孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロンビア  左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との和平交渉本格化

2012-11-25 22:40:58 | ラテンアメリカ

(和平交渉のためハバナに到着したFARC交渉団 “flickr”より By fotostelefonorojo http://www.flickr.com/photos/45757401@N08/8201409250/

キューバの首都ハバナで本格交渉が開始
久しぶりに南米の話題。
コロンビアで左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」とサントス政権の間で和平に向けた予備交渉が始まったことは、2012年8月29日ブログ「コロンビア 左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との和平に向けた予備交渉開始」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120829)で取り上げました。

前任ウリベ大統領時代からのアメリカの支援を受けてのゲリラ掃討作戦によって追い詰められた「コロンビア革命軍(FARC)」の事情が背景にあります。

****前回ブログからの再録****
FARCは、一時はコロンビア南部を中心に国土の3分の1を実効支配する強大な勢力を誇っていましたが、親米右派で、父親をFARCに殺害されているウリベ前大統領がアメリカの支援を得て断行した掃討作戦によって組織は弱体化し、ベネズエラ国境地帯やコロンビア南西部のジャングル地帯に追い込まれています。

ウリベ前大統領を継いだサントス大統領も、ベネズエラ・エクアドルとの関係を修復しながら、FARC掃討は継続し、10年9月にはFARC軍事部門司令官のホルヘ・ブリセーニョ・スアレスを、11年11月にはアルフォンソ・カノ最高司令官を殺害しています。

追い詰められたFARCは、政府との和平交渉を求める方針に転じ、身代金目的や収監された仲間の釈放の取引材料にするために繰り返し行っていた誘拐を止めることも発表しています。
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10月にはノルウェーの首都オスロで和平の正式交渉が始まったことが報じられていました。
****コロンビア和平交渉、淡い期待=内戦半世紀-政府の譲歩カギ****
南米コロンビア政府と左翼武装組織コロンビア革命軍(FARC)による和平交渉が18日までに、仲介地のノルウェーで正式に始まった。半世紀近く続く内戦状態の終結を目指すものの、双方の思惑の溝は深いままで、交渉で大きな進展は難しいとの見方も出ている。

和平交渉では、FARCの武装放棄やゲリラ構成員の社会復帰策などを話し合う見通し。FARC側は幹部らの恩赦や政治関与を認めるよう政府に求めたい考えだが、FARCによるテロや誘拐におびえた苦い記憶を引きずる国民の過半数が、こうした寛容な対応に反対している。政府がどこまで譲歩できるかが、交渉を左右する焦点となる。【10月19日 時事】
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コロンビアでは60年代から、「コロンビア革命軍(FARC)」の他、左翼ゲリラ「民族解放軍」(ELN)や右派民兵組織も交えた内戦が続き、家や土地を失った人は400万人を超えるとされています。

****内戦半世紀、終結に期待 コロンビア、近く和平交渉****
・・・・2002年以降、ウリベ前大統領が米軍と共同で強力な掃討作戦を展開。FARCは主要幹部を次々と失い、投降者が相次いだ。一時は約2万人と言われた勢力は約8千人に減ったとされる。国内のテロ事件は、02年の1645件が07年には387件と急減した。

治安改善に伴い、外国企業の投資が増え、経済は上向き傾向にある。FARCが勢力を伸ばす背景にあった高い貧困率も、02年の49.4%から11年には34.1%となった。

サントス大統領は「数カ月で交渉をまとめたい」と語る。世論調査での支持率は82%。和平実現を信じるとの回答は62%に上る。
ただ、FARCが求める恩赦や政治参加については、国民の7割以上が反対している。麻薬組織と化した集団の一部は、和平合意してもトップの指示に従わないという見方も根強い。【10月18日 朝日】
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交渉の経緯はよくわかりませんが、最近、キューバの首都ハバナで本格交渉が始まったと伝えられています。
****コロンビア:革命軍と政府、和平交渉開始****
中南米最大の反政府ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)とコロンビア政府は19日、約半世紀続いた紛争の終結に向けてキューバの首都ハバナで本格交渉に入った。キューバ、ノルウェー、ベネズエラ、チリの4国も関与し、地方の経済開発やゲリラ兵の武装解除・社会復帰などを討議する。
革命軍は19日の交渉開始直前に、来年1月20日まで軍やインフラ施設への攻撃を控える一方的休戦を発表した。【11月20日 毎日】
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(2001年 支配地域で軍事パレードを行うFARC女性兵士 “flickr”より By Hunter-O  http://www.flickr.com/photos/63889553@N00/2212758545/ )

FARCは停戦宣言 戦闘は続いている模様
上記記事にもあるように、FARCのマルケス和平交渉団団長は、11月20日から2013年1月20日にかけてFARCが一方的に停戦を行うと宣言しています。
しかし、コロンビア政府は軍事作戦を継続すると繰り返し表明しています。サントス大統領は、「和平交渉中の停戦合意は決して行わない。コロンビア政府とFARCの早急な合意が停戦につながる。」と述べています。【11月20日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7584383.html)より】

誘拐戦術の放棄を2月に宣言し、人質を解放したFARCは、9月に“今や1人も人質もFARCは持っていない”と断言していましたが、11月21日には、昨年6月に誘拐していた4人の中国人を赤十字国際委員会に引き渡しています。

****左翼ゲリラが人質の中国人4人を解放―コロンビア****
南米コロンビアからの報道によると、同国最大の左翼武装ゲリラ組織・コロンビア革命軍(FARC)は21日未明、昨年6月に同組織によって拉致・監禁されていた中国人技術者4人を解放した。
今回解放された中国人4人は、コロンビア革命軍が拉致していた最後の外国人と見られる。

同組織とコロンビア政府は、今月20日からキューバのハバナで本格的な和平交渉を開始しており、コロンビア革命軍は、来年1月までの休戦を申し入れている。
コロンビア革命軍は、長年、活動資金を麻薬密売への関与と誘拐による身代金の要求などに頼ってきたが、今年2月にこれ以上の拉致・誘拐を行わないと発表、国際赤十字を通じて、過去に拉致・誘拐してきた国軍兵士や警察官、民間人などを解放してきた。
また、中国政府関係者は、今回の人質解放に際し、身代金の要求や支払いなどは一切なかったと説明している。

コロンビア革命軍に拉致されていた中国人4人は、昨年6月、中国系石油資本参加にあるエネルギー開発会社の技術者・通訳としてコロンビア南部の油田開発に従事していた所を、左翼ゲリラによって拉致されていた。 【11月23日 世界日報】
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“コロンビア革命軍が拉致していた最後の外国人と見られる”とのことですが、FARCが“今や1人も人質もFARCは持っていない”と宣言していたことから、コロンビア国防大臣ピンソン氏は、FARCを嘘つきで不誠実であると批判しています。

なお、コロンビア政府軍サンミゲル将軍によれば、FARCの停戦宣言の後にも、コロンビアの複数箇所で治安部隊や一般市民に対する攻撃が続いているとのことです。【11月23日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7590055.html)より】

また、【音の谷ラテンアメリカニュース】によれば、11月23日には、FARCに20年以上所属していた幹部が恋人と一緒に投降してきたそうです。
その恋人も13歳の時にFARCに徴兵され、その後12年間ゲリラとして生きてきた女性ですが、「ゲリラ組織内は指導部が言うような平等はありません。FARCのボスたちは快適なホテルでビールを飲み、一方私たちはジャングル内で苦しんでいます。私達がまともな食事を渇望している時に、彼らは私たちの事を考えもせずに贅沢を享受しています。」とFARCの実態を批判しています。

なお投降した二人は、「FARC指導部は治安部隊との直接的戦闘を避け、民間人のふりをした少数のグループで待ちぶせ攻撃やテロ行為を行うよう命じています。」と語っているそうです。【11月24日 音の谷ラテンアメリカニュース(http://blog.livedoor.jp/otonotani/archives/7591853.html)より】

【「軍事力だけでは問題は解決しない」】
以上のように、FARCによる戦闘行為が収まっている訳ではないようですが、今後のFARCの影響力低下は避けられないようにも思われます。
もっとも、コロンビアには、右派民兵組織の流れをくむ準軍組織コロンビア自衛軍連合や麻薬組織など、治安上の問題は多く残っています。

こうした問題の根幹は貧困にあります。
“08年12月に(FARCから解放された)ロペス氏は「ゲリラは間違っている。でも彼らがまだ存在する理由は政治の欠陥だ」と語る。「3回飯が食え、靴がはけるという理由で父親からゲリラに引き渡された少年兵に会った。軍事力だけでは問題は解決しない。貧しい人に土地を分け与える改革が必要だ」”【2010年6月13日 毎日】

“治安回復で流れ込んだ富。だが、その多くは首都ボゴタなど大都市に落ちている。1日4・8ドル(約440円)以下で暮らす貧困層はボゴタで22%だが、農村部では64・3%にもなる。1日2ドル(約183円)以下で暮らす極貧層はボゴタで4・1%、農村部で29・1%だ。”【2010年6月12日 毎日】

マクロ的には、豊富な地下資源に支えられてコロンビア経済は急成長を遂げていますが、貧富の格差の解消には至っておらず、成長が生む負の遺産も目立っています。

****コロンビア選挙、異常事態 経済急成長で利権 候補者36人ら殺害****
今月30日に地方選挙が行われる南米コロンビアで、少なくとも36人の候補者が殺害される異常事態が起きている。石油や石炭など豊富な地下資源を持ち、ここ10年間で驚異的な経済成長を遂げるなか、その利権を獲得するため国境近くの地方ポストの奪い合いが激化していることが背景にある。

コロンビアでは、ベネズエラやエクアドルとの国境近くの山間部やジャングル地帯などで、欧米や韓国、中国、インド企業の参入により、金やニッケルなどの鉱山開発、石油(日量95万バレル、ベネズエラの約半分)や石炭(輸出世界4位)の採掘が進められており、「地方の市長職などが利権上、魅力的なポストとなった結果、左翼ゲリラ、コロンビア革命軍(FARC)や過激な市民らによる治安の不安定化を招いている」(外交筋)という。

独立系選挙監視団体MOEによれば、36人の候補者のほか、その支持者ら13人も犠牲となった。大統領選挙や国政選挙よりも、市民生活に直結する地方選挙の方が“過熱”する傾向にあるという。

資源開発などに伴うコロンビアの最近の経済発展はめざましく、2010年の1人あたりの国民総所得は、約10年前と比べ倍増した。経済発展が今ほどでもなかった前回(07年)選挙時に殺害された候補者は、今回の半分以下の14人だった。

一方、首都ボゴタ(人口約850万人)など都市部の治安は比較的安定している。コロンビアでは、1960年代に台頭したFARCが2002年の全盛期に、約2万人の勢力を誇ったが、米国から支援を受けたウリベ前政権時代の掃討作戦で弱体化傾向にある。軍や警察は、都市部を中心に厳戒態勢を敷いている。【2011年10月15日 産経】
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2010年に就任したサントス大統領は、前任ウリベ大統領が進めた対ゲリラ対策は継承しながらも、問題の根幹にある富の格差是正を優先課題に掲げていました。

****コロンビアの大統領が就任 貧富の格差是正を優先に*****
南米コロンビアの新大統領の就任式典が7日、首都ボゴタで行われ、6月の大統領選で当選した前国防相のフアン・サントス氏(58)が就任した。大統領は就任宣誓後の演説で「雇用創出を通じた社会の繁栄に取り組む」と述べ、左翼ゲリラを生む社会的な土壌となっている貧富の格差是正を内政の優先課題に掲げた。任期は4年。ゲリラ掃討で治安を改善させた親米ウリベ前大統領の路線を継承する。【210年8月8日 共同】
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FARC弱体化は大きな成果ですし、和平合意が達成できれば大きな前進です。
しかし、貧困問題が解決しないかぎり、FARCが仮に解体しても、形を変えた暴力・不正が生まれることにもなります。(貧困・格差はコロンビアだけでなく南米に共通した問題ですが)
サントス政権の真価は、成長の果実を貧困・格差解消にどのように生かせるかと言う点において問われます。

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