孤帆の遠影碧空に尽き

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香港  国家安全維持法施行から4年 強まる締め付け、政治・経済・市民生活で中国との一体化加速

2024-06-30 22:45:43 | 東アジア

(地下鉄を降り、深圳市への通関施設に向かう人々=香港北部で2024年6月5日、小倉祥徳撮影【6月10日 毎日】)

【国家安全維持法施行から4年 強まる締め付け、中国との一体化】
香港の「一国二制度」が形骸化し、中国との一体化が急速に進行しているのは今更の話です。

その中国化の基本にあるのが国家安全維持法。
国家安全維持法は、2019年に香港で起きた政府への大規模な市民デモを機に中国の主導で20年に導入されました。
国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託の四つを国の安全を害する犯罪と定め、最高刑は終身刑です。
 
香港当局によると、国家安全維持法施行以来、6月21日までに国安法違反や国家安全維持条例違反で299人が逮捕されています。

****香港 「国家安全維持法」施行から4年 言論への締めつけ強まる****
香港で反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が施行されてから30日で4年となります。ことしは、この法律を補完する新たな条例も施行され、香港社会で、言論に対する締めつけは、さらに強まっています。

香港では4年前の2020年6月30日に「香港国家安全維持法」が施行され、中国政府を批判してきた民主派の政治家や活動家、それに新聞の創業者などが相次いで逮捕され、政府に対する抗議の声は厳しく抑え込まれています。

47人の元議員らがいっせいに逮捕、起訴された事件では、起訴から3年以上たった5月、14人に有罪判決が言い渡されました。 このほかの被告の裁判は続いていて、民主派の活動家らの身柄の拘束が長期化しています。

さらに、ことし3月には、国家安全維持法を補完する「国家安全条例」が新たに施行されました。
この条例では、スパイ行為や、外国勢力による干渉などを犯罪と規定したのに加えて、中国政府などへの憎悪をあおる行為に対する罰則が強化されました。

この条例に違反したとして6月には、5年前の2019年の抗議活動のときのスローガンが書かれたTシャツを着た男性が起訴されました。

香港の保安局はNHKの取材に対し、「国家安全維持法」と「国家安全条例」などに違反したとして逮捕された人は、4年前の2020年6月30日から2024年6月21日までに、299人に上るとしていて、香港社会で言論に対する締めつけはさらに強まっています。

有罪判決を受けた人の妻「覚悟を決めて対応していく」
梁国雄さん(68)は、5月の裁判で有罪判決を言い渡された14人のうちの1人で、「ロング・ヘアー」の愛称で知られた香港の議会、立法会の元議員です。

梁さんは、4年前の2020年に立法会の議員選挙にむけて行われた民主派の予備選挙に関連して、国家政権の転覆を図ったとして、ほかの被告とともに、香港国家安全維持法違反の罪で起訴され、3年以上、身柄を拘束されています。

NHKのインタビューに応じた梁さんの妻で、民主派団体の代表を務める陳宝瑩さん(68)は、夫たちが予備選挙で掲げた目標は、香港の憲法にあたる基本法で認められたものだと主張し、みずから街頭に立って、政府に説明を求めています。

しかし街頭では、警察官から警告を受けた上、ビデオカメラで撮影され、当局からの圧力を感じているということです。

陳さんは「いつレッドラインを越えて、逮捕されるのかわかりません。しかしどうすることもできません。覚悟を決めて、対応していくしかありません」と述べ、香港の現状について、言うべきことは主張し続けていくとしています。【6月30日 NHK】
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言論への締め付け、中国との一体化は香港社会のあらゆる場面で進行していますが、次世代の国民を育てる教育の現場はその根幹にもなります。

****【香港 国安法4年】「教育の最後のラインを守っていく」かつて民主派支持の教員が今も教壇に立つ理由***
「国家安全維持法」の施行から4年。今年は「国家安全維持条例」も施行され、香港における反政府的な言動の取締りは一層厳しくなっている。

かつて多様な意見を育んできた特色的な教育は“反乱の温床”と見なされ、大勢の教員が身の危険を感じ、あるいは失望し、職を辞した。その数は2000人から3000人とも言われるが、今も教壇に立ち続ける教員が複雑な胸中を明かした。

「中央政府は成果を見て喜ぶ」
2021年8月、10万人近い会員を有した労働組合「香港教育専業人員協会」が解散を発表した。香港の教員は「ほとんどが民主派(現役教員談)」とされ、同協会も民主派の支持基盤だったことから「巨大な圧力を受けた」と解散の理由について述べている。

香港政府教育局の資料によると、退職(定年含む)した教員の数(幼稚園、小学校、中学校、特殊学校)は2020〜2021年は3406人だったのに対し、2021〜2022年は5397人、2022〜2023年は6748人と急増している。

「学校の変化は大きいですよ。授業で話す全ての内容に気を付けなければなりません」
そう語る男性教員は、学校勤務15年以上のベテランで、周りの同僚と同様に民主派を支持していたという。学校では常に“自分の中で審査”してから発言しているといい、児童らはもちろん、こうした苦労を知らない。

この男性教員が変化として最初に挙げたのは、学校での「国歌斉唱」についてだ。国歌とはもちろん、中国の「義勇軍進行曲」のことだ。

香港の小学校教員: 「以前は静かに起立していればよかったのですが、今は大きな声で、はっきりと歌わなければなりません。出来なければ、歌うようになるまで繰り返し歌わせます」

香港では2020年に、中国国歌への侮辱行為を禁じる「国歌条例」が施行された。6月のサッカーワールドカップ・アジア二次予選では、国歌の演奏時に起立しなかったり、背をそむけたりしたとして3人が逮捕されている。男性教員の話からは学校においても、いかに国歌を重要視しているかわかる。

香港の小学校教員: 「高学年の児童は2019年の大規模な抗議デモのことを知っています。自分の将来のことを考えれば『歌わない』という選択はないのです。自分からすればおかしいと思うが、香港政府は中央政府の指示にきちんと対応し、中央政府はその成果を見て喜ぶ。そういうことなのです。香港では本当に愛国心からなのか、罰せられるのが嫌で仕方なく歌っているのか、それはわかりません」

一方で低学年の児童は、一生懸命国歌を歌っているという。2019年の抗議デモに触れていないか、あるいは記憶に残っていない世代だ。こうした世代は授業でも、新たなカリキュラムで学ぶこととなる。

教員は政府の“喉と舌”になってしまうのか
2021年に香港の高校では「通識(リベラル・スタディーズ)」が別の科目に置きかえられた。通識は時事問題などを複数の観点から考え、香港社会の多様な意見を育んできたとされる。

「天安門事件」などもテーマとして扱っていたが、通識によって“反政府的”な考えが生み出されるとして、国安法の標的となったのだ。そして小学校でも科目の変更があり、来年から「人文科」が導入される。この中で児童らは「愛国」や「国安法」についても学ぶこととなる。

香港の小学校教員: 「簡単に言うと『我が国は素晴らしい』と教えなければなりません。教員は教えたくなくても、学校から言われれば選択の余地はありません」

一方で香港はかつて「天安門事件」も「文化大革命」もタブーではなかったし、児童、生徒の親世代はもちろん自由な時代を知っている。こうした背景から、教育局は急速な“中国化”は受け入れられるとは考えておらず、段階的に変更を進めるものとみられる。

男性教員は授業中にデモや政治の話題になると「学校では政治のことは討論しないよ」と“無色透明”を装っているという。

今はこの方法で凌げているが、この先教員は政府の“喉と舌”(中国国営メディアが共産党の広報的な役割を担うことからこのような表現が使われる)になることを求められる可能性もある。その時、5年前の民主派による「大規模デモ」について問われれば、どう答えるのか。

香港の小学校教員: 「良心に従えば2019年のことは間違っているとは言いません。しかし、この先は立場を明確にして『黒暴(黒い服を着て暴力をふるった)』『社会秩序を乱した』と言わざるを得なくなるかもしれません」

そのような状況になっても、教員を続けるのか。答えは出ていないようだった。ただ、今はまだ自分が果たせる役割があると断言する。

香港の小学校教員: 「私は1989年の6月4日(天安門事件)を身をもって経験しているので、中国共産党がどういうものか、香港がどうなっていくのか、よくわかっています。信念を持った教員たちは、児童が自分で物事の是非を考え、背景を判断できるよう、上手く解釈して導く自信があります。教育の最後のラインを守っていくということです」

男性教員は終始、淡々とした口調でインタビューに応じた。ただ「凄いプレッシャーです」という言葉には、悲壮な覚悟を感じずにはいられなかった。【6月30日 TBS NEWS DIG】
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こうした中国・香港当局による“力”による締め付けに対し、憲法上の権利を擁護する形で盾となるべき存在が司法ですが、現実には司法の独立も脅かされています。

香港の終審法院(最高裁)で非常任裁判官を務め、今月辞任した英国籍のジョナサン・サンプション氏は英フィナンシャル・タイムズ(FT)に寄稿し、香港の法治に「重大な危機」が迫っていると警告しています。

中国・香港当局の意に逆らって裁判官が保釈や無罪の決定を出せば中国政府系のメディアなどの強烈なバッシングに曝される、「現地の裁判官がこのような政治的潮流に逆らうのは並々ならぬ勇気が必要だ」「多くの裁判官は自由の擁護者としての役割を見失っている」と主張しています。

****香港の法治に「重大な危機」-最高裁の裁判官辞めたサンプション氏****
香港の最高裁判所に相当する終審法院の非常任裁判官を先週辞めた英国籍のジョナサン・サンプション氏は、中国による民主派締め付けを強く批判し、香港の法治に「重大な危機」が迫っていると警告した。

同氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に10日寄稿し、「かつては活気に満ち、政治的に多様なコミュニティーであった香港は、徐々に全体主義的な国家になりつつある」と論じ、「法の支配は、政府が強く関与するいかなる分野においても深く損なわれている」と主張した。

香港がグローバル企業を呼び込む上で鍵となるのが司法制度だが、外国籍裁判官の相次ぐ離職は、司法制度そのものに対する信頼を失墜させる恐れがある。

香港政府は11日の声明で、サンプション氏のコメントに「強い異議」を唱え、香港の裁判所が中国から圧力を受けているという指摘は「全くの誤り」だと反論した。

中国共産党の習近平指導部は、2019年に香港を揺るがした大規模な民主化デモをきっかけに香港に対する統制を強化。中国が民主派を抑えるため香港国家安全維持法(国安法)を20年に導入すると、辞任もしくは任期を更新しない外国籍の裁判官が相次いだ。

サンプション氏に加え、ローレンス・コリンズ氏も終審法院の非常任裁判官を先週辞任。コリンズ氏は辞意表明後、「政治情勢」に言及した。【6月11日 Bloomgerg】
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個人的には、香港を見捨てる辞任や更新しないという形ではなく、最後まで香港の人権ために「自由の擁護者」として尽力して欲しい・・・という感はありますが、そこまで求めるのは酷な話なのでしょう。現在の政治的流れは個人の力でどうこうなるものではないでしょうから。

【市民生活、経済面でも加速する中国と一体化】
中国・香港当局による“力”による締め付けだけでなく、香港市民の生活自体が中国との一体化を強めています。

****閉鎖、シャッター… 「中国化」で未曽有の消費不況 香港デモ5年****
香港・九竜半島の繁華街「旺角」にある屋台エリア「女人街」。衣料品やアクセサリー、カバンなどを売る屋台が300メートルほど並ぶ観光名所だが、その周辺の飲食店通りでは、週末夜でもシャッターを下ろした店舗が目につく。

創業50年の老舗広東料理店は、昨年6月に閉店したが跡地の買い手が現れていない。テナントのほとんどに明かりがともされず、不動産業者の電話番号を示す張り紙があちこちに貼られた雑居ビルもあった。

100万人デモから5年、高度な自治を保障した「1国2制度」が有名無実化するなか、社会経済が大きく変化した香港の実態を追いました。

欧米や日本の観光客減り
屋台の脇で中国茶を売っていた男性店主は「いまは欧米人や日本人の旅行者が少ない」と嘆いた。

2023年の香港への旅行者数は3399万人で、コロナ禍前の19年の約6割にとどまる。しかも、このうち8割は中国本土からだ。本土の景気停滞感も強く、日帰りだったり、夜は割安な中国側で宿泊したりする観光客も多い。香港メディア関係者は「(観光客減は)日米欧でのイメージ悪化の影響だ。付近の飲食店の半数が閉店した」と指摘する。

さらにレストランの閉鎖は観光地だけでなく全域に及ぶ。香港の北に位置する中国本土へと消費者が向かう「北上消費」が背景にあるためだ。香港の外食業界団体によると、24年3月には1カ月の間に香港全体で推計200~300軒が閉店した。

香港島中心部から約50分。北方に隣接する広東省深圳市との通関施設のある地下鉄「羅湖駅」では、平日でも小型のスーツケースを抱えたカップルや高齢夫婦の姿が目立った。

中国メディアによると、23年に「北上」した香港人は延べ5334万人。香港の全人口は750万人のため、1人当たり約7回も行ったことになる。

かつては本土から香港に向かう人の流れが圧倒的だったが、香港の物価高が続く中「半額以下だし、以前に比べて接客サービスも良くなった」(会社員女性の万さん、52歳)ことが、コロナ規制解除後に香港人を一気に深圳のレストランに引き寄せた。

「北上消費」でスーパーも打撃
深圳の格安スーパーへ自家用車で食品や日用品の買いだめに向かったり、買い物バスツアーが組まれたりすることも増えており、外食だけでなく小売業界も打撃を受ける。

老舗スーパーの大昌食品市場は3月、香港の全28店舗の閉鎖を発表。大昌含めて近所のスーパー3店が相次いで閉鎖したという会社員女性の謝さん(29)は「ネットスーパーもあるが、野菜や果物は自分で選びたいので不便だ」と嘆く。

深刻な消費不況の中で、対照的に存在感を高めているのが中国企業だ。23年5月に進出した出前大手「美団」は、配送料無料キャンペーンなどを武器に急速に浸透し、業界シェアトップに一気に躍り出た。

旺角と別の繁華街「尖沙咀」などを結ぶ幹線道路「ネイザンロード」では年明け以降、中国の大手飲料チェーン「蜜雪氷城」(ミーシュエ)や串焼き店チェーン「木屋焼烤」などが相次いで進出している。

ネイザンロードは、かつて香港の民主派デモ隊が集結した舞台。「香港の経済社会も中国化することは避けられないだろう」。香港に通算30年近く駐在する柳生政一・元香港日本人商工会議所事務局長(72)は語った。【6月10日 毎日】
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香港市民が深圳の格安スーパーなどへ「北上消費」で向かう一方で、中国富裕層のマネーは香港に流入しています。

****香港へ向かう中国富裕層マネー、制度緩和で加速****
中国の富裕層が、香港の保険商品や定期預金への投資を急増させている。本土の経済と不動産セクターの低迷や、人民元相場の下落から財産を守るのが狙いだ。

この傾向は昨年から顕著だったが、中国が2月に「クロスボーダー・ウェルス・マネジメント・コネクト(越境理財通)」制度の投資枠を拡大したことで、ここ数カ月は加速している。

香港の金融機関は、この機を逃すまいと奔走。民主化運動や中国の統制強化、地政学的な緊張によって失墜した香港の金融センターとしての地位を蘇らせる一助になりそうだ。

HSBC(HSBA.L), opens new tabの香港幹部、マギー・Ng氏は「中国には富裕層が約4500万人おり、海外投資や教育、自己防衛策をますます求めるようになっている」とし、「中国本土以外での資産運用需要は増えている」と語った。

2021年末に導入された越境理財通は、香港と隣接する南部広東省の9都市の住民に、香港とマカオの銀行が販売する投資商品の購入を認めるもの。同様に、香港とマカオの住民も中国本土に投資できる。【6月22日 ロイター】
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外国資本が香港から逃避する一方で、流入するチャイナマネー・・・香港にとって中国本土との関係はますます必要不可欠なものとなっています。

政治的にも、経済的にも、市民生活も、今後中国との一体化が加速することはあっても、その逆はないでしょう。
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