孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア・イランの対立で拡大する宗派対立 「相手の反発を計算した行動」? 判断ミス?

2016-01-05 23:12:48 | 中東情勢

(イラクの首都バグダッドで4日、サウジアラビアによって処刑されたイスラム教シーア派指導者ニムル師の顔写真入りポスターを手に、サウジに抗議するシーア派の信者ら=AFP時事【1月5日 朝日】)

処刑されたシーア派指導者ニムル師
サウジアラビアが国内シーア派指導者ニムル師の死刑を執行したことによるサウジアラビアとイラン、スンニ派とシーア派の対立が激化していることは、一昨日3日ブログ「シーア派指導者死刑執行で先鋭化するサウジアラビア・イランの対立」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160103で取り上げたばかりですが、周辺国を巻き込む形で対立が拡大しています。

両国、両派の対立が、シリア和平協議を一層困難にし、中東情勢を更に不安定化させかねないということから、米ロなど国際社会は事態鎮静化に努めています。 

処刑された問題のニムル師については、東部に多い少数派シーア派住民の権利擁護の活動を行ってきましたが、イランとの強いつながりも指摘されています。

****死刑執行されたニムル師は****
死刑が執行されたニムル師は、シーア派のイスラム教徒が多く住むサウジアラビア東部の宗教指導者で、国内では少数派のシーア派住民の信仰や職業選択の自由などの権利を保障するよう訴える活動を続けてきました。

若者から高い支持を受けたニムル師は、中東の民主化運動「アラブの春」が起きた2011年、抗議デモを主導し、反政府活動を強めました。

そして、2012年に拘束された際、治安部隊に銃で足を撃たれ、これをきっかけに支持者たちが抗議デモを行い、治安部隊との衝突で死傷者が出る事態となりました。

ニムル師は2014年、テロ行為などを扱う特別な刑事法廷で、国王に逆らい宗派対立を扇動したなどとして、死刑判決を受けていました。【1月4日 NHK】
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****サウジ・シーア派処刑】ニムル師とはどんな人? イラン革命防衛隊と密接関係****
サウジアラビアで2日処刑されたイスラム教シーア派高位聖職者、ニムル師(56)は、シーア派が多いサウジ東部で強い影響力を持ち、イラン指導部の親衛隊的存在で対外工作なども行う革命防衛隊の“先兵”の役割を担ったともいわれる。

特に2011年2月、隣国バーレーンでのデモに触発されたシーア派による反政府デモが起きた際は、デモ隊への支持を表明し、デモの拡大に大きな役割を果たした。

サウジ当局は12年、サウジへの外国の干渉を招き寄せたことや、住民の武装蜂起を扇動したとする罪などで同師を銃撃の末に逮捕。これに対し同師の支持者らは、「平和的なデモを呼び掛けただけだ」と反論していた。【1月4日 産経】
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拡大する対立
イランの首都テヘランで抗議のデモ隊がサウジアラビア大使館を襲撃したことを受けて、サウジアラビアはイランとの国交を断絶、更にイランとの貿易、航空便も停止しました。

サウジアラビアの影響力が強いスンニ派湾岸諸国は、サウジアラビアに同調する動きを示しています。

****イラン・サウジ対立が激化、スンニ派諸国が相次ぎ断交****
サウジアラビアがイスラム教シーア派指導者の死刑を執行し、シーア派大国のイランの反発を招いている問題で、サウジと緊密な関係を持つスンニ派アラブ3か国が4日、サウジに続いてイランとの外交関係の断絶や格下げに踏み切った。

これによりサウジとイランの緊張関係は本格的な外交危機に発展し、世界規模での懸念を招いている。

この問題では、サウジが著名なシーア派指導者で活動家のニムル・ニムル師の死刑を執行したことに対し、イランが強く反発。両国間の激しい非難合戦となり、まずサウジがイランと断交。さらにバーレーンとスーダンがこれに追随したほか、アラブ首長国連邦(UAE)も外交関係を格下げし、イランに駐在する外交団を召還した。

今回の危機を受けて、宗派間の暴力の応酬が激化するとの懸念が高まっている。イラクでは4日、スンニ派のモスク2か所が爆破され、2人が死亡した。

スンニ派の湾岸諸国は、イランが自国の内政問題に繰り返し介入していると非難。バーレーンはイランが湾岸アラブ諸国に「目に余るほどの危険な介入」を行っていると厳しく批判し、UAEもイランによる介入が「前例のない水準」に達していると主張した。【1月5日 AFP】
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【「両国とも、相手の反発を十分に計算した上で行動」】
シーア派サイドでは、上記にモあるようにイラクでスンニ派モスクが爆破される事件が起きていますが、イランでは、当局の管理統制もあって、大使館襲撃後の目だった動きは報じられていません。

****<イラン>「身分証見せなさい」サウジ大使館周辺、厳戒態勢****
イスラム教シーア派指導者ニムル師の処刑後に襲撃されたテヘラン市内のサウジアラビア大使館周辺は、秘密警察と言われる情報省職員らも動員した厳戒態勢下に置かれていた。(中略)

通りの表示板は、少なくとも6カ所が新しいものになっていた。通りはニムル師の名前を冠した名称に変わり、新たな表示板が設置されたという。ニムル師の顔と「激しい神の報復が進行中」と記されたポスターもある。「神の報復」は最高指導者ハメネイ師が3日にサウジを非難した際に使った言葉だ。

処刑の発表は2日朝だ。ずいぶんと準備がいいことになる。イラン学生通信によれば、2014年に出た死刑判決は昨年11月に確定が宣言されていた。

「襲撃は計画的でしょう」。通りを散歩していた近所の男性が言った。【1月4日 毎日】
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襲撃が「計画的」だったのか、その場合、どの勢力が計画したのか・・・そのあたりは定かではありません。

今回の対立・緊張については、“両国政府が、「敵国」の存在を国内の引き締めに利用している”との指摘もあります。

前回ブログでも触れたように、サウジアラビアはイエメン内戦の深みにはまりつつあり、財政も悪化、市民生活への影響も出始めています。

一方、イラン保守派は、核合意を受け、2月の議会選挙での改革派の勢力伸長や欧米の進出を食い止める必要に迫られています。

****サウジとイラン、対立激化の背景 2国とも計算ずくか****
・・・・ともに保守的なイスラム教国で産油国のサウジとイラン。両国は衝突と融和を繰り返してきた。共和制でシーア派を国教とするイランと、その影響力の拡大を防ぎたいスンニ派の王制国家サウジの覇権争いだ。

両国関係は、11年に中東に広がった民主化運動「アラブの春」で、一気に険悪化した。サウジなど湾岸諸国は、国内のシーア派住民によるデモを「背後から手引きした」とイランを非難した。

さらにサウジで昨年1月に即位したサルマン国王は、イエメンへの軍事介入などタカ派の姿勢が目立つ。メッカで昨年9月、巡礼中のイラン人464人が死亡する事故が起きるなど、対立が深まる事案も続いた。

両国政府が、「敵国」の存在を国内の引き締めに利用しているのも事実だ。
カーネギー中東センターのレナド・マンスール客員研究員は「両国とも、相手の反発を十分に計算した上で行動している。両国とも、この『冷戦状態』の継続を望むだろう」と指摘する。

ただ両国の対立は、スンニ派とシーア派が混在する中東全体の分断を招く。イラクでは3日、スンニ派のモスクを狙った爆弾テロ事件が相次いで発生。宗派対立をあおって勢力の拡大をめざす過激派組織「イスラム国」(IS)などの活動を活発化させかねない事態になっている。【1月5日 朝日】
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権力にとって、特に“強硬派”と呼ばれるような政治勢力にとって、敵対勢力との対立が高まる情勢の方が体制引き締めに都合がいい・・・というのは、サウジアラビア・イランに限った話ではありません。

鎮静化を求める国際社会
ただ、仮に“相手の反発を十分に計算した”つもりでも、いったん火が着いた宗派間対立は、当初の想定を超えて燃え広がる危険があります。

国連やサウジアラビアの同盟国であるアメリカ、シリア問題でイランと立場を同じくするロシア、更には中東の地域大国を自任するトルコなども事態の鎮静化を求めています。

****<サウジ・イラン断交>国連事務総長、懸念伝える****
シリア内戦の和平協議を仲介しているデミストゥーラ国連事務総長特別代表は4日、イランとの断交を宣言したサウジアラビアの首都リヤドを訪問した。

潘基文(バン・キムン)事務総長もサウジとイランの外相に対し、事態悪化につながる行動を避けるよう電話で要請した。25日に予定される(シリア)和平協議の実現に向け、国連が必死の取り組みを続けている。(後略)【1月5日 毎日】
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****<サウジ・イラン断交>米露、仲介に動く・・・早期修復狙う****
サウジアラビアなどイスラム教スンニ派諸国がシーア派国家イランと断交し、中東で宗派間対立の懸念が高まる中、米国とロシアは4日、仲介に乗り出す方針を表明した。

サウジとイランの対立激化はシリアの和平協議や過激派組織「イスラム国」(IS)対策に深刻な影響を与えかねないためで、早期の緊張緩和が不可欠と判断したとみられる。

米国務省のカービー報道官は4日、ケリー米国務長官がイランのザリフ外相やサウジのムハンマド副皇太子(国防相)と電話協議し、関係修復を呼びかけたことを明らかにした。直接対話の重要性などを説いたという。

シリア内戦ではイランがアサド政権、サウジが反体制派を支援している。カービー氏は「(シリアなど)喫緊の問題に対処できるよう、対立回避を進めるべきだ」と指摘した。

一方、カービー氏はサウジ・イラン関係について「最終的には地域の指導者らが解決策を見つける必要がある」とも述べた。米国が主体的に解決策を提示することに距離を置く方針を示した可能性がある。

アーネスト米大統領報道官は4日、イランでのサウジ大使館襲撃事件でイラン側の防護が不十分だったことなどを批判し、「両陣営が緊張緩和策をとり始めるべきだ」と述べた。

一方、ロシアも4日、双方に対立激化を避けるよう訴える外務省声明を発表した。ロシアはサウジ、イラン両国とパイプを持っており、両者間の調停役を担う姿勢もアピールしている。

ロシアは、シリアのアサド政権を支えるイランと密接な関係にある。昨年11月にはプーチン露大統領がロシアの首脳として8年ぶりにイランの首都テヘランを訪問し、蜜月ぶりをアピール。

反アサド政権の立場を取るサウジとの間でも、プーチン氏が昨年11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議の際にサルマン国王と会談するなど、良好な外交関係を維持している。

ロシアはシリア和平協議を通じて、ウクライナ危機で低下した国際的な地位の向上を狙っている。このため、シリア情勢を複雑化させるサウジとイランの対立激化を緩和する方針だ。

また、ロシアは南部カフカス地方などに多くのスンニ派イスラム教徒を抱えており、宗派間対立の激化が国内の不安定化につながることを懸念している模様だ。

露外務省筋は「我々はサウジとイランの両外相をモスクワに招く用意がある」とタス通信に語り、介入姿勢を鮮明にした。【1月5日 毎日】
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****中東は一触即発」 トルコ、サウジとイランに自制促す****
トルコのクルトゥルムシュ副首相は4日、記者会見を開き、サウジアラビアとイランの対立について「中東はすでに一触即発の状態。(地域大国の)サウジとイランが敵対すれば、両国と地域に悪影響をもたらす」と述べ、早急に緊張を緩和するよう両国に促した。アナトリア通信などが伝えた。

トルコはサウジと同様にイスラム教スンニ派が多数を占める。中東不安定化の要因の一つのシリア内戦でも、サウジとともに反体制派を支援している。一方、シーア派が多数派のイランはアサド政権を支援している。

だが、クルトゥルムシュ氏は「(サウジ、イラン)両国はトルコにとって重要なイスラム国家。我々は双方と良好な関係を維持している」と述べ、どちらにも肩入れしない姿勢を強調。

そのうえで対立激化のきっかけとなった、サウジによるシーア派指導者ニムル師の死刑執行については「トルコは死刑を廃止した国であり、常にあらゆる死刑制度について反対してきた」と述べ、名指しは避けつつサウジを批判した。【1月5日 朝日】
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サウジアラビアは判断を誤った?】
シリア和平協議の崩壊など、これ以上の中東情勢の混乱を危惧する米ロなど関係国にとっては、サウジアラビアが引き起こした今回緊張は、本音では“迷惑”なものにも映っているのではないでしょうか。
死刑執行についても、欧米には批判的な空気もあります。

前出のように「両国とも、相手の反発を十分に計算した上で行動している」との見方がある一方で、サウジアラビアは判断を誤ったのではないかとの見方もあります。

****宗派対立が周辺国にも拡大 判断誤ったサルマン強硬体制****
シーア派の宗教指導者の処刑をめぐって起きたサウジアラビアとイランの対立は、サウジに続き、隣国バーレーンとスーダンがイランとの断交を決定。アラブ首長国連邦(UAE)が駐イラン大使の召還を発表するなど周辺諸国に拡大した。

今回の宗派対立激化の背景には「イランの強迫観念に取り憑かれたサウジのサルマン体制の判断ミスがある」(ベイルート筋)ようだ。

潜在的な対立が噴出
水面下で繰り広げられてきたペルシャ湾岸の2大国、サウジとイランの覇権争いが一気に噴出した感がある。サウジは断交後、イランへの渡航禁止やイランとの商業関係の断絶も発表した。

両国は1988年にも、メッカ巡礼で、イラン人巡礼者とサウジの治安部隊が衝突し、イラン人275人が死亡した事件をきっかけに2年間断交した過去がある。

両国はその後、潜在的な対立はありながらも表面上は平穏を装ってきた。しかし2011年の「アラブの春」で、抑圧されてきたサウジやバーレーンなど湾岸諸国のシーア派は支配層であるスンニ派王家への不満を爆発させ、反政府運動を活発化させた。

特に小国バーレーンは支配層であるスンニ派は少数派で、多数派のシーア派による反政府抗議行動が頻発。サウジが戦車部隊をバーレーンに送り込んで反政府行動を鎮圧した経緯がある。サウジやバーレーン王家では、こうしたシーア派の反政府行動の背後でイランが糸を引いているとして警戒心が高まった。

サウジなど湾岸諸国はこれ以上イランの影響力が地域に拡大するのを阻止するため、シリアの内戦でイランが支えるアサド政権に敵対する反体制派を支援。サウジはさらに隣国イエメンで起きた内戦でも、イランがクーデターを起こしたシーア派のフーシ派を扇動しているとして、イエメンに軍事介入した。

昨年9月のメッカ巡礼の圧死事故では、イラン人450人を含む2411人が死亡、イラン側がイラン人元外交官を誘拐するためにサウジが事故を利用していると非難するなど両国の対立と敵対心が深刻化していた。

こうした潜在的な不満が臨界点にまで近づいていた時に、サウジによるシーア派指導者ニムル師の処刑が実施された。

王家の内紛も関係か
湾岸諸国のシーア派反体制派の象徴的な存在であるニムル師を処刑すれば、イランとの関係が険悪化し、国連の仲介で25日からジュネーブで始まる予定のシリア和平協議も破綻しかねないことはサウジも十分予想できたはず。

にもかかわらず処刑を断行して今日の“中東分断”を招いたのは、イランのシーア派革命に対する恐怖感がサウジの判断を誤らせたからだろう。

今回の処刑については「サウジに対する人権の尊重を再確認したい」(米国務省声明)と米国ばかりか、欧州連合(EU)や国連からも批判が強い。

サウジは内政干渉と反発を強め、“子分格”のバーレーンやUAEなどを総動員して処刑を正当化しようとしているが、追い込まれた感があるのは否めない。

イランに対する恐怖感とともにサウジの判断を誤らせた大きな要因は対米不信である。

オバマ政権は中東地域からの米軍撤退をしゃにむに進め、アジア重視戦略を打ち出して中東への関与を薄めつつある。「サウジからすれば、米国が中東から逃げ出し、自分たちが見捨てられつつあるとの思いが強い」(ベイルート筋)。

イランの核合意で米国がイランと急接近したのも米国に対する不信感を増大させることになった。

「米国はもう頼みにならない。自分たちで守るしかない」(同)という感情がイエメンへの軍事介入に踏み切らせ、そしてニムル師の処刑によってシーア派やイランに対して断固としたメッセージを示そうとしたようだ。

サウジのこうした独立独歩の動きと強硬路線は1月のサルマン新国王の誕生の結果であり、王室内部の内紛とも密接に絡んでいると見られている。

サルマン国王はすでに79歳と高齢で、病弱だ。しかし新体制発足後、イエメンへの軍事介入に象徴されるような強硬方針を打ち出し、イランへの敵意をむき出しにしている。

国王の決定には、息子で副皇太子のムハンマド国防相(30)が深く関与し、イエメン軍事介入を推進したといわれている。しかしこれに対して皇太子のムハンマド内相が批判的で、両者の間で次期国王をめぐる熾烈な権力闘争が行われていると伝えられている。

この激化する権力闘争を背景にニムル師処刑の決定が行われことになった。サウジとイランとの対立には、サウジ王室の内紛が深刻な影を落としていることを見落としてはならない。【1月5日 WEDGE】
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いずれにせよ、宗派対立感情を利用して国内引き締めをはかるというのは“禁じ手”であり、中東全域に収拾のつかない混乱をもたらします。両国の早急な事態鎮静化が求められています。

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