孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ハマスが自治政府・ファタハとの和解交渉の意向 信頼を失っている自治政府ではあるが・・・

2017-09-18 23:10:09 | パレスチナ

(電力不足のため暗闇を歩く人々=4月、ガザ 【9月18日 CNN】)

パレスチナ統一政府に向けて、ハマスが和解交渉の意向 今回は実現するのか?】
イスラエルとの共存を容認せず、戦闘を繰り返してきたハマスが実効支配するパレスチナ・ガザ地区の窮状(復興は進まず、電力供給も1日2~4時間など)、イスラエルやパレスチナ自治政府主流派ファタハとの対立に加えて、これまでカザを支援してきたカタールがサウジアラビアなどとの断交問題で支援を停止するなど、ハマスが孤立を深めている状況については、8月29日ブログ“パレスチナ・ガザ地区  人口爆発の危機 深刻な電力不足 孤立状態のハマス”で取り上げました。

ガザの電力供給が従来にも増して厳しくなっているのは、パレスチナ自治政府がイスラエルへの電力購入支払いを大幅削減したことでイスラエルからの電力供給が減少したこと、つまり、パレスチナ自治政府のガザ・ハマスに対する“締め付け”があったようです。

ハマスとしても何らかの打開策を模索する必要があることが背景にあってのことと思われますが、ガザの「行政委員会」を解体し、対立するパレスチナ自治政府ファタハとの和解交渉を行う意向を表明しています。

****<パレスチナ>ハマスが和解交渉の意向 ファタハと****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは17日、声明を発表し、パレスチナ自治政府が統治するヨルダン川西岸と、ハマスが支配するガザ地区に分断された状況を解消するため、パレスチナ主流派ファタハと和解交渉する意向を示した。AP通信が伝えた。
 
声明によると、ハマスはガザ地区の行政機構の閉鎖や、統一政府の樹立に向けた総選挙の実施など、自治政府のアッバス議長が求める和解の条件に応じる。ファタハとの和解交渉を即座に開始する用意があるとしている。
 
エジプト当局が、ハマスとファタハ双方の代表団とカイロで個別協議するなど、双方の直接対話に向けた仲介を続けている。
 
パレスチナ自治区では2006年のパレスチナ評議会(国会)選挙でハマスが圧勝したが、07年にファタハとハマスがガザ地区で武力衝突し、ハマスが自治区を分断支配している。
 
ファタハ幹部は17日、パレスチナメディアに対し、ハマスの声明を歓迎しつつ、事態の推移を注視する考えを示した。

一方、イスラエルや米国はハマスを「テロ組織」と認定しており、ハマスを含む統一政府の樹立には反発するとみられる。【9月17日 毎日】
******************

“イスラエルや米国はハマスを「テロ組織」と認定しており、ハマスを含む統一政府の樹立には反発するとみられる”とのことですが、パレスチナ側が自治政府・ファタハとハマスに分裂した状態では「和平」の前進、「2国家共存」も実現できませんから、長期的に見ればパレスチナ側の統一は和平交渉に向けた第一歩とみなすべきでしょう。

ハマス支配のガザ地区を残したまま、現状の自治政府と何らかの交渉・合意を行っても、あまり意味をなしませんので、イスラエルや米国の意向に関わらず、統一パレスチナを前提とした交渉が“真の和平”のためには必要でしょう。

ハマスも統一政府に参加する以上は、一定に現実的対応を容認するものと思われますので、イスラエル・アメリカもそこを汲んだ対応が必要でしょう。

ただし、“これまでも対立解消の試みが失敗してきたこともあり、実行に移されるかどうかは不透明だ。”【9月17日 時事】とのことで、本当に統一に向かうのかは、も少し時間をかけて見極める必要がありそうです。

ハマス内部の強硬派と穏健派の対立は以前からのものですが、今年2月にはガザ地区の新指導者(ハマスの政治部門の最高指導者ハレド・メシャール氏に次ぐナンバー2)に軍事部門の強硬派、ヤヒヤ・シンワール氏が選出されました。

しかし、人事面での強硬派優位の一方で、5月に発表されたハマスの新指針は現実路線を窺わせるものでした。

****ハマスが「国境」新指針 対外関係改善狙いか****
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは1日、新たな指針を発表し、1967年の第3次中東戦争以前の停戦ラインを「国境」とするパレスチナ国家建国を初めて認めた。ただし、イスラエルを国家としては承認していない。

新指針は、「ユダヤ人殲滅(せんめつ)」を掲げる1988年の「ハマス憲章」以来のもの。ハマスが闘う相手はユダヤ人ではなく、「占領を続けるシオニストの侵略者」だとしている。ハマスはこれによって、柔軟姿勢をアピールする考えだとみられている。

ハマスのスポークスマン、ファウジ・バルフム氏は、「指針は外の世界とつながる機会を提供する」と述べた。「世界への我々のメッセージは、ハマスは過激でなく、現実的で開明的な運動だということ。我々はユダヤ人を憎んでいない。我々が闘っているのは我々の土地を占領し、我々の人民を殺す者たちだ」。(後略)【5月2日 BBC】
*******************

ハマス内部の現状認識については、下記のようにも。

*******************
ハマスは今もイスラエルを国家として認めていないが、イスラエルと4度目の戦争をすれば破滅だという現実は認めている。

イスラエル国防省の当局者も「次に攻撃されたらガザのハマス政権は終わりだ。それくらいは彼らも承知してい
る」と言う。
 
だからこそイスラエルと持続可能な休戦協定を結び、代わりに港の使用権を取り戻すべきだという議論が真剣に
進められている。【9月19日号 Newsweek日本語版】
********************

今回のファタハとの交渉に関する発表も、こうした認識・流れに沿うものでしょう。

住民の信頼を失う自治政府 それでも現実的選択は・・・
先述のように、交渉が具現化してパレスチナ側の統一が実現すれば、“真の和平”のためには第一歩と言えますが、実際問題としては、四面楚歌状態のハマスだけでなく、自治政府・ファタハ側も住民の信頼を失っているのが現状です。

*****パレスチナ和平を阻む真の敵*****
イスラエルよりも手ごわい敵
国際社会の認める自治政府を率いるファタハと、ガザ地区を支配するハマス。両派の対立の根は深い。(中略)

一方でパレスチナ側は過去10年間、内紛に明け暮れた。ハマスとファタハはそれぞれの支配地域で警察国家のように振るまい、自分たちに批判的なジヤーナリストや活動家、時にはフェイスブックに政府批判を投稿しただけの一般人をも投獄している。
 
暫定統治の期間が過ぎて10年たっても、ハマスもファタハも選挙を行いたがらない。「2国家共存」に近づくどころか、現実には3つの国ができてしまった。豊かで強大な軍事力を誇るイスラエルと、貧しく荒廃した2つのミニ国家だ。(中略)

現在82歳のアッバスは05年にパレスチナ自治政府の議長となった。任期は4年のはずだったが、今もその地位にあり、引退する気配はない。アッバスは自分に批判的な人間をすぐに追放するため、後継候補と目される人たちも表立っては異論を唱えない。
 
「われわれにはアッバスが必要だ」と言ったのは、ファタハの序列3位であるジブリルーラジブ。「彼は和平協定に署名できる唯一の人物だ」。

しかし一般市民の思いは違う。3分の2は彼の辞任を求めているし、パレスチナ自治政府の解体を求める声も(わずかながら)過半数を超える。

自治政府など、イスラエル政府の下請け業者にすぎないとみんな思っているからだ。

盛り上がらない地方選挙
去る5月13日にはヨルダン川西岸で地方選挙が行われた。5年ぶりの選挙に当局は盛り上がりを期待したが、住民は興味を示さなかった。対立するハマスなどが選挙をボイコットしたため、ファタハ系候補の大半は楽勝だった。

それでもヘブロンなどの主要都市で過半数の議席を確保できなかった。06年の選挙では70%を超えた投票率も、今回は53%にとどまった。
 
住民には、選挙よりも差し迫った関心事がある。ある世論調査では、回答者の過半数が最大の関心事として貧困と失業、政権の腐敗、ハマスとファタハの対立などを挙げていた。(後略)【9月19日号 Newsweek日本語版】
****************

何ら実績を示すことができず、“イスラエル政府の下請け業者にすぎない”と見なされ、信頼を失っている自治政府ですが、住民の関心事にもあげられている“ハマスとファタハの対立”が緩和されれば、なんとか立ち直りのきっかけにもなるのかも・・・。楽観主義に過ぎることは百も承知ですが、現実的な選択としてはそこに期待するしかありませんので。

****************
年配のパレスチナ人は今も「67年以前の境界線」に基づく国家の樹立を望んでいる。しかし若い世代はとっくに見限っている。シカキの調査でも、2国家共存案の支持者は昨年段階で50%を割った。
 
「(ヨルダン川西岸では) ファタハが30年も外交による解決を探っているね。こちら(ガザ地区)では今も抵抗運動ってのが続いている。で、それで得たものがあるか? 何もない」。そう言ったのはガザの東部に暮らす若者だ。彼が住む町は、14年の戦闘で見るも無惨に破壊された。【同上】
*******************

しかし、2国家共存案を捨てて、他にどのような選択肢があるのでしょうか?

パレスチナを取り巻く状況は、ますますイスラエルにとって有利になっています。
パレスチナ問題は、かつては“アラブの大義”とされていましたが、「中東の春」の混乱、ISの台頭、IS掃討をめぐる国際社会の動き、イラン・サウジの対立などの現実の中で忘れ去られつつあるのが現実です。

*******************
かつて欧米の政治家はイスラエル・パレスチナ問題の解決が中東全体に平和と安定をもたらすと考えたが、今では誰もそんな期待は抱いていない。

むしろ今は、アラブ諸国もイスラエルとの関係強化に動いている。テロとの戦いでもイランとの緊張関係でも、イスラエルは強力なパートナーになり得ると考えるからだ。【同上】
*******************

2国家共存ではなく、イスラエル1国にパレスチナも入ってしまうという考えもあるでしょう。
もし、“2級市民扱い”でもなんでもいいから・・・とパレスチナ側が望むならですが。経済的には今より楽になるでしょう。

イスラエル国民となって、イスラエル国内でパレスチナ系住民の権利拡大をはかる・・・・ということになりますが、イスラエル側が本音として、そのような「ユダヤ国家」を危うくするような事態は望まないでしょう。

戦争でイスラエルを駆逐してパレスチナ1国支配を・・・というのは、もはや“妄想”に過ぎません。

となると、先ずはガザ地区の自治政府への統合を実現し、しかるうえで“2国家共存”の方向で交渉にあたる・・・しかないのではないでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする