孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナでハマス・ファタハの和解協議始動 イスラエルとヒズボラ、高まる戦闘の危険性

2017-10-09 23:03:48 | パレスチナ

(シリア領内へのイスラエルの空爆で死亡したヒズボラメンバーの葬儀 “flickr”より By Jean Bosco SIBOMANA

それぞれの組織事情もあって動きだしたファタハ・ハマスの和解協議
パレスチナにおける自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配する強硬派ハマスの和解協議については、9月18日ブログ“パレスチナ ハマスが自治政府・ファタハとの和解交渉の意向 信頼を失っている自治政府ではあるが・・・”で取り上げたところです。

ここにきて対立する両者が和解協議に乗り出した背景には、それぞれ組織の生き残りをかけた事情があるようで、そのあたりにについては、石堂ゆみ氏「オリーブ山便り」“ハマス・ファタハ合意へ急進中か”【10月8日】に詳しく書かれています。

ハマスの側は前回ブログでも触れたように外交的に孤立し、自治政府側の財政的締め付けにもあって、住民行政が立ち行かない状況になっています。
(逆に言えば、これまで対立するハマスが支配するガザ地区のイスラエルからの電力購入代金や、公務員給与などを自治政府側が負担してきたことの方が、部外者には不思議なところです)

窮地に追い込まれたハマスはイランに接近しようとして、これを嫌うエジプトがファタハとの(双方に圧力をかける形で)仲介に乗り出した・・・とのこと。

一方、ファタハ・アッバス議長の側は、ガザ出身の政治的ライバルがガザ支援に乗り出す動きがあり、放置するとガザを、更には自治政府までライバルに持っていかれる懸念も。

そこで、本来であればもっとハマスを締め上げてハマスの軍事部門を解体させたいところながら、やむなく現時点でのエジプトの仲介に乗った・・・という事情とか。

お互いそういう事情もあって、これまでも何回かあって頓挫した和解協議よりは気合が入っているようです。
10月3日、パレスチナ自治政府(ファタハ)のハムダラ首相が、自治政府官僚430人を率いてガザを訪問し、ガザでの初の閣議が開かれています。

****<パレスチナ>ハマスと自治政府、和解協議が本格的に始動****
パレスチナ自治区ガザ地区を2007年から実効支配してきたイスラム原理主義組織ハマスと、ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府の和解に向けた協議が、本格的に始動した。

今後は仲介国エジプトの首都カイロで協議を続けるが、ハマスの軍事部門を巡る隔たりは大きく、和解が実現するか見通せない。
 
自治政府のハムダラ首相や閣僚らは2日にガザ入りし3日に閣議を開くなど、和解ムードを演出。一方で双方の最高指導者は舌戦を展開し、早くも対立点が浮き彫りとなった。
 
AP通信によると、自治政府のアッバス議長は2日、「全てが自治政府の統治下に入らなければならない」と述べ、ハマスが軍事部門を維持しないようけん制した。

ハマスの最高指導者ハニヤ氏は3日、「(イスラエルのパレスチナ)占領が続く限り、武器を持ち抵抗する権利を有する」と主張し、軍事部門の堅持を示唆した。

ハマスは、自治政府の経済圧力による電力不足の早期解消なども求める。だが自治政府側は10日からのカイロでの協議に委ねた。協議が長期化すれば、和解を歓迎するガザの世論が一変し、再び不満が高まる恐れもある。
 
パレスチナの分断状況の解消は、パレスチナとイスラエルの和平交渉の前提条件でもある。両者の間で長年仲介役を務めてきた米国では、今年1月に発足したトランプ政権も仲介への積極関与姿勢を示しており、和解協議の行方が注目される。
 
ただ、米国や友好国のイスラエルは、ハマスをテロ組織と見なす。パレスチナ側で和解が実現しても、ハマス軍事部門の扱いが問題になりそうだ。

イスラエルのネタニヤフ首相は「偽りの和解を受け入れる用意はない」と発言。和解には▽イスラエルの存在承認▽イスラエルと衝突を繰り返してきたハマス軍事部門の解体▽イスラエルと敵対するイランとハマスの関係断絶−−が含まれなければならないと主張している。【10月5日 毎日】
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実効性のある合意が得られるかどうかは今後の協議次第ですが、ハマスが生命線である軍事部門を手放すことは考えられませんので、そのあたりをどう“曖昧に糊塗”するか、また、イスラエルがどのように反応するか(公式見解としては、上記記事にある条件が明確に満たされなければ、そうしたハマスを受け入れる統一政府も相手にしない・・・ということでしょうが)、いろいろ問題が山積しています。

ただ、今回和解協議がまた頓挫すれば、ハマス・自治政府双方とも、いよいよ住民の信頼を失うことにもなります。

ゴールは遠いパレスチナ和平
パレスチナ統一政府が実現すれば、次はイスラエルとパレスチナの和平交渉・・・という話になりますが、ゴールは遥か彼方に・・・といったところです。

なお、イスラエルのネタニヤフ首相とエジプトのシシ大統領は9月日、国連総会開催中のニューヨークで会談。エジプト大統領府によると、シシ大統領はイスラエルとパレスチナの「2国家共存」実現のため、2014年4月以降中断している「公正かつ包括的な解決に向けた交渉を再開する重要性」を強調したとか。【9月19日 時事より】

イスラエル・パレスチナの間では、不穏なニュースばかりが報じられていますが、平和的共存を願う人々もいないことはないようです。

****イスラエルとパレスチナの女性5000人 平和訴え行進****
聖地エルサレムをめぐって対立するイスラエルとパレスチナの女性およそ5000人がヨルダン川周辺を行進し、平和の大切さを訴えました。

この行進は中東和平の実現を目指す女性の市民団体のグループが主催しています。
グループは、2014年にイスラエル軍がガザ地区に侵攻し50日間に及ぶ戦闘の末、ガザ地区で多くの市民を含む2100人以上が死亡、イスラエルでも兵士を中心におよそ70人が死亡したことを受けて設立されました。

行進は平和の大切さを訴えようと先月から行っているもので、8日には聖地エルサレムをめぐって対立するイスラエルとパレスチナの女性、合わせておよそ5000人が集まりました。

女性たちは平和の象徴として白い服を身につけてヨルダン川周辺を行進し、平和を求めてシュプレヒコールを上げたり歌を歌ったりしながら平和の大切さを訴えていました。

グループの創設に関わった女性は「今回の行進にはユダヤ人やアラブ人といったさまざまな女性が参加しています。次の戦争を止めたいと思い行進をすることに決めました」と話していました。【10月9日 NHK】
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このような動きが拡大することを願ってはいますが、現実はなかなか・・・。

戦闘に備えるイスラエルとヒズボラ
イスラエル国内では、パレスチナ人の抵抗運動が折に触れ噴き出すような状況が続いていますが、イスラエルが“戦争”の対象として強く意識しているのは、レバノンの武装勢力ヒズボラ、そしてヒズボラの背後にいるイランです。

****イスラエルが希求する「次の中東戦争」 トランプも煽る「イランとの対決****
・・・・九月七日未明に、シリア・ハマー県のマスヤーフという町で空爆を敢行したのは、イスラエル空軍以外にはなかった。この種の攻撃では常にそうであるように、イスラエル政府・軍とも公式なコメントはしなかった。(中略)

空爆の目的は、アサド政権が開発する化学兵器が、イスラエルの仇敵であるヒズボラの手に渡るのを防ぐことだった。元軍高官のヤーコブ・アミドロール氏は「シリアの政府施設攻撃はこれが初めてだ」とさらりと語った。(中略)

最近は、イスラエルによるシリア領内空爆が常態化している。今年は数週間に一度くらいの頻度で、空爆が行われている。ただこれまで標的は通常、領内を通過するヒズボラの車列や、武器を積んだトラック、武器庫などだった。

イランにも開戦を望む動機
北朝鮮問題に世界の耳目が集まる中、イスラエルとヒズボラ、さらにその背後に控えるイランとの軍事的緊張が高まっている。
 
イスラエルを全面支持する米トランプ政権のニッキ・ヘイリー国連大使は、「風雲急を告げている」という表現で、情勢を要約した。

イスラエルとヒズボラの軍事衝突がレバノン南部かシリア南部で勃発すれば、二〇〇六年のレバノン南部での戦争以来十一年ぶりとなる。「次期中東戦争」との形容もあり、仮にイラン軍がかかわることになれば、建国以来初のイスラエルとイランの直接交戦である。

イスラエル側は闘志十分である。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は九月十九日の国連総会演説で、「我々を絶滅させると脅す者たちは、自らの身を生死の危険にさらしているのだ。わが軍は全力で反撃する」「(イラン最高指導者の)ハメネイ(師)に、これだけは言っておく。イスラエルの灯りが絶えることはない」と、旧約聖書を想起させる語調で、イラン政府を批判した。
 
トランプ政権もふんだんに「モラル・サポート」を提供した。北朝鮮による拉致問題に言及して安倍晋三首相を感激させたトランプ演説は、実はイランについても十二回言及して「ならず者国家」と非難し、ネタニヤフ首相を「こんな大胆で、勇気のある国連演説を聞いたことはない」と感嘆させた。
 
ヘイリー大使は八月には、国連がレバノン南部に派遣している「暫定駐留軍」について、ただ駐留しているだけでヒズボラの軍備拡大を黙認しているとして、アイルランド人司令官を名指しして、「何が起きているのか見えていない」と痛烈に批判した。
 
イスラエル軍はまた、九月に「過去二十年では最大」とされる一万人規模での軍事演習を行った。ヒズボラとの戦争を想定した非常に実戦的なもので、イスラエル軍は演習終了に際して、「ヒズボラを圧倒的軍事力で無力化させることができる」との声明を発表した。
 
これに対して、ヒズボラ側も、最高指導者のハッサン・ナスララ師が「次の戦争はイスラエル領内で行われることになる」「我々は(エルサレムの聖地)神殿の丘を奪還する」などと威勢の良い発言を続けている。

だが、在中東邦人特派員は「本音を言えば、今開戦はしたくないのではないか」と言う。スポンサーであるイランの指令でシリア内戦に長年出兵し、死者一千五百~二千人を出しており、組織の兵員たちに疲弊感があるのは確かだろう。
 
その半面、ヒズボラの執拗な働きかけにより、レバノン政府全体が大きくイランとシーア派寄りに変わった。スンニ派盟主を自任するサウジアラビアが、対レバノン支援を大幅削減したほどで、「今やイランはイラク、シリア、レバノンを自由自在に操ることができる」(在米湾岸政府筋)状態だ。

イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が収束すれば、イラン=アサド政権=ヒズボラの「シーア派枢軸」は地域最大・最強勢力になる。
 
ヒズボラはアサド政権、イランから武器の供給もふんだんに受けており、戦闘力は〇六年の戦争時よりも格段に向上した。イスラエル軍の評価では、シリア南部で一万人規模の兵員を動員可能な上に、レバノン南部でも自治体の三分の二以上で軍事拠点を築いている。

イスラエルの戦略思考として、これ以上脅威が伸長する前にヒズボラをたたく必要があるのだ。
 
イランにも、開戦を望む動機がある。トランプ政権は親イスラエル、親サウジアラビア、反イランが鮮明で、スンニ派アラブ諸国にイスラエルを非公式に加えた、「イラン包囲網」が次第に浮上しつつある。

危ぶまれる「次の次」の災禍
(中略)国際社会の懸念は、イスラエルとヒズボラの「次期戦争」が「次の次」の前哨戦になることだ。

〇六年戦争が示したように、両者の戦争は軍事的にも政治的にも何の決着ももたらさず、遺恨と憎悪を膨らませるだけだ。その後は中東最強の軍事大国であるイラン、イスラエル、サウジアラビアが直接対峙する危険が残り、災禍は限定的な地域戦争と比べ物にならない。
 
トランプ政権の中東政策がそこまで見据えているなら、非常に危険な終末的シナリオだ。イスラエルやサウジの友人への単なるリップサービスなら、無思慮、無責任の謗りを免れない。中東には過剰な戦火、暴力があるのだから。【「選択」 2017年10月号】
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トランプ大統領がイラン核合意について米議会に対し、合意を否定する報告をする方針で、議会でイラン制裁に関する協議が行われる・・・というのは周知のところです。

“イランにも、開戦を望む動機がある”というのはどうでしょうか?表向きの強気の発言はともかく、アメリカ・イスラエルとの衝突はむしろ避けたいのが本音では?

いずれにしても、トランプ大統領のイラン核合意否定は、「風雲急を告げている」イスラエルとヒズボラ・イランの対立に油を注ぐような無責任な行為に思われます。

ただ、ヒズボラ側は上記記事にもあるようにシリアで多大な犠牲を出しており、今は戦闘を避けたいのが本音でしょう。実際戦えば、2006年のようにはいかないでしょう。

****神の党」を名乗るヒズボラの明と暗****
<シリア内戦に関与して力を付けたヒズボラだが、イスラエルとの全面戦争は自殺行為になりかねない>

・・・ヒズボラは「神の党」の意。レバノンを拠点とするシーア派の武装組織で、シーア派の盟主イランの意向を受け、シーア派の分派に属するバシャル・アサド大統領の率いるシリア政府を支援して、5年前からシリア反政府勢力やスンニ派系の過激派と戦ってきた。

もちろん犠牲は大きかったが、彼らが得たものも大きい。得難い実戦経験を積めたし、イランやシリア政府、そしてロシアから、大量かつ強力な武器を提供された。

だが、それも長くは持たないだろう。天敵イスラエルとの緊張が高まっているからだ。そのためヒズボラは、シリアにいる精鋭部隊をレバノン南部のイスラエル国境付近に呼び戻しているという。

一方でシリア領内にあるヒズボラの拠点に対しては、米軍が何度も空爆を行っている。そのためヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララはアメリカへの報復を示唆している。(中略)

なかなか複雑な関係だが、仮にイスラエルとの本格的な戦闘が始まった場合、ヒズボラはシリアとイラク、レバノン南部の3方面で同時に戦うことになり、全てを失う恐れがある。

ベイルート・アメリカン大学のヒラル・ハッシャン教授が言うとおり、「イスラエルが全面戦争に踏み切れば、ヒズボラが勝てる見込みはない」からだ。(中略)

戦いの継承は文化の一部
現実はそう甘くない、たとえヒズボラが全兵力をレバノン南部に集結させてもイスラエルの攻勢には耐えられない、とみる専門家もいる。06年の戦争で危機感を抱いたイスラエルが軍事力を強化しているからだ。(中略)

両陣営が互いに与える損害の大きさを考えると、現状維持、つまり相互抑止の状態が続く可能性はある。この10年間も、戦争が避けられないようにみえた状況が何度かあった。(中略)

しかし、ここへきて双方の軍事行動が活発化している。イスラエルは3月にレバノンとの国境付近にレバノン南部の村落を模した施設を建設し、ヒズボラの支配地域に侵入して戦う一連の訓練を実施している。

ヒズボラも負けてはいない。イスラエル軍の動きを注視し、情報を探り、戦闘員をレバノン南部に移動させて侵攻に備えている。(中略)

「イスラエル側は準備しているし、こちらも準備は万端だ」。レバノン南部にいるヒズボラの幹部は言った。「子供たちの世代に戦い方を教えること。それはわれわれの文化の一部だ」秋が来る前に戦争になる。この幹部はそう予測した。(後略)【8月2日 Newsweek】
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ヒズボラは、ISとの戦闘に勝利し、レバノンにおける政治的地位を不動のものにしています。
ただ、アメリカ・イスラエルを過度に刺激することは避け、レバノンにおいて“権威を間接的に行使”する方針を今後も続けると思われます。

****レバノンにおけるヒズボラの影響力****
ウォール・ストリート・ジャーナル紙中東担当コラムニストのトロフィモフが、レバノンにおけるヒズボラの政治的影響力は対IS勝利で益々強まるだろうが、ヒズボラは力を間接的に行使する今のやり方を続けるだろう、とする解説記事を8月31日付けで書いています。要旨は次の通りです。
 
レバノンのヒズボラは、ISを同国山岳地帯カラウマンの主要拠点から駆逐した。(中略)シリア内戦の激化により、レバノンに難民、スンニ派の過激派が殺到するにつれ、ヒズボラは自らを地域の少数派、とりわけキリスト教徒の守護者と位置付けることに成功した。それは、ヒズボラの国内での支持拡大をもたらした。(中略)

カラマウンでのヒズボラの勝利は、軍事力のみならず政治的影響力の拡大とみなされ、勝利はヒズボラのシーア派内での影響力を高めることに加えキリスト教勢力との連携強化にもつながる、との見方がある。(中略)今や、ヒズボラの立場は、カラマウンの軍事作戦の結果により強化されている。今後、レバノンでヒズボラの政治的意思に反対するのははるかに難しくなる。
 
さらに事態を複雑化させているのが、レバノンの対米関係である。トランプ大統領は、7月のハリリ首相との会談でヒズボラを「レバノン国家、レバノン国民、そしてこの地域全体にとって脅威」と描写している。(中略)

そういうわけで、ヒズボラがISに対する勝利から政治的な利益を引き出すに際し慎重になると思われる。ヒズボラは国家機構に対し圧倒的な非公式の支配を及ぼしているにもかかわらずハリリ現政権では、ヒズボラは非主要官庁しか掌握していない。
 
今後ともヒズボラは、権威を間接的に行使しレバノン社会の他の勢力から協力を追求するという、現在の戦略を踏襲するだろうと、ヒズボラに通じた人々は予測する。(後略)【10月6日 WEDGE】
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やる気満々のイスラエル、それを煽るようなトランプ大統領、今は大規模戦闘は避けたいが、レバノンを支配下に置き、「戦いの継承はわれわれの文化の一部だ」ともするヒズボラ、それを支えるイラン・・・・ということで、目が離せない状況が続きます。
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