孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

国際刑事裁判所の逮捕状  スーダン、ウガンダそしてアメリカ

2008-07-13 11:50:32 | 国際情勢

(AU首脳会議に出席するためアジスアベバ空港に到着したバシル・スーダン大統領 “flickr”より By aheavens
http://www.flickr.com/photos/andrewheavens/371503988/)

【バシル・スーダン大統領への逮捕状】
スーダン西部ダルフール紛争をめぐり、国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)は、「人道に対する罪」や虐殺の容疑で、今月14日にスーダンのバシル大統領の逮捕状を請求する方針を固めたと報じられています。

****スーダン:大統領に逮捕状請求へ ダルフール紛争でICC****
 ワシントン・ポスト紙などによると、バシル・スーダン大統領が訴追されれば、02年に設立条約が発効した国際刑事裁判所が戦争犯罪として訴追する初の現職国家元首となる。スーダンの国連大使は11日、「ダルフールとスーダンの安定と安全を損ねる動き」と反発、ダルフール和平協議などへの影響は必至だ。
 ダルフール地方では03年2月、アラブ系の中央政府に対する黒人系勢力の反政府活動が激化した。政府軍はアラブ系民兵と協力し、ダルフール地方で黒人系住民の村々を無差別に襲撃。国連によると、約30万人が死亡した恐れがある。ICCは昨年、スーダン政府高官ら2人の逮捕状を出したが、政府は引き渡しに応じず、今回も当面、逮捕に至る公算は低い。
 ダルフールには現在、国連平和維持活動(PKO)の国連・アフリカ連合(AU)ダルフール合同活動(UNAMID)が展開しており、部隊要員らに対する妨害行為も懸念される。【7月12日 毎日】
**************

国際刑事裁判所(ICC)は、国家間の法的紛争を扱う国際司法裁判所(ICJ)とは異なり、その管轄は個人の刑事責任に限られており、「集団殺害犯罪」、「人道に対する犯罪」、「戦争犯罪」など、国際人道法に対する重大な違反を対象としています。【ウィキペディア】

【ダルフールへの影響】
逮捕状が出されてダルフールの事態が改善するのでしょうか?
ダルフールの現況が「人道に対する犯罪」などに該当するかどうかは別として(個人的には、該当するものと思いますが)、問題はバシル大統領の身柄が拘束されている訳でもなく、国内刑事問題における警察当局のような身柄拘束を行う組織もなく、かつ、彼が今も大統領というスーダンにおける最高意志決定権を有しているということです。

ICCがバシル大統領を犯罪者と断罪すれば、当然の成り行きで大統領側は反発を強めます。
記事にもあるように、国連平和維持活動(PKO)の国連・アフリカ連合(AU)ダルフール合同活動(UNAMID)への対決姿勢を強めると思われます。
今のところ、そのような大統領の行動をスーダン国内において誰も抑制できません。

UNAMIDは昨年末、装備や資金不足から停戦監視の能力不足を批判されていたAU部隊から権限を完全に引き継ぎました。
渋る中国をオリンピック・ボイコットなど絡めてなだめすかし、ようやくこぎつけた昨年7月末の安保理決議では2万6000人の要員をダルフールに展開するとしていますが、現在は以前から駐留していた装備・資金の乏しい旧AU部隊を中核とする約9000人が展開するにとどまっている状況です。
ICCの逮捕状が出た場合、国連憲章第7章の下、「必要な行動」をとることを認めると安保理決議されているUNAMIDは、バシル大統領の身柄拘束の責務を負うのでしょうか?

すでに8日、停戦監視中のUNAMIDが30両の車列からなる武装集団に襲撃され、国連によると要員7人が死亡する事態となっています。
こうした状況が悪化すれば、UNAMIDの活動自体が困難になる恐れがあります。

【ウガンダ 神の抵抗軍】
身柄の拘束といった直接的な行為がなくても、ICCによる逮捕状という“法律的な場”へ問題を持ち込むことで、交渉が硬直化する可能性も危惧されます。
ICCが現在抱える案件のひとつにウガンダの“神の抵抗軍” LRAのリーダーであるジョセフ・コニーの問題があります。

ウガンダにおける反政府組織LRAの活動による少年兵や少女の性的虐待といった児童虐待、“子供による、子供に対する戦争”という事態、誘拐を恐れる母子の「夜の通勤者」(Night Commuter)という現象については、3月30日にも取り上げました。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080330

ウガンダ政府とLRAの和平交渉は国連仲介で進められ、あと1歩のところまでこぎつけていましたが、最近は難航しているようにも聞きます。
2年にわたる交渉を経て今年4月、LRA指導者ジョセフ・コニーは最終の和平協定の調印を拒否しました。
コニーは、人道に対する罪でICCが出した自身に対する告訴を取り下げるか否かについて明らかにするよう政府へ求めています。

ウガンダのムセベニ大統領は6月6日、演説の中で和平交渉が決裂したと述べており、コンゴ民主共和国(DRC)と中央アフリカ共和国との国境付近で政府軍が近隣国の軍と協力し、LRAを鎮圧する方針であると報じられています。【6月15日 IPS】

ICC告訴が交渉のネックとなっていることは以前から伝えられていましたが、その問題をクリアできなかったようです。
ウガンダ政府は今後の和平協議のためにもICCの告訴をうやむやにしたくはない考えですが、その結果、和平はまた先延ばしされました。

スーダンでも、ときに“柔軟な対応”が必要とされる場面で、ICC問題が足枷とならなければいいのですが。
中国の王光亜国連大使は、「大統領に逮捕状が出れば、これまでの努力がぶち壊しだ」とICCを牽制しているそうです。

【アメリカの独善】
ところで、ICCの存立根拠は国際連合全権外交使節会議において採択された国際刑事裁判所ローマ規程というものですが、アメリカ・ブッシュ大統領はこのローマ規程が発効する直前の2002年5月6日に署名を撤回しているそうです。

アメリカの考えは、ICCは政治的に利用される恐れがあるというものです。
これは自国軍将兵が戦闘区域での不法行為(主として非戦闘員の殺害など)により訴追される事を防ぐ為、ひいては自国の無謬性を主張する為と見られるとか。【ウィキペディア】
アメリカは関係国に、自国民をICCに引き渡さないことを約する二国間免責協定の締結を要請しています。

ときに(利害によっては)他国の人道については厳しいアメリカですが、自国については随分甘いようです。
もっとも、最近のアフガニスタンの状況(先日も“結婚式の車列が米軍により誤爆されて女性と子供39人を含む計47人が死亡”という事件がありましたが)を見ると、ブッシュ大統領自身が告訴されかねませんので、ICCを拒否しているのは賢明な判断だったかも。


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