孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国のウイグル族弾圧への批判が出てこないイスラム諸国 アーセナルのエジル選手、痛烈批判

2019-12-22 22:33:18 | 国際情勢

 

(アーセナルのエジル選手【1215日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】)


【香港問題とウイグル問題の連動】

香港の中国批判に対して中国側が、現在新疆ウイグル自治区で行っているような強権的な封じ込め策に乗り出すのでは・・・という懸念が高まっています。

 

そうしたなかで、香港とウイグル族が連動する集会が開催されました。

 

****香港の「新疆化」拒否 ウイグル支援集会で訴え****

中国共産党などへの抗議活動が続く香港で22日、新疆ウイグル自治区のウイグル族住民らが中国当局に人権を著しく侵害されているとして、ウイグル族への連帯と支援を呼びかける集会が行われた。

 

集まった数千人の参加者らは「香港でも自由が侵されている」と中国を糾弾、「“香港の新疆化”を許してはならない」などと訴えた。

 

新疆ウイグル自治区では「テロ対策」と称して、多数のウイグル族らイスラム系住民が再教育施設に収容されている。中国への抵抗運動を続ける香港でも、同様のことが起きかねないとの懸念が強い。

 

この日の集会では「今日の新疆は明日の香港だ!」などのプラカードが掲げられ、ウイグル族への連帯を表明するとともに、人権や自由を侵害する中国当局を非難する声が相次いだ。ウイグル独立派が主張する「東トルキスタン」の旗を振る参加者も多かった。(中略)

 

香港民主派の重鎮、李柱銘・元民主党主席は香港紙への寄稿で、共産党は「反テロの名目の下、100万のウイグル人を強制収容所で洗脳している」と強調した。その上で「香港でも(抗議活動の)参加者らを強制収容所に押し込み、『教育』を進めようというのか」「香港社会の核心的な価値を徹底的に洗い流し、(香港で一般に使われている)広東語や繁体字の使用を禁止して、愛国・愛党思想をたたき込もうというのか」などと警鐘を鳴らしている。【12月22日 産経】

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中国側が「香港の新疆化」に乗り出す口実になりそうなものがすでに存在しているだけに、懸念には切実さもあります。

 

****香港で相次ぐ爆弾押収 「IRAを手本に」報道も****

反政府デモが本格化してから半年が過ぎた香港で、爆弾や起爆装置、爆弾関連物質の押収が相次いでいる。政府に近い香港紙は、デモ参加者の一部が「(爆弾テロなどの反英武装闘争を繰り広げた)アイルランド共和軍(IRA)の襲撃方法」を参考にしていると報じた。

 

一方、市民の間では「当局が故意に若者の過激化を演出しようとしている」などと反発の声も出ている。(中略)

ネット上では「爆弾摘発は当局の自作自演だ」などと警察を批判する書き込みも少なくない。【12月15日産経】

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“当局の自作自演”かどうかはわかりませんが、何事についても過激派は存在しますので、爆弾闘争を考える勢力があっても不思議ではありません。

 

香港民主派が「香港の新疆化」を懸念している一方で、中国からすると国際批判も強い香港と新疆の問題が連動する事態には神経質になっています。

 

****香港でウイグル族支援集会 警察が強制排除、会場混乱****

香港の金融街セントラル(中環)で22日、中国当局による少数民族ウイグル族への人権侵害を非難する集会が開かれ、主催者らがウイグル族と共に中国の圧政に立ち向かうよう香港市民に訴えた。参加者が中国国旗を破いたところ、香港警察が催涙スプレーを放つなどして強制的に排除。参加者から怒号や悲鳴が上がり会場は混乱した。

 香港当局は集会の開催を許可していたが、2時間ほどで突然排除した。中国の習近平指導部は香港の抗議活動とウイグル族を巡る問題が結び付くことに神経をとがらせており、集会を中止させるよう香港政府に強く求めた可能性もある。【12月22日 共同】

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【ウイグル問題批判の先頭に立つアメリカの思惑】

新疆ウイグル自治区の問題に関して、国際批判の先頭に立っているのがアメリカ・トランプ政権。トランプ政権が人権問題にそれほどの関心をもっているとも思われませんので、おそらく貿易交渉を有利に進めるためのカードとしての位置づけがあるのでしょう。

 

そうしたアメリカの批判・対応に中国側は苛立ちを募らせています。

 

****中国外務省 対ウイグル族政策めぐり「米は超うそつき」****

アメリカが中国のウイグル族に対する政策を人権侵害だと非難していることをめぐって、中国外務省の報道官は事実と異なるとして、「アメリカは世界の超大国というだけでなく超うそつきだ」などと激しい口調で非難しました。

 

中国外務省の華春瑩報道官は10日の記者会見で、アメリカ政府の関係者から中国のウイグル族に対する政策を非難する声が出ているなどと質問されたのに対し事実と異なるとしたうえで、「アメリカ側の発言は『アメリカが世界の超大国というだけでなく超うそつきでうそをまき散らしている』という事実を気付かせてくれる」と、激しい口調で非難しました。

そのうえで華報道官は、アメリカのトランプ大統領が中東などイスラム圏からの入国を制限する大統領令を出したり、アメリカがイスラム教徒の多い中東地域に軍事的な関与を行い大勢の犠牲者を生んだりしているなどと指摘し、「アメリカのイスラム教徒への政策こそ国際社会が重大な関心と憂慮を抱くべきことだ」と反論しました。

中国政府や中国メディアは、アメリカ議会下院が先週、ウイグル族の人権侵害にかかわった中国の当局者に対し制裁の発動を求める「ウイグル人権法案」を可決して以降、連日、アメリカ側を激しく非難していて、華報道官は改めてアメリカを強くけん制した形です。【12月10日 NHK】

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アメリカ議会はともかく、トランプ政権のウイグル問題への言及は、貿易交渉が軌道にのれば、消えてしまうものなのかも。

 

【ウイグル問題で声をあげないイスラム諸国 アーセナルのエジル選手、痛烈批判】

国際政治というのはそんなものなのでしょうが、中国の新疆での弾圧に最初から声をあげていないのが、イスラム諸国。

 

これまた、中国の存在感が増した国際政治の現実でもありますが、そんなイスラム諸国を痛烈に批判したのが、イングランド・プレミアリーグの強豪アーセナルに所属する、トルコ系の元ドイツ代表MFで、自身もイスラム教徒のメスト・エジル選手。

 

****アーセナルのエジル選手、ツイッターでウイグル人弾圧への沈黙を批判****

サッカーの英イングランド・プレミアリーグのアーセナルに所属するメスト・エジル選手が14日、新疆ウイグル自治区における中国政府のウイグル人弾圧を批判するコメントを自身のツイッターに投稿し、波紋が広がっている。

 

トルコ系ドイツ人のエジル選手は、「コーランが焼かれ、モスクが閉鎖され、イスラム神学校が閉校させられ、聖職者たちが次から次へと殺され、兄弟(イスラム教徒)たちが強制的に収容施設へ送られている」とトルコ語で書き込み、「それなのにイスラム教徒たちは沈黙している。彼らの声が聞こえてこない」と、イスラム教の国々が行動を起こさないことを批判した。

 

コメントの背景には青地に白い三日月が描かれた東トルキスタンの旗が用いられている。東トルキスタンは新疆ウイグル自治区のウイグル名称だ。

 

中央アジアから移住したチュルク人を国名の由来とし、民族的にもウイグル人に近いトルコは、ウイグル自治区の状況に対する懸念を繰り返し表明している。

 

エジル選手のコメントについて、中国資本から巨額の商業利益を得ているアーセナル側は「エジル個人の意見」として距離を置いている。(後略)【12月15日 AFP】

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もともと、ピッチ外での言動が波紋呼ぶことも多かった選手ですが、2440万人のフォロワーのうち400万といわれる中国のファンを怒らせる可能性、中国との関係に神経を使うエルドアン大統領(エジル選手は大統領と非常に親密な仲とか)と軋轢を生む可能性も覚悟しての発言ではないか・・・・との指摘も。

 

一方、アーセナル(エジル選手と指揮官の不仲とか、移籍問題とかもあるようです)の対応については批判も。

 

****「中立」から露見した金満主義*****

一方アーセナルは、エジル選手のコメントはあくまでも同選手の「個人的な見解」と強調、また「クラブとして、アーセナルは政治からは常に距離を置いている」と表明した。

 

しかし、英ガーディアンのコラムニストはこれを「人権侵害についてコメントしないと発表したことで、アーセナルは非常に明快に政治に介入している -- 反対側の政治に」と揶揄している。

 

そもそも、各紙が指摘しているように、エジルの発言は厳密には「個人的な見解」と言えるのだろうか。中国によるイスラム系ウイグル族の弾圧や人権侵害に対するエジルの批判は、アメリカ、イギリス、カナダ、日本など23カ国を含む国連の見解に基づいている。

 

また、国際サッカー連盟FIFAとそのメンバーは2017年、国際的な人権規範を尊重することを公に表明しており、アーセナルの「中立」を装った無関心はこれと矛盾する。

 

「理由は簡単だ。中国一国におけるプレミアリーグの放映権は年間5億6千万ポンドに値する」(ガーディアン) 

これに加え、シャツやグッズなどの収益金を考えたら、中国から流れ込む金は莫大だ。(後略)【12月15日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】

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いずれにしても中国側はこの問題に敏感に反応しています。

 

****中国、英サッカー中継を中止 アーセナル・エジルのウイグル弾圧非難で*****

サッカー、イングランド・プレミアリーグの強豪アーセナルに所属するメスト・エジル選手が、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区での少数民族弾圧を自身のSNSで批判し、中国のサッカーファンが「主権の侵害だ」などと反発を強めている。

 

国営中央テレビ(CCTV)は16日未明に放送予定だったアーセナルの試合中継を別の試合に差し替えた。(中略)

 

中国国内の反発を受けてアーセナルは14日、中国版ツイッター微博で「エジル個人の観点であり、アーセナルは政治には関わらない原則を堅持する」との声明を発表。

 

だがファンからは「エジルを追放するまで試合は見ない」などと不満の声が上がっている。中国サッカー協会も一部メディアに「極めて大きな憤りと失望」を表明した。【12月15日 産経】

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中国では10月にも今回と同じような出来事が起こっています。

アメリカ・プロバスケット協会(NBA)ヒューストン・ロケッツのダリル・モリーGM(ゼネラルマネージャー)が香港の反政府デモに対し支持する内容をツイッターに投稿し、CCTVがロケッツ戦の試合を放送しませんでした。

 

エジル選手の発言に影響されたのかどうかはわかりませんが、トルコではウイグル問題に関して、中国批判の抗議デモが行われています。

 

****トルコでウイグル人問題めぐり抗議デモ、中国国旗燃やす参加者も****

トルコ・イスタンブールで20日、中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の処遇に対する抗議デモが行われ、1000人超が参加した。現地のAFP特派員が明らかにした。(中略)

 

今回のデモは、トルコの人道支援団体「人道支援復興基金」が主催した抗議活動の一環として実施。参加者らは、イスタンブールの欧州側にあるファティモスクからベヤズット広場まで行進した。

 

 参加者の一部は、青地に白い三日月が描かれた東トルキスタンの旗を掲げていた。東トルキスタンは、多くのウイグル人分離派らが使用する新疆ウイグル自治区の名称。

 

また「強制収容施設を閉鎖しろ」と書かれたポスターを掲げたり、中国の国旗を燃やしたりする参加者もいた。

 

言語や文化の面でウイグル人とつながりを持つトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を除き、イスラム教を信仰する国の指導者らの多くが、中国によるウイグル人への対応を公には非難していない。(後略)【12月21日 AFP】

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もともとトルコでは、これまでもウイグル問題への批判がありました。トルコ以外のイスラム諸国は今回もスルーのようです。

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