孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド 民生用核協力協定の行方、そしてアジアは

2007-08-19 13:12:29 | 国際情勢

(写真はインド国内で見られる、アメリカの核開発干渉を批判するアピール
“flickr”より By Aditya Bhelke )

米国との民生用核協力協定を巡り、インドの国民会議派率いる与党連合が厳しい立場に直面していると伝えられています。
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【8月18日 asahi.com】
「核兵器開発を制限しかねない」と反対する野党陣営に加え、閣外協力の左翼政党4党も「米国との同盟は危険」と反対。
原子力協力の実施に向けた国際的な手続きを進めないよう、国民会議派に要求している。
国内法では、原子力協定自体は議会承認を必要としない。
だが左翼政党の閣外協力解消を招けば、下院で過半数を持たない与党連合の政権運営自体が難しくなる。
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米国とインドが7月27日に交渉妥結を発表した民生用核協力協定は、核拡散防止条約(NPT)に加盟していない核保有国インドに米国製核燃料の再処理を認めることで、米国は日本とEUにしか与えていない厚遇をインドに示しました。
また、インドが核実験を実施した場合、米国は燃料返還を求める権利を確保する一方で、供給継続の担保として戦略備蓄や国際市場へのアクセス確保で支援を約束。米国が仮に供給を停止しても、インドが他国から燃料を輸入する道は残した内容になっています。

インドのシン首相は今月13日の議会下院本会議で、「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、協定によってインドの核戦略や外交政策の独自性が制約を受けるとの批判に反論して、核実験の権利を保留していることを明言しています。【8月14日 読売】

このようなインドに対する“特別扱い”は、少なくとも民生用についてはインドをIAEA(国際原子力機関)の監視下に置くことで核拡散を防ぐという本来の目的の他に、今後プレゼンスが高まるであろうインドとの協力関係を築くことで中国を牽制し、また、イランとインドの関係に楔を打ち込むという外交戦略に基づくものと見られています。

もともとNPTは、すでに核兵器保有している一部の国以外の核兵器保有を禁じるという非常にアンバランスな枠組みですし、インド・パキスタン、イスラエルのような枠外で独自に核兵器開発を進める国もあります。
ただ、現実世界を規制する他の有効な枠組みが存在していないことも事実です。

今後、インドが国内問題をクリアすれば、次の段階として日本を含む国際社会が判断を求められます。
NPTやIAEAによる不拡散という枠に入っていない国への原子力技術協力を禁じているNSG(原子力供給グループ 日本も含む)の承認が必要となるためです。
衆参のねじれという政局にある日本も、難しい判断を迫られることになります。

核実験権利保留を明言するNPT未加盟国に原子力技術協力をするというのは、日本の立場・感情としては納得できないものがあります。
米国の対応は明らかに“二重基準”です。
しかし、このまま国際監視の枠外にインドを放置するよりは、不完全でも国際監視の枠内に取り込んでいったほうが、世界全体の核管理の視点からベターではないか・・・個人的にはそんな気がしています。

最近アジア各国では、経済成長に伴うエネルギー重要の急増、原油価格の高騰という状況下で、原子力発電所の建設計画が急速に進行しています。
インドネシア:2010年ごろに着工し、16年ごろの運転開始を目指す。
ベトナム:20年の稼働を目標とする。
タイ:20年を目標に導入検討を進めており、13年に計画を実行するかどうかを決める予定。
ミャンマー:昨年から核技術研究所を設け、ロシアに留学生を送っている。

こうしたアジア各国に、日本や米国、フランス、韓国、ロシアなどの保有国が原子力技術に関するセミナー開催や人材育成支援に乗り出し、受注に向けた激しい売り込み合戦を展開しているそうです。【8月10日 毎日】

実際、アジアの国々を旅行すると、“停電”に頻繁に遭遇します。
このような慢性的・絶対的な電力不足は、単にエアコンが使えない、TVが観られないという生活上の不便に留まらず、地域経済発展の大きな足枷になっていると思われます。

自分達が日本で快適な暮らしを享受しながら、他国の人々の向上への希望をはねつけるのは、いかにも自己中心的に思えます。
しかし、このペースで民生用とは言え原子力利用が拡散した場合、事故の発生・軍事利用への転換など危惧される問題も多々あります。

核兵器の管理、現実的な当座の対応とは別に、原子力利用全体について長期的な視点から、自分達の社会・暮らしのあり方の問題として議論し、代替エネルギーの利用・開発等の30年後、50年後を見据えたような国家的・戦略的な対応が必要なのではないかと考えます。
そうした“核レジーム”からの脱却の先に、国際社会における日本の位置づけ、“戦後レジームからの脱却”“美しい国日本”も見えていくるのでは。
あまりに“大風呂敷”になったので、Let’s call it a day.

コメント
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