孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「水の時代」 各地で深刻化する水不足 中国・東南アジア・インド・アメリカ

2016-06-05 23:25:01 | 環境

(赤く塗られたエリアが最も水不足の危険が大きい地域とされています。【2009年6月11日 松山秀人氏 http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0907water/r0907_matsuyama.html

溢れるパリ・セーヌ川
水は多すぎても不足しても甚大な被害をもたらしますが、ドイツ・フランスではパリ・セーヌ川が溢れるなど洪水被害が報じられています。

****ドイツとフランスの大雨被害拡大 14人死亡****
ドイツとフランスでは先月末から降り続いた大雨の影響で、これまでに合わせて14人が死亡し、パリの中心部を流れるセーヌ川が一部の地域で氾濫するなど被害が広がっています。

ドイツ南部からフランス中部にかけて、先月末から降り続いた大雨の影響で、各地で洪水が発生していて、ドイツのバイエルン州など南部では3日までの1週間で合わせて11人が濁流にのまれるなどして死亡し、フランスでもパリ近郊で合わせて3人の死亡が確認されました。

建物の浸水や停電の被害も相次いでいて、このうちフランスでは、これまでに合わせておよそ2万人が避難しています。

パリ中心部を流れるセーヌ川は、水位が過去30年で最も高い6メートル7センチに達し、一部の地域で氾濫して道路が冠水したり、車が水没したりする被害が出ています。

セーヌ川に近い観光名所のルーブル美術館では、氾濫した水が護岸に迫っていて、収蔵品を避難させるため今月7日まで休館にすることを決めたほか、対岸にあるオルセー美術館も当面、休館するとしています。(後略)【6月4日 NHK】
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美術館が休館する程度ですめば、労働法改正問題で荒れているフランスですから、人々の関心がそれて政府には好都合なのでは・・・と思ったりもしますが、現地の状況は知りません。

【「水資源」獲得を進める中国 地域摩擦も
洪水などの水害が一時的・集中的な被害をもたらすのに比べ、水不足の方は長期的・広範囲にジワジワと人々の生活を締め上げていきます。

世界的にみると、今後、世界各地が水不足で危機に瀕し、水資源をめぐる争奪戦もおきるだろう・・・とよく言われています。

20世紀は「石油の時代」であったのに対し、21世紀は「水の時代」とも。石油がなくても不便ながらも生きていけますが、水がないと生きていけません。そこまでには至らなくても、農業・工業などすべての人間活動が大きく制約されます。

水不足の話は枚挙に暇がなく、これまでもしばしば取り上げてきました。

まずは、お隣の中国。中国では北部で水不足が深刻ですが、同時に、無秩序な産業化によって水質汚染も進行しています。

****水不足と水質汚染にあえぐ中国 ロシア、南アジアから調達へ****
深刻な水不足を背景に、中国が国外から水資源を調達する計画を進めている。

水利省の報告では、全国各地域の地下水のうち80%、都市部の上水道でも14%が飲料に適さない。民間団体の調査でも国民の三分の二が恒常的な水不足に悩み、地下水くみ上げによる地盤沈下や、工業用水が浸透する地下水汚染が進む。
 
水資源の調達先に挙がるのはロシアと南アジアだ。ロシア・アルタイ地方から、新疆ウイグル自治区へ淡水を輸出する計画が浮上し、トカチョフ露農業相が近く、関係国問の協議を始めることを明らかにした。

カザフスタンを経由する総延長一千百キロ超の「淡水パイプライン」を敷設する計画で、技術・資全面でのハードルは高いが、完成すれば年間七千万立方メートルの供給規模が見込まれる。
 
南アジアのネパール、ブータン、バングラデシュなどでも、中国主導のダム建設が進む。ヒマラヤ山脈を横断後バングラデシュに注ぐヤルツァンボ川岸、チベット高原が源流のメコン川などが対象で、電力と水資源の獲得が目的。

ヒマラヤ周辺では、インドも水資源開発に力を入れており、ダム建設計画は計四百件超。中印の覇権争いによる同地域の環境悪化が懸念されている。【選択 6月号】
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そもそも、中国、メコン流域諸国、インド・バングラデシュなどが頼るヒマラヤ水系はヒマラヤの氷河を源としており、この氷河が温暖化の影響で顕著な現象を示していることはこれまでも取り上げてきました。
そのため、長期的には現在以上の水不足が中国・東南アジア・南アジア各地で懸念されます。

現時点での話に限っても、国際河川への一方的なダム建設は下流域各国の生活・農業・工業用水、水産業などに大きな影響を及ぼすことになり、水争奪戦を惹起します。

この面においても、南シナ海同様、中国のやり方は力まかせで、協調を欠いているように思われます。

中国北部の水不足は深刻になっていますが、石炭採掘と火力発電の拡大という政策的な問題で更に悪化していると報じられています。

****中国北部 絶えない火力発電所設置 水不足一層深刻****
数十年にわたって続いている中国北部の干ばつは、悪化の一途をたどっている。北京市、天津市などを含む華北地方では、水再生を上回る量の生活用水が消費されている。人口2000万人の北京も、極度の水不足に悩まされ、断水がしばしば発生する。伝えられるところによると、北部地域では数百万人は水の不便を理由 に他地区へ移り住んでいったという。
 
国際環境団体グリーンピースは今月22日に発表した、世界の環境に関する最新報告書のなかで、水資源の乏しい中国北部では石炭採掘と火力発電の拡大による水資源の枯渇をあらためて警告した。
 
報告書によると、世界全体で見ても、石炭エネルギーの生産と同時に、水資源が大量に消耗され、多くの地域では水不足問題が深刻になった。とくに中国の北部はもともと水資源が乏しい地域で、増え続ける火力発電所により、水不足の問題が一層深刻であると指摘した。
問題山積にもかかわらず、増える火力発電所
(中略)グリーンピースの石炭専門家によると、中国は豊富な石炭埋蔵と水資源不足、脆弱な生態システムが重なり合い、多くの問題を引き起こしている。「それにもかかわらず、中国は継続して火力発電所を増やしているので、一刻も早く止めなければならない。」
 
「ニューヨークタイムズ」の報道によると、過去数カ月の間、グリーンピースは中国政府に対して全ての火力発電所を停止するよう催促していた。北京に位置するグリーンピース東アジア支部の発表によると、中国当局は去年、1000億ドルかけて新たに210基の火力発電所を建設する計画に、環境保護許可書を発行したという。(後略)【3月26日 大紀元】
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東南アジア「過去20年あまりで最悪級の干ばつ」】
東南アジア諸国も今年は高温と水不足の被害が深刻になっています。
ただ、ヒマラヤ氷河・メコン川の長期的問題はあるものの、基本的には比較的降雨に恵まれた地域ですので、今年の現象はとりあえずは一時的なものに思われます。エルニーニョも終わりそうですし。

****東南アジア襲う記録的熱波、水不足の被害深刻に****
東南アジア各地が記録的な熱波と水不足に見舞われ、農作物や動物への被害が深刻化している。

気象サービスのウェザー・アンダーグラウンドによると、タイ、ラオス、カンボジアは観測史上最高の44.6度を記録した。シンガポールも異常な暑さを観測し、マレーシアでは湖が干上がって野菜の生産が落ち込んでいる。

カンボジアでは水不足が深刻化して学校のトイレ用の水が確保しにくくなった。暑すぎて子どもが登校できず、欠席率が30~40%に達した学校もある。電力不足で扇風機も設置できないと教員は嘆く。

コンポンチュナン州の学校では水質の悪化による下痢や発熱などの症状も懸念される。政府は授業時間の短縮で対応しているが、水を買うための予算が足りないと教員は訴える。

東南アジア最長の川、メコン川は水位が低下し、ベトナム政府の報告によれば1926年以来の低さになった。水位の低下が原因で南シナ海の海水が内陸部に浸食し、土壌が塩化して農作物に大きな被害が出ているという。

世界最大級のコメの生産国であるタイも、熱波や例年の半分に満たなかった昨年の降雨量が原因で不作が予想される。
ベトナムやタイのコメ生産が減れば、輸入に頼るフィリピンやインドネシアで供給が不足して価格が高騰しかねない。
シンガポールでは市民生活に影響が出始めている。同国の輸入野菜の43%を供給しているマレーシアは干ばつに見舞われて輸出量が減少し、シンガポールで40%の値上がりをもたらした。4月の平均気温は過去最高の30.6度を記録した。

マレーシアは主要ダムや貯水池の水位が危険水準にまで低下。干上がった川底にできた水たまりの中では魚が腐り、衛生上の懸念があるとして先月は250以上の学校が休校になった。

動物への被害も広がっている。ベトナムではゾウ2頭の死骸が見つかり、カンボジアではアンコールワットで観光客を乗せていた高齢のメスのゾウが熱中症で死んだ。

インドネシアのボルネオ島では干ばつによる山火事で、絶滅危惧種のオランウータン少なくとも9頭が死んだ。親をなくしたオランウータンの子ども7頭は保護施設の職員に救助された。

東南アジアの今年の干ばつは極めて深刻だと専門家は指摘する。コスタリカの気象専門家は「エルニーニョが強かった1998年と1983年に匹敵し得る。タイの干ばつは1983年以来の深刻さだ」と解説。米カリフォルニア大学の専門家も「過去20年あまりで最悪級の干ばつ」と話す。

ただ、エルニーニョは徐々に弱まりつつあり、カンボジアのコンポンチュナン州では少量の雨が降った。米国立海洋大気局(NOAA)の専門家は、今後は暴風雨や洪水をもたらすラニーニャ現象が強くなる可能性が非常に大きいと予想している。【5月13日 CNN】
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インド 「すでにわが国では、水戦争が始まっている」】
インドは更に深刻な様相です。2月にエローラ・アジャンタを観光した際に、地元の方が「今年は暑い」と言っていましたが、5月19日には51℃を記録しています。

インドは中国以上に水資源が乏しいうえに、成長重視策をとるモディ首相の水資源に関する無策も事態を悪化させており、首相への批判も強まっているそうです。

****インドが「水危機」で大混乱***
インドが独立以来最も深刻な水不足に陥っている。二〇一四年と一五年の二年連続で、モンスーン期(六~九月)の降雨不足に見舞われた上、近年の経済発展による慢性的水不足が危機に拍車をかけている。水をめぐる地域間の紛争や衝突も頻発し、「水戦争」が全土を覆う事態となり、ナレンドラ・モディ首相の対応にも厳しい批判が集まっている。

住民たちが武装する「水戦争
インドの夏は桁外れに暑い、それでも今年は特別だ。

五月十九日、インド最大面積のラジャスタン州にあるファーロディという都市で、同国観測史上最高の気温五十一度を記録した。米国のデスバレーが五十六度以上を記録したことがあるが、同州には七千三百万人が住んでおり、この猛暑で農地を耕して、日々の生計を立てなければならないのだ。
 
「今年の夏はインド独立以来最悪のものだ。これほどの干ばつは過去数十年見たことがない」と、水問題に取り組むNGO(非政府組織)「南アジアのダム・河川・住民ネットワーク」のヒマンシユ・タカール氏は言う。六月に始まるモンスーン期に、今年もまた降雨が少ないようだと、「大惨事になる」(同氏)との警戒感が強い。

十三億人が住むインドは、歴史的にモンスーンの降雨と、ヒマラヤ山系を水源とするガンジス川などの大河、豊富な地下水で支えられてきた。

ところが、一四年は平年より一四%も降水量が少なく、一五年は十二%減。商都ムンバイを抱えるマハラシュトラ州では、各地のダムが長期間にわたって干上がり、地表のひび割れがひどすぎて、人間が歩けないところも多い。
 
政府のまとめでは、インド二十九州のうち十一州が深刻な千ばつ状態を宣言。全人口の四分の一にあたる三億三千万人が被害を受けている。マハラシュトラ州など特に被害が深刻な地域では、水を求めて農村部から逃れた人たちのために、大規模な「難民キャンプ」が設営されている。
 
だが、今回のインドの水危機では、降雨不足は原因の一つに過ぎず、経済発展や人口増加に伴う水需要の激増といった根源的な要因が指摘されている。さらに、モディ政権の水資源対策、農業政策の失敗といった「人災」側面にも、注目が集まっている。
 
インド国内の各種調査によると、人口が三億五千万人だった一九五一年と現在を比べると、インド人一人あたりが利用できる水は、四分の一に減っているという。元来インドはアジアの中でも、一人あたりが利用できる水量は少なく、やはり水資源に悩む中国の半分程度でしかないため、降水量のわずかな減少でも大被害をもたらす。
 
被害が深刻な地域では、水資源を奪い合って、住民たちが武装して実力行使に出たり、当局の治安要員と衝突したりする事件が頻発し、インドのメディアでは「すでにわが国では、水戦争が始まっている」との論評が目立っている。
 
今年二月には、デリー首都圏(人口二千五百万人)に生活用水を供治しているハリヤナ州の住民が、「このままでは白分たちが使う水が飲みつくされてしまう」と蜂起して、デリー首都圏に水を運ぶ運河を破壊する事件があった。デリーではたちどころに大規模断水が起こり、治安警察が出動して住民の強制排除に乗り出して、十九人の死者を出した。
 
大都市チェンナイを抱えるタミル・ナドゥ州(人口七千二百万人)は、同州内を流れるカベリ川の水資源をめぐって、上流のカルナカタ州(同六千百万人)と激しく争うなど、州政府間の抗争も多い。
 
チェンナイは周辺部も合わせると人口九百万人の大都市だが、水源である地下水の枯渇が近年著しく、水道水にも強い塩分が混じるようになった。周辺自治体との水争いは激化する一途だ。
 
地域間の紛争に加えて、富農と貧農の争いという、階級間の衝突も起きている。

現地を取材した在インド英国人記者は、「大規模土地所有者はサトウキビなど水を使う商品作物に特化していて、その上地で最良の水資源を押さえている。屈強な自警団を抱えて、水を自己防衛したり、周辺から水を盗んできたりするので、衝突が絶えない」と言う。

苦境を全く理解しない首相 
経済発展で改善の兆しがあった農村生活は、水不足で再び悪化。高利の借金に苦しむ農民の自殺が深刻な社会問題に浮上している。(中略)

モディ首相は元来、「経済発展で農村の貧困は解消できる。余剰人口は新産業で雇用できる」という、経済発展論の信奉者だけに、農業改革はもとより、農村で現在進行する人道的危機への対応策を持っていない。

窮した政府内からは、「緊急工事でガンジス川の水を振り分けてはどうか」という案が飛び出し、野党側から「もっと事態を悪くするだけ」と批判を浴びた。
 
インドの水不足の原因は極めて根深いだけに、よほどの慈雨でもない限り、モディ政権に付いて回る課題。首相の右往左往に、インド政界では「モディの終わりの始まり」との見方が広がっている。【選択 6月号】
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デリーとハリヤナ州で死者19人を出した騒動は、以前取り上げたように「カースト」絡みの問題と一般には説明されていますが、水不足問題も絡んでいるようです。

アベノミクス同様、「モディノミクス」も順調とは言い難いようです。

アメリカ西部 今世紀後半には過去1000年で最悪の干ばつが襲う
アメリカ西部の水不足についても以前取り上げたことがあります。

****アメリカに迫り来る未曽有の「メガ干ばつ****
今世紀後半に米南西部と大平原地域を、過去1000年で最悪の干ばつが襲うとの衝撃の研究が

この数年、カリフォルニア州を含む米西部は記録的な干ばつに襲われ、水不足と農作物の不作に悩まされている。

NASA(米航空宇宙局)は「州内の水源に残された水はあと1年分」と警告。同州産のオレンジやアーモンドの価格は既に高騰し、州政府は4月、州内全域を対象に25%の節水を義務付ける初の行政命令を出した。

しかし新たな研究によると、真の危機が訪れるのはこれからだ。米西部には、より「乾燥した未来」がやって来る。

今年2月、NASAとコーネル大学、コロンビア大学の研究チームが発表した論文によれば、米南西部と大平原地域には過去1000年で最悪の干ばっが迫っているという。そうした「メガ干ばつ」はおそらく今世紀後半に起こり、10~数十年続く可能性もあるとのことだ。

「われわれの研究によれば、北米大陸西部の自然界と人類は、現代史上の経験をはるかに超えた乾燥状態に見舞われるだろう。それに適応するのは、極めて困難かもしれない」と、研究チームは論文で記している。(後略)【2015年8月25日号 Newsweek日本版】
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ここ数年続く干ばつについても、今年は秋以降にラニーニャが始まる確率が高くなってきているとも言われていますが、エルニーニョがラニーニャに移行すれば同地域の干ばつがまた深刻化するとも予想されています。

21世紀「水の時代」は厳しい時代になりそうです。
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