孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド・パキスタン  モディ・インド新首相就任で経済重視の関係改善を模索

2014-05-28 22:24:48 | 南アジア(インド)

(インド新首相になるモディ氏(左)とパキスタンのシャリフ首相の顔を描いた砂のアートが出現(25日、インド東部オディシャ州)=ロイター 【5月28日 日経】 崩れやすい砂のアートというのも、両国関係には似つかわしい感もあります。)

シャリフ首相:「我々は経済協力に積極的な国と見なされており、容易に協力できるだろう」】
経済活性化への期待から総選挙で地滑り的圧勝を収めてインド新首相に就任したモディ氏が率いるインド人民党(BJP)は、排外的なヒンドゥー至上主義を掲げているます。

モディ氏自身も、2002年にモディ氏が州政府首相を務める西部グジャラート州で起きた暴動事件でイスラム教徒虐殺を防止しなかったことが疑われており、今回選挙においても、「前線で兵士が殺されている時に、パキスタンの首相には食事を振る舞わない」とパキスタンへの批判を繰り返すなど、ヒンズー至上主義を前面に出していました。

そのあたりの話は、これまでも何回か取り上げてきたところです。
参照:5月17日ブログ「インド 人民党単独過半数 新首相になるモディ氏への期待と不安」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140517

ただ、実際に政権を獲得すれば、その施策は現実的なものにもなることもよくある話です。
あるいは、まずは経済政策優先のため、問題を惹起しやすい持論を前面にだすことはしばらく控えるとか。

カシミールなどの領土問題、ムンバイ同時テロなどの越境テロ問題を抱えるイスラム国家である隣国キスタンとの関係は、安全保障上だけでなく、経済政策を円滑に進めるうえでも重要であり、首相就任式にパキスタン首相を招待することで、まずは友好的な雰囲気を醸成しようと試みています。

両国の独立以降、首脳が相手国の首相就任宣誓式に出席するのは初めて、これをきっかけとして和解が進むことも期待されます。

パキスタン外交筋によると、モディ氏の当選後に電話で祝意を伝えたのは、各国首脳の中でもパキスタンが2番目に早かったそうです。【5月24日 毎日より】

****印パ首脳会談:関係改善、経済から テロ対策が前提***
訪印中のパキスタンのシャリフ首相とインドのモディ首相は27日、インドの首都ニューデリーで会談した。

インド外務省によると、モディ氏はパキスタン側からの越境テロの抑止策を強く要求する一方、シャリフ氏側から求められた2国間貿易の促進に前向きな姿勢を示した。

また、両国の外務次官レベルで緊密に連絡を取り合うことでも一致した。今後はまず経済分野での関係正常化を目指すとみられる。

両国の首脳会談は昨年9月、国連総会出席時に米国でシャリフ氏とシン前首相が会って以来。今回の会談は予定より約15分長い約50分間行われた。シャリフ氏は会談でモディ氏をパキスタンに招待し、モディ氏も承諾したという。

モディ氏は両国が領有権を争うカシミール地方での越境テロ抑止に加え、日本人を含む165人以上が死亡したインド西部ムンバイ同時テロ(2008年)について、パキスタンで起訴された武装勢力の迅速な裁判も求めた。

一方、シャリフ氏は「(会談は)両国にとって歴史的な機会となった。我が政府はあらゆる問題を話し合う用意がある」と声明を読み上げた。

モディ氏はヒンズー教至上主義者で知られ、領土問題を抱えるイスラム国・パキスタンには強硬路線を取るとみられていた。就任翌日の首脳会談の実施は軟化のシグナルと受け止められたが、「テロ対策」を主題に持ち出したことで、治安問題で妥協しない方針を改めて示した形だ。

モディ氏にとっては国内経済の再生も最重要課題だ。シャリフ氏も対印貿易の促進を通じて自国の経済を立て直す必要がある。

シャリフ氏は会談を前にインド紙ヒンドゥスタン・タイムズとのインタビューで「我々は経済協力に積極的な国と見なされており、容易に協力できるだろう」と述べており、今後は経済分野を中心に雪解けが進む可能性がある。

ただ、会談の多くが治安問題に費やされたように、インドにとってテロ対策が関係改善の大前提であることに変わりはない。今後、大規模なテロ攻撃があった場合は経済関係にも影響する可能性が高い。

政治アナリストのK・G・スレーシュ氏は「モディ氏は会談を開催することで『対話には応じる』とのメッセージを出した。だが両国の問題は複雑で一夜にして変わるわけではない」と話した。(後略)【5月27日 毎日】
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経済振興という共通の目標がある両国が、まずは信頼関係醸成を試みたというところです。

インド・モディ政権については
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パキスタンとの和解に動けば、経済面だけでなく、安全保障面でも利益を得られるだろう。印パ間の貿易は現時点ではごくわずかで、非常に大きな成長の余地がある。民族主義右派政党の指導者であるモディ氏は、イスラエルのメナヘム・ベギン元首相がエジプトとの平和条約を締結できたように、和解を実現するうえで有利な立場にある。【英エコノミスト誌 2014年5月24日号】
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また、パキスタン・シャリフ政権については
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昨年6月の就任以来、経済政策に集中するため、インドとの緊張緩和を訴えてきた。領海侵犯の罪で長年拘束していたインド漁民ら151人の釈放も発表し、友好ムードの演出に躍起となっている。【5月28日 朝日】
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と報じられています。

パキスタン:印パ関係が改善に向かうと軍やイスラム過激派が反発を強めるという構図
ただ、両国の関係が非常に危うい関係であることも大方が指摘するところです。
信頼関係を深めるには長い慎重な時間が必要ですが、インド国内でテロが起これば一夜で崩れ去ります。

特に、パキスタン国内の事情が微妙です。
シャリフ首相は、経済発展を目指すモディ首相と利害が一致するということで関係改善に動いていますが、軍や軍情報機関ISIはこうした対応に批判的です。
更に、インドを敵視するイスラム過激派も強い勢力を持っています。

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パキスタンではシャリフ首相の対印外交に野党などから「弱腰」との批判が出ており、軍にも「領土問題の解決に消極的」との不満がくすぶる。

シャリフ首相は1999年2月、インド人民党のバジパイ首相(当時)と会談したが、同5月に印パ両軍の大規模な衝突が発生。同10月には軍による無血クーデターで解任された経緯がある。

印パ関係が改善に向かうと軍やイスラム過激派が反発を強めるという構図があり、シャリフ政権は難しい局面を迎える可能性もある。【5月24日 毎日】
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また、“シャリフ氏は訪問決定に先立ち、弟のシャバズ・シャリフ東部パンジャブ州知事を軍トップのラヒル・シャリフ陸軍参謀長と面会させ、意向を確かめたと報じられている。”【5月28日 朝日】とも。シャリフ首相の宣誓式出席の返事が遅れたそうで、こうした事情が背景にあるものと思われます。

インド側の不信感も強く、“アフガニスタン西部ヘラートで23日、インド領事館が武装勢力に襲撃された。館員は無事だったが、インドでは「両首脳の接近を妨げたいパキスタンの一部勢力が背後にいた」との見方が一般的だ。”【5月28日 朝日】

実際、こうしたインドを刺激する動きの背後にパキスタンISIが存在する・・・というのは、十分にありうる話です。
逆に言えば、23日の事件があったにもかかわらず、両国首脳の会談が予定どおり行われたことの方が驚きであり、両国首脳の強い意向が窺えます。

しかし、いったんテロなどの重大事件が起きれば、モディ氏のヒンズー至上主義・民族主義的側面が前面に出て、両国関係が一気に緊張する場面もあり得ます。

あるいは、期待された国内経済改善が思うように進まないとき、対イスラム、対パキスタンに国民の目を向けさせる・・・という展開もあり得ます。
そのようなことが起きないことを願います。

指導力を発揮しやすい環境にあるモディ政権
インドの政治は非常に難しいことが指摘されています。
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権力の多くは各州に移譲されている。インドの政治は小党乱立的な性質があるため、無数の地域政党やカーストベースの政党を相手に、常に取引をしなければならない。そして、植民地時代と社会主義の過去の遺産として、方向を変えるのが難しい官僚組織が残されている。【英エコノミスト誌 2014年5月24日号】
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下院の543議席のうち、282議席をBJPが獲得したモディ政権は、これまでの連立に頼っていたインドの政権に比べると、連立政党との取引で制約される面が少ない点では“動きやすい”立場にはあります。
モディ氏自身の強いリーダーシップを発揮する性格と併せて、これまでにない政策断行も期待されています。

外交面では、パキスタンとの関係修復だけでなく、就任式にスリランカやバングラデシュ首脳を招待することで、こうした国々との関係改善にも意欲を示しています。

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(近隣諸国首脳招待の狙いの)2つ目は、BJPはインドの外交政策を主導するために必要な過半数の議席数を確保しているとのメッセージをモディ氏が地方の政治家に送ったことだ。

インド南部のタミルナド州でのスリランカの少数派タミル人をめぐる懸念やバングラデシュとの川の共有をめぐる西ベンガル州の抵抗が、インド政府と重要な近隣2カ国との外交の足かせになっている。【5月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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