孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリスのEU離脱が刺激する各国の反EU運動  イタリアの“ポピュリズム”「五つ星運動」

2016-06-13 22:47:29 | 欧州情勢

(イタリア・ローマ市長選において、1位で決選投票に進んだ新興政党「五つ星運動」の女性候補で弁護士のビルジニア・ラッジ氏 【6月6日 時事】)

EU大統領:イギリスのEU離脱が決まれば、EUだけでなく、西側政治文明全体の崩壊が始まりかねない
イギリスで6月23日に行われるEUからの離脱の是非を問う国民投票が、あと10日に迫っています。

毎日のように、世論調査等の結果が報じられていますが、様々な数字があって国民投票の行方は判然としません。
大まかなつかみで言えば、先月末頃までは「残留派がリード」とするものが多かったようですが、6月に入ってからは、逆に「離脱派がリード」という結果が多いように思えます。

****英国のEU離脱支持、残留支持をわずかにリード=世論調査****
YouGovの最新の世論調査によると、英国の欧州連合(EU)離脱を支持する人の割合が43%と、残留を支持する人の42%を1ポイント上回った。

6日に公表された同調査では、残留支持が離脱支持を1ポイントリードしていた。(後略)【6月13日 ロイター】
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上記調査結果は「ほぼ拮抗」といったところですが、ブックメーカー(賭け業者)ベットフェアの予想オッズでみると、9日には残留支持が78%と高かったのですが、直近では64%にまで低下したそうです。【6月13日 ロイターより】

まだ残留の方が可能性が高いが、離脱派が追い上げている・・・ブックメーカーの数字は巨額のカネが絡むだけに、信頼できるようにも思えます。当たるとは限りませんが。

こうした「どちらに転ぶかわからないが、離脱派が勢いを増している」状況にあって、キャメロン首相や元首相などが残留に向けて必死の説得工作を行っています。

1年ほど前は、国民投票に突き進むキャメロン首相・イギリスにEU側は冷やかな反応もありましたが、現実に「離脱」となると、その影響は非常に大きなものになります。
当然ながら、EU側も気が気ではないでしょう。

****ブレグジット、西側政治文明の崩壊につながる恐れ=EU大統領****
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は、独ビルト紙のインタビューに応じ、ブレグジット(英国のEU離脱)が決まれば、EUだけでなく、西側政治文明全体の崩壊が始まりかねないとの認識を示した。

同大統領は、英国のEU離脱が決まれば、反欧州の過激派が「祝杯をあげる」と発言。

「これがなぜ非常に危険かと言えば、長期的な帰結を誰も予想できないからだ」とし「私は歴史家として、ブレグジットが決まれば、EUだけでなく、西側政治文明全体の崩壊が始まりかねないと懸念している」と述べた。

同大統領は「(ブレグジットが決まれば)EUの誰もが、特に英国人自身が、経済的に損をする」とも述べた。【6月13日 ロイター】
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実際、イギリスのEU離脱は欧州各国でも強まるEUへの不信感に火を付け、混乱は一気に拡大することも懸念されます。

****EU離脱で欧州統合は逆回転 プーチン露大統領の思うつぼ・・・・****
・・・・英国の離脱はEUに何をもたらすのか。EUがまず警戒するのが、各地での離脱の機運の高まりだ。来年のフランス大統領選挙で極右、国民戦線(FN)のルペン党首が勝利し、公約であるEU離脱を問う国民投票を行えば、オランダなどが続く恐れがある。
 
英エディンバラ大学が独仏、ポーランド、アイルランド、スペイン、スウェーデンの6カ国の国民を対象に行った調査では、ポーランドとアイルランドを除く4カ国で、英国同様の国民投票実施を求める意見が反対を上回った。EUとの関係を問い直そうという雰囲気が広がっている。
 
戦後、仏や西独など6カ国で始まった欧州統合は安定と繁栄を求心力に拡大してきたが、「その磁力が逆回転を起こす」。首相経験もあるスウェーデンのビルト元外相は警告する。
 
後戻りはないとみなされてきた欧州統合。だが、英国で起きている現象で加盟国は内向きの傾向を強め、欧州統合を牽引(けんいん)する両輪となってきた仏独関係も緊張してきた。
 
単一通貨ユーロの改革を含む経済面での対応が遅れて南欧で債務危機が再燃し、難民・移民流入問題も深刻化し、欧州の自由往来を認めたシェンゲン協定は崩壊する−。ビルト氏が描く最悪のシナリオだ。それは「EU分裂の可能性もある」と結ばれている。
    × ×
そんなEUの行方を虎視眈々(たんたん)とみつめているのがロシアのプーチン大統領だ。ベルギー元首相のフェルホフスタット欧州議会議員は、「英国離脱で唯一、利益を得る世界の指導者」とみる。(後略)【5月25日 産経】
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ロシア・プーチン大統領の思惑はまた別機会に。

「ブレグジット」でEU統合は「逆回転」を起こし、「分裂」の危機も・・・ということですが、イギリス国内でもスコットランド独立問題が再燃し、イギリス分裂の危険性も高まることが懸念されています。

****スコットランドの独立運動、英「EU離脱」なら再燃****
23日に欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票を行う英国で、離脱になった場合の北部スコットランドの動きが注目されている。EU残留を望む住民の間で、約2年前にいったん白紙に戻ったスコットランド独立運動が再燃する可能性があるからだ。
 
「残留に票を投じたのに、英国全体の票でEUから離脱させられたら、スコットランド住民の多くは不公平だと思うだろう」
 
自治政府首席大臣を務める与党・スコットランド民族党(SNP)のニコラ・スタージョン党首は10日、ニュースサイト「バズフィード」などがロンドンで開いた若者との対話集会でこう述べた。

スコットランド住民の意に反して英国がEUを離脱すれば、独立を問う住民投票の再実施を求める機運が高まると示唆した。その上で「私はそのような経緯では独立したくはない」と述べ、英国全体が一致して残留を選ぶよう訴えた。
 
スコットランド住民は欧州への帰属意識が強く、EU残留を望む割合が英国全体に比べて高い。スコットランドでの最新の世論調査では、残留支持は51%、離脱支持は21%だった。【6月12日 朝日】
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もっとも、スコットランドとしても、EUが「ブレグジット」の引き起こす混乱を乗り切ることができたら・・・ということでしょうが。沈み行く船に命運を託す訳にはいきませんので。

イタリア レンツィ首相の「改革」を脅かす「五つ星運動」のポピュリズム
前出【産経】で、独仏、スペイン、スウェーデンで、イギリス同様の国民投票実施を求める意見が反対を上回ったとのことですが、調査対象となっていない国々でも似たり寄ったりでしょう。

で、イタリアの話です。

イタリアでは、イギリスのキャメロン首相同様に、レンツィ首相が上院改革を目指して国民投票の賭けに出ていることは、4月16日ブログ「イタリア 短命内閣・きめられない政治の元凶とも指摘される上院の改革で、改憲を問う国民投票へ」で取り上げました。

****<イタリア>10月に国民投票 首相「改憲否決なら引退*****
イタリアで第二次大戦後、最も大がかりな憲法改正の是非を問う国民投票を10月に控え、賛否両陣営の運動が本格化している。

改正の柱は「上院の定数・権限縮小」と「県の廃止」。国会と地方行政のスリム化が狙いで、構造改革に取り組むレンツィ首相(41)は「否決なら政界引退」と言明。一方、反対派は首相の権限が強化されかねないと反発を強めており、レンツィ氏の信任投票の性格が強まっている。(中略)
 
イタリア国会は欧州で唯一、上下両院が法案審議や内閣不信任決議などで同等の権限を持つ。第二次大戦後、各党が敵対陣営への権力集中を過度に警戒したためだ。そのため「政権樹立が困難になったり、法案審議に時間がかかったりする」と憲法学者のビンチェンツォ・リッポリス・ローマ国際大学教授(67)は弊害を指摘する。
 
改革案では上院定数を3分の1以下の100に削減。議員も公選でなく州議員・市町村長の代表と大統領による任命となる。上院の法案審議権は憲法関連法案に限定され、内閣不信任を決議できるのは下院だけとなる。
 
反対派には「首相が権限強化をもくろんでいる」との疑念が根強い。改革によって「1院制」に近くなり、政府に対するチェック機能が弱くなる恐れがあるためだ。

中道右派野党フォルツァ・イタリアは「改革はレンツィ氏の独裁的な動き」(ブルネッタ下院議員会長)と攻撃。憲法学者ら56人も公開書簡で「反対」を表明した。

地方行政では20の州と7999市町村の中間にある110の県が廃止される。また、これまで国と州で権限を分担していたエネルギー、交通・輸送などの基幹部門は国家の専権事項となる。【6月5日 毎日】
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10月の国民投票に賭けたレンツィ首相にとっても、イギリス国民投票で揺れるEUにとっても、好ましくない動きが。

****ローマ市長選、EUを批判の政党候補がトップに****
イタリアで5日地方選の投票が行われ、ローマ市長選は欧州連合(EU)に批判的な新興政党「五つ星運動」のビルジニア・ラッジ候補(37)がトップとなった。
 
19日に上位2候補による決選投票が行われる。欧州で大きなうねりとなっている反EUの波はイタリアにも及んでいる。
 
ローマでは昨秋、レンツィ首相率いる中道左派与党・民主党の市長が汚職で辞任。女性弁護士のラッジ氏は汚職根絶や公共サービスの改善を訴え、支持を広げた。9割の選挙区で開票が終了した時点で、ラッジ氏は約35%を得票。

民主党が推薦した下院議員のロベルト・ジャケッティ候補(55)が約25%で続いた。ラッジ氏が勝利すればレンツィ政権に大きな打撃となる。【6月6日 読売】
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「五つ星運動」のビルジニア・ラッジ候補が決選投票に進むであろうこと自体は、以前から予測されていたことですが、“ポピュリズム(大衆迎合主義)”とも評される「五つ星運動」の勢いは衰えていないようです。

「五つ星運動」はEUに批判的とは言え、フランスやオランダ・オーストリアなどの反EU・反移民極右政党とはまた異なる勢力です。

「五つ星」とは、“社会が守り抜くべき概念(発展・水資源・持続可能性のある交通・環境主義・インターネット社会)を指している”【ウィキペディア】とのことで、インターネットを極めて重視しており、候補者もネット予備選挙で選ばれます。党の方針もネット投票で決定されます。

****ヴィルジニア・ラッジ ローマ市長選候補****
「都民羨望」清廉女性が首都の顔に

六月のローマ市長選で、パリ市長に続いて欧州の首都に女性市長が誕生しそうだ。しかも、結党して七年の「五つ星運動」所属の三十七歳となれば、イタリア政治の地殻変動である。(中略)

「五つ星」のオンライン予備選で圧倒的な人気を得て、同党の市長選候補になった。

ラップの人気は、驚くほど単純な公約に秘密がある。市内の道路に「バス優先レーンを作ること」と、「ゴミをきちんと回収すること」である。(中略)

三つ目の公約である「汚職追放」は、ずっとハードルが高いものの、ラップは「まず、市長名義のクレジットカードをやめます」と公約した。辞職した前市長はカードで多額の飲食をし、約二百七十万円分をローマ市に返還した。(中略)
 
ローマ市は債務百二十億ユーロを抱え、国の支援がなければとっくに破産している状態だ。それなのに、二万五千人もの職員を抱えている。これは五倍の人目を擁する東京都(約一千三百万人)とばぼ同数。「大量の職員がずる休みをしていて、行政サービスは崩壊している」(前出邦人記者)という状態だ。しかも市行政は「首都マフィア」と呼ばれる、各種のボスに牛耳られている。
 
そんな市庁舎に乗り込んで、少しでも改革に着手できれば、「五つ星は批判するばかりで統治できない」という、マッテオ・レンツィ首相の批判を覆すことができる。ラッジが全国的な関心を集めるのもこのためだ。
 
イタリアでは大都市の市長が国政進出するケースが多く、レンツィ首相もフィレンツエ市長だった。二十一世紀にローマ市長を務めた四人のうち、二人が「首相候補」として国政選挙を戦った。

四十一歳のレンツイとラッジは早くも対抗意識が強く、首相の打ち出した「二〇二四年の夏季オリンピックをローマに誘致する」という構想に、ラッジは「この大都市には五輪より喫緊の問題が山ほどある」と「五輪反対」を明言した。
 
「五つ星」は一三年の総選挙で二五%を得票し、イタリア政界の地図を決定的に塗り替えた。今も支持率約三〇%で、来年にも行われると見られる総選挙は、民主党との一騎打ちになる模様だ。(後略)【選択 6月号】
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ラッジ候補が「五輪反対」を掲げていますので、レンツィ首相は8日、19日のローマ市長選決選投票でレンツィ氏率いる与党、民主党が敗北すれば、ローマの2024年夏季五輪招致を断念する可能性を示唆しています。

バス優先レーンとゴミ回収が公約になるのも、現状が惨憺たる状況にあることを示しており、五輪どころではないというラッジ候補の主張もわかります。

なお、ゴミについては、2008年~2011年にかけて、軍も投入されたナポリのゴミ問題が国際的にもニュースになりましたが、ナポリの場合はマフィアの利権が絡んでいました。

2014年の欧州議会選挙でレンツィ氏の民主党は40%の票を得て大勝しましたが、その得票率が今回の地方選挙では約30%にまで下がり、コメディアンのベッペ・グリッロ氏が創設したポピュリスト政党「五つ星運動」をわずかに超えるにとどまっています。

政策的にも、「五つ星運動」を意識した方向に流れているとの指摘もあります。

****レンツィ伊首相脅かす停滞とポピュリズム(フィナンシャル・タイムズ社説****
再び改革に熱意を

イタリアのレンツィ首相は経済改革で目に見える成果を上げ、欧州の指導者のなかでも高い信頼性とカリスマ性を誇ってきた。しかし首相就任から2年、欧州政治に広がるポピュリズム(大衆迎合主義)の波がレンツィ氏の中道左派政権を脅かしている。(中略)

イタリア国民の一部がレンツィ氏に幻滅を感じ、ポピュリズムの甘い声に誘われるようになっている理由は簡単に見て取れる。

イタリア経済は年率1%のペースで成長しているが、危機前のピークから大きく低落したままだ。多くの有権者が、政府は腐敗した政治エリートに対して手をこまぬいていると感じている。

ワンマンショーのような党運営に走るレンツィ氏の性向は、盟友に輝く機会を与えないとの強い批判を呼んでいる。

■ポピュリストの模倣になびく
レンツィ氏の支持者の間には、改革に対する一貫性のなさにも失望感が広がっている。首相就任初年のレンツィ氏は熱意を示し、機能不全の労働市場、煩雑な選挙法制、金融部門の一部の改革を行った。それが最近はポピュリストの模倣になびいている。その最たる例が、経済成長の促進におよそつながらない減税だ。(中略)

イタリア国民は、現在のレンツィ政権に代わるまっとうな選択肢がないことも認識する必要がある。中道右派勢力はベルルスコーニ元首相の失脚後、まとまれずにいる。

五つ星運動は、ユーロ離脱を国民投票にかけてイタリアを危険な道に引きずり込むだろう。国の債務が国内総生産(GDP)の132%に達するなか、そのような提議はイタリアとユーロ圏を危険にさらす。
 
2週間の統一地方選が終わった時点で、レンツィ氏は主導権を取り戻す必要がある。ポピュリズムの政策をさらに繰り出してグリッロ氏を出し抜こうとする衝動を自制しなければならない。レンツィ氏は、18年の総選挙までに経済成長を高めることを期して自らの改革プログラムを貫き通すべきだ。
 
その道を外れずに進むのは、たやすいことではない。しかし、レンツィ政権がイタリアに真の変革をもたらすことを確約するには、それ以外に道はない。(2016年6月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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上記はFTの考えですが、大衆の民意を政治に反映させる民主主義と、財政的裏付けや論理的一貫性などを無視して大衆に迎合した「ポピュリズム」の境目は判然としません。

「五つ星運動」が大衆迎合に終わるのか、インターネットを基盤とした新しい民主主義の道を切り開くのか・・・注目されるところです。

なお、中道右派政党フォルツァ・イタリアを率いるベルルスコーニ元首相(79)が、大動脈弁の不全のため、近く人工心臓弁に取りかえる手術を受けることが9日、わかったということで、イタリア政界の世代交代が更に進むようにも見えます。

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