孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

米中対立 通商・知的財産権では歩み寄りも アメリカ政権内部でも異なる考え “終わり方”も不透明

2018-12-26 22:45:29 | アメリカ

(G20が行われたブエノスアイレスで12月1日、首脳会談を行なったトランプ大統領と習近平国家主席【12月2月4日 アゴラ】)

【関税合戦の“ブーメラン” 通商・知的財産権では一定に歩み寄りも】
米中の「貿易摩擦」だか「貿易戦争」だかの、通商面での主要品目である大豆については、一定に歩み寄る流れも出ています。

****「一時休戦」進むか 中国、アメリカ産の大豆購入****
中国の中糧集団など国有穀物大手は19日、25%の追加関税をかけていた米国産大豆を購入したと発表した。貿易摩擦の「一時休戦」を決めた今月初めの米中首脳会談を受けた対応。
 
米農務省は今月中旬、中国による米国産大豆の大口契約があったと発表。中国への輸出用に12月13日に113万トン、翌14日に30万トンの米国産大豆の大口契約があったと公表していた。
 
中国は7月、米国が中国からの輸入品340億ドル(約3・8兆円)分に25%の追加関税をかけたのに対抗し、米国産大豆などに25%の関税をかけた。米国産大豆の穴埋めは、他国からの輸入で対応しようとしたが、国内の大豆需給が逼迫(ひっぱく)していた。
 
中国商務省は19日、米中の経済貿易問題について、副大臣級の電話協議を行ったとも発表。華為技術(ファーウェイ)の幹部逮捕を巡る対立はあるものの、通商紛争で、米中は一定の歩み寄りを進めている。【12月21日 朝日】
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中国国内のひっ迫する大豆需給については、以下のようにも。

****米中貿易戦争で中国に大ブーメラン “大豆ショック”で畜産崩壊寸前! *****
米国と中国の通商紛争が、世界の農業を揺るがしている。双方が輸入品に高額の関税をかけ合う“貿易戦争”になっていて、米国の大豆が中国に入らなくなったのだ。

豚のエサ(飼料)が手に入らず、中国の畜産家は廃業寸前に追い込まれている。愛知大学現代中国学部・高橋五郎教授が現地でその現状を取材した。
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「採算割れが半年以上も続き、もう養豚経営を続けるのは限界だ。業者同士がなんとか倒産から逃れようと、我慢くらべをしている。こんなことは人生で初めての経験」
 
こう嘆くのは中国・河南省の農家Rさん。米や野菜などもつくっているが、収入の柱は養豚で約100頭を飼っている。それが飼料の高騰で、経営危機に直面しているのだ。
 
発端は米国のトランプ大統領だった。「米国第一主義」を掲げ、米国への輸出でもうけている中国をターゲットに選んだ。知的財産の侵害を口実に7月、中国からの輸入品に高関税措置を発動。中国も報復のため、米国から輸入していた食品などに高関税をかけた。
 
その影響をまともにくらったのが大豆。中国は消費量が世界1位で、2017年は1億1060万トン。そのうち9割弱を輸入しており、輸入国としても世界最大だ。輸入量の34%は米国に依存していたが、25%もの高関税をかけたことで、8月以降の輸入がほぼゼロに。米国産大豆がそっくり消えたのだ。
 
ブラジルやアルゼンチンなど米国に代わる輸入先を探したが、収穫期のずれもあって、全てはカバーできない。
 
報復するため放った矢が、自国の農家や消費者を直撃した。米国は中国に代わる輸出先を、大手食品会社が見つけているため、大豆農家は中国ほどの痛手は受けていない。中国にとって大豆への高額関税は、“大ブーメラン”になってしまった。(後略)【12月26日 AERAdot.】
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なお、中国の米国産大豆輸入に関しては、以前も取り上げたイラン絡みの話もあるようです。

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イランが今夏、突如として米国からの大豆輸入をスタートさせた。

それまで大豆を買ったことがなかったイランが、八月に一億四千万ドル分の大豆を購入。九月以降にも続けて輸入しているが、総額二億ドル分を同国内で消費するかは不透明。

そのため、米中貿易戦争で米国産大豆に高関税をかけた中国に横流ししているのではないかという観測が出ている。【「選択」12月号】
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この話、中国に横流し云々もさることながら、そもそも激しく対立しているアメリカ・イランの間で大豆取引があること自体が「へえ・・・、そんなんだ」という感じ。

“米国は中国に代わる輸出先を、大手食品会社が見つけているため、大豆農家は中国ほどの痛手は受けていない”とのことですが、代替輸出先にイランも入っているのでしょうか。それだけ、アメリカ側農家も苦しいということでしょう。

****ブルームバーグ、「アメリカが農産物をイランに輸出」****
アメリカの国際最新金融情報サイト・ブルームバーグが、「アメリカと中国の貿易戦争、および中国が大豆の輸入を停止した後は、アメリカの生産業者は国際市場での生き残りをかけて、自らが生産した大豆をイランに輸出せざるを得なくなる」と報じました。【11月7日 Pars Today】
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大豆に限らず、貿易戦争の結果が“ブーメラン”として自分に戻ってくるのは、中国だけでなくアメリカも同様です。

****「関税マン」トランプが招く貧乏なアメリカ****
<トランプの対中制裁でアメリカ人が逆進税を払う羽目に――ホリデーシーズンを控え米経済の冷え込みが心配だ>

「私は関税マンだ」――。トランプ米大統領は12月4日、ツイッターでこう宣言した。「わが国の偉大な富を奪おうとする者には、相応の代償を支払わせる......目下われわれは関税の形で何十億ドルも徴収している。アメリカを再び偉大な国にする」

残念ながら、大統領、あなたは勘違いしている。関税を支払うのはアメリカの消費者だ。

あなたが既に10%の追加関税を課した2000億ドル相当の中国製品のうち、およそ半数の3000品目はほぼ完全に中国からの輸入に頼っている。つまり、今年のホリデーシーズンにはアメリカの消費者は割高な買い物を強いられるわけだ。

中国を懲らしめるための関税は、アメリカの消費者を苦しめる「税金」となる。あなたはアメリカを偉大にするどころか、困窮させているのだ。

しかも、この税金は逆進税だ。所得に占める割合で見ると、富裕層に比べ中間層と低所得層の負担が大きくなる。(中略)

対中制裁関税のブーメラン効果でアメリカは景気後退に突入する危険性がある。世界の他の主要国の経済も減速している。(後略)【12月25日号 Newsweek日本語版】
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通商問題について関税をかけあう対応が、双方の首を締めあげることになることは、当事者もよく承知していることですから、適当なところで“歩み寄り”がなされると思われます。

また、貿易赤字よりも大きな問題とされる知的財産権侵害の問題についても、中国側に譲歩の姿勢が見えるようです。

****外資への技術移転強制、中国が禁止へ 米側に大きく譲歩****
中国政府は23日、外資の技術を中国側に強制移転させることを禁じる「外商投資法」の立法作業に着手した。

技術の強制移転は米国などから厳しく批判され、米中通商紛争の焦点になっていた。中国政府はこれまで「強制的な技術移転はない」との立場だったが、米側に大きく譲歩した形だ。
 
この日、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会に同法の草案が提案された。中国共産党機関紙・人民日報によると、草案では「外国企業の合法的な権益の保護を強める」としている。権益保護策の一つとして、行政手段による強制的な技術移転を禁じるという。
 
また、中央政府や地方政府が、法律に基づかない外資への制限を設けることも禁じる。外国企業が中国で活動する際のトラブルを訴え出るためのしくみも整備する。出資も制限がかかっている特定の業界以外は、中国企業と同じルールで対応するとしている。
 
米国は、米企業の知的財産権が中国によって侵害されているとして、3度にわたって中国からの輸入品に追加の関税措置をかけてきた。知的財産侵害の温床と指摘されてきたのが、外資に対する技術移転の強制だった。
 
中国はこれまで「政府が外国企業に技術移転を強制的に要求する政策、やり方をとっていない」(中国政府の白書)と反論してきた。だが、中国の実体経済にも悪影響を及ぼしつつある通商紛争を早期に解決するため、米国に譲歩する道を選んだとみられる。
 
中国商務省は23日、米国側との次官級電話協議が21日にあったと発表。知財保護の強化などについて意見交換を行い、進展を得たことを明らかにした。【12月23日 朝日】
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【ディールによる米中関係のリセットか、中国の超大国化阻止か・・・アプローチの違いで、終わり方も異なる】
貿易や知的財産権の問題でのこうした動きを受けて、米中間の「貿易戦争」は終息に向かうのか?
中国側がトランプ大統領に花を持たせる形で譲歩し、トランプ大統領が「偉大なディールを達成した!」とツイート、その後は二つの大国間でウィン・ウィンの関係を・・・・という話になるのか?

おそらく、トランプ大統領はそうした流れを想定しているとは思われます。
ただ、そこで収まるのかはよくわかりません。

アメリカ側には、トランプ大統領の思惑にかかわらず、そもそも中国がアメリカに対抗しうるような大国にのし上がってきたことが許せない・・・という考えもあるようです。

この際、中国を徹底的に叩いて、中国の超大国化を阻止し、世界の覇権をアメリカが握り続ける体制をつくるのだ・・・という話になると、ゴールがどこだかわからなくなります。

****劇化する貿易戦争、米国と中国と「対決の技」 もはや関税や大豆の問題ではない、米国の思考に重大な変化****
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2018年12月18日付)

教えてくれ、これはどんな形で終わるんだ――。
これはベトナムやイラクでの泥沼の戦いについて考える時に米国の将軍たちが絶望しながら問いかけたとされる言葉だ。
 
米国と中国の緊張がエスカレートしている今、米国の政策立案者は同じことを問う必要がある。
 
米中の2大大国は、貿易、技術、スパイ活動、南シナ海の制海権など様々な問題について角を突き合わせている。
大ざっぱに言えば、これらの衝突を解釈する方法は2通りある。
 
第1の解釈は、ドナルド・トランプ大統領率いる米政権は米中関係をリセットしようと固く決意しているというもの。第2の解釈は、米国が中国の台頭を阻止する行動に出始めたというものだ。
 
第1のアプローチは、中国の問題のある行動に的を絞っている一方、第2のアプローチは、中国がライバルの超大国になるという考えそのものに反発している。
 
どちらを取るかによって、潜在的な終わり方はかなり異なったものになる。
 
第1のアプローチ――リセット――は、最終的には取引で決着する。第2のアプローチ――中国の台頭阻止――なら対立は長引き、ますます深刻化するだろう。
 
米国はどちらのアプローチを追求しているのか。これについては、トランプ政権内でさえ曖昧な部分がかなりある。
 
大統領は先日、中国と「大規模で非常に包括的な取引」をまとめることについてツイートした。トランプ氏が「リセット」派であることがうかがえるエピソードだ。(中略)
 
ところがトランプ政権の上級幹部、つまり日々の政策を実際に決めている人たちから話を聞くと、米国は中国との長期にわたる対決に取り組みつつあるとの印象は避けがたいものになる。
 
彼らの分析によれば、米国は数十年もの間、誤った対中政策を取ってきた。
米国は浅はかにも、中国は豊かになるにつれて強権的でなくなっていくだろうし、台頭する超大国をルールに基づく米国主導の国際秩序に特に問題なく統合できると考えていた。
 
こうした計算違いの結果が、昨今の中国の強硬な行動パターン――南シナ海での軍事基地建設から産業スパイに至るあらゆる面での不当な行為――になって現れてきている、というのだ。
 
米国が抱いているこのような根深い不満は、中国側が自動車の関税を下げたり大豆の購入を増やしたりすることで修復できるものではない。実際、貿易交渉を手早くまとめてしまうことは逆効果になるかもしれない。
 
トランプ氏と、同氏のアドバイザーの一部との間で溝が広がっているとの印象は、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長の逮捕をめぐって続いている騒動によって強くなっている。トランプ氏は逮捕が実行されることを知らなかったらしく、情報に接して激怒したと噂されている。(中略)
 
中国における一見「報復的な」逮捕はカナダ人を標的にしたものだった。ファーウェイの孟氏がバンクーバーで逮捕されたためだ。今のところは、米国人は標的にされていない。
 
おそらく中国政府は今後数カ月間、トランプ氏を懐柔しようとし、米国の対中貿易赤字を減らす施策を打ち出し、見出しを飾るような「勝利」で花を持たせてやるだろう。
 
しかし長期的には米国も中国も、この対立が「どんな形で終わるのか」について深く考えなければならない。
 
中国側は、米国側の考え方に超党派の重大な変化が起きたことを認識する必要がある。従って、トランプ氏をたぶらかそうとする、あるいはトランプ氏の退任を待つ作戦は、最終的にはうまくいかないだろう。
 
それよりも中国の方が、進出企業に対する技術移転の強制から南シナ海での振る舞いに至るすべての面において、より大幅な方針転換を検討しなければならない。
これが米国との長期に及ぶ対立を回避する最後のチャンスになるかもしれないのだ。
 
米国側にも検討すべき課題がある。
 
ワシントンのタカ派は、中国との対決において米国の力を大っぴらに行使することを楽しんでいるが、彼らもまた、対立が「どんな形で終わるのか」を考えなければならない。
 
米国が究極的に中国の台頭を止められると考えるのは現実的ではない。実際、それを目指す取り組みはいずれも、危険な緊張の激化を招くことになる。
 
そうなれば簡単に戦争に発展する恐れがある。その一方で、今後3カ月間の交渉で大きな取引が成立し、中国側が振る舞い方を大きく変えると考えるのも、同じくらい現実的ではない。
 
米国側は、現在の中国との対立について、野心的ではあるが達成可能な目標を設定する必要がある。冷めた関係が長期間続く可能性があることを受け入れるべきだろう。
 
しかし最終的には、米国のアプローチは、孫氏が「兵法」で説いた戦(いくさ)の技よりもトランプ氏が自伝で説いた「ディールの技」に近いものであるべきだ。【12月25日 JB Press】
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ファーウェイの孟氏逮捕に関しては、12月13日ブログ“ファーウェイCFO逮捕のよくわからない背景 トランプ大統領の介入姿勢の問題点”で“逮捕公表後、トランプ大統領が「知らされていなかった!」と激怒した・・・という話も聞きませんので、知らされてなかったということはないようにも思えますが・・・”と書きましたが、上記記事によれば、実際知らされておらず、激怒したとのこと。

よく指摘されるように、トランプ大統領が好き勝手にツイートして独断で物事を進めていくというのも困ったことですが、一方で、アメリカ大統領が重大事項をしらされておらず、「大統領には好きにツイートさせておけ。その間に我々は・・・」と、大統領抜くに重要な流れが進んでいくというのも、これまた非常に困った事態です。

世界の覇権争いで中国を敵視する立場の人々に関しては、驕りというか、現状を正しく把握していないようなところも見えます。

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・・・・「中国が目指すのは人工知能(AI)をはじめとする超先端技術の分野で米国に追いつき追い越し、世界のトップの座に就くこと」

「そのためには非合法な方法ででも可能な限り先端技術関連データを入手しようとしている。中国によるハッカー攻撃はその攻撃性ではロシアや北朝鮮よりも上だ。今回逮捕したスパイは氷山の一角に過ぎない」(クリストファー・レイFBI長官)

もっとも、こうした米国のがむしゃらな「スパイ掃討作戦」には政治的な思惑が見え隠れしている。背景に「米国は世界のAIのリーダーだ」という驕りがある。【12月26日 高濱 賛氏 「AIと5G技術で、中国はなぜ米国を追い抜けたか」 JB Press】
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しかし、スパイ活動の有無は別にしても、すでに中国はアメリカのコピー時代を終え、AI・通信分野で新しい特性を開発し始めています。

理由はいろいろありますが、決定的に重要なのは技術開発に不可欠なデータ量の違いでしょう。「中国人のモバイル決済は米国人の50倍、商品の注文数は米国の10倍。これがAIモデル開発のための重要な参考データになっている。」【同上】

“また貿易摩擦からハイテクや知的財産権をめぐる対立で一歩も引かぬ中国のスタンス。その底辺には並々ならぬ中国の自信がある。泰然自若としていられる理由が仄見えてくる。「AI技術では君たちより進んでいるよ」という自信なのかもしれない。”【同上】

上記の“対立で一歩も引かぬ”と言う部分は、“トランプ大統領に花を持たせて譲歩する姿勢で幕引きをはかる”と置き換えてもいいでしょう。

“中国は非合法・ずるい方法でアメリカの技術を盗み技術を進化させようとしている”と“上から目線”でいると足元をすくわれるかも。


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