(ドイツ 政府がイスラエル寄りの姿勢を一貫して示していることに対して反発するデモ 【11月10日 NHK】)
【ドイツ ホロコーストへの反省、あるいは「負い目」から「イスラエルの安全はドイツの国是」】
ユダヤ人に対するホロコーストの歴史があるドイツがその責任を認めて、単に過去の反省・謝罪だけでなく、現在のイスラエルとの関係にもその影響は及んでいること、見方によっては“負い目”ともとれるような関係があることは11月3日ブログ“自国の負の歴史への向き合い方 イギリス、オランダ、ドイツ、フランス、そしてオーストラリアの場合”でもとりあげました。
****ハマス大規模テロ――なぜドイツはイスラエルを支持するのか****
(中略)2008年3月18日、メルケル首相(当時)は、クネセト(イスラエル議会)で約24分間にわたって演説した。イスラエルが建国60周年を迎えたことに敬意を表わすためである。(中略)
そして彼女は、「このドイツの歴史的な責任は、ドイツの国是の一部です。ドイツ首相である私にとって、イスラエルの安全を守ること、これは絶対に揺るがすことができません」と断言した。
この言葉によって、ドイツはイスラエルが紛争に巻き込まれた場合、原則としてイスラエル側に立つというメッセージを全世界に送った。(後略)【10月20日 新潮社Foresight】
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これを受けて、今回のイスラエル・ハマスの戦闘にあっても、10月8日にショルツ首相が発表した声明の中に、「イスラエルの安全を守ることは、ドイツの国是だ」という言葉があります。
****ナチスの犯罪に対する負い目****
ショルツ首相は、メルケル前首相の路線を継承して、ハマスによる大規模テロという危機的な事態において、イスラエル支持の姿勢を改めて打ち出した。ドイツのイスラエル寄りの姿勢の背景には、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺に対する「負い目」があるのだ。
(中略)ドイツ政府は、イスラエルに対する軍事支援にも踏み切る。ドイツ国防省の10月12日付の発表によると、同国のボリス・ピストリウス国防大臣は10月12日、「イスラエルからリースされている2機の「ヘロン」型ドローンを返還する他、軍事資材や医療物資も供与する」と語った。
同国の緑の党の議員たちの間からも、イスラエルに対して武器を供与するべきだという意見が出ている。同党のアンナレーナ・ベアボック外務大臣は、「イスラエルは自衛する権利がある」と語った。(後略)【同上】
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このドイツ政府の立場は今も変わっていません。
11月9日、「水晶の夜」として記憶される日から85年を迎えました。
「水晶の夜」は1938年11月9日から10日に、ナチスの扇動で全国のユダヤ人の商店やシナゴーグ(礼拝所)が焼き打ちに遭い、多くのユダヤ人が殺害された事件です。破壊された家々のガラスの破片が月明かりに輝いたことから名付けられました。その後のユダヤ人600万人が犠牲になったとされるホロコーストの前兆となった一夜でした。
****「二度と繰り返さない」 独首相、ユダヤ人保護表明*****
ドイツのオラフ・ショルツ首相は9日、イスラエルとイスラム組織ハマスの一連の衝突を受けて反ユダヤ主義が高まっている事態は「国辱」だとし、ユダヤ人の保護を表明した。
この日は1938年のユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年に当たり、ショルツ氏は、先月火炎瓶2本が投げ込まれたベルリンのシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で行われた追悼式典で演説した。(中略)
ショルツ氏は、「これは1945年以来、数十年にわたって(ドイツが)約束してきた『二度と繰り返さない』という誓いを守ることにほかならない」と主張。
「二度と繰り返さない」とは、ナチスの残虐行為の記憶を生かし続け、「テロのプロパガンダ」を拒否し、そして国民と移民に対して等しく、多様性と尊重を要求・保証するドイツの「自由で民主的な秩序」を確実に重んじるようにさせることだと続けた。
さらに、ドイツが過去に犯した罪の重さを考えると、国内における反ユダヤ主義の高まりは「国辱」であり、「憤慨し、深く恥じている」と述べた。 【11月11日 AFP】
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反ユダヤ主義を許さないというのは正しい主張ですが、それは国家としてのイスラエルの行動を支持するということとはまた別物であるとも思います。
しかし、ドイツはそうした過去の歴史体験を踏まえて、「イスラエルの安全はドイツの国是」という認識から、イスラエルの自衛権を制限する「停戦」に慎重な立場を取っており、国際関係におけるイスラエル支持という立場をとっています。
【ドイツの姿勢はEUの行動にも影響 アラブ諸国などからは批判 国民世論はガザ攻撃には否定的】
こうしたドイツの姿勢はEUの対応にも影響しています。
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(ドイツは)ガザ地区の民間人は守られるべきだという立場は示すものの、イスラエルにはハマスのテロ攻撃に対する自衛の権利があるとして、攻撃をやめることまでは求めてはいません。
そして、人道物資の搬入を目的とした戦闘の休止は支持していますが、国連などが求める人道目的での停戦については否定的な姿勢を示し続けています。
このドイツの姿勢はEU=ヨーロッパ連合の対応にも影響を与えていて、先月の首脳会議で加盟国には停戦を求める声もありましたが、最終的には人道目的の戦闘の休止を呼びかけるにとどまりました。【11月10日 NHK】
そして、人道物資の搬入を目的とした戦闘の休止は支持していますが、国連などが求める人道目的での停戦については否定的な姿勢を示し続けています。
このドイツの姿勢はEU=ヨーロッパ連合の対応にも影響を与えていて、先月の首脳会議で加盟国には停戦を求める声もありましたが、最終的には人道目的の戦闘の休止を呼びかけるにとどまりました。【11月10日 NHK】
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ドイツの反ユダヤ主義への強い姿勢・イスラエル支持姿勢はアラブ諸国などから批判を浴びています。
****国連でドイツに批判集中 ガザ紛争めぐる姿勢で****
国連人権理事会は9日、スイス・ジュネーブでドイツについての普遍的定期的審査(UPR)を実施した。イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区の紛争について、イスラエル支持を明確に打ち出す一方、国内でパレスチナ支持派の抗議活動を禁止するドイツの姿勢に対し、主にイスラム教国から非難が相次いだ。
UPRは国連加盟国(193か国)の人権状況を評価するもので、すべての国が4年ごとに審査を受ける。
ドイツは今回、断固として人権を尊重する姿勢を広く評価されたが、ガザ紛争をめぐる立場については異例ともいえる批判を浴びた。
エジプト代表のアハメド・モハラム氏は「パレスチナ人の権利に関して、ドイツが取っている好ましくない立場を深く遺憾に思う」と述べた。ヨルダン代表はドイツの「不均衡な立場」を非難した。
トルコはドイツに対し、「イスラエルが戦争犯罪や人道に対する罪に使用する可能性のある軍事物資や軍装備品の提供を停止する」よう求めた。
ドイツ連邦議会人権政策・人道支援委員長で、代表団長を務めるルイーズ・アムツベルク氏は「ドイツにとって、イスラエルの安全保障と生存権については交渉の余地がない」と述べ、イスラエルの自衛権を繰り返し擁護した。
ドイツのUPRが行われた9日は、1938年に同国で起きたユダヤ人迫害事件「水晶の夜」から85年目に当たる。(中略) アムツベルク氏はこの歴史を念頭に「ユダヤ人の生活を守ること、そして 『2度と繰り返さない』というわが国の誓いは譲れない」と主張。この1か月で急増している反ユダヤ主義的な行為について「ユダヤ人はもはや安全だとは感じていない」「これを受け入れることはできない」と懸念を表明した。
また「ドイツ国民はガザ、そしてパレスチナ自治区の民間人のことも当然憂慮している」と強調した。
イスラエル代表のアディ・ファルジョン氏は、「反ユダヤ主義の惨劇にドイツが向き合い、国内および多国間で講じている措置」を称賛した。
カタールの代表は「ドイツ国内でガザ住民を支持するデモの参加者に対する制裁などの措置」に懸念を表明。レバノン代表はドイツに対し、「自国民の表現と集会の自由をめぐる権利の尊重し、守る」よう求めた。
アムツベルク氏は「ドイツでは誰もが自由に意見を表明し、平和的にデモを行う権利がある」「(だが)犯罪行為に関しては制限がある。テロリズムを称賛すべきではない」と答えた。 【11月10日 AFP】
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もっとも、ドイツ国内においても国民世論はイスラエル支持では同調するものの、「停戦」に関しては政府の立場とはまた少し違うようです。
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有力紙ウェルトが先月中旬に行った世論調査では、政府がイスラエル寄りの姿勢を明確に示していることについて、▼66%が「正しい」▼16%が「正しくない」▼18%が「わからない」と答えました。
一方、公共放送ARDが先月下旬から今月上旬に行った最新の世論調査で、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で、「正当化できる」の25%を大きく上回り、イスラエルが続ける激しい攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。【11月10日 NHK】
一方、公共放送ARDが先月下旬から今月上旬に行った最新の世論調査で、市民の犠牲を伴うイスラエルの軍事行動についての意見を聞いたところ、「正当化できない」と答えた人が61%で、「正当化できる」の25%を大きく上回り、イスラエルが続ける激しい攻撃に懸念が広がっていることも伺えます。【11月10日 NHK】
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ドイツでは停戦などを求めるデモが相次いでおり、4日にベルリンであったデモには約9千人が参加しています。
【フランス 民間人の命を危険にさらすガザ攻撃には反対 欧州最多のイスラム教徒を抱える国内事情も】
一方、イスラエルのガザ攻撃に批判的姿勢を示しているのがフランス。
フランスは、10月27日に行われた国連での「敵対行為の停止につながる人道的休戦」を求める決議案において、イスラエル・アメリカの反対、日本や欧州諸国の棄権に対し、ロシア・中国・アラブ諸国などとともに賛成に回っています。
****仏マクロン大統領がイスラエル訪問 連帯示したうえで「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」****
フランスのマクロン大統領は24日、イスラム組織ハマスとの戦闘が続くイスラエルを訪問し、連帯を改めて示したうえで、ガザへの地上侵攻の準備が進む中、国際人道法の順守を求めました。(中略)
その後、ネタニヤフ首相と会談し、ハマスを「テロ集団」と非難。会見で「テロ組織の打倒が最優先事項だ」とイスラエルへの連帯を示しました。
そのうえで、シリアやイラクでの過激派組織「イスラム国」の掃討に向けた有志国連合の活動をハマスとの戦いにも広げることを提案しました。
一方で、「戦いに容赦はいらないが、ルールはある」と述べ、ガザへの攻撃において国際人道法を尊重することの重要性を指摘。また、「イスラエルの安全保障は、パレスチナ人との政治プロセスの再開なしに維持はできない」と和平交渉に向けた対応の必要性も訴えています。
マクロン大統領はこの後、ヨルダン川西岸のラマラでパレスチナ自治政府のアッバス議長とも会談しました。
その後の会見で、アッバス氏は「事態の悪化を招き、地域または世界を戦争に巻き込む軍事的な解決は受け入れられない」と停戦を要請。
一方のマクロン大統領は「ガザで起きていることは人道的な大惨事であり、ハマスとパレスチナの人々が同一視されるのは政治的な大惨事だ」と述べました。【10月25日 TBS NEWS DIG】
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マクロン大統領は(フランス外交の伝統にも沿って)独自の立場を主張し、仲介役として国際政治におけるフランスの存在感をアピールしたい思惑もあるようです。
****仏、ガザ病院支援へ船派遣 大統領「大規模介入誤り」****
フランスのマクロン大統領は25日、エジプトを訪問し、シシ大統領と会談した。マクロン氏は会談後の共同記者会見で、パレスチナ自治区ガザの病院に支援物資を届ける海軍の船を派遣すると明らかにした。
マクロン氏はエジプト出国前、イスラム組織ハマスを標的にした地上戦は認めるが「民間人の命を危険にさらす大規模介入は誤りだ」と述べ、イスラエルに人道的対応を求めた。
フランス海軍の船のほか、医療機器を積んだ航空機が26日にフランスからエジプトに到着し、ガザへの輸送を目指すという。マクロン氏は記者会見で「状況は深刻だ」と指摘した。【10月26日 共同】
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****仏大統領、即時の戦闘休止を要求 パリでガザ人道支援会議****
イスラエル軍による攻撃で民間人に多数の犠牲が出ているパレスチナ自治区ガザへの人道支援を協議する国際会議が9日、パリで開かれた。
会議を呼びかけたフランスのマクロン大統領は冒頭演説で、民間人を守るため即時の戦闘の「人道的休止」を要求、より長期の停戦に向けても努力するべきだと訴えた。
欧米や日本、中東諸国の閣僚級やEU、国連パレスチナ難民救済事業機関など計約80の国・組織の代表が出席した。イスラエルは招待されず、パレスチナから自治政府のシュタイエ首相が参加した。
マクロン氏はイスラエルに自国防衛権があると認めた上で「民間人は守らなければならない。交渉の余地がないことだ」と強調した。【11月9日 共同】
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ただ、「人道的な休戦」を強調するものの、イスラエルへの直接的な非難は避るということで、アラブ諸国などとは温度差があります。
****仏大統領、イスラエルに民間人への攻撃停止要求 「禍根」残す****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、イスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区の民間人を攻撃して多数の死者が出ている事態について、「正当性」はなく、「禍根」を残すだけだとして、停止するよう強く求めた。
マクロン氏はパリで行われた国際平和フォーラムの傍らで行われた英BBCのインタビューで、10月7日にパレスチナのイスラム組織ハマスの攻撃を受けたイスラエルの自衛権を認める一方、「乳児や女性、高齢者が爆撃を受け、殺害されている」「理由も正当性もない。イスラエルに対し停止するよう強く求める」と表明した。
マクロン氏は、10月7日のハマスによる前例のない越境攻撃について「(フランスは)明確に非難する」とも述べた。イスラエル当局によると、この攻撃で民間人を中心に1200人が死亡、240人が拉致された。(中略)
マクロン氏は「われわれは(イスラエルの)痛みを確かに共有している。テロを根絶したいという思いも間違いなく共有している」「フランスでテロリズムが何を意味するかも知っている」と述べる一方、それでも民間人に対する攻撃に「正当性はない」と強調。
「すべての命が重要だと認識」するのは「われわれ皆にとって極めて重要だ。われわれの原則だから、われわれは民主主義国だからだ」とし、「中長期的にも、イスラエルの安全保障にとっても重要だ」と訴えた。
「すべての命が重要だと認識」するのは「われわれ皆にとって極めて重要だ。われわれの原則だから、われわれは民主主義国だからだ」とし、「中長期的にも、イスラエルの安全保障にとっても重要だ」と訴えた。
イスラエルは国際法に違反しているかとの質問に対しては、「私は裁判官ではない。国家元首だ」と回答。国家元首としてはイスラエルと「パートナーや友人」でありたいとの考えを示した。
さらに、イスラエルが自国を守る最善手は「ガザへの大規模空爆」という考えには同意できないとした上で、こうした考えは中東に「禍根と反感」を残すだけだと述べた。 【11月11日 AFP】AFPBB News
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北アフリカからの移民が多いフランスは、イスラム教徒が人口の8.8%を占める(日本公安調査庁HP)と欧州でも最も高い割合となっていますので、他の欧米諸国に比べイスラエルに厳しい立場をとるというのは、そうした国内事情への配慮もあるのかも。
【フランス国内で反ユダヤ主義行為 ロシアの関与?】
そのフランス国内では、反ユダヤ主義的行為も目立つようになっています。
****パリの建物に「ダビデの星」落書き ユダヤ人をマークか パリ市が刑事告発****
フランス・パリでイスラエルの国旗に描かれている「ダビデの星」の落書きが各所で見つかり、パリ市は反ユダヤ主義的な行為だとして刑事告発しました。
パリで31日朝、建物にユダヤ教やユダヤ人の象徴とされ、イスラエルの国旗にも描かれている「ダビデの星」が落書きされているのが数十カ所でみつかりました。
「ダビデの星」を巡っては、第二次世界大戦中にナチスドイツがユダヤ人を迫害した際、目印のためにユダヤ人の服に黄色い星を縫い付けさせていました。
近隣住民:「ショッキングだし、心配です。(イスラエルとハマスが紛争中の)現在の状況を考えると、近隣のユダヤ人をマークしている気がする。危険です」
パリ市は「ダビデの星」の落書きが反ユダヤ主義的な行為だとして検察に刑事告発しました。【11月1日 テレ朝news】
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こうした動きへのロシアの関与を疑う向きもあるようです。
****仏、ロシアの「干渉」非難 ダビデの星の落書きで****
フランス外務省は9日、首都パリ市内の建物数十軒に「ダビデの星」が落書きされた問題で、ロシアが落書きの写真をインターネット上で拡散させ、内政に干渉したと非難した。
同省は声明で、ロシアのネットワーク「RRN/ドッペルゲンガー」が「国際的危機を悪用し、フランスおよび欧州に混乱の種をまき、公の議論に緊張を生み出す」狙いで、「ロシアの新たなデジタル干渉作戦」を遂行していると主張した。
RRN/ドッペルゲンガーはこれまでにも、フランスを標的にした偽情報キャンペーンを行ってきたとされる。
問題をめぐっては、モルドバ人2人が先週逮捕され、第三者の指示で落書きに及んだと供述。これを受け、予審判事が行為の意図を調査することになっている。
こうした動きから、フランス当局がロシアを念頭に調査を進めているとの臆測が広がっていた。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は9日の会見で、こうした非難は「ばかげた完全なナンセンスで、ただただ見苦しい」と反発。「フランスにおける反ユダヤ主義の拡大は国内に起因する問題ではないと見せ掛けようとする、フランス当局、もしくはその特殊部門によるもくろみだ」と批判した。 【翻訳編集】AFPBB News
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ホロコーストの歴史を持つドイツ、9%近いイスラム教徒を抱えるフランス・・・イスラエル・パレスチナへの関りは日本と比べるとはるかに強いものがあります。