孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ロシアが黙認するイスラエルの対イラン攻撃 クルド人勢力によって進む対IS掃討

2019-01-31 23:15:46 | 中東情勢

【IS・イラク・シリア・クルド情勢 坂本 on Twitter】

【イスラエル軍の攻撃を黙認するロシア】
アメリカのシリア撤退表明で「力の空白」が生じ、イスラエルがシリア領内のイラン・ヒズボラ施設への攻撃をあからさまに行うようになっており、両者の間での報復の応酬も懸念される状況にあるということは1月21日ブログ“シリア 米軍撤退による「力の空白」 IS自爆テロ、トルコ対クルド人勢力 イスラエル対イラン”で取り上げたところです。

このイスラエルの攻撃については、シリアに地対空ミサイル網を構築しているロシアは何をしているのか?という疑問も。

ネタニヤフ首相とプーチン大統領は頻繁に会談していますので、そこらはロシア・イスラエルの間で“話がついている”のでは・・・とも思われます。

ただそうなると、従来はアサド政権支持でロシアと協調関係にもあったイランにすれば、ロシアの対イスラエル宥和策は裏切り行為という話にもなります。もっとも、シリアにおけるロシア・イラン関係が疎遠になっているのでは・・・という話は、以前から指摘されているところでもあります。

****イラン関係者のロシアに対する非難の表明****
かなり前からシリアに対するロシアとイランの対応に齟齬があることは指摘されてきて、最近ロシアはむしろトルコやイスラエルと調整することが多いようですが、先日のIDFダマス周辺の、特にアルコドス部隊拠点への攻撃も、どうやら両者が調整し、ロシアから昨年供与された地対空ミサイルS300も稼働しなかった模様です。

このような場合でも、これまでイランは(少なくともアラビア語メディアを読んでいる限りでは)非難等の反応を示してきませんでしたが、今回は流石に怒りを表明した模様です。

これはal sharq al awsat net が報じるところで、イランお怒りの表明という題で、イラン議会の外交・安全保障委員長が、先日のIDFの空爆に際してS300地対空ミサイル網が、動かなかったことを非難したと報じています。

イラン通信irnaは、同委員長が先日のIDFの空爆の際に、S300地対空ミサイルシステムは動こうともしなかったと非難し、先日の攻撃の際には、攻撃側(IDF)とロシア防空陣との間に協調があったようだと語ったとのことです。

アサド政権軍がほぼ軍事的に勝利した現在、アサド支援という共通の目標を失い、ロシアとイランのシリアにおける利害は更に異なってくる可能性がありそうですが、したたかと言うか、外交の巧みなイランだけあって、上記のロシア非難も政府高官ではなく、議会の有力者の発言という形をとったものと思われ(ロシアが反発する場合には、「あれは政府の立場ではなく、一議員の発言にすぎない」とのたちあをとることができよう)、流石と思わせますが今後両者の関係は注目されるところです。【1月25日 「中東の窓」】
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一方、あまり話題になることはありませんが、シリア政府軍には中国もレーダーシステムなどを提供しているようで、イスラエルの攻撃でこの中国製レーダーが破壊されたことについて、中国は「ロシア製防衛システムが機能しなかったせいで、自国兵器の問題ではない」と怒っているようです。

****中国製ステルスレーダーがF35に破壊、「責任はわが方に無い」と中国メディア****
2019年1月29日、新浪軍事は、シリアで中国の対ステルスレーダーがイスラエルのF35I戦闘機に破壊されたことについて、「ロシア製の防御システムの問題だ」と主張した。

記事は「近頃、シリアが配備している中国製の対ステルスレーダーJY27が、イスラエルのF35Iに破壊されたことについて、国外メディアからJY27は『質の悪いパクリ品』との指摘が出ているが、本当にそうなのか」と疑問を提起。

その上で、JY27レーダーについて「シリア政府が2008年に中国から5基購入したもの。翌年には納品され、その後ロシアの介入によってシリアの防御体系の中に組み込まれ、ロシアのS400対空ミサイルシステムと共にシリアの防空網づくりに貢献した」と紹介し、その役割は主に遠距離探査であり、火器管制能力は持っていない上、セットとなる防空ミサイルも持っていないと指摘している。

そして、「イスラエルが発表した動画を見ると、JY27を守るべきロシアのパーンツィリS1近距離対空防御システムが先に破壊されているのが確認できる」とし、「JY27の探査能力がどんなに優れていても、これでは自らを守りようがなかった」と主張。JY27破壊の原因はパーンツィリS1の脆弱(ぜいじゃく)さにあるとした。

また、「国外メディアは見て見ぬふりをしているが、シリアはロシアの支援で大きな成果をあげたものの、防空圏については依然としてザル状態だ。しかも、F35Iの能力をもってすればパーンツィリS1は無力であることが動画からは見て取れる」と説明した。

記事は最後に「『中国が貿易した兵器はごみ、パクリ品』などといった国外メディアの報道はみな単なる脚色に過ぎないのである」と結論付けている。【1月31日 レコードチャイナ】
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中国が“ザル状態”と非難するシリアの防空システムについては、その運営責任がシリア政府軍にあるのか、ロシアにあるのかは知りませんが、イスラエル軍がパーンツィリS1を攻撃破壊したということは、パーンツィリS1はシリア政府軍が運用しているということなのでしょう。

そういうことであれば、「ロシア製の防御システムの問題」と言うより、シリア政府軍の能力の問題と思われます。

シリア政府軍が運用しているのであれば、以前、シリア政府軍は友軍・ロシア軍機をイスラエル軍機と誤って撃墜したことがあるように、敵味方の判別もつかない状態のようですので、イスラエル軍F35Iの敵ではないでしょう。

【甚大な犠牲をだしながらISを追い詰めるクルド人勢力 その思惑と今後は?】
シリアを舞台に繰り広げられている戦いの一つが上記のイスラエル対イランですが、もうひとつはトルコ対クルド人勢力の争い。こちらは、これまでクルド人勢力をIS掃討作戦に使ってきた一方で、今後の対IS掃討をトルコに任せるとしたアメリカ・トランプ政権がどのように調整するのかは判然としません。

****トルコ国境地帯の安全地帯に対するクルドの反対****
米軍のシリアからの撤退、に関連し、トルコは国境から30㎞の安全地帯の設置を米国等に打診していると伝えられますが、al arabiya net は、米国を訪問中のシリア民主軍の執行評議会議長は、29日トランプ大統領とも会談したとのことですが、トルコが提案している国境地帯の安全地帯と言うのは、トルコの植民地に他ならないとして、クルド勢力の拒否を表明したと報じています。

彼女は、トルコの言う30㎞の安全地帯は、クルド人を危険にさらすもので、妥協案があるとすれば、国連による国際的監視が必要になろうとした由。

彼女は更に、トルコが支配したafrin地域はそもそもクルド人居住地域であったが、トルコの保護を受ける反政府派がクルド人を追放したことを例に挙げ、トルコの言う安全地域とは、新たなトルコ植民地の創設に他ならないと主張した由。

更に、トルコとクルドの双方の同盟者である米国は双方が衝突することを恐れていて、仲介役を果たそうとしているが、それが成功するか否かは不明であるとした由(中略)

以上、特に米国の立場に関する見方は中々冷静と思われるも、トルコが国連の監視員を受け入れるとは思われませんが、取りあえず【1月30日 「中東の窓」】
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そのクルド人勢力は対IS掃討を今も継続しており、ISを最終段階にまで追い詰めたと表明しています。

*****IS支配地域は「残り4平方キロ」、クルド部隊司令官****
米国主導の有志連合の支援を受けてイスラム過激派組織「イスラム国」と戦うクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」の上級司令官は28日、ISの支配地域はシリア東部の4平方キロメートルにまで縮小していると述べた。
 
SDFは4か月余り前からIS最後の拠点に攻勢を掛けており、作戦は最終段階に入っている。

シリアのバグズでAFPの取材に応じたこの地域のSDF司令官ヘバル・ロニ氏は、ISは戦闘員が減少する中、イラク人を中心とする指揮官らの下でユーフラテス渓谷の集落数か所の支配を維持しようとしていると説明。「地理的に言えば、ISの支配地域はバグズからイラク国境までのわずか4平方キロしか残っていない」と述べた。
 
一方、同司令官は、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者の情報はないとした。同容疑者は生存しているとみられ、世界で最も行方が注目される指名手配犯となっている。
 
SDFの最高司令官は先週、AFPとのインタビューで、ISとの戦いは終了に近づいているものの、一帯を制圧して勝利宣言するには1か月ほどかかると述べていた。
 
在英NGO「シリア人権監視団」によると、この作戦が始まった昨年9月10日以降、IS側に1200人以上、SDF側にそのおよそ半数の犠牲者が出た。民間人の犠牲者は400人を超えており、その多くは米国主導の有志連合の空爆で死亡したという。【1月29日 AFP】AFPBB News
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ISはともかく、クルド人勢力主体のSDFも甚大な犠牲を出しながら対IS掃討作戦を行っている訳ですが、これは別にアメリカのためにやっている訳でもなく、クルド人勢力自身の勢力圏を拡大するためにやっていることでしょう。

冒頭の図でもわかるように、北東部の広範な地域を勢力圏として押さえています。

ただ、トルコとの関係が悪化し、戦闘状態ともなれば、そのクルド人側の目論見を齟齬をきたすことにもなります。
また、アメリカに代わってシリア政府軍を頼るということになれば、今度はアサド政権に対して、それなりの譲歩を示す必要も生じます。

どっちにしても、クルド人勢力が高度な自治権を獲得するのは難しそうです。

なお、対IS掃討に関しては、シャナハン米国防長官代行は29日、SDFがISの支配地域を「2週間以内」に完全制圧できるとの見通しを明らかにしています。

しかし、ISが面的支配を失ったとしても、その脅威がなくなるものでもありません。

****シリア民主軍等クルド人に対するテロの横行****
al arabiya net は、このところシリア民主軍の支配地域で、テロが横行しているが、犯人はISの休眠細胞と思われると報じています。

記事の要点次の通りですが、それにしても(その期間は不明ですが)、183名の戦闘員及び文民の暗殺というのは、すごく多く、まだ治安が安定していないことをうかがわせます。

・シリア人権監視網によると、最近ハサカの南部とデリゾルで、ISの残党によると思われるテロが横行しているところ、30日にもまたテロがあった

・一つはオートバイに乗った2人組の何者かが、デリゾルの道路障害物のところで、シリア民主軍兵士に銃撃をし、複数の負傷者がでた。犯人はISの休眠細胞と思われる由

もう一つはハサカの南部で、何者かが民主軍の制服を着て銃撃し、このため民主軍治安部隊兵士2名が死亡した由。

・このため、アレッポ、ハサカ、デリゾル、ラッカの4県とmanbijでの、テロの被害者は183名に上った由。
文民の死者は石油関連施設職員、行政関連職員、その他の住民である

・その他数十名が負傷し、また有志連合メンバー4名も死亡した由【1月31日 「中東の窓」】
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デリゾルは石油資源の豊富な一帯ですが、こうしたシリア奥深くまでトルコが入ってIS掃討を行うことは、能力的にも無理でしょうし、シリア政府が許すものでもないでしょう。

シリア政府軍も対IS掃討を行う能力・意思があるかは疑問です。となると、今後ともクルド人勢力に対ISは期待せざるを得ないということにもなります。しかし、対トルコ関係が悪化すると、クルド人勢力もISどころではなくなる・・・ということにも。


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