孤帆の遠影碧空に尽き

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ウクライナ  戦局は膠着 ウクライナ内部の不協和音も 欧米には支援疲れ、関心低下で和平協議の声も

2023-11-05 23:06:24 | 欧州情勢

フォンデアライエン欧州委員長㊨とゼレンスキー・ウクライナ大統領(4日、キーウ)

欧州連合(EU)フォンデアライエン欧州委員長は4日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でゼレンスキー大統領と会談し、同国のEU加盟問題について協議した。フォンデアライエン氏は共同記者会見で「多くの成果があった」とウクライナの取り組みを評価。「改革が完了すれば、加盟プロセスの次の段階に進める」と述べた。
ゼレンスキー氏も会見で、EU加盟に向けて汚職対策の強化といった改革を進める考えを表明した。【11月4日 日経】

「支援疲れ」が広がる中でEUの結束、ウクライナ支援をアピールした形ですが、現実問題としては汚職まみれの国ウクライナのEU加盟には高いハードルがあります。

10月6日、スペイン南部グラナダで開催されたEU首脳会議では、フォンデアライエン欧州委員長は首脳会議後の記者会見で「加盟手続きは実力に基づき、近道はない」と。

EUのミシェル大統領は首脳会議前、ドイツ誌シュピーゲル(電子版)に、ウクライナの課題などが解決すれば「30年までに(ウクライナの加盟を)認めることは可能だ」との見通しを示したが、首脳宣言は時期について言及しなかった。【10月7日 産経より】

加盟が認められるにしても相当先の話です。 戦争後の復興対策にはなりますが。

【戦局は「膠着状態」】
ウクライナでは戦局が膠着し、ウクライナ軍の反転攻勢は夏以降ほとんど前進が見られていません。

****ロシア軍の防衛線・人海戦術に苦戦、拠点都市の奪還進まず…ウクライナの反転攻勢5か月****
ウクライナ軍がロシアに占領された南・東部の領土奪還を目指す大規模な反転攻勢の着手から4日で5か月となる。

ウクライナ軍は主戦場と位置付ける南部ザポリージャ州一帯の戦線で、露軍の防衛線と人海戦術に手を焼き、戦況は膠着こうちゃく状態に陥っている。

東部では露軍が犠牲をいとわぬ攻勢に転じ、反攻の阻害要因になっている。

ウクライナ軍は2日、ザポリージャ州の補給拠点都市メリトポリ方面で「敵の人員と装備に損害を与えた」と発表し戦果を強調した。

ただ、ウクライナ軍の足踏みは長期化している。ウクライナ軍が反攻でメリトポリ奪還の起点から約15キロ・メートル南方のロボティネに到達したのは8月だ。それ以降、ほとんど前進できていない。ロボティネからメリトポリまで約75キロ・メートルある。

ウクライナ軍の反攻は、ロシアが一方的に併合した南部クリミアと露本土の間にある拠点都市を奪還し、クリミアを孤立させる狙いだったが、年内の実現は不可能な情勢だ。露軍がウクライナ領の約17%を占領している状況は5か月前からほぼ変化がない。

ウクライナ軍のワレリー・ザルジニー総司令官は、英誌エコノミストとの最近のインタビューで、戦況が「膠着状態にある」と述べた。総司令官が率直に苦境を認めたのは、米欧から迅速に高性能兵器の支援を受けなければ戦局を打開できないとの危機感があるためとみられる。

ウクライナ軍は10月中旬以降、南部ヘルソン州ドニプロ川東岸の露軍占領地域への渡河作戦を実施して、拠点を維持しているとみられるが露軍は抵抗している。

対する露軍は10月10日頃から東部ドネツク州アウディーイウカで攻勢に出ている。ウクライナ軍は一帯での露軍側の死傷者が5000人を超えたと主張する。露軍の損失は記録的な水準に拡大しているとされるが、露軍は部隊の追加投入を続けている。露軍がプーチン大統領の出馬が有力視される来年3月予定の大統領選に向け「戦果」を得ようとしているとの見方が根強い。

英国防省は、露軍による巡航ミサイルを使った攻撃が減少している点に注目し、ウクライナのエネルギー施設を攻撃するため温存している可能性があるとの見方を示している。【11月3日 読売】
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【ウクライナ政権内部、軍との関係で不協和音】
ウクライナにとって懸念されるのは、戦線が膠着状態にあることによって、国内的な不協和音が表面化してきていること。
そして、国際的には「支援疲れ」が進行し、ロシア軍の領土支配を許した状況で和平協議を求める声が強まることです。

上記記事でウクライナ軍のザルジニー総司令官が「膠着状態にある」と述べたありますが、ゼレンスキー大統領は「膠着状態ではない」と否定しています。

****ウクライナ政権と軍に不協和音 大統領、求心力低下を警戒****
ロシアの侵攻を受けるウクライナの政権と軍の間で、対外発信や幹部人事に関して不協和音が生じている。十分な意思疎通を欠いていることがうかがわれ、失態が続けば政権の求心力低下につながる恐れもある。ゼレンスキー大統領は神経をとがらせているとみられる。

ウクライナ軍のザルジニー総司令官は英誌エコノミストへの1日の寄稿で「戦争は新たな段階に入りつつある。第1次世界大戦のような、変化の少ない消耗戦だ」と述べ、ロシアに有利な状況が生まれていると指摘した。

この発言について、大統領府高官はウクライナメディアに「私が軍にいたら、前線で起きていることや今後の選択肢について報道機関に話したりしない」とけん制。軍最高司令官を兼ねるゼレンスキー氏も4日の記者会見で「膠着状態ではない」と述べ、ザルジニー氏の戦況分析を否定する形となった。

ゼレンスキー氏が3日発表した特殊作戦軍の司令官人事では、交代となった前司令官が「理由が分からない。報道で(交代を)知った」と暴露した。【11月5日 共同】
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客観的に見て「膠着状態」にあるのは否定しようがないように思われますが、これを認めないゼレンスキー大統領及びその周辺には「焦り」「苛立ち」みたいなものも感じられます。

一般に、勢いがあるときは多少の対立は隠されますが、事態がうまくいかなくなると内部の不協和音も表面化してきます。

****ゼレンスキー政権内不和か 米誌タイム報道、波紋広がる****
ウクライナのゼレンスキー大統領が対ロシア戦勝利に固執し、新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているとの匿名の政権高官発言を米誌タイムが報じ、波紋を広げている。

侵攻が長期化し、国際社会の支援継続が不透明さを増す中、政権内部の不和を示唆する内容。側近は火消しや発言者捜しに躍起になっている。

記事は10月30日に公開された「ゼレンスキーの孤独な戦い」。ロシアやウクライナでの取材経験が豊富な記者によるゼレンスキー氏本人や複数の政権関係者へのインタビューを基にしている。

ゼレンスキー氏は「私ほど勝利を信じている人間は誰もいない」と訴えたが、側近の一人は「大統領の頑固さが、戦略や方向性を示そうとする政権の努力に水を差している」と指摘。全土奪還にこだわるゼレンスキー氏に早期の停戦交渉入りを持ちかけることはタブー視されているという。

また、ある高官は、侵攻当初に作戦会議で冗談を飛ばし周囲を和ませていたゼレンスキー氏が、最近は報告を聞き命令を出すと、すぐ退室するようになったと明かした。【11月3日 共同】
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新たな戦略や方向性を打ち出すのが難しくなっているかどうかはわかりませんが、そういう話が漏れてくるあたりに“うまくいっていない状態”がうかがえます。

【欧米で拡大する「支援疲れ」】
国際支援が生命線のウクライナにとって、関係国の「支援疲れ」は死活的に重大な事態です。そうした「支援疲れ」を表面化させないためにも反転攻勢で明確な成果が欲しかったところですが、それが出来ない。そうしたことへの「苛立ち」が上記の不協和音にもなるのでしょう。

アメリカでは共和党主導の下院の予算審議でウクライナ支援を除外する案が可決されています。

****米議会、イスラエル支援の予算審議難航 ウクライナ除外、政権は反発****
米連邦議会ででイスラエル、ウクライナ支援を巡る予算審議が難航している。バイデン大統領が両国への支援を盛り込んだパッケージ型の予算を求めたのに対し、野党・共和党がウクライナ支援を除外し、直接関係のない歳出削減までも意図した法案を下院で可決させたためだ。与野党対立が激しさを増し、両国支援のあり方に影響を及ぼしている。(中略)

法案を主導したのは、10月下旬にマッカーシー前下院議長の後任に決まったジョンソン議長(共和党)。(中略)
下院案は、共和党の一部の保守強硬派が反対するウクライナへの軍事支援も盛り込まなかった。市民が戦闘に巻き込まれているパレスチナ自治区ガザ地区への人道支援も除外した。

上院民主党トップのシューマー院内総務は、「ひどい欠陥のある提案だ」と述べ、下院案を上院では審議しない考えを示した。バイデン氏も拒否権を発動する考えを示している。

(中略)ウクライナ支援と一体化させた法案でなければバイデン氏が認めない可能性が高く、調整は難航必至だ。【11月4日 毎日】
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パッケージにしないとウクライナ支援単独では議会承認が難しい・・・というのもアメリカの実態です。

イタリアでは偽電話でメローニ首相が「本音」を吐露

****ウクライナ戦争「みんな疲れている」 メローニ伊首相が偽電話で「本音」ポロリ****
ロシアの侵略が続くウクライナ情勢を巡り、イタリアのメローニ首相が「みんなが疲れている」と欧州の「本音」を漏らした音声会話がインターネット上に流出した。アフリカ首脳を装ったロシア人コメディアンのいたずら電話で語ったもので、伊首相府は1日、偽電話の被害にあったことを認めた。

メローニ氏は会話の中で、ロシアに対するウクライナの反攻は「期待したようにいかないだろう。紛争の行方を変えなかった」と発言。「解決策を見つけないと(紛争は)何年も続くとみんなが気づいている」として、調停の必要性に触れた。

国営イタリア放送協会(RAI)によると、首相府は会話は9月18日のもので、アフリカ連合(AU)首脳を装った偽電話だったと説明した。ロシア人は「ボバンとレクサス」の名前で知られる2人組で、これまでにカナダのトルドー首相、ポーランドのドゥダ大統領らが偽電話の被害にあっている。【10月2日 産経】
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【国際的関心は中東へ】
ウクライナ・ゼレンスキー大統領にとっては、国際的関心がイスラエル・ハマスの戦闘に移ってしまっていることも不運と言えば不運。ただ、常に新たな出来事は起こりますので・・・

****「中東に注目移っている」 ゼレンスキー氏、関心低下に懸念****
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘に関して「中東での戦争に(世界の)注目が移っているのは明らかだ」と述べ、ロシアのウクライナ侵攻への関心低下に懸念を示した。首都キーウ(キエフ)を訪問した欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長との共同記者会見で語った。英BBC放送が報じた。

報道によると、会見でゼレンスキー氏は、ウクライナ情勢への関心低下は「ロシアの狙いの一つだ」と指摘した。

一方、ウクライナ軍のザルジニー総司令官が英誌エコノミストへのインタビューで戦況の「行き詰まり」を認めたことへの見解を問われ、ゼレンスキー氏は「誰もが疲弊しており、異なる意見もある。しかし、現況は『行き詰まり』ではない」と訴えた。

また、米欧の当局者がウクライナ政府に対し、ロシアとの和平協議に関する議論を持ちかけたとする米NBCの報道にも言及し、「ロシアとの交渉の席に着くよう圧力をかけている米欧の指導者はいない。こんなことは起きない」と否定した。

ロシアは2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始した。ウクライナは23年6月から南部ザポロジエ州などで反転攻勢を始めたが、ロシアによる3段構えの防御線の一つ目を一部で突破するにとどまっている。一方、ロシアが10月から東部ドネツク州で仕掛けた攻勢も、大きくは進展していない。【11月5日 毎日】
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【欧米からは和平協議の声も 譲らないロシア ウクライナにとっては難しい判断】
上記記事にあるように、戦局の膠着、支援疲れ、関心の低下を受けて欧米はウクライナにロシアとの和平協議を持ちかけたとの報道があります。

****欧米当局者、ウクライナに停戦交渉の可能性について協議もちかけ “何を諦めるか”大まかな概要含む 米NBC報道****
ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、さらに、中東情勢の緊迫化で関心も低下する中、アメリカのNBCは4日、アメリカ政府高官らの話として、欧米の当局者がウクライナに対し、ロシアとの停戦交渉の可能性について協議をもちかけていたと報じました。

NBCによりますと、この中には停戦のために、ウクライナが何を諦めなければいけないか、大まかな概要が含まれていたとしています。

協議の一部は、先月開かれたウクライナ支援のための会合で行われたということです。

ロイター通信によりますと、この報道に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、今はロシアと停戦について交渉するときではないという姿勢を改めて示しました。【11月5日 日テレNEWS】
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“NATO=北大西洋条約機構がウクライナの安全保障に関与することで、ロシアによる再侵攻を抑止する案も浮上しているとされる”【11月5日 FNNプライムオンライン】

ただ、和平協議と言ってもよほどの事がない限りロシアは今の支配地域を放棄はしないでしょう。ウクライナ・ゼレンスキー大統領が現状を呑むのも難しいところ。

なお、ロシアでは一定に戦争停止を求める世論もありますが、領土の返還を条件とした戦争の停止は、例えプーチン大統領の決定があったとしても支持されていません。

****ウクライナ戦争の停止、露国民7割が支持 露世論調査****
「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止を決めた場合、その決定を支持するか」とロシア国民に尋ねたところ、70%が「決定を支持する」と回答したことが、露独立系機関「レバダ・センター」の10月の世論調査で分かった。プーチン政権は従来、「国民の大多数がウクライナでの軍事作戦を支持している」と主張してきたが、今回の調査結果は露国民内での厭戦(えんせん)機運の高まりを示唆した。

レバダ・センターは10月19〜25日、18歳以上の露国民約1600人を対象に世論調査を実施。結果を31日に公表した。

それによると、冒頭の質問に対し、37%が「完全に支持する」と回答。「おおむね支持する」とした33%を合わせると計70%が戦争停止を支持した。一方、「あまり支持しない」は9%、「全く支持しない」は12%で、9%は「回答困難」とした。

レバダ・センターは同時に「仮にプーチン大統領がウクライナとの戦争停止と、併合したウクライナ領土の返還を決めた場合、その決定を支持するか」との質問でも世論調査を実施。

この質問形式の場合、「完全に支持する」「おおむね支持する」とした回答者の割合は計34%まで低下した。反対に「あまり支持しない」「全く支持しない」との回答は計57%に上った。残りは「回答困難」だった。

半数超の露国民が領土の返還を条件とした戦争の停止は支持できないと考えていることが明らかになった形だ。【11月2日 産経】
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ウクライナ、ロシアのどちらが譲歩するのか・・・どちらも譲歩せず膠着状態が続くのか・・・どこまで欧米はウクライナを支援するのか・・・いろいろと難しい判断を要する時期にさしかかっています。
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