孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

移民増加や新型肺炎で触発される外国人嫌い・差別感情

2020-02-21 23:43:18 | 人権 児童

(「corona virus」などと落書きされたパリ郊外の日本料理店【2月20日 朝日】)

【トランプ大統領の「アメリカ第一」の根底にあるもの】
トランプ大統領の非常識な発言なんて、もはやたいしたニュースにもなりませんが、今回のアカデミー賞に関する発言には、見過ごせないものが横たわっているようにも。

****トランプ氏「どういうことだ」 韓国のアカデミー受賞に不満****
トランプ米大統領は20日、今年の米アカデミー賞で韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が外国語映画として初めて作品賞を受賞したことについて、「いったいどうなってるんだ」と不満を表明した。西部コロラド州での支持者集会で述べた。
 
トランプ氏は「韓国とは貿易分野でさまざまな問題を抱えている。その上、今年最高の映画(である作品賞)の称号を与えるのか。そんなに良かったか?」と語り、選考に疑問を呈した。「外国作品賞を取ったのかと思ったよ。前代未聞じゃないか」とも付け加えた。
 
その上でアカデミー作品賞を受賞した1939年の米映画「風と共に去りぬ」や脚本賞などを受賞した50年の「サンセット大通り」を持ち出し、こういった作品が受賞すべきだと主張。「頼むから『風と共に去りぬ』を復活させてくれ」とも述べ、リメークを要望した。
 
これに対しパラサイトの米国配給会社はツイッターで「(トランプ氏が作品を嫌いなのは)理解できる。彼は(英語の字幕を)読めないからね」とやり返した。【2月21日 産経】
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トランプ大統領自身は、「パラサイト」は鑑賞していないようです。(私も観ていません)

「韓国とは貿易分野でさまざまな問題を抱えている」ことと、アカデミー賞の選考に何の関係かあるのか?
別に、韓国との関係は、駐留米軍の経費問題などもありますが、一触即発といった危機的状況にある訳でもありませんし。

要するに、外国映画が受賞したことが気にいらないようです。
もっと言えば、彼の言う「アメリカ第一」の根底には、こうしたエピソードに垣間見える「外国嫌い」があるようにも思えます。

これが欧州の映画だったら反応は少し違ったかも、アジア映画だったから・・・と考えると、「アジア嫌い」「異人種嫌い」があるのかも。

そして、かれの考える「アメリカ」とは、現在のアフリカ系・ヒスパニック、アジア系が多く暮らすアメリカではなく、「サンセット大通り」や「風と共に去りぬ」に描かれる白人社会なのでしょう。

配給会社の「(トランプ氏が作品を嫌いなのは)理解できる。彼は(英語の字幕を)読めないからね」というコメントは秀逸です。トランプ大統領が多くのリポートに殆ど目を通そうとしないこと、TVばかり観ていることは有名です。「小学生並みの理解力」との評価も。

ただ、他の政治家なら進退を問われかねない問題でも、トランプ大統領なら「まあ、トランプだからね・・・」ですまされてしまいます。

異人種への差別とか「外国嫌い」といったものは多くの人の心中にあったもでしょう。
ただ、これまではそうした感情は公言すべきものではないとみなされていました。

トランプ大統領の一番の問題は、そうしたネガティブな感情を大っぴらに発言し、「まあ、トランプだからね・・・」で済まされてしまうことで、他の多くの人々も、そういう考えを公言して何が悪い・・・と考えるようななったことでしょう。いわゆる「パンドラの箱」を開けてしまったことです。

【欧州で過激化・拡散する外国人排斥】
そうした本音と称する外国人・異人種への嫌悪感の吐露が認められる風潮と、欧州の移民に関する現状が重なれば、ドイツで起きた事件のようなことも起こります。

****相次ぐ極右犯罪に衝撃 ドイツ銃撃、中東などの民族一掃を主張****
ドイツ西部ヘッセン州ハーナウで19日、2軒のバーが相次いで銃撃され、中東出身の移民ら9人が死亡した。検察当局は20日、人種差別思想に基づく犯行との見方を発表。反移民勢力が台頭する中、近年最悪の極右テロが発生したことで、国中に衝撃が広がった。
 
メルケル首相は20日、事件を受けて演説し、「人種差別という毒が社会で犯罪を引き起こしている」と危機感を表明。事件の背景解明に努めると訴えた。
 
検察によると、容疑者は43歳のドイツ人の男。逃走した後、自宅で遺体で発見された。自殺したとみられている。自宅では、人種差別による犯行動機を示した手紙やビデオが押収された。容疑者の母親(72)の遺体も見つかった。
 
報道によると、容疑者は犯行前、イスラエルやアラブ諸国、インドなどの国名を挙げて民族の一掃を訴える声明を残していた。

米国人向けに英語で「あなた方は秘密結社に支配されている」と訴えるビデオもインターネット上に流していたという。

銃撃されたバーは中東で人気がある水たばこを提供しており、犠牲者にはクルド系移民のほか、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身者が含まれていた。ハーナウは金融都市フランクフルトの東方25キロにある。
 
ドイツでは極右犯罪が近年、多発している。昨年6月には、メルケル首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の地方政治家が射殺される事件が発生。容疑者はネオナチとのかかわりが指摘された。10月には東部ハレのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)前で銃乱射事件が起き、2人が死亡した。
 
背景には、移民流入を受けた排外主義の広がりがある。ドイツにはシリア内戦を受けて2015年以後、100万人以上の難民・移民が流入した。

ナチスやヒトラー礼賛は訴追対象だが、インターネット上ではメルケル首相の寛容な移民政策を攻撃し、極右犯罪をたたえる投稿が法をすり抜けてのさばった。
 
メルケル政権は昨年秋、ネット上のヘイト(憎悪)発言取り締まりや銃規制の強化など、極右犯罪の取り締まり策を発表。先週には、イスラム教徒や政治家への襲撃を画策したとして、極右集団の12人を一斉に拘束したばかりだった。 

今回の事件を受け、ベルリンでは20日、テロ犠牲者を追悼し、極右犯罪に抗議するデモ行進が行われた。【2月21日 産経】
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ドイツ政治の問題で言えば、「ドイツのための選択肢(AfD)」の反イスラムおよび反移民主義が外国人に対する憎悪を拡大させているという問題も指摘されています。

【新型肺炎のような危機的状況で噴出する差別感情】
一方、ゼノフォビアや異人種への差別感情は、今猛威を振るっている新型肺炎のような不安感を煽る状況では、“「ウイルス持ちは出て行け」、中国系青年に暴行―イタリア”【2月14日 レコードチャイナ】容易に表面化してきます。

****新型コロナウイルスの流行で露わになった「世界の人種差別」****
(中略)
差別対象がどんどん広がる
ウイルスの発祥地として当初、武漢という特定の町の名前が出てきたときから嫌な予感はしていましたが、案の定、数日後には温泉地の箱根で「中国人お断り」と貼り紙を掲げる駄菓子店が登場したり(現在、貼り紙は外されました)、札幌市でも「中国人入店禁止」の貼り紙を掲げたラーメン店が物議を醸しました。

いうまでもなくこれらの貼り紙は人種差別的であり、場合によって民放の不法行為が成立する可能性がありますし、国連の人種差別撤廃条約にも違反しています。

それにしても興味深いのは「中国国内では武漢出身者が差別され」「日本国内では中国人が差別され」「ヨーロッパではアジア人が差別されている」という点です。

つまり地域によって、差別される対象の人々はどんどんひろくなっていっており、もはや合理的なウイルス対策とはいえない類の「対策」が目立ちます。例えば、イタリア・ローマにあるサンタチェチ―リア国立音楽院は「すべての東洋人へのレッスン中止」を発表し物議を醸しました。

(中略)このようにコロナウイルスの登場によって、ヨーロッパではアジア人への差別行為が起きていますが、前述のMartin Ku氏は記事を「中国人に見えるからといって、中国人だとは限りません。また中国人であっても、直近で中国を訪れた人ばかりではありません。尚、実際に中国を訪れた中国人であっても、全員が感染しているわけではありません。やはりコロナウイルスの対策として一番有効なのは手洗いとデリカシーです」と皮肉たっぷりに締めくくっています。

問題は「元からあった人種差別」
この流れを見ると、コロナウイルスのせいで人種差別が起きていると思ってしまいそうですが、欧州での東洋人への人種差別は元からあったものです。

コロナウイルスの流行を受けて、フランスでは地方紙の「クーリエ・ピカール」が表紙に「黄色いアラート」というタイトルをつけ、批判を浴びましたが(同誌は後に謝罪)、とっさに「黄色」という言葉が出てかつ印刷してしまうのは、元から東洋人に対する人種差別的な考えがあったと考えて良いでしょう。

そんななか、フランスでは #JeNeSuisPasUnVirus (私はウイルスではありません)というハッシュタグがSNSで多く使われるようになり、ドイツ語#IchbinkeinVirusやイタリア語#NonSonoVirusでの投稿も目立ちます。(中略)

東洋人への差別意識は欧州の社会に元からあるものでしたが、現在は「コロナウイルスという大義名分のもと」堂々と差別行為が行われているというのが現状です。

ただ「大義名分」に関しては、日本においても「元から中国人を快く思っていなかったところを、コロナウイルスという大義名分ができたから堂々と中国人をお断りするようになった」という側面もあるようです。

歴史に学ぶべきこと
日本政府によるチャーター便で、武漢在住の日本人が4回に分けて帰国しました。チャーター機の第4便には、日本人と共に中国人配偶者や中国籍の子供も乗っていましたが、インターネットでは「なぜ中国の人も、日本政府のチャーター機に乗せるのか」という声も多く見られます。

しかし人道的観点から家族なら一緒に行動をするのは当たり前です。単なる「ネットの声」だとはいえ、国籍を理由に「家族であっても、引き離すべき」と考える人が少なからずいるということは、社会として危険な兆候ではないでしょうか。

日本では大正12年9月1日に起きた関東大震災の際「朝鮮人が井戸に毒を入れている」などと噂が飛び交い、これを真に受けた住民たちが自警団を結成し、多くの朝鮮人や中国人が殺されました。

14世紀にヨーロッパでペストが流行した際にはドイツなどで「ペストが流行っているのは、ユダヤ人が井戸に毒を入れていたからだ」との噂が飛び交い、これが各地でユダヤ人のポグロム(殺戮、虐殺)へと発展しました。

国と時代が全く違うのに、自然災害が起きた時や病気が流行った時に、それをマイノリティーのせいにし、「彼らが井戸に毒を入れたからだ」という展開になるのはなんとも恐ろしい偶然です。

いつの時代も、どの国でも人間の本質はあまり変わらないのかもしれません。だからこそ「博愛精神は平常時や平和な時だけ」なんていうことにならないように、非常事態の際の人間性が問われているのではないでしょうか。でも、何もそんなに難しく考えることはありません。ウイルスを憎んで、人を憎まず、ということです。【2月10日 GLOBE+】
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感染防止対策としては、感染拡大地域からの流入を制限する措置は必要にもなりますが、そのことが「差別」に結びつかないような配慮が必要でしょう。

【日本:制限する側からされる側に】
なお、日本は流入を制限する側から、制限される側に変わりつつあるようです。

ミクロネシア連邦、ツバル、サモア、キリバス、コモロ、ソロモン諸島が日本からの入国を制限しています。また、タイ保健省も17日に、日本からの渡航者に対し、空港での検疫を強化すると発表しています。

来月中旬にタイ・バンコクへの旅行を予定しています。「バンコクの感染状況はどうだろうか?」と考えていましたが、「タイに入れるだろうか?」ということを心配した方がよさそうです。

「ロシア“入国一時停止”日本に適用の可能性」【2月21日 日テレNEWS24】
「日本に「渡航注意」の情報=新型コロナで米保健当局」【2月21日 時事】

クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船したオーストラリア人2人の感染が確認されたとのこと。
他国と異なり下船後の隔離措置をとっていない日本での広範な感染拡大の危険が増しています。(このあたりの日本政府の対応は理解できません。感染防止対策が十分にとれない船内での14日間がどういう意味を持つのか?)

そうなると、いよいよ日本人が「ウイルス持ちは出て行け」と暴行を受けるような事態にも・・・。
私のバンコク旅行もご破算です。

 

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1 コメント

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なんでも差別ですか? (ウンザリする)
2020-02-22 09:57:32
 中国籍なんだから中国との調整は必要なのは当然。↓ちゃんと対応してるじゃん。

茂木敏充外相は5日の衆院予算委員会で、肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染拡大が発生した中国・武漢市から邦人を帰国させるための政府のチャーター機に関し、「今週中にもと思っている第4便以降、人道的観点から(邦人の)中国籍の配偶者などにも搭乗してもらえるよう、中国側と調整が進んでいる」と述べた。
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