孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州  EU次期予算を巡り利害対立が激化 予算削減を求めるイギリスの「わが道」

2012-11-24 22:22:36 | 欧州情勢

(フィナンシャルタイムズ紙(10月22日)は、EU予算を増額するなら拒否権を発動する構えを見せるイギリス・キャメロン首相に対し、ドイツ・メルケル首相の「イギリスが拒否権を使用するなら会議を開く意味はない。ドイツは出席をキャンセルする」との意向(警告)を報じました。ドイツ政府は否定しています。
写真は“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/8114145161/)

ユーロ危機で財政状態が悪化する中で、各国の利害が正面から衝突
財政危機・信用不安が続く欧州では、これまで問題となってきたギリシャ・スペインなどの危機国支援とは別に、EU予算についても域内の対立が激しくなっています。
EUに限らず、予算というのもは国内・域内における再分配機能を持ちますが、各国財政が厳しいなかで、負担増を求められるイギリスなど北欧諸国と、再分配を受ける側のフランスなど南欧・東欧の利害が衝突しています。

****EU:次期中期予算、年明けに再協議へ****
欧州連合(EU)は23日、次期中期予算(14〜20年)について協議を先送りすることを決めた。前期(07〜13年)比で減額を求める英国などと、補助金削減に反発するフランスなどとの溝が埋まらず、年明け以降に再協議する見通し。

中期予算は7年間の歳出の大枠で、域内の農家やインフラ投資への補助金などに振り分けられる。英国やドイツなどは、「各国が自国の予算を削っているのに、EU予算が増えるのはおかしい」(英国のキャメロン首相)と主張。一方、農業やインフラ投資向けの補助金を多く受け取る南欧や東欧諸国はあくまで増額を要求している。

EU予算は北部の先進工業国から、南欧や東欧への財政再分配の側面が強く、ユーロ危機で財政状態が悪化する中で、各国の利害が正面からぶつかっている。【11月24日 毎日】
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今回揉めている中期予算は単年度予算の基礎となり大枠を決めるものになります。
議論が紛糾することは事前に予測されていたところで、関係者の間では、この種の議論はこれまでも1回でまとまった試しがないので今回もまとまらないだろう・・・とも言われていました。

****膨れるEU予算 「利害」どう妥結****
緊縮求める英独VS.補助金重視の仏・東欧
欧州連合(EU)加盟27カ国は22日、ブリュッセルで首脳会議を開き、2014~20年の長期予算を協議する。債務危機で各国が緊縮財政に取り組む中、膨れるEU予算に英国などが“緊縮”を求める一方、自国の利害に絡む分野での支出削減につながることにフランスや東欧が抵抗。合意できるか予断を許さず、決裂すれば、EUの結束に疑問が高まりかねない。

長期予算は単年度予算の基礎となる。EUは当初、現行(07~13年)比で約5%増の約1兆ユーロ(約100兆円)を提案したが、比較的裕福で、EU予算への拠出金の負担が大きい英独などを中心とした欧州北部の加盟国が一斉に反発。1千億~2千億ユーロ規模とみられる削減を要求した。

予算削減の急先鋒(せんぽう)は英国だ。与党保守党内でEU懐疑論が勢いを増す中、議会では予算の実質削減を要求する動議が可決された。キャメロン英首相は、首脳会議での拒否権行使もちらつかせる。
EUのファンロンパイ大統領は今月中旬、予算を約800億ユーロ減額する修正案を提示したが、英国は「まだ削れる」(政府報道官)との立場を崩していない。だが、過度の強硬姿勢で会議を決裂させれば、英国の孤立化が一段と深まるとの懸念も強まっている。

また、英国同様に単一通貨ユーロを導入していないスウェーデンも修正案に不満を示しており、合意形成への難関となっている。このため、妥協への圧力をかけるためにも、両国抜きの長期予算編成が可能か、EU内部で検討中とも報じられている。

反発が上がるのは「緊縮派」からばかりではない。修正案で農業予算や開発資金が減額されたことに、補助金を通じ、これらの恩恵を受けるポーランドやポルトガルなど東欧や南欧が異議を唱えた。農業国として補助金を多く受けるフランスも連携し、「連帯と成長への行動を求める」(オランド仏大統領)として削減を拒否する姿勢だ。
これらの国は、拠出金の負担に対し、補助金を受ける割合が低い英国など数カ国がEUから得る「払戻金制度」も批判しており、協議の火だねとなっている。

加盟国の利害が複雑に絡む中、ファンロンパイ大統領は22日の会議前に各首脳との個別会談で妥協点を探り、会議で再修正案を示す考え。すでに23日までの会議日程の延長も取り沙汰されている。妥協策を模索するメルケル独首相は21日、「必要なら来年、再び協議しなければならない」と会議決裂に懸念を示した。

予算協議での決裂は、EUが今後進める統合深化にも引きずる恐れがある。バローゾ欧州委員会委員長は首脳会議を「われわれの信頼に対する試金石だ」とし、各国に歩み寄りを呼びかけている。【11月23日 産経】
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【「Brexit」】
対立の主役は「(農業補助金を)維持するため戦う」と宣言しているフランス・オランド大統領と、「予算増額は馬鹿げている」「欧州の民衆の懐からカネをスリ続け、EU予算に費やすのはやめるべきだ」と修正を求めるイギリス・キャメロン首相です。

特にイギリスの場合、これまでもEU統合とは一線を画した独自路線をとることが多く、国内的にも反EUの声が強いだけに、今後のキャメロン首相の出方が注目されています。
一部にはイギリスの“EU離脱”も囁かれています。

****英、EUの予算増に猛反発 緊縮主張、脱退論も過熱****
英国と欧州連合(EU)との間の溝が広がっている。ギリシャのユーロ離脱よりも、「わが道」を行きたがる英国のEU離脱が取りざたされるほどだ。ノーベル平和賞に選ばれたEUだが、統合をさらに進めるための予算を話し合う22日からの首脳会議は、大荒れの雲行きだ。

「欧州の民衆の懐からカネをスリ続け、EU予算に費やすのはやめるべきだ」。英国のキャメロン首相は19日、ロンドンであった財界の会合で、不満をぶちまけた。
やり玉にあげたのは首脳会議の議題となる2014~20年のEU予算だ。EUの行政を担う欧州委員会は、債務危機の克服に向けて雇用や成長につながる投資が必要だとして、07~13年と比べて5%ほど多い約1兆ユーロ(約104兆円)を提案している。

これに対し、キャメロン氏は、増額を「ばかげている」と批判。横ばいの主張が通らなければ拒否権の行使も辞さない構えを示す。英国も含めて各国が福祉カットや増税などの緊縮を進めるさなかにEU予算の増額は許せないというわけだ。

議会はさらに強硬だ。与党保守党の反EU派議員は10月末、EU予算の削減を求める動議を下院に提出。親欧州が多い野党の労働党も賛成して可決された。
世論調査では「EU脱退」への賛同が56%で、「残留」は30%どまり。EU脱退を掲げる英国独立党の支持率は1割に迫る。与野党ともにEUに批判的な姿勢をとらざるをえなくなり、閣僚からも脱EUを問う国民投票を求める声が公然とあがっている。
欧米メディアでは、市場を騒がせたギリシャのユーロ離脱を意味する造語「Grexit」に代わり、英国のEU脱退を意味する「Brexit」という言葉が登場している。

欧州統合を主導してきたドイツやフランスと違い、英国がEUの方針とぶつかるのは初めてではない。サッチャー政権は1984年、農業補助金の受取額が少なく負担の方が大きいとして、EU予算からの払戻金(リベート)制度を勝ち取った。人の移動を自由にした「シェンゲン協定」にも英国は加わっていない。

今回は欧州危機が「孤立」に拍車をかける。危機克服のため統合を深めようとすれば、英国の経済を引っ張る金融部門に及ぶためだ。
キャメロン氏は昨年12月、財政規律を強化するための政府間協定にEU加盟国で唯一、署名を拒んだ。欧州委が財源を増やして危機対応にあてようと提案した金融取引税にも強く反対。ユーロ圏の11カ国が14年から先行導入することになった。13年のスタートで合意した銀行監督の一元化などの「銀行同盟」も不参加を表明した。
いずれも長引く債務(借金)危機の克服をはかろうとする試みだが、英国は簡単には乗れない。金融規制の権限を手放し、課税まで認めれば、世界有数の金融街シティーの地盤沈下を招きかねないからだ。

危機脱却を優先課題に考えるEUやユーロ圏各国の視線は冷めている。「壊し屋の英国は抜きで」とのムードが広がり始めている。
英国にとってEU諸国は輸出先の半分を占める貿易相手で、産業界には孤立への懸念が強い。だが、キャメロン氏は妥協すれば、国内で苦境に立たされる。
英サリー大学のアシャウッド上級講師は「英国は金融業への緩やかな規制や法人税の低さを利点に、欧州の玄関口として栄えてきた。EUを脱退すれば投資が逃げ、力が衰える」と指摘する。しかも、EUの危機対策が頓挫すれば、なんとか落ち着いている市場の攻撃が欧州を再び襲いかねない。英国は袋小路に立たされつつある。
【11月23日 朝日】
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ナポレオンの時代、あるいはそれ以前から海を隔てたイギリスと欧州大陸の間には溝が存在します。
イギリスの独自路線を支えるのは「大陸と一緒でなくてもイギリスだけでやっていける」という自負であり、具体的には世界の金融センター「シティー」の存在でしょう。
ただ常識的に考えれば、今の世の中で“孤立”を選択して生きていくというのは、非常に難しいことに思われます。金融だけで生きていくのは危ういことですし、“孤立”した場合、その金融が今までのように機能する保障もありません。

もちろん、キャメロン首相もそんな事態にならないように動いている訳で、会議での強硬姿勢も、国内の根強い反EU感情を説得するために不可欠との認識からでしょう。
イギリスは決して孤立していない・・・というアピールも行っています。

****英仏、独との結束誇示=互いに「孤立」否定―EU首脳会議****
欧州連合(EU)の2014~20年の中期予算をめぐる首脳会議が決裂に終わった23日の記者会見で、予算枠の大幅縮小を要求したキャメロン英首相と、農業予算の確保にこだわったオランド・フランス大統領が、それぞれメルケル・ドイツ首相との結束をアピールし、自国の立場の正当性を主張する一幕があった。

キャメロン首相はEU27カ国で最も強硬な緊縮路線を唱え、会議決裂の一端を担った。会見で同首相は「ドイツも予算の削減を望んだ」と述べ、英独の利害は一致していたと指摘。また、スウェーデンやオランダ、デンマークも緊縮派で、英国は決して孤立しなかったと訴えた。【11月24日 時事】 
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EU最大の資金拠出国ドイツのメルケル首相がまだ前面にでて来ていません。
メルケル首相は首脳会議を前に、来年1月に再協議する可能性を指摘しており、本番はこれからだ・・・といったところなのでしょう。

英仏ともに厳しい国内事情
利害対立が激しくなるのは、各国の状況が厳しいために他なりません。
日本も他国のことをとやかく言える立場にありませんが、ユーロ圏の経済はマイナス成長状態が続いています。

****ユーロ圏、2期連続マイナス成長 7~9月期実質GDP****
欧州連合(EU)統計局が15日発表したユーロ圏17カ国の7~9月期の実質域内総生産(GDP、速報値)の成長率は、前期(4~6月)比0.1%減だった。年率換算は同0.2%減。前期(0.2%減)から2期連続のマイナス成長となり、景気後退が確認された。
EU27カ国では、同0.1%増とプラスに転じており、ユーロ圏の景気悪化がはっきりした。

比較的好調だった北部の国々に南欧の景気悪化が及びつつあり、オランダが同1.1%減と大幅な落ち込みを記録。オーストリアも同0.1%減とマイナスに転じた。ドイツは同0.2%増と3期連続でプラス成長を維持したものの、伸び率は徐々に落ちている。一方で、フランスは0.2%増とプラスに転じた。

南欧の景気悪化は続いており、スペインが同0.3%減、イタリアが同0.2%減、ポルトガルが同0.8%減となった。ギリシャは前年同期比のみ公表されており、7.2%減と大きく落ち込んでいる。
ユーロ圏外では英国が同1.0%増と大幅なプラスに転じた。【11月16日 朝日】
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イギリスはユーロ圏各国と比べると経済は好調のようですが(特に、アジア富裕層を中心とする海外資金によるロンドン中心部の不動産投資が活況を呈してるとの報道もあります)、厳しい財政状況で緊縮策を迫られ、国民の間に不満が広がっていることには変わりありません。

“英国は2009年終盤に深い景気低迷から抜け出したものの、2011年末には再び後退に転じた。保守党と自由民主党による連立政権は2010年の発足後、ほとんどの省庁の予算を4年間で5分の1削減すると発表。また大学の授業料3倍値上げや、公共部門の賃金凍結など不人気な措置を相次いで打ち出してきた” 【10月21日 AFP】

****英各地で緊縮策抗議デモ、ロンドンで約10万人****
英政府の緊縮策に抗議する大規模なデモが20日、英各地で行われ、首都ロンドンでは推計10万人が行進した。スコットランドのグラスゴーや北アイルランドのベルファストなどでもデモが行われた。

ロンドン中心部約4.8キロを進んだデモ行進では、参加者がデービッド・キャメロン首相率いる連立政権が導入した緊縮財政策を非難し「削減はダメ」、「キャメロンはイギリスを殺した」などと書かれたプラカードを掲げた。ダウニング街10番地(の首相官邸前を通過する際にはブーイングが湧き起こった。(後略)【10月21日 AFP】
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対するフランス・オランド大統領も著しい国内支持率急落に苦しんでいます。

****支持率急落、政策で迷走も=仏オランド政権発足から半年****
フランスのオランド大統領が15日、就任から半年を迎える。ミッテラン政権以来17年ぶりの社会党大統領として期待を集めたが、景気や雇用の回復の遅れで支持率は急落。前政権が決めた付加価値税(消費税に相当)の税率引き上げを撤回後に一部復活させるなど、政策面での迷走も見られる。

オランド大統領の支持率は、就任直後こそ60%前後だったが、10月末に公表されたTNSソフレス社の世論調査結果では36%に低下。同社調査による政権発足から半年時点の支持率としては、1981年発足のミッテラン政権以降で最低に落ち込んだ。【11月14日 時事】 
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国内での不満を宥めるためには、対外的に強気な対応を取るしかない・・・という事情が英仏双方にあります。

そもそも論で言えば、EU統合にしろ国家にしろ、再分配はその最重要な機能のひとつです。(競争の重要性が強調される昨今では、多少様相が異なるのかもしれませんが)
日本の予算でも、富裕層から貧困層へ、都会から過疎地へ、若年者から高齢者への再分配が行われます。
経済・財政状況が厳しい昨今は、日本でもそうした再分配に関する議論も厳しくなってきています。
強固な共通のアイデンティティーを持つ日本国内においてすら揉める問題ですから、これから新たに統合を進めようというEU内で紛糾するのは当たり前とも言えます。ただ、再分配が決定的に拒絶されるようなら、統合・国家の意味が問われることにもなります。

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