孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

サウジアラビア  女性に厳しい社会も変わり始めた?

2017-09-26 22:55:15 | 中東情勢

(首都リヤドで、建国記念日を祝うイベントに参加するため競技場の観客席に座る女性たち(2017年9月23日撮影)【9月25日 AFP】)

イスラム法の厳格な解釈の下、女性の権利には多くの制約
イスラム教は、スカーフやニカブ・ブルカの着用といったことで話題になるように、日本や欧米的価値観からすると女性の活動に対する様々な制約がように思えますが、そのイスラム教にあってもひときわ戒律に厳しいワッハーブ派を信仰するサウジアラビアにおいては、様々な面で女性の権利が侵害されているようにも思えます。

比較的最近取り上げた話題としては、ミニスカートを着用して街を歩く姿がソーシャルメディアに投稿された女性が警察に拘束された・・・というもの。
7月20日ブログ“女性ファッションをめぐる軋轢 ドイツの「顔を覆うベール」 サウジの「ミニスカート」 ケニアでも

サウジアラビアではイスラム法の厳格な解釈の下、女性は外出時に全身を覆う衣装「アバヤ」や頭髪を隠すスカーフを着用することになっている・・・ということによるものですが、この女性は「知らないうちに投稿された」と主張、一時的な拘束で釈放されたようです。

もっと深刻な話も。

****強制結婚拒み逃げたサウジ女性、家族にみつかり強制移送か****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は14日、サウジアラビアで強制的に結婚させられそうになり、フィリピン経由でオーストラリアに逃げようとしていた若い女性が家族によって連れ戻された可能性があるとして懸念を表明した。
 
HRWが目撃者の女性の話として明かしたところによると、ディナ・アリ・ラスルームさん(24)は強制結婚を避けるためにオーストラリアに逃げるつもりだったという。

フィリピンの首都マニラの空港で乗り換え待ちをしていた際にラスルームが近づいてきたという女性によると、ラスルームさんは「パスポートとシドニー行きの航空機の搭乗券を空港職員に押収された」と話したという。
 
その際女性は、ラスルームさんが置かれている状況を伝えるための、ソーシャルメディア用の動画を撮影するのを手伝ったという。その動画の中でラスルームさんは「もし私の家族が来たら、彼らは私を殺すでしょう」と語ったという。
 
サウジアラビアには強制結婚の慣習がある他、女性への広範囲におよぶ支配を男性に認める後見人制度では女性は勉強や旅行、その他の活動をする際に男性後見人の許可を得ることが義務付けられている。
 
HRWによれば、マニラの空港でラスルームさんと数時間一緒に過ごした目撃者のカナダ人女性は、ラスルームさんのおじ2人が空港に現れたと話している。

またHRWは、空港警備員の1人が11日に空港内でラスルームさんが「助けを求めて叫んでいた」のを聞いた後、別の保安要員と中東系とみられる男性たちが「口と手足に粘着テープを巻かれた」状態のラスルームさんを連れ出すのを目撃したと話したと明かした。
 
HRWは、ラスルームさんの行方については現在は不明だとしている。【4月15日 AFP】
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この女性の“その後”は知りません。

強制結婚、拉致・・・といった深刻な問題ですが、パキスタン・アフガニスタン・インドなどで頻発する“名誉殺人”に代表されるように、女性に恋愛・婚姻の自由が認められていないのはサウジアラビアだけの話ではありません。

皇太子が進める改革・・・国民が生活を楽しめるような国に改造したい
女性の権利が制約されていることでしばしば話題になるサウジラビアですが、若いムハンマド・サルマン皇太子(6月21日に“宮廷クーデター”の形で、副皇太子から皇太子に昇格 父親サルマン国王からの王位継承)が政治的実権を握り、多方面における“改革”を進めています。

その“改革”は、石油依存体質の経済改革や、対立することが多いイラン・カタール、あるいはイラク・ロシア・イスラエルなどとの関係など中東・世界に大きな影響を持つものなど多方面にわたりますが、国民生活面では“国民が生活を楽しめるような国に改造したい”という方向だとか。

****変わり始めたサウジアラビア****
ワシントン・ポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、4月20日付同紙掲載の、サウジのムハンマド・ビン・サルマン副皇太子との長時間のインタビューで、副皇太子がサウジを国民が生活を楽しめるような国に改造したいと考えていると述べた旨を記しています。要旨は以下の通りです。
 
副皇太子がサウジを変える運動を始めて2年になるが、経済、社会改革を進めるための政治的指導力を強めているようである。
 
副皇太子は、改革にとって重要なのは国民が伝統的社会の変革を喜んで受け入れることである、もし国民が納得すれば変革を妨げるものは無い、と述べた。
 
サウジ国民の変化への希望は強まっている。さる世論調査によれば、サウジ国民の85%が、政策について宗教指導者よりは政府を支持すると述べた。また77%が政府の改革計画「ビジョン2030」を支持し、82%が公共の場所での、男女が参加する音楽の公演を望むと答えた。
 
改革計画はゆっくりではあるが着実に進んでいるようである。経済面での最大の変化はサウジアラムコの株の5%の公開である。おそらく何千億ドルもの資金を得ることになると思われる。それは経済の石油依存を減らし、多角化を図るために使われることとなろう。優先分野の一つは鉱業であるが、そのほかに軍需産業、自動車生産、娯楽、観光産業の創設などに使われるだろう。
 
娯楽産業はサウジ経済の開放の象徴といえる。
すでに変化は始まっている。4月、女性の演奏家を含む日本のオーケストラがリヤドで演奏し、聴衆には女性も含まれていた。漫画などの大衆文化のイベントであるComic Conが最近ジェッダで開かれた。
 
娯楽振興の責任者であるAhmed al-Khatibは、「我々は文化を変えたいと思っている」と述べた。生真面目でありがちな国であったサウジに「幸せをひろげる」のが目的であるとのことである。
 
副皇太子は宗教問題については慎重な話しぶりである。これまで彼は宗教指導者たちを文化の敵ではなく、過激主義に対する同盟者として扱ってきた。

副皇太子によれば、サウジにおける極端な宗教的保守主義は、1979年のイラン革命と、同年のスンニ過激派によるメッカのモスク占拠事件に対する反応として生まれた、比較的新しい事象である。
 
副皇太子は言った:「私は若い。サウジ国民の70%は若い。我々は過去30年我々がいた渦巻きの中で人生を浪費したくない。この時代は終わらせたい。我々はサウジ国民としてこれからの日々を楽しみたい。そして我々の宗教と慣習は維持しつつ、我々の社会を、そして個人、家族として我々を発展させたい。我々は1979年後の時代を続けない。その時代は終わった」。(後略)【5月4日 WEDGE】
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サルマン皇太子の改革が順調に進むかどうかについては、上記【WEDGE】も疑問を示しいます。

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このようなサウジ社会の変革には抵抗が予想されます。
 
まずは聖職者の抵抗です。ワッハーブ派はサウジの国教であり、国の手厚い保護を受けてきました。その地位と権限を容易に手放そうとしないでしょう。
 
副皇太子は、サウジにおける極端な宗教的保守主義は、1979年のイラン革命などに対する反応として生まれた、比較的新しい事象である、と言っていますが、ワッハーブ派は、18世紀のアラビア半島におけるイスラム原理主義の先駆であり、厳格なイスラムの戒律の順守を求めています。また、副皇太子は1979年以降の時代は終わったと言っていますが、そんな簡単なこととは思われません。
 
次に王族の抵抗が考えられます。サウジには何千人、あるいはそれ以上の王族がおり、特権を謳歌してきました。国民が生活を楽しめるような社会を実現するためには、王族の特権は制約される必要があります。

副皇太子が改革の指導力を強めている背景には、父親である国王の存在があります。もし国王が変わった場合、副皇太子は改革反対派の攻勢に会うかもしれません。
 
しかし、歴史の流れから言えば、サウジ社会は改革の時期を迎えています。1990年代には、サウジ社会は少なくとも部分的には中世ではないかと思われたほどでした。ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の登場は、歴史の要請であるのかもしれません。【同上】
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要するに、サルマン皇太子の権力基盤次第というところですが、先述のように王位継承に向けた抵抗勢力排除が進められています。

****サウジ皇太子、王位継承に向け抵抗勢力排除か 「これまで経験してきた状況とは全く別」との声も****
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の王位継承が予定されるサウジアラビアで、影響力を持つ聖職者やリベラルな思想家、そして王族の一部など抵抗勢力の排除が押し進められている。反発の声を広く取り除くことで、皇太子の権力基盤を強化することが狙いだ。
 
活動家などによればサウジ当局がここ1週間で身柄を拘束した人数は30人を上回り、その約半分は聖職者だ。サウジ政府は過去にも取り締まりを実施してきたが、今回は対象となる範囲を広げ、監視もこれまで以上に強化。著名人によるソーシャルメディア(SNS)への投稿などにも目を光らせている。拘束された人物が訴追されたかどうかは明らかになっていない。(中略)
 
サウジ政府のあるアドバイザーは「ムハンマド・ビン・サルマンは王になる準備を確実に進めている」とし、「反体派に邪魔されながら権力を固めるのではなく、自身の即位に異を唱える声に対処することを狙っている」と話す。
 
サウジ政府はサルマン国王が退位する予定はないとしているものの、王室に近い複数の関係者によれば、その準備はすでに進んでいる。一部では今月にも王位が継承されると予測されていたが、今は年末から来年初め頃が有力だと関係者は話す。
 
中東に駐在するある西側の外交官は、抵抗勢力の排除は「考えられていたほど早く王位は継承されないようだが、その時が近づいている前兆だ」と述べる。(後略)【9月15日 WSJ】
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改革の一端も・・・・体育授業、スタジアム観戦
サルマン皇太子の権力闘争は現在進行形ですが、国民生活における改革の一端は表れ始めています。

****<サウジアラビア>公立学校で女子の体育授業解禁へ****
イスラム教の厳格な習慣・戒律を重視する体制の下、女性の肌の露出が控えられているサウジアラビアで、公立学校での女子生徒の体育の授業が認められることが決まった。ロイター通信が伝えた。
 
サウジでは現在、女子生徒の体育は一部の私立学校のみで実施され、「適切な服装」で行うことなどの制約がある。大半の公立学校では導入されておらず、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は「公教育で女子の体育を禁じている唯一の国だ」と批判していた。
 
だが近年、サウジ国民には肥満が増え、今後は医療費が増大する懸念も出ていることから、政府は国民の健康向上を実現する方策を検討していた。
 
国政助言機関の諮問評議会は2014年、女子体育の導入を認めたが、宗教界から「西洋化しすぎだ」と反発の声が上がり、実施されていなかった。こうした中、サウジ教育省は今月11日、公立学校での導入を認めると発表した。導入時期は未定。
 
サウジでは女性の五輪参加も長く認められていなかったが、12年のロンドン五輪で初めて柔道と陸上800メートルで2選手の参加が認められた。【7月13日 毎日】
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****サウジ初、首都競技場に女性入場 建国記念日で慣習打破****
女性に多くの厳しい制約を課している超保守的な王国サウジアラビアで23日、建国記念日を祝うイベントが開催された首都リヤドの競技場に女性の入場が初めて認められ、数百人の女性たちが音楽や演劇を生で楽しんだ。
 
サウジアラビアには公共の場で男女を分離する厳しい規律があり、女性はスポーツ競技場への立ち入りを事実上禁じられている。主にサッカーの試合で使用されるキング・ファハド国際スタジアムも、これまで基本的に男性専用だった。
 
だが、国民が全国各地でコンサートや民族舞踊、花火で建国を祝ったこの日、キング・ファハド国際スタジアムでは女性たちも家族と共に入場が許され、独身男性とは離れた席で、音楽の演奏や国の歴史を描いた劇を観覧した。(中略)

サウジアラビアは女性の権利を最も厳しく制限している国の一つで、世界で唯一、女性に自動車の運転を認めていない。また、女性は男性後見人の許可を得なければ勉強や旅行などもできない。
 
ただし政府は、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する2030年までの社会的・経済的な成長戦略「ビジョン2030(Vision 2030)」の一環で、規律の一部を緩和する姿勢を見せている。【9月25日 AFP】
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女性解放を目指し奮戦する女性も
世界で唯一、女性に自動車の運転を認めていない・・・というのは有名な話ですが、自転車についても制約があり、自転車の自由を求めて奮闘する女性もいるようです。

****自転車に乗れる自由を求めてサウジで奮闘する女性****
<女性のさまざまな活動が制限されているサウジアラビアで、自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる>

・・・・2013年、女性が公の場で自転車やオートバイに乗ることが許されるようになった、とアルジャジーラは伝えていた。ただし、公園や娯楽施設内などに限られ、男性の後見人が立ち会う必要がある。また、頭の先からつま先まで覆う「アバヤ」というイスラムの伝統服を着用しなければならない。

しかしそんなサウジアラビアで、女性が自由に自転車に乗れる権利を手に入れるべく、奮闘している女性がいる。

サウジ初、女性が使える自転車ショップ
ガーディアンによると、25歳のバラー・ルハイドさんは2016年、サイクリング・コミュニティ「スポークス・ハブ」をビジネスとして立ち上げた。サウジアラビア初の、男女どちらも入れるコミュニティだ。ショップ内にはカフェや作業場が併設されており、サウジアラビアで唯一、女性が使える自転車ショップだ。

しかし当然ながら、サウジアラビアで女性がこのような活動を行うには、注意が必要だった。家族の中には応援してくれる兄弟や姉妹もいたが、親からは心配された。

また、自分の娘が悪影響を受けると心配した女性たちからも攻撃された。自転車に乗っていると、通りすがりの車が窓を開けて、ルハイドさんに侮辱的な言葉を吐いていった。警察に通報されたことも幾度となくあるという。

こうした経験から、女性だけのサイクリング・コミュニティを作るのが法律だけでなく社会的にも無理だと気付き、ルハイドさんは別の方法を模索した。

まず、弟が通う大学内で男性向けの組織としてスポークス・ハブを立ち上げた。女性に対しては、構内でワゴン車を使ってサービスを提供した。また、投資を募る際も、女性がCEOだと投資家たちに冷笑されるため、弟を代表者にした。

ルハイドさんは、夢はサウジの女性が自由に自転車に乗れるようになることだとガーディアンに話した。法律で着用が定められているアバヤも、そのままではスポークに裾が絡んでしまうため、足がズボンの形状になったものをデザインし、現在特許申請中だ。

こうした活動は、少しずつではあるのが実り始めている。サウジアラビアでスタートアップ企業に贈る賞にスポークス・ハブが選ばれ、リーマ王女も公的にスポークス・ハブ支持を表明した。リーマ王女は、サウジアラビアのスポーツ総合庁で女性スポーツ振興担当を務めている。

女性解放が進むサウジ
サウジアラビアではここ数年、女性を解放する動きが活発化している。2012年にはサウジの女性選手が初めてオリンピックに出場できるようになり、2015年には、同国の歴史で初めて、女性が地方議会選に立候補する権利と投票する権利が与えられた。

またインディペンデントは今年5月、サウジアラビアの女性が男性後見人の許可なしに教育や医療などの国のサービスを受けられるよう許可した、と伝えていた。(後略)【9月25日 Newsweek】
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女性の問題を中心に報じるオンラインメディアの創設を目指す女性も。

****<サウジアラビア>女性メディア創刊へ 女性編集長が来日****
サウジアラビアの政府系シンクタンク「ファイサル国王研究センター」訪日団メンバーとして来日中のサウジ・アンハー紙の編集長、ナーヒド・バーシャタフさん(50)が5日、東京都内で講演した。

ソーシャルメディアの普及や世代交代を背景に女性の雇用が近年わずかに進むが、差別的処遇は「依然として目立つ」と指摘。2018年初めにも女性の問題を中心に報じるオンラインメディアの創設を目指すと述べた。
 
こうしたメディアは国内初だが、報道機関として政府認可を受けられる見通しで、男女計10人程度の記者を雇う方針だという。
 
サウジでは女性は車の運転が禁じられ、結婚や旅行にも男性後見人の許可が必要とされるなど制約が少なくない。ただ、地元民間機関の調査によると、サウジの全労働人口に占める女性の割合は現在約17%で、11年の14%から上昇傾向にある。

 バーシャタフさんは取材に「女性の問題に関し(解決に向けての)戦略が感じられる報道は国内にない。これはアラブ社会全体の問題でもある」と指摘。社会的に不利な立場に置かれがちな女性の問題を「男女双方、特に若者が自由に論じるメディアを作って、課題や問題を提起し活動の拠点をつくりたい」と語った。【9月6日 毎日】
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10年後には、サウジアラビアで女性が自由に自動車や自転車に乗り、働く女性向けのメディアも普通に見られる・・・といった社会になるのでしょうか?

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