孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  史上最悪級の水不足 「水ATM」 水道インフラ崩壊を招いた政治・行政の問題

2018-07-07 23:17:47 | 南アジア(インド)

(インドに登場した「水ATM」【2014年8月24日 CNN】 利用者はチャージ式のICカードを使用 「水ATM」への水補給は給水車で行っているようです)

国民約6億人が深刻もしくは極端な水準での水不足への対処を迫られるインド史上最悪の事態
基本的にニュースというものは事故・事件が中心になりますので、どうしても暗いものが多くなりますが、とりわけインドから伝えられるニュースは、貧困や差別といった社会の大きな問題を反映した陰惨・深刻なものが多いように思われます。

“インドで相次ぐ「偽情報殺人」 携帯アプリで偽情報拡散 誘拐犯と誤認されリンチ”【6月29日 産経】
“女性にとって最も危険な国はインド、10位の米国にも注目”【6月30日 レコードチャイナ】
“8歳女児をレイプし喉かき切る 容疑者に死刑求め抗議デモ インド”【6月30日 AFP】
“デリーの民家で家族11人死亡 10人は天井からつるされ”【7月2日 BBC】
“マザー・テレサの修道会で赤ちゃんの売買か、修道女と職員を逮捕 インド”【7月6日 AFP】

そうしたインドのニュースのなかでも、影響が社会全体に及ぶものが、水不足をつたえるものです。

****インドで過去最悪の水資源危機、6億人が「水不足」に****
水資源に関して、インドが史上最悪級の危機に直面しているとの報告書が発表された

インドのシンクタンクは17日までに、国内の水資源問題に関する報告書をまとめ、国民約6億人が深刻もしくは極端な水準での水不足への対処を迫られる同国史上最悪の事態に直面していると警告した。同国の総人口は約13億人。

政府に政策提言などしている同シンクタンク「インド科学環境センター」は、不十分な水供給や汚染水が原因で平均で住民20万人が毎年命を落としていると指摘。総人口の4分の3が汚染水の影響を受け、国内の疾病のうち2割の起因になっているとした。

国内の主要21都市が2020年までに地下水枯渇の事態に直面すると予想。ニューデリー、バンガロールやハイデラバードなどの大都市は地下水の払底に襲われ、約1億人の日常生活に悪影響を及ぼすとした。インドは経済成長を続けて国力が伸張しているが、回避出来ない危機に遭遇していると警告した。

インドの持続的な水資源開発計画は近年足踏みしている。州の8割は水資源保存に関連した法的対策を講じているが、貧弱な管理データ保存や有料の水供給制度が存在しないのに等しい現状が大きな改革を妨げる要因になっている。

粗悪な灌漑(かんがい)技術や深刻な地下水汚染の問題が水資源危機をさらにこじらせている。
適切な下水道施設も十分にないため、処理されていない都市部の排水が地方に流れ、飲料水と化している現実もある。

インドの産業構造は農業に大きく依存している。水資源の8割は灌漑(かんがい)用とされる。水の価値はインド内で尊重されずに極めて安く、住民は無料と思い込んでいるとの指摘もある。

同センターの幹部は、一部の州は農家に無料で電気を供給し地下水取水で資金援助する政策も打ち出し、資源浪費の結果につながっていると説明した。

一方で一部の州ではここ数年、水質管理基準で目立った向上が見られる。ただ、中央もしくは州政府による対策は散発的で政策目標を実現させるほどの真剣さに欠けるとの見方もある。

州レベルでの水資源関連事業は州政府が権限を持つ。地下水開発や全家庭向けの配水の有料化の遅れなどには政治的要因も絡み、継続性を持つ政策的な枠組みの確立を阻害する要因となっている。

水不足の事態が切迫する中で各都市では給水車の出動が目立つ。各世帯への給水が不自由になっている現状を映し出している。【6月17日 CNN】
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“報告書によると、経済成長に伴い農業用水のほか、工業用水の需要も増加。30年までに水の需要は供給の倍になると見積もっている。さらに、水不足に陥れば国内総生産(GDP)が6%減少するとも指摘した。”【7月5日 共同】とも。

6億人・・・人口の半数近くが水不足に直面しているということですが、インドの水不足・水質汚染は今に始まった話ではなく、以前から問題になっており、特に雨が少なかったりすると深刻さが増すということを繰り返しています。

そのあたりは、2016年6月5日ブログ“「水の時代」 各地で深刻化する水不足 中国・東南アジア・インド・アメリカ”でも取り上げたことがあります。

“降雨不足は原因の一つに過ぎず、経済発展や人口増加に伴う水需要の激増といった根源的な要因が指摘されている。さらに、モディ政権の水資源対策、農業政策の失敗といった「人災」側面にも、注目が集まっている。”

“被害が深刻な地域では、水資源を奪い合って、住民たちが武装して実力行使に出たり、当局の治安要員と衝突したりする事件が頻発し、インドのメディアでは「すでにわが国では、水戦争が始まっている」との論評が目立っている。”

“地域間の紛争に加えて、富農と貧農の争いという、階級間の衝突も起きている”【「選択」 2016年6月号】

上記【CNN】にもある“給水車の出動”は、とりあえずの応急措置にすぎません。
下記は、2014年の首都ニューデリーの状況ですが、現在も大差ない状況でしょう。

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ニューデリーの近郊では、45度の猛暑の中、人々がジェリ缶を抱えて行列を作り、政府の給水車の到着を待ちわびている。

給水が行われるのは週に1度だけで、そのたびに先を争う住民の間でもめ事が勃発、険悪な雰囲気になる。地域によっては水道管の敷設が進んでいないため、政府の給水トラックだけが人々の頼みの綱だ。

水不足が深刻化する中、各家庭に割り当てられる水はジェリ缶4本分のみ。このわずかな給水量で、飲み水、料理、入浴など、すべての用途を間に合わせなければならない。

インド政府のデータによると、きれいな水にアクセスできない人々はインド全土で1億5000万人に上るとされており、今夏の水問題にどう対処するかがモディ新政権にとって喫緊の課題となりそうだ。【2014年8月24日 CNN】
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【「水ATM」の取り組み
水道水が不足しているだけでなく、汚染も深刻です。
そうした状況で「水ATM」を設置する試みが広がっているとのこと。

****世界最悪の汚染度、インドの水道事情****
・・・・インドの都市部では人口増加にともない、一日に約400億リットルもの汚水が排出されており、大きな社会問題となっています。

都市化する過程で下水処理が遅れ、汚水が未処理のまま水源に流されていることが多く、その汚染された河川や地下水を水源として多くの人が生活しているため、水質汚染が人々の健康に大きな影響を及ぼしているのです。

水道水が使えるのは1日数時間!?
インドの水事情はきわめて悪く、上水道は1日に数時間程度しか供給されない地域も少なくありません。
多くの家庭ではタンクを設けて水をため、必要な時に利用しています。

場所によっては水道管が破損していたり、老朽化しているために汚染されていることがありますし、そもそも水をためるタンクが汚染されていたりして、蛇口から出る水も安全でないことは珍しくありません。

地域によっては、水道管と下水管が併走している場所で、どちらの管も破損していることが原因で、下水が水道水に混入していることさえ起きています。

数年前に、首都・ニューデリーの水道局が各家庭の蛇口からの水道水をチェックした結果、約5軒に1軒の割合でバクテリアが検出されたというデータもあるほど。こうした汚染された水道水により、コレラや腸チフスなどが流行することもけっして珍しくない状況にあるのです。

“水ATM”が救世主になる日は・・・・
水不足が慢性的な課題となっているインドの首都ニューデリーでは、2013年からカードを使って水を引き出すことができる「水ATM」が次々に設置され、当時話題を集めました。

水ATMは円筒形のコンクリート構造で、太陽光発電で動くようになっています。地下水を各地域の浄水プラントで処理、それをこの水ATMを通じて供給するという仕組み。

利用者はチャージ式のICカードを使って水を受け取ります。1セントにつき最大4リットルまで給水することができ、インドの物価を考慮に入れても非常に安価となっています。

発案したのは社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)のサルバジャル。サルバジャルは「すべての人に水を」という意味だそう。

2013年に試験的にプロジェクトを開始して以来、デリー北西部の貧困地区に15台の水ATMを設置。当初は反応が少なかったものの、今では1000軒あまりの家庭がサービスを利用しているそうで、他の州でも徐々に利用者が増えているといいます。

サルバジャルのプロジェクトを統括するアミット・ミシュラ氏によれば、水を介した感染症が減少する効果もあったといいます。

水に対する意識改革が課題に
しかし、衛生的で安全な水にお金を払うことで結果的に医療費を節約できるという発想は、いまだ国民に十分に浸透しているとは言えないようです。インドでは、水道料金が基本的にタダという地域が多く、水道料金を払う習慣のない人が多くいるからです。

目下の最大の課題は、水は無料が当たり前と考えている人々の意識を変えることにあります。意識改革には時間がかかること必至ですが、それでも水ATMの設置を推進するサルバジャルでは住民との根気強い対話を続けており、このプロジェクトが慢性化するインド水不足問題の解決策のひとつとなる可能性を秘めているといえそうです。(後略)【「全世界水道now」】
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上記は2016年の記事ですが、その後の「水ATM」に関しては、下記のようにも。
なお、CSRとは企業の社会的責任、BOPビジネスとは低所得層を対象とする国際的な事業活動を意味する用語のようです。

****広がる水ATM インドで成功するBOP×CSRモデル****
途上国で展開する社会貢献プログラムを単発で終わらせず、持続可能なモデルにしていくためには何が必要か。
今少しお手伝いしているプロジェクトのヒントになればと思い、インドの社会起業Waterlife Indiaの話を聞いてきました。

企業からの寄付資金を元に浄水設備を設置し、地域に安価に水を販売することで持続的な運営を実現するCSR+BOPともいえるこのモデル。

地域社会に与えるインパクトは大きく、その複製可能な方法が注目され、現在ではインド15州で4500の設備を運営するまでになっています。(中略)

紅茶いっぱい分の値段とほぼ同じ安価できれいな水
10層フィルターにより浄化された水の販売価格は20リットルで7ルピー。 市販の水は40ルピーということを考えると格安で、紅茶いっぱい分の値段とほぼ同じです。

日本に住んでいる感覚では、これなら絶対に買う、となりますが、それでも大切なのは住民への教育だと言います。 変化の鍵となる子どもと女性にターゲットを絞り、教育活動を展開。

さらにWaterlifeの場合、設置前に利用者のプレ登録を行い、顧客基盤を作ってからスタートすることでリスクを減らすというアプローチをとっています。

清算はすべてプリベイド式のカードで電子化されており、細かな顧客ニーズの分析も可能です。(中略)

地域の社会課題に応えるビジネスモデル
インドでは2014年から一定規模以上の企業に対し、過去3年の平均純利益の2%を慈善活動に寄付することを義務付ける法律ができています。 (現在は社会起業も対象に拡大)

義務化により地域のニーズとかけ離れた活動が行われる、汚職に利用される、などの懸念の声もあがっていますが、Waterlife Indiaは社会の流れを機会としてうまく活用しながら、地域の社会課題に根ざすニーズを着実に市場に育てるモデルにより活動を加速させています。【2017年10月18日 CSRcommunicate】
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水道インフラ崩壊を招いた政治・行政の腐敗・怠慢 住民意識の変革も必要
CSRとかBOPビジネスは結構なことですが、基本的には安全で十分な水道水が公共的に供給されることが本来の姿です。インドでは、なぜそれが出来ていないのか?

****なぜインドの水道インフラは崩壊したか****
十数億人以上の人が生活するインドはいま、慢性的な水不足に悩んでいます。ガンジス川をはじめとして水源には恵まれた国ですが、浄水設備の整備が遅れているためにすべての人が安全できれいな水を利用できていないのが現状です。(中略)

深刻なインドの水道水事情
インドでは、上水道は1日に数時間程度しか供給されない地域も少なくありません。そのため多くの家庭ではタンクを設けて水を溜めて利用しています。

また、場所によっては水道管が破損していたり老朽化しているために汚染されていることもありますし、水を溜めるタンクが汚染されていたりして、蛇口から出る水が安全でないことは珍しくありません。

地域によっては、水道管と下水管が併走している場所でどちらの管も破損していることが原因で、下水が水道水に混入しているという異常事態も起きています。

さらに、インド都市部住民のおよそ半分近くは、飲料用また入浴用の水として地下水に依存しています。そして汚水処理が十分になされていない地下水を利用している人々は、水質汚染のリスクをダイレクトに受けているのも実情です。

日本も参画した水道整備プロジェクトもとん挫
こうしたインドの水不足、水質汚染問題を改善するために、300㎞東方にあるガンジス川から、世界遺産タージマハルが建つ町・アグラまで水を引き、アグラ市内の水環境の改善を行おうという「アグラ上水道整備事業(Agra Water Supply Project)」計画が、今から約10年前に立ち上がりました。

しかしいまだ進展がない状況です。そもそもアグラの水環境は、汚染された水質だけが問題ではなく、水を運ぶ水道網、浄化する技術、水道料金の徴収、さらにそれらを管理する水道行政など、ほぼ水供給システムが崩壊していたからだといわれています。

アクセス道路の一部などは建設したものの、新たな浄水場や、ガンジス川から水を運ぶ本体工事はいっさい未着工のままという有様です。その間にも資材費などの高騰が影響して経費がかさみ、予算の組み直しのために再び遅延という悪循環に陥っています。

水道料金の徴収ができず慢性的に財源不足
プロジェクトが遅々として進まない中、周辺地域の住民たちは苦肉の策として、地下に埋まる水道管に無理やり穴を開け、直接取水する方法を日常的に行っているのだとか。

そして町内には共同取水場がいくつか作られ、住民たちは限られた水道水の最後をここで分け合っているといいます。これは言うまでもなく、水道料金を払わない非合法行為です。

さらに厄介なことにこの行為が水道管の傷みを増幅させ、結局は水供給を滞らせる要因になっているのです。

しかし水道局は黙認状態。街の市場に行けば、盗水用の手動ポンプが堂々と売られているそうです。

この地域に限らずインドでは水道料金が基本的にタダという地域が多く、水道料金を払う習慣のない人が多くいます。そのため水インフラを整備する財源不足で一向に改善されない状況にあります。

水道インフラ崩壊の理由は利権の奪い合いにあった!?
ここまで水道インフラが崩壊してしまった原因は、やはり状況を現在まで放置し続け、悪化させてきインド水道当局の怠慢と言わざるをえないようです。

住民が勝手にくみ上げる地下水、水道の盗水、さらに料金メーターの未設置などで無収水(料金を払っていない水)の割合が非常に高いのも、料金徴収をはじめとした行政が取り仕切る水道事業の運営そのものが機能していないのが原因です。

その点も踏まえ、先に触れたプロジェクトでは、適切な取水や節水、料金支払いに関する住民理解の促進のため、現地NGOと連携して啓蒙活動も行っています。

一方で、計画が進むにつれて露呈したのが、地元政治家や役人たちによる利権の奪い合いや横行する汚職。腐敗した政治がクリーンにならない限り、インドの人々が法を犯さずに安全な水を入手する日はまだ先のことになりそうです。

おわりに
インドでは憲法上、水に関する事業は州政府の管轄とされていますが、一方で中央政府は環境保護や都市開発の観点から、水事業の規制に関与しています。

このような制度のもと、水に関する権限は国と州、さらに現場で直接事業を行う地方自治体との間で重複し、水利関係の複雑さと不透明さから、水道事業は数あるインフラ事業の中で最も外部から参入しにくい分野だといわれています。

しかし、実際に劣悪な水環境の中で健康危機にさらされながら暮らしているのは一般市民です。この崩壊したインドの水道インフラの危機的な状況を救えるのは、利害関係とは無縁の日本をはじめとする海外からの支援ビジネスなのかもしれません。

人々の暮らしを左右する水。一日も早くインドの人々が安全な水を享受できる日が来ることを願わずにはいられません。【「全世界水道now」】
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行政の非効率・無能、地元政治家や役人たちによる利権の奪い合いや横行する汚職・・・インドの抱える大きな問題が水問題の根幹にもあるようです。

また、限られた資源を有効に活用するためには、コストの意識が必要になります。水道料金が基本的にタダとか、盗水が一般的に行われているような状況に対して、料金支払いに関する住民理解も必要になります。



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