(【5月14日 ロイター】 互いに称え合うオルバン・トランプ両氏)
【「非自由民主主義」を掲げEU批判の急先ぽうに立つオルバン首相】
ほとんど話題にもなりませんでしたが、今月初めにハンガリーのオルバン首相が来日しました。
安倍首相はオルバン首相との会談で“ハンガリーが推進する質の高い経済発展を後押しし続けていく”【12月6日 日経】と・・・・・ただ、これまでも再三取り上げてきたように、ハンガリーはEU内にあって、ポーランドと並んで難民政策や温暖化対策などでEU指導部に批判的な立場です。
それは単に難民政策などにとどまらず、西欧的「自由主義的民主主義」への評価にもおよび、オルバン首相は強権支配で民族主義を重視する「非自由民主主義」を主張。具体的にはロシアや中国的なモデルを念頭に置いているとも指摘されています。
****シリーズ「揺れるEUの結束」(2)ハンガリー ~EU批判の急先ぽうオルバン政権「安定」の裏~****
「あなたもブリュッセル(EU本部)が何をたくらんでいるのか、知る権利がある」これは、ハンガリーのオルバン首相が、反EU・難民の受け入れ拒否のキャンペーンで打ち出したキャッチフレーズです。
とりわけ標的にしたのがEUのユンケル委員長。オルバン政権は、「ユンケル氏が難民をヨーロッパに引き入れている」と中傷を繰り返しました。
当然、ユンケル氏は激怒。今年3月、ヨーロッパ議会の最大会派で中道右派の「ヨーロッパ人民党」は、オルバン首相の率いる「フィデス・ハンガリー市民同盟」に対して、会派での資格を停止するという処分を決めました。(中略)
EUへの憧れと失望
ハンガリーは、ソビエトの影響下で社会主義体制が長かった国です。ソビエト崩壊後に市場経済に転じ、2004年に念願のEU加盟を果たした時、国民は発展への道が開けたと確信しました。
しかし、現在、EUに加盟する28か国の平均賃金を比較しますと、ハンガリーはEU平均の3分の1という低水準。低賃金を生かした工場誘致も思うように進んでいません。その結果、人口の推移をみますと、EU加盟後も人が減り続けているのです。
首都ブダペストに行ってみると、新しい道路や橋といったインフラから小児科病院などまで、EUからの財政支援で数多くの施設が整備されたことを示す看板が目につきました。間違いなく、EU加盟の恩恵にはあずかっています。
しかし、5月1日、加盟を祝って毎年開かれているという行進を取材したところ、去年は約3000人が参加したものの、今年はその10分の1ほど。盛り上がりに欠けていました。
市民からも、「発展は期待したほどではなかった」、「もうEUから出て行った方がいい」といった声が多く聞かれました。加盟から15年がたち、失望している人も多いようです。
EUの共通政策、その功罪
不満の背景には何があるのか。ブダペストから車で2時間ほど、過疎化が進む農村部に向かいました。プスタメルゲシュという村で見かけたのは高齢者ばかり。
ヨーゼフ・カルマ―さん
生まれた時から村に暮らしているというヨーゼフ・カルマ―さん(66)は、4人の子どものうち、長女はイギリス、長男はオーストリアへとよりよい生活を求めて国を出たと話してくれました。妻のマルギットさんは、「ここには、みんな戻ってこないでしょう」と寂しげにつぶやきました。
ハンガリーでは、有名なワインの生産地として栄えたこの村ですが、EU加盟によってフランスやドイツなどのワイン生産地との厳しい競争にさらされました。
さらに、EUが掲げたワインの減産政策に応じて、村では補償金をもらってぶどうの栽培をやめる農家が続出しました。この結果、ぶどう畑の面積はピーク時の4分の1にまで減ったといいます。
EU全体でのワイン生産量を抑えて、価格を維持するのが狙いだったのでしょうが、共通政策は、各国、各地域まで全て効果がある万能薬ではなかったのです。
ハンガリー・オルバン首相
過疎化が進んだという現実など、EUに対する強い不満を吸い上げることでオルバン首相は支持を拡大しました。とくに首相がやり玉に挙げるのが、難民や移民の問題。
4年前に40万人を超える難民らがハンガリーに流入して混乱が起きたことから、首相は、ことあるごとに「ヨーロッパは侵略されるのに、EUは守ってくれない」などと痛烈に批判します。EUは、加盟国で分担して難民を受け入れる制度を決めていますが、ハンガリーは分担を拒否し続けています。
難民がかつて流入したセルビアとの国境地帯に行くと、高圧の電流が流れている2重のフェンスがありました。全長500キロにも及ぶこのフェンスは、難民への強い不安を背景に、オルバン首相の人気向上に大いに貢献したといいます。
実は、現在では、国境を越えようとする難民や移民は、ほとんどいません。それでも、オルバン政権は、「またいつやって来るか分からない」とあおり、厳重な警備を続けています。
政権の安定の裏では腐敗も
反EUの姿勢が功を奏して政権基盤は安定しているオルバン首相ですが、その陰で腐敗と強権政治が進んでいるという指摘が絶えません。
その象徴が、首相の側近の1人、ルーリンツ・メイサロシュ氏。かつてメイサロシュ氏はガス管工事を行う小さな会社を営んでいるに過ぎませんでした。
しかし、同郷のオルバン首相の自宅で配管工事を請け負ったことで、一大転機が訪れます。首相の後押しを受けて町長に就任。それとともに、個人資産が急速に膨れあがっていったのです。(中略)アメリカの経済誌「フォーブス」は、メイサロシュ氏の総資産は日本円で1100億円を超えたと報じています。その富の源泉は、公共工事の受注です。
ブダペストに建設される国立競技場の建設など、この4年で2700億円分の工事を請け負ったとみられているのです。さらに、メイサロシュ氏は大手銀行や電力会社などを次々に買収しています。ほぼすべての産業にわたり、300社以上を手中に収めたとされます。
オルバン首相が、自分の息のかかったメイサロシュ氏にカネを流しているとみられる構図。その実態を調べているNGOのレダラー代表は、「オルバン首相は50年先のことを見据え、友人にカネを流して経済界で強大な権力を握ることで、自分が首相から退任しても、自分しか国を運営できないように、国の構造を変えようとしている」と分析します。つまり、「院政」を考えているのだと。
批判も封じ込め
ハンガリーでのこうした疑惑の数々も、メディアが相次いでオルバン首相の側近に買収されたために、批判はさして盛り上がっていません。
政権を追及してきた大手新聞社は、3年前にメイサロシュ氏の企業に買収され、政府に批判的な記事を書いてきた記者たちは、全員解雇されました。
専門家は、ハンガリーのメディアの大半が「御用メディア」と化したと指摘します。
司法当局の要職も、首相率いる与党の関係者がほぼ独占し、さらに、政権が憲法や法律を次々と改正したために、そもそも、首相は訴追されない状況を作り出したといいます
元閣僚は、オルバン政権について、「ヨーロッパで最も安定した政権となるための手段を全て握ってしまった」と嘆きます
さすがに看過できないとして、EUは、ハンガリーに制裁を科すことを可能にする手続きを開始していますが、全加盟国の同意は得られない見通し。オルバン首相のEU批判が収まることは、当分、なさそうです。
ブダペストの人たちにマイクを向けたところ、多くの人がオルバン首相を支持していると答える中、「普段は国外で暮らしている」というハンガリー人は、概して、首相に批判的なことが印象に残りました。
オルバン政権が国内のメディアを掌握しても、外国メディアは政権の問題点を遠慮なく伝えていることの表れでしょう。メディアの独立性がいかに重要か、日本から遠く離れた中欧で改めて認識した次第です。【5月20日 NHK】
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【互いに称え合うオルバン首相とトランプ大統領】
強硬な難民政策で支持を集め、メディアの批判を封じ込め、非リベラル的強権支配で政権基盤を固めるオルバン首相は、アメリカ・トランプ大統領とは非常にウマが合うようで、トランプ大統領はオルバン首相を高く評価しています。
****トランプ氏がハンガリー首相を称賛、強硬な移民政策に親近感****
トランプ米大統領は(5月)13日、首脳会談のためにホワイトハウスを訪れたハンガリーのオルバン首相を歓待し、自身と共通するオルバン氏の強硬な移民政策を高く評価した。
トランプ氏はオルバン氏について「恐らく私と同じように少しばかり議論を巻き起こしがちだが、問題はない。素晴らしい仕事をしてハンガリーを安全に保っている」と称賛。
オルバン氏がハンガリーの民主主義の基盤を弱めているのではないかと質問されても「私は彼がタフな男だと分かっているが、彼は尊敬を集めている人物だ」と語り、そうした懸念を一蹴した。
さらに「彼は移民問題で多くの人々(の要望)に応じて正しいことをしている」と明言した。
オルバン氏はナショナリストで、これまでしばしば反移民の姿勢や司法改革を巡って欧州連合(EU)と衝突し、米国のオバマ前政権とも対立してきた。ただトランプ氏はメキシコ国境沿いの壁建設を打ち出すなど移民問題では強硬なため、オルバン氏に親しみを持っているようだ。
オルバン氏も不法移民対策などで米国と同じ立場に立っていることを誇りに思うと発言。また自身の政権が何度も選挙を経てきた点を強調。「国民の国民による国民のための政治、これこそがハンガリー政府の土台になっている」と述べ、政策の正当性を訴えた。【5月14日 ロイター】
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【ポピュリスト・オルバンを支える地方の不満】
選挙に強い、国民の支持を得ているというのがオルバン首相やトランプ大統領の自信にもなっていますが、それは排外主義・民族主義を煽るポピュリストとしての性格がなせるものでもでもあります。
****浜矩子「ポピュリストたちの排外主義と戦う、自由都市の4人組にエールを」****
「ヴィシェグラード4」というグループがある。東欧の四つの国々の集まりだ。チェコ共和国、ポーランド、ハンガリー、スロバキアの顔ぶれである。1991年に結成された。
ヴィシェグラードはハンガリーの古都だ。ここで、1335年に当時のボヘミア・ポーランド・ハンガリーの3カ国が会議を開いた。現代のヴィシェグラード組も、それにならって結成場所を選んだ。この現代版ヴィシェグラード組に異変が起きている。
4カ国は、いずれもEU加盟国だ。だが、いずれの国でも、右翼排外主義タイプの政治家たちが「愛国」の反旗を翻して、人々のEU離れを煽り立てている。
彼らには、西欧型民主主義のお仕着せが気に食わない。司法の独立や言論の自由をもみ消そうとする。移民難民を排斥する。イスラム教徒を差別する。国粋主義の暗雲がヴィシェグラード4の空に垂れこめている。
それに対して、もう一つのヴィシェグラード組が抵抗ののろしを上げた。4カ国それぞれの首都の知事さんたちである。チェコのプラハ、ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペスト、スロバキアのブラティスラヴァ。これらの4都市は「自由都市協定」を結ぶ。4人の知事さんたちがそう宣言した。
彼らは高らかにうたい上げる。ポピュリストたちの排外主義には従わない。民主主義を守り抜く。言論の自由を確保する。国の方針がどうあれ、我ら自由都市グループは法の支配を尊重していく。人権を擁護し、多様性と包摂性を尊重する。独裁体制には屈しない。
素晴らしいことだ。彼らの勇気と魂の健やかさに心から敬意を表する。だが、気になることが一つある。自由都市の4人組がその旗印を高く大きく掲げれば掲げるほど、彼らと地方都市の住人たちとの間に溝が出来てしまうことにならないか。
いずれの国でも、ポピュリスト政治への支持は地方において高い。都市部のエリート族に何が分かるか。あなたたちの辛さは我らが一番よく知っている。国粋主義者たちの魔のささやきが、深く強く人々の心にしみとおってしまわないだろうか。そうならないことを祈りつつ、自由都市の4人組にエールを送る。【12月26日 AERAdot.】
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前出【NHK】にあるような地方ワイン農家の不満などを、オルバン首相はEU批判で巧みにすくい上げています。
トランプ大統領も同様です。
【政策よりアイデンティティー】
政策の内容より、国民の多くが共感しやすいアイデンティティーに訴えることで求心力を高めていきます。
****冷戦後30年、世界はいま 強権政治がモデル化、民主主義脅かす****
(中略)
■行き詰まりの象徴?
不安をあおるポピュリズムは、社会の変化が大きいほど支持も集めやすい。旧東欧諸国がその舞台となったのも、急激な民主化と市場経済の波に洗われ、近年は人口減や難民危機に苦しんだからだった。
ポーランドでは保守政党「法と正義」の政権が司法や報道への介入を強化。チェコやブルガリアの政権も強権的な姿勢をとる。中でも、権威的ポピュリズムを体現するといわれるのが、ハンガリーのオルバン政権だ。
ベルリンの壁が崩壊する前年の1988年、ハンガリーで社会主義体制に批判的な若者らが、政治団体「フィデス」を立ち上げた。その運動を主導した一人がオルバン・ビクトル氏。2010年に首相に返り咲いた同氏は、多数派の支持を背景に憲法裁判所の弱体化、メディア規制、大学への介入などを進める。(中略)
民主化の闘士から、強権的ポピュリスト政治家へ。オルバン氏の変節ぶりは、民主主義の行き詰まりを象徴するように見える。
もっとも、支持者にとっては逆に、同氏は首尾一貫して国家統合に向け奮闘する人物と映る。かつてはソ連、今はグローバル化やEUと、闘う相手が代わっただけだ。
民主化後、ハンガリーは他の旧東欧諸国と同様に欧米の政治経済や生活のモデルを追い求めた。その結果、それなりの自由と繁栄を得たものの、多額の対外債務を背負うことになった。若者たちは大挙して旧西欧に流出した。
「首相になったオルバンは、人々のこうした意識を変えようと試みました。ハンガリーの生活スタイルと伝統、キリスト教に基づいたアイデンティティーを確立しようとしたのです」
ブダペスト・コルビヌス大学のランチ・アンドラス学長(63)はこう説明し、同氏の手法を擁護する。
■暴走の危険をはらむ
ただ、多数派のアイデンティティーから外れる人々は疎外される。少数民族ロマ人を支援するエトベシュ・ロラーンド大学(ブダペスト大学)のマイテニ・バラジュ政治国際研究所長(46)は「彼らを社会的に排除する傾向が強まり、民主化以前よりも状況は悪化している」と危機感を抱く。
人々がアイデンティティーを通じて国家や社会に帰属意識を持つこと自体は、決して悪いことではない。アイデンティティーの共有は、対立や格差を時に和らげる。
一方で、東西冷戦や上下格差とは異なる分断をもたらすこともある。英国では、EU離脱派の間でイングランド人としての意識が高まった結果、そうした発想についていけない残留派との溝が修復不可能なレベルに広がった。
選挙そのものも今や、政策よりもアイデンティティーに左右される。それは、民主主義への信頼を低下させることにもなっている。
宗教や民族に依拠するアイデンティティーが制御を失い、紛争や虐殺に発展した例も、枚挙にいとまがない。ポピュリズムがもてあそぶアイデンティティーも、いつか暴走を始めないか。私たちは今、冷戦時代以上に複雑で予想しにくい世界にいるのかも知れない。【12月16日 ヨーロッパ総局長・国末憲人 朝日】
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【「大ハンガリー主義」】
オルバン首相が重視するのが他国に住むハンガリー系住民の支援。
****「非自由民主主義」掲げるハンガリー首相の狙いは*****
(中略)首相に就任したオルバン氏は選挙結果を「投票所革命」と呼び、新しい国造りに着手した。第二次大戦後に旧ソ連が導入した共産主義、そして冷戦終結後、西欧が導入した自由、平等などを重視する民主主義の価値観をともに否定。強権支配で、民族主義を重視する第三の道に進んだ。オルバン氏はそれを「非自由民主主義」と呼ぶ。
オルバン氏が真っ先に取り組んだのは、他国に住むハンガリー系住民の支援だった。
オーストリアなどに支配されながら数百年間、広大な領土を維持したハンガリー。だが第一次大戦の敗北で領土の5分の3を失い、ハンガリー系住民約1500万人のうち、約300万人がウクライナ、セルビアなどの隣国に住むことを余儀なくされた。
隣国との摩擦を生むため、これまでタブーだった民族問題にオルバン氏は切り込んだ。「国境を越えたハンガリー(人国家)の復活をオルバン氏は目指している」。フィデスのジョルト・ネメス元副外相(56)は力を込める。
だが、一部では「大ハンガリー主義」とも呼ばれるオルバン氏の手法に、ウクライナは強く反発する。オルバン氏の首相就任後、ハンガリー系住民の居住地域で自治権獲得を目指す動きが出ているからだ。
(中略)「オルバン氏の狙いは、ザカルパチア州をクリミアのように支配下に置くことだ。ウクライナはそう疑っている」。英シンクタンク・サストレのアンドラーシュ・ラドノーチ研究員は指摘する。【12月29日 産経】
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こうしたもろもろの話があるなかで、安倍首相は来日したオルバン首相に何を語り、何を伝えたのでしょうか?