方で、こうした報道が流れる背景には、(政府間の関係とは別物の)パキスタン国内の中国に対する“微妙な”感情があるのかも。

 

【中国支援で改善する電力事情】

中国の「一帯一路」については日本などでは多くの批判があるところです。

ただ、ほんの数日間の旅行でも、中国の支援によってパキスタンの道路事情や電力事情が急速に改善しつつあるということは感じられました。それもまた、一面の事実でしょう。

 

中国支援による電力事情改善は、以下のようなパキスタンのイメージには結びつかないような社会現象も生んでいるようです。

 

****格ゲー業界騒然! パキスタン人が異様に強い理由 「地元には、まだまだいる」発言の真相、現地で確かめた****

今年2月、強豪ひしめく格闘ゲームの世界大会で、無名のパキスタンの若者が「番狂わせ」の優勝を果たした。さらに業界を騒然とさせたのは優勝後に放った一言。「パキスタンには強い選手が、まだまだいる」。

 

まるで漫画のような展開。真偽を確かめるため訪れた現地で待っていたのは「ラホールの強心臓」「コンボの魔術師」「青Tシャツの神童」などの猛者たちだった……。

 

ネットゲームの時代、わざわざゲーセンに通う理由。宗教指導者に「がん見」されながら腕を磨くそこはまさに「虎の穴」。パキスタンでいったい何が起きているのか。真相を探った。(中略)

 

ゲーム熱は電気とともに押し寄せた

しかし、なぜこれほど、ゲーム熱が高まっているのか。ビラルさんやアワイスさんらは、主に3つの理由を指摘した。

1
つは、若者の多さだ。パキスタンの人口は、世界6位の2777万人。このうち約6割を、25歳以下の若者が占めている。圧倒的なゲーム人口と、層の厚さ。各地方の有名選手たちが100人近く集まる全国大会は、年10回近く開かれるまでに市場が育ってきた。

また、電力事情の改善も追い風になっている。中国によるインフラ投資で発電所が整備され、ここ数年、停電が少なくなってきた。中流階級では希少だった電気が当たり前のものとなりつつあり、ゲームを楽しむ環境が家庭に浸透してきたことが、大きく影響している。(後略)【417日 with news

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電力事情の改善は、私が旅行した北部フンザ方面にはまだ及んでおらず、現在進行形でダム建設などが進められています。


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