孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

原子力供給国グループ(NSG)  インド例外扱い認めぬまま一旦閉会

2008-08-24 13:45:05 | 国際情勢

(踊るシバ神 ヒンドゥー教の三最高神の一柱シバは破壊を司り、世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしているそうです。 米印原子力協定はNPT体制を破壊して、新たな世界を創造するのか? “”より By adriaan bloem
http://www.flickr.com/photos/bloem/2399550538/)

【インドの例外扱い】
21、22日にウィーンで開かれていた原子力供給国グループ(NSG、日本など参加45カ国)の総会は、米印原子力協定に関し、核拡散防止条約(NPT)未加盟の核保有国インドの「例外扱い」を認めないまま、閉会しました。
今後は9月4、5の両日に再開される予定です。

この件については、
先月7月23日「インド “世界最大の民主主義国”に対する“特例的”原子力協定」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080723
更に、昨年8月19日「インド 民生用核協力協定の行方、そしてアジアは」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070819)でも取り上げてきたように、時間をかけた展開になっています。

前回も述べたように、「平和目的で原子力を求める国々にウラン濃縮や再処理は必要ない」と強調し、核兵器につながる再処理・ウラン濃縮技術の拡散防止すべくイラン・北朝鮮に制裁を課し、場合によっては実力で排除しようかというブッシュ政権が、一方で核拡散防止条約(NPT)枠外の核保有国インドに米国製核燃料の再処理を認めるという二重基準が問題となっています。

また、インドが核実験を実施した場合、米国は燃料返還を求める権利を確保する一方で、供給継続の担保として戦略備蓄や国際市場へのアクセス確保で支援を約束。米国が仮に供給を停止しても、インドが他国から燃料を輸入する道は残した内容になっています。

米印原子力協定については、インド国内では“非同盟の外交を長く標榜してきたインドがアメリカに過度に接近しすぎる”という連立左翼政党の批判、あるいは、“インドの核開発が制約を受けることになる”という最大野党インド人民党の反対がありましたが、経済成長のためには原子力エネルギー拡大が不可欠と判断するシン政権(実際、インドの原子力発電事情は厳しい状況にあるようです。)が、左翼政党との連立を解消するという犠牲を払いながら、1年がかりで押し通しました。

【核実験権利を保留するインド】
シン首相は“インドの核実験再開が制約される”という野党からの批判に対して、下院本会議で「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、核実験の権利を保留していることを明言しています。

8月1日「国際原子力機関(IAEA)」理事会は、核不拡散条約(NPT)に入らず核実験を行い、核開発を続けるインドと米国の間の原子力協力協定を可能にするためのインド・IAEA保障措置協定を全会一致で承認し、最初の関門を通過しました。

インドは国内の原子力関連の22施設を軍事用と民生用に分類し、民生用原子炉など14施設だけを14年までに段階的にIAEAの査察下に置く、民生用は今後建設される原子炉も査察対象に含まれるが、軍用施設や再処理施設には査察が及ばないことになっています。
しかも、今回の査察協定には具体的な査察対象施設名は明記されておらず、軍用・民生用の分類は、インド政府の裁量になります。

賛成する立場は、現在の6施設から査察範囲が広がることで、“野放し状態”から、不完全ながらも国際監視体制が一歩前進できるというものです。
しかし、インド自身が核実験再開を放棄しておらず、その場合の抜け道も用意されており、民生用核の支援が軍事目的に援用されるのではないか・・・という疑念が残ります。

また、インドの特別扱いを許せば、イスラエル、パキスタン、イランといった諸国が軍事目的の核開発や軍拡を急ぎ、世界の核問題は収拾がつかなくなる恐れもあり、NPT(核拡散防止条約)体制の根幹を揺るがしてしまうことにもつながりかねません。

アメリカの意向で、そのダブル・スタンダードが押し通されるということも理不尽です。
アメリカは長年イスラエルの核開発を事実上黙認し、また2006年にインド、パキスタンの核開発を容認しています。
今年3月には、アラブ連盟が、イスラエルが核保有を公式に認め国際連合がこれに対し適切な措置を取る事を要求。容れられない場合はNPT条約から脱退し、イスラエルがNPTに加盟するまでは関連するいかなる条約にも署名しない所存である旨声明しています。

【反対しない日本政府】
先日のIAEAでインドに厳しい発言を行っていたのは、スイス、オーストリア、オランダ、ノルウェー、中国、ニュージーランド、アイルランドといった国々で、「インドは包括的核実験禁止条約(CTBT)を締結すべき」「「インドになぜ例外が許されるのか」「無条件のままでは承認できない」との意見でした。
日本も一応NPTとCTBTへの加盟を呼びかけはしているものの、基本的なスタンスは反対しないというか、賛成するもののようです。
NSGにおいても、おそらく同様のスタンスで臨んでいるものと思われます。
“賛成の立場で臨む”という政府筋の意向も早くから報道されています。

もとより、世界の核管理体制については、すでに核兵器を保有している国家はその権利が是認されていながら、その他の国家の核保有を認めない、しかも核保有国は核軍縮のための交渉を進めることが義務付けられていますが、殆ど有名無実の状態にある・・・という非常に矛盾した現実を抱えています。
また、日本は94年以来、核兵器廃絶を目指す核軍縮決議案を国連総会に毎年提出しているように、唯一の被爆国として、核軍縮・核廃絶が殆ど唯一の対外的アピール・国是ではありますが、一方でアメリカの核の傘のもとでその安全保障をはかっているという矛盾した現実もあります。
今更形式論的な主張をしても無意味ではないか・・・という考えもあります。

更に、成長が著しいインドの原子力市場に参入したい、あるいは、インドの良好な経済関係を確保していきたいという経済的な視点、プレゼンスをたかめる中国へ対抗していく戦略としてインドとの接近が望まれるという政治的な思惑・・・そういった視点もあります。

もろもろの事情はありますが、やはりこれまで日本が訴えてきた核軍縮・核廃絶へのアピールは一体何だったのかという意味で、NPT体制を揺るがしかねない、他国の核開発を増長させかねない“インドの例外”を、そうそう容易に承認するのことは納得しかねます。
少なくとも国内での真摯な検討が必要な問題ですが、国内政治は総選挙・政局がらみの話ばかりで、いつものことではありますが、議論など全くされないまま事態が進展しているのは理解に苦しむところです。




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