孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  南シナ海の緊張緩和で中国と暫定合意も、主張は異なる 緊張緩和は進むのか?

2024-08-12 23:08:47 | 東南アジア

(フィリピンのマナロ外相(左)と握手する中国の王毅外相=26日、ビエンチャン(中国外務省のホームページから、共同)【7月27日 共同】)

【暫定合意も、補給活動事前通告について中比両国で異なる主張】
中国とフィリピンは南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)に駐留するフィリピン軍部隊への補給活動を巡って、小競り合いでフィリピン側に負傷者がでるなど対立が先鋭化していました。

7月21日、そうした緊張を緩和すべく両国で暫定的な“合意”がなされたことが発表されました。
ただ、両国の解釈・主張には違いもあるようです。

****緊張高まる南シナ海・アユンギン礁、補給活動巡りフィリピン・中国が暫定合意…主張に食い違いも****
フィリピン外務省は21日、実効支配する南シナ海のアユンギン礁(中国名・仁愛礁)に駐留する部隊への補給活動を巡って、領有権を主張する中国側と暫定的な取り決めに合意したと発表した。

フィリピン外務省は合意の詳細を明らかにしないまま「緊張状態を緩和し、対話と協議で違いを管理する。この合意は互いの立場を損なわない」と説明した。両国が領有権を争うアユンギン礁では、補給活動中の比船に中国海警局の船舶が放水や衝突を繰り返し、緊張が高まっている。

中国外務省の報道官は22日に談話を発表し、比軍の補給は「中国への事前通告を経て、現場で調査した上で補給を許可する」とした。毛寧マオニン副報道局長も22日の記者会見で「対応を取り決めたことは中国側の善意の現れ」と主張した。

これに対し、比外務省は22日、「中国側の発言は不正確だ」と反論し、食い違いが浮き彫りになった。比側は今後も事前通告をしない姿勢を示しており、合意の実効性が疑問視されている。【7月22日 読売】
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フィリピン側の中国への事前通告は中国側のこの海域における主権を容認したことにも繋がる重要な部分です。
お互いが勝手に都合よく解釈出来る形で“合意”が成立するのは外交交渉の常ですが、事前通告するのかしないのか、次回の行動ですぐにわかることでもあります。

事前通告については、これまでフィリピン側に“揺らぎ”“迷い”もありました。

****フィリピン、軍補給の予定公表へ 中国との対立回避図る****
フィリピンのマルコス大統領は21日、南シナ海のアユンギン礁の軍拠点に対する補給船の派遣予定を事前に公表する方針を決めた。ベルサミン官房長官が同日、記者会見で明らかにした。軍拠点への補給に際して事前通知を求めている中国との対立回避を図った形。

補給を予告することで中国が妨害を控えるかどうかが次の焦点となる。【6月21日 共同】
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****比、軍補給予告の方針撤回 南シナ海、中国妨害継続も****
フィリピンのテオドロ国防相らは24日、記者会見し、南シナ海のアユンギン礁の軍拠点に対する補給予定を公表しないことをマルコス大統領が最終決断したと発表した。21日に発表した補給の予告方針を撤回した。補給に際して事前通知を求めている中国が今後も妨害を続ける可能性がある。

フィリピン側によると、同礁では17日、補給任務中のフィリピン軍のゴムボートを中国側が刃物で突き刺してパンクさせ、ボートの衝突で兵士1人が指を切断する重傷を負った。

ベルサミン官房長官は21日、補給任務を予告する提案をまとめ、マルコス氏が了承したと発表していた。【6月24日 共同】
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中国側が合意の成果をアピールするのに対し、フィリピン側はその影響を打ち消すような姿勢が目立ちます。
両者の交渉が中国ペースで進んだということでしょう。

****南シナ海で「屈服せず」 比大統領、緊張緩和模索も****
フィリピンのマルコス大統領は22日に施政方針演説を行い、中国が権益を主張する南シナ海は「私たちのもの」だとし、「フィリピンは屈服できない」と強調した。「私たちの立場と原則について妥協することなく、紛争地域での緊張緩和の道を模索し続ける」と宣言した。

同志国と連携して自国の防衛力を強化する方針を示す一方、紛争解決のためには法に基づく国際秩序の下で外交的に対応するしかないと訴えた。【7月22日 共同】
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中比外相は7月26日、ラオスの首都ビエンチャンで会談。暫定合意の順守も確認したと中国側は発表しています。

***中国とフィリピン外相、協議継続 緊張緩和へ一致、暫定合意も順守****
中国の王毅外相は26日、訪問先のラオスの首都ビエンチャンでフィリピンのマナロ外相と会談し、南シナ海の緊張緩和に向け協議を継続していく考えで一致した。アユンギン礁にあるフィリピン軍拠点への補給活動を巡り、両国が今月発表した暫定合意の順守も確認した。中国外務省が27日発表した。

ただ双方は、南シナ海での領有権主張を崩していない。暫定合意の詳しい内容も公表されておらず、緊張緩和につながるかどうかは見通せていない。

会談で王氏は「フィリピンが約束を履行し、ほごにしないことが重要だ」と指摘。両国関係の安定化に向け「対話と協議が正しい道だ」と強調した。【7月27日 共同】
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****「うまくいった」中国外相がフィリピンとの会談成果を強調 南シナ海問題で暫定合意も立場の溝浮き彫りに…****
(中略)会談後に取材に応じた王毅外相は「両国間には緊張緩和に向けた暫定的取り決めが成立している」と改めて強調した上で、会談の成果を次のようにアピールしました。

中国 王毅外相
「フィリピンとの(緊張)関係は緩和された。二度と繰り返してはいけない。きょうの会談はうまくいったはずだ」

ただ、中国政府がフィリピン側の事前通知などを条件に補給活動を認めると発表したことについて、フィリピンのマナロ外相は…

フィリピン マナロ外相 「事前通知のことは合意に含まれていません。なぜなのかは分からない」(後略)【7月27日 TBS NEWS DIG】
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【暫定合意の背景にフィリピンのアメリカへの落胆?】
解釈の違いはともかく、フィリピンが中国との緊張緩和を求めたことは事実で、その背景には一連の中国側の攻撃的対応に対し行動をとらなかった支援国アメリカへの落胆があるとの指摘があります。

****<アメリカへの信頼の揺らぎ?>フィリピンが中国と南シナ海での緊張緩和へ動いた背景****
(中略)
フィリピンが取り決めへ動いた背景
内容次第ではあるが、大局的に見れば、中比間で現在の緊張を緩和する取り決めが合意されたのは良かったと言うべきだろう。ここ数週間、国際的には(特に米国では)、インド太平洋地域では、南シナ海の本件事象が台湾海峡問題や北朝鮮問題にも増して、一番の懸念事項だった。

まず、フィリピン側が今回の取り決め形成に動いた背景は何だろうか。米国は、米比安保条約が第二トーマス礁にも適用される(つまり、同礁に対する武力攻撃は同条約に基づく米国のフィリピン防衛義務の引き金を引く)ことを明確にした。

尖閣諸島に比べ第二トーマス礁が防衛対象だと表明するのはそれなりに勇気のいることだっただろうが、中国との関係で一定の抑止になることを意図したのだろう。

しかし、中国側の挑発はほとんど収まらなかった。これは典型的なグレーゾーン事態であり、そもそも、中国の海警は軍隊では無く、体当たりや放水銃自体は武力攻撃では無いので、米国は対抗行動を取らなかったし、それを正当化する理由も無い。

それでも、フィリピン側には米国の抑止の実効性と信頼性への信頼に揺らぎが生じただろうことは、想像に難くない。
米側が対応しないことへの落胆に加えて、中国側が米側の足元を見ていると感じただろう。今回の中比の暫定合意成立には米国もホッとしているだろうが、フィリピン側から見れば、やはり自助努力をしないと状況は変わらない(米国は頼りにならない)という冷徹な現状認識があったのだろう。

マルコスの「バランス」外交
第二に、マルコス政権の対中・対米政策をどのように見るべきなのだろうか。実際、前任のドゥテルテ大統領と異なり、米軍の展開場所の拡大や日米比首脳会談、日本との円滑化協定締結、豪州やベトナムとの関係強化など、日米に相当近い立ち位置を取っているとように見える。

しかし、フィリピンも、平時には米中のどちらともことを構えたくないという、他の東南アジア諸国と同様の立場が基本だと理解すべきであるように思われる。

マルコス大統領が22年6月30日に就任した後、初めての二国間訪問の先は23年1月の中国だった。同年2月には訪日、5月に訪米という順番だ。

マルコスは、習近平に対して、南シナ海の緊張緩和に向けた対応を要請してきたのだと思われるが、中国側の圧力は逆に強まった。

それを受けてマルコスとしても、主権について安易な妥協はできず、結局、前任者と異なり第二トーマス礁の状況をプレスに公開し、日米への接近を強め、それが中国側の一層の反発を招く、という悪循環に陥ったという流れのように見える。

今後中国側の対応が大きく変わらない限り(実際変わらないだろう)、現在のフィリピン側の日米側への接近という方向性は変わらないが、それはマルコス大統領が「親米」だからではなく、中国とのバランスでそうなっているということは十分踏まえておく必要があるということだ。これは、台湾危機を巡るフィリピンの役割への期待値を奈辺に置くかにも関わる問題だ。【8月8日 WEDGE】
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中国側はこれを機にフィリピンとの溝を埋めようとするような動きも。
フィリピンで中国人が拉致される事件があったようで、その救出作戦にあたったフィリピン警察側に殉職者がでたようです。

****中国人救出でフィリピン人警察官殉職 中国大使館が哀悼の意****
在フィリピン中国大使館は6日、フィリピン国家警察(PNP)誘拐対策班と協力し、同国で拉致された中国人2人の救出に成功したが、救出行動でフィリピン人警察官1人が殉職、もう1人も重傷を負ったと発表した。

中国大使館は発表で、亡くなった警察官に深い哀悼と高い敬意を表し、遺族と負傷者に心からのお見舞いを申し上げるとともに、フィリピン国家警察による中国人救出に深く感謝するとした。

事件は2日に発生。中国大使館はこれを非常に重視し、直ちにフィリピンの法執行部門と連絡し、救出のための行動を取った。拉致された2人は3日、無事に救出され、体調は良好だという。【8月6日 新華社】
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【中国の威圧的行動は変わらず】
しかし、南シナ海における中国の対応は今までと変わらず威圧的だという現実も。

****中国空軍機2機、フィリピン空軍機の進路上に照明弾を投下…南シナ海空域で異例の挑発行為****
フィリピン軍は10日、中国と領有権を争う南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)上空で8日、中国空軍機2機がパトロール中の比空軍機の進路上に照明弾を投下したと発表した。南シナ海空域で中国側が挑発行為を行うのは異例だ。

中国機は照明弾の投下に先立ち、危険な飛行も行ったという。比軍機は8日午前10時、北部ルソン島のクラーク空軍基地に帰還し、乗員にけがはなかった。

比軍トップのロメオ・ブラウナー参謀総長は声明で「比側の主権の及ぶ空域での合法的な飛行を妨害し、国際法に違反した」と強調した。フェルディナンド・マルコス比大統領も11日、非難声明を出した。スカボロー礁は中国が2012年にフィリピンから奪い、実効支配を続けている。

南シナ海を担当する中国軍の「南部戦区」は10日の声明で「再三の警告にもかかわらず比軍機は黄岩島の空域に不法に侵入し、中国軍の訓練活動を妨害した」などと中国の主権を主張し「活動は合法的」と訴えた。【8月11日 読売】
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上記記事では“照明弾”とありますが、別記事では“フィリピン軍は、中国軍機2機がミサイルをかわすためのおとり「フレア」を放射したとして、「危険で挑発的な行動だ」と非難”【8月12日 RBS NEWS DIG】

“マルコス大統領も、両国が対話によって「緊張を緩和させ始めたばかりなのに、空域も不安定になることが懸念される」との声明を出しました”【同上】とも。

そのフィリピンは、同じく中国と対立を続けるベトナムと共同訓練を実施。中国を牽制しています。

****フィリピンとベトナムが初の共同訓練 南シナ海問題で中国けん制か****
南シナ海の領有権をそれぞれ主張するフィリピンとベトナムの沿岸警備隊が9日、マニラ湾近海で初の共同訓練を実施した。両国の権益主張海域は一部重なるが、協力することで、同海で覇権的な動きを強める中国をけん制するねらいがあるとみられる。

両国は1月、フィリピンのマルコス大統領がベトナムを訪問した際に、沿岸警備隊の協力強化で一致。今回は、ベトナム側から約80人が捜索救助・防火の共同訓練に参加した。

共同訓練の意義について、比沿岸警備隊のバリロ報道官は5日の歓迎式典で、「(領有権を争う)ライバルでも協力しあえるということを示せる」と強調。ベトナム海上警察のホアン・クオック・ダット第2管区副司令官は、国際法に沿った海上法執行の重要性に触れた上で、「相互利益のための協力関係を強めることになる」と説明した。【8月10日 毎日】
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今後、アユンギン礁での補給活動についてフィリピン側が中国に事前通告するのか、しない場合、中国がどのように反応するのかが注目されます。

そもそもの話で言えば、中国が南シナ海ほぼ全域で領有権を主張し、威圧的な行動に出ているのは、中国にとって良い結果となっているのか疑問です。

すでに東南アジアは経済的に中国と深い関係で結ばれています。中国が南シナ海における威圧的な行動・主張を控えて一歩引いた対応をとれば、中国に対する恐怖感も薄れ、東南アジア世界における中国の盟主的な立場は更に強まるのでは・・・。中国にとっては、その方がずっと戦略的にメリットが大きいようにも。

力で相手をねじ伏せても、リスペクトされることはありません。

何がなんでも自己主張を押し通さないと気が済まない、「大国」としての面子が立たない・・・というのはあまり賢い対応ではないとも思うのですが、中国・習近平政権の考えは異なるようです。
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