孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  ポピュリズムに乗る第2期モディ政権のもとで、多元的国家からヒンドゥー至上主義国家へ

2019-12-17 22:08:00 | 南アジア(インド)

(インドのコルカタで、市民権改正法(CAA)に抗議するデモ行進を行う地域政党トリナムール会議派(TMC)の支持者や活動家(2019年12月16日撮影)【12月17日 AFP】)

 

【イスラム教徒を排除する市民権改正法で広がる混乱】

インドで、周辺国からの不法移民に対し「イスラム教徒を除き」国籍を与えるとする市民権改正法に対する抗議が広がっています。

 

****イスラム移民政策めぐり衝突激化=6人死亡、首都にも波及―インド****

周辺国からの不法移民に対し、イスラム教徒を除き国籍を与えると決定したインドのモディ政権への抗議行動が全土で激しさを増している。

 

ヒンズー至上主義を掲げる政権のイスラム教徒「弾圧」の一環と批判されており、AFP通信によると、抗議行動に絡み、15日までに少なくとも6人が死亡した。

 

15日には首都ニューデリーでもデモ隊と治安部隊が衝突。地元主要メディアは16日、イスラム教徒住民が多い首都南東部が「紛争地帯に変貌した」と報じた。

 

11日に国会で可決された国籍法改正案では、イスラム教徒が多数派のバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンから2014年以前に流入した移民にインド国籍が付与される。

 

モディ首相は、近隣国で抑圧されたヒンズー教徒ら少数派を守るためだとして「1000%正しい」と法案を正当化した。【12月16日 時事】

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イスラム教徒であれ、なんであれ、居住国での抑圧理由によって判断すればいい話で、最初からイスラム教徒を対象外とするのは、いかにもイスラム教徒を狙い撃ちにした感がぬぐえません。

 

一方で、インド北東部の住民の多くは、同法によってバングラデシュから入国したヒンズー系移民が市民権を得る可能性があるとして反発しています。

 

こうした混乱・治安悪化から、安倍首相の訪印が中止された件は周知のとおりです。

 

****日印首脳会談延期、印政府が発表 市民権法めぐり治安悪化****

インド政府は13日、同国北東部で市民権に関する新法に抗議する激しいデモが発生し、参加者2人が警察に射殺される事態に陥ったことを受け、来週同地で予定されていたナレンドラ・モディ首相と安倍晋三首相との会談を延期すると発表した。

 

インド外務省は、15〜17日に予定されていた安倍首相の訪印について「近々互いに都合の良い日まで延期することを、両国が決定した」と発表した。(後略)【12月13日 AFP】

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混乱は拡大・深刻化しています。

“インド市民権法めぐる抗議デモ、各地に拡大 首相の出身地でも”【12月14日 AFP】

“インド、市民権法めぐる抗議デモで6人死亡”【12月16日 AFP】

“インド首都、移民関連新法巡る抗議活動で100人余りが負傷”【12月16日 ロイター】

“インド国籍法で抗議活動が大学でも拡大”【12月17日 ロイター】

 

ただ、例えば上記【12月17日 ロイター】にしても、抗議している学生はイスラム教徒だけなのか、ヒンズー教徒学生も加わっているのか・・・といった、抗議行動の“範囲”はよくわかりません。

 

【ヒンドゥー至上主義的な性格を明確にを示すようになった政治・司法体制】

言うまでもなく、インドは人口約13億5千万人のうち、ヒンドゥー教徒が約8割を占めています。

しかし、イスラム教徒も少数派ながら約1割強存在しています。

 

本来インドは、イスラム国家に特化したパキスタンとは異なり、異なる宗教・民族を包摂した多様な社会を建国の理念として掲げてきました。

 

しかし、「ヒンドゥー至上主義」を掲げ、イスラム教徒を敵視する組織の出身でもあるモディ首相のもとで、ヒンドゥー至上主義が政権に黙認される形で台頭し、ヒンドゥー至上主義過激派によるイスラム教徒襲撃事件が後を絶たたない事態ともなっています。

 

これまでは、ヒンドゥー至上主義活動家の活動を政権が黙認するという形でしたが、ここにきて、最高裁のアヨディヤ聖地でのヒンズー寺院の建設承認、そして今回の法改正と、政治・司法体制がヒンドゥー至上主義的な性格を明確にを示すようになったようにも見えます。

 

****第2期モディ政権のヒンズー至上主義拡大に広がる懸念 印****

インドで新たに制定された市民権改正法をめぐり、今年5月に2期目をスタートさせたナレンドラ・モディ首相が、世界最大の民主国家である同国をヒンズー教国家につくり変えようとしているのではないかとの懸念が広がっている。

 

2億人に及ぶ国内のイスラム教徒や少数派、さらには国際社会もが不安を抱くモディ氏のヒンズー至上主義的な政策について、AFPが考察を試みた。

 

■唯一イスラム教徒が多数派を占めるジャム・カシミール州の自治権剥奪

インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側、ジャム・カシミール州は10月31日まで、インドで唯一イスラム教徒が多数派を占める州として特別な地位と部分的な自治権が認められていた。この特別扱いに対して長年、ヒンズー至上主義者は反感を抱いてきた。

 

インド議会は8月5日、ジャム・カシミール州を中央政府の直轄領として二つに分割する法案を成立させた。

 

モディ氏は、この措置は経済発展を促し、汚職を取り締まるためと説明しているが、数十年にわたり武装勢力が反政府運動を展開してきた地元の住民たちは、真の理由はヒンズー教徒の移住を認め、州のアイデンティティーを希釈するためだと考えている。

 

■国民登録簿から除外され190万人が無国籍状態に

政府は8月、北東部アッサム州の国民登録簿を発表。資格なしと判断されて登録簿から除外された190万人は無国籍状態に置かれ、収容所に送られるか、国外追放される可能性に直面しているが、このうち大多数を占めているのがイスラム教徒だ。

 

モディ氏の側近アミト・シャー内相は今月、「侵入者」を排除する目的で、2024年までに国民登録簿を全国的に整備すると言明した。

 

モディ氏は、首相1期目には多くのイスラム風の地名を変更し、歴史の教科書からインドにおけるイスラム教徒の役割を削除した。このためイスラム教徒は、シャー氏の国民登録簿の整備はイスラム教徒を念頭に置いているのではないかと懸念している。

 

■最高裁が聖地にヒンズー教寺院の建設を許可

インドの最高裁判所は11月、ヒンズー教とイスラム教の間で帰属をめぐって対立していた北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤにある聖地にヒンズー教寺院の建設を認めた。

 

アヨディヤ聖地でのヒンズー寺院の建設は、モディ氏が現在率いるインド人民党が1980年代から公約として掲げ、この判決は同氏の支持者にとって大きな勝利を意味する。

 

一方で、この聖地をめぐっては1992年、ヒンズー教徒の暴徒が460年の歴史を持つモスク(イスラム教寺院)を破壊した背景があり、最高裁の判決で、モスクの破壊が正当化され、今後、同様の破壊行為や暴力が増えるのではないかと批判する声もある。

 

■非イスラム教徒移民を対象にした新法

11日にインド上院で可決された市民権改正法により、近隣3か国パキスタン、アフガニスタン、バングラデシュから不法入国した移民に対する市民権の付与は容易になるが、対象はヒンズー教徒、シーク教徒、ジャイナ教徒、仏教徒、キリスト教徒のみで、イスラム教徒は含まれていない。

 

これについてモディ氏は、新法がイスラム教徒を対象外としているのは、これら3か国ではイスラム教徒が多数を占めており、迫害される危険がないからだとしている。

 

この新法をめぐって国民の間で怒りが広まり、国内各地で大規模な抗議活動に発展している。抗議活動の中心となっているインド北東部では、新法によって、ヒンズー教徒が大半を占めるバングラデシュ移民に市民権が付与されるのではないかと懸念されている。

 

スウェーデンのウプサラ大学のアショク・スワイン教授はAFPの取材に、「インドの民主主義は、世俗的な特徴と密接に結び付いている」と指摘。「モディ氏が行っていることは、多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」と述べた。

 

■インド人民党の次の目標は何か

インド人民党の次の目標は、統一民法の制定と宗教別属人法の廃止だ。宗教別属人法では、結婚、家族、死などの問題についてさまざまな宗教的少数派向けの規定が定められている。

 

米シンクタンク「ウィルソン・センター」のマイケル・クゲルマン氏は、「インドで展開されているのは、ヒンズー至上主義的な政策の積極的な推進だ。この政策によって、長年インドの民主主義を特徴付けてきた世俗主義と宗教多元主義が脅かされている」と語った。 【翻訳編集】

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【多数派“民意”を反映したポピュリズム 「多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」】

別にモディ首相は民意を無視して強権的にヒンドゥー至上主義を進めている訳ではありません。

 

一連のヒンドゥー至上主義的施策は、圧倒的多数派ヒンドゥー教徒には強く支持されているものでしょう。

おそらく選挙を行えば、勝利するのでしょう。

 

問題はそのあたりで、「モディ氏が行っていることは、多数決主義の力による支配であり、そこには少数派の権利に対する譲歩がみられない」というところです。敵をつくって多数派市民の敵愾心を煽り、アイデンティティを鼓舞し、その民意に乗っかる形で政治を行う、昨今流行りのポピュリズムでしょう。

 

****冷戦後30年、世界はいま 強権政治がモデル化、民主主義脅かす ヨーロッパ総局長・国末憲人****

 ポピュリズムが横行

民主主義はなぜ、こうも色あせてしまったのか。

 

1989年、ベルリンの壁崩壊と冷戦終結に、私たちは自由と平和、民主主義が息づいた世界の将来像を思い描いた。2019年、目前には荒涼たる風景が広がっているかのようだ。

 

欧米の多くの国で、ポピュリズムが大手を振る。その手法を取り入れた指導者が、米国で野放図に振る舞い、英国では欧州連合(EU)離脱の旗を振る。

 

民主化したはずの旧社会主義圏で権威的ポピュリスト政治家が政権を握り、社会への締め付けを強める。

 

こうした政治家の多くは、「自分たちには大衆の支持がある」と開き直る。選挙で選ばれたことを根拠に自らの行為を正当化しつつ、司法軽視やメディア攻撃、少数派の排除など、民主主義を育んだ理念に逆行する主張や政策を展開する。

 

ポピュリズム」という言葉自体は19世紀からあるが、世界に広く認知されるようになったのは冷戦後の1990年代だ。

 

イタリアベルルスコーニ首相、フランスの国民戦線(現国民連合)ルペン党首、オーストリアの自由党ハイダー党首といった人物が当時、その代表として脚光を浴びた。

 

2000年代には、イタリアオランダなどで右翼ポピュリズム政党が台頭した。移民やEUなどを標的と定めて攻撃し、敵と味方を明確に分ける政治手法は、いずれにも共通する。

 

ポピュリズム台頭を招いた背景には、米ソ、東西、左右といった冷戦時代の対立軸の薄れがある。代わって上下の格差が浮き彫りになり、グローバル化の進展がこれに拍車をかけた。

 

もちろん、冷戦時代にも格差は存在したが、政党や労組、商工団体、農協といった中間団体が上下を結びつけていた。こうした組織が力を失い、指針を失って途方に暮れる人々に甘言で近づいたのが、ポピュリスト政治家だ。

 

ただ、当時のポピュリズムは、不平や不満を吸収するばかりで、具体的な理念や政策に乏しかった。政権担当能力は低く、「放っておけば消える」(欧州大学院大学のハンスペーテル・クリージ教授)というのが、政治学の専門家の一般的な認識だった。

 

しかし、2010年代に入り、ポピュリズムアイデンティティーを理念の中心に据え、次第に政治イデオロギーへと変貌(へんぼう)。

 

国家や民族の結束を呼びかけることで支持を結集する排他的、強権的な政治モデルを確立した。「白人米国人」「イングランド人」といったアイデンティティーを軸に支持を集めるトランプ米大統領やジョンソン英首相は、既成政党の枠組みを維持しながらこうした手法を取り入れた点で、その完成型といえる。

 

 ■行き詰まりの象徴?

不安をあおるポピュリズムは、社会の変化が大きいほど支持も集めやすい。旧東欧諸国がその舞台となったのも、急激な民主化と市場経済の波に洗われ、近年は人口減や難民危機に苦しんだからだった。

 

ポーランドでは保守政党「法と正義」の政権が司法や報道への介入を強化。チェコやブルガリアの政権も強権的な姿勢をとる。中でも、権威的ポピュリズムを体現するといわれるのが、ハンガリーのオルバン政権だ。(中略)

 

民主化の闘士から、強権的ポピュリスト政治家へ。オルバン氏の変節ぶりは、民主主義の行き詰まりを象徴するように見える。もっとも、支持者にとっては逆に、同氏は首尾一貫して国家統合に向け奮闘する人物と映る。かつてはソ連、今はグローバル化やEUと、闘う相手が代わっただけだ。

 

民主化後、ハンガリーは他の旧東欧諸国と同様に欧米の政治経済や生活のモデルを追い求めた。その結果、それなりの自由と繁栄を得たものの、多額の対外債務を背負うことになった。若者たちは大挙して旧西欧に流出した。

 

「首相になったオルバンは、人々のこうした意識を変えようと試みました。ハンガリーの生活スタイルと伝統、キリスト教に基づいたアイデンティティーを確立しようとしたのです」

ブダペスト・コルビヌス大学のランチ・アンドラス学長(63)はこう説明し、同氏の手法を擁護する。

 

 ■暴走の危険をはらむ

ただ、多数派のアイデンティティーから外れる人々は疎外される。少数民族ロマ人を支援するエトベシュ・ロラーンド大学(ブダペスト大学)のマイテニ・バラジュ政治国際研究所長(46)は「彼らを社会的に排除する傾向が強まり、民主化以前よりも状況は悪化している」と危機感を抱く。

 

人々がアイデンティティーを通じて国家や社会に帰属意識を持つこと自体は、決して悪いことではない。アイデンティティーの共有は、対立や格差を時に和らげる。

 

一方で、東西冷戦や上下格差とは異なる分断をもたらすこともある。英国では、EU離脱派の間でイングランド人としての意識が高まった結果、そうした発想についていけない残留派との溝が修復不可能なレベルに広がった。

 

選挙そのものも今や、政策よりもアイデンティティーに左右される。それは、民主主義への信頼を低下させることにもなっている。

 

宗教や民族に依拠するアイデンティティーが制御を失い、紛争や虐殺に発展した例も、枚挙にいとまがない。ポピュリズムがもてあそぶアイデンティティーも、いつか暴走を始めないか。私たちは今、冷戦時代以上に複雑で予想しにくい世界にいるのかも知れない。

 

 ■悲観的な見方、実は少数派では 常に光と影存在、冷静な歴史観を

歴史の評価は、そのナラティブ(語り口)に左右される。たかだか30年とはいえ、冷戦終結後の歴史の評価も、ナラティブ次第で大きく変わる。(中略)

 

今、各国でしばしば耳にする「民主主義はもう限界」「冷戦後の世界は行き詰まった」といった悲観的なナラティブも、実は同様に、まだ少数派の見方に過ぎなくはないか。(中略)

 

権威的ポピュリズムや右翼も、30年の中でここ数年の間に急成長したに過ぎない。それが歴史の流れだと恐れおののくには早すぎる。冷静に世界を見つめ、個々の現象に丁寧に対応する姿勢を心がけたい。【12月16日 朝日】

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「世界最大の民主主義国」と言われてきたインド。そのインドの民主主義が変質しようとしています。

 

ヒンドゥー教に基づくアイデンティティでインドをまとめようとするモディ首相のもとで、そのアイデンティティーから外れるイスラム教徒や不可触民などは疎外される・・・そんな危うい構図が感じられます。

 

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