孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  政権基盤を盤石とするドゥテルテ大統領が目指す親子で正副大統領?

2019-12-24 22:11:14 | 東南アジア

(フィリピン南部ダボア市のサラ・ドゥテルテ市長(ドゥテルテ大統領の長女)が(2011年7月)1日、市長の延期要請を無視してスラム街の強制撤去に訪れた裁判所の執行官に激怒し、顔などに連続パンチを見舞った。【2011年7月4日 ロイター】 

 

この体格・腕の太さですから“女性の平手打ち”の類ではありません。「サラ氏と互角のライバルになり得るのはパッキャオ氏(国民的ボクサーで上院議員)ぐらい」との声もあるとか)

 

【超法規的殺人を生む社会的土壌?】

フィリピン・ドゥテルテ大統領のもとで進められる麻薬問題に関する「超法規的殺人」については、7月19日ブログ“フィリピン 「超法規的殺人」が続くドゥテルテ政権 国際批判も意に介さず「王朝」へ”でも取り上げました。

 

殺害された者の数については“麻薬の密売などに関わったとされる5500人以上が警察官に殺害されてきた”【11月25日 朝日】とも。

 

一応「逮捕に抵抗した」というのが殺害理由ですが、どうでしょうか・・・“誤って殺害された者”あるいは“警察にとって都合の悪い者”の口封じも含まれていると推察されます。

 

“活動家らは、実際にはこれより多い約2万7000人が殺害されたと指摘している。”【7月8日 ロイター】という数字もありますが、今では記録報告もされなくなったといった状況で、さだかな数字はわかりません。

 

警官だけでなく、謎の組織が超法規的殺人(警官でなければ、単なる“殺人”ですが)を行っているという面も指摘されています。

 

この件に関しては賛否両論あります。

私は、「超えてはならない一線を越えている」と考えますが、ドゥテルテ大統領の強硬施策で治安がようやく改善したと評価する向きも多く、実際、大統領は高い国民からの支持を維持しています。(個人的には、それこそが問題だと思いますが)

 

最近報じられた、10年前のある事件の裁判に関する記事が下。

 

****58人虐殺で禁錮40年=「主犯」は被害者の政敵―フィリピン****

フィリピン南部ミンダナオ島マギンダナオ州で10年前、政治家の家族や報道関係者ら58人が虐殺された事件の判決公判が19日、首都圏ケソン地裁支部で開かれた。被害者の政敵ら計28人が「主犯として疑う余地はない」と認定され、禁錮40年を言い渡された。

 

事件は2009年11月23日に発生。政治家一族のエスマエル氏の家族と同行記者団が州知事選の立候補届け出に向かっていたところ、約100人の武装集団に拉致、殺害された。

 

死者58人のうち32人を報道関係者が占め、単独の事件で犠牲になったジャーナリストの人数としては史上最多とされる。

 

翌10年2月、別の政治家一族でエスマエル氏の政敵だったアンダル元知事や、その息子ら計197人が起訴された。被告のうち80人が捕まらないまま、審理は長期化。元知事ら8人が勾留中に死亡した。

 

この日の判決では、禁錮40年の息子を含め、計43人が有罪と認定された。【12月19日 時事】 

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政敵の家族や報道関係者ら58人を殺害・・・・なかなか想像しがたい事件です。

 

この記事を読んで感じたのは、ドゥテルテ大統領の「超法規的殺人」も、こうした「邪魔者は殺せ」という社会風土のなかで起きており、また、国民に受容されているのだろう・・・ということ。

 

「殺人」ということに関するハードルの高さが、日本とでは異なるようにも思えます。

 

【意にそぐわない企業への威圧 暴力的手法がいつ誰に向けられるか・・・】

「まっとうな市民は関係ない」という考えもありますが、まっとうかどうか判断するのは国家権力であり、いつその暴力的手法の対象にならないとも限りません。

 

****比大統領、次々に企業威圧 経済活動萎縮の恐れも****

フィリピンのドゥテルテ大統領が、意にそぐわない企業への威圧を続けている。

 

訴訟で政府に勝った水道会社に賠償請求権を放棄させ、自身に批判的な民放には営業認可を更新しない考えをちらつかせた。さらに締め付けを強めれば、経済活動が萎縮する恐れもある。

 

「水道会社の連中を逮捕して、経済的に破滅させてやる」。ドゥテルテ氏は3日の演説で、民間の水道会社2社への怒りをあらわにした。

 

水道料金の引き上げ申請が当局に却下され損害を被ったとして、2社がシンガポールにある仲裁裁判所に政府を訴えた。政府は敗訴し、計約108億ペソ(約233億円)の支払いを命じられた。【12月19日 共同】

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水道料金の話がどういう事情なのかはしりませんが、数千人あるいは2万数千人を殺害しているボスに「破滅させてやる」とすごまれたら、それは怖いでしょう。身の危険も感じることでしょう。

 

【マルコス独裁の再現も懸念されていたミンダナオ島一帯の戒厳令 延長せず、政権基盤の更なる強化を図る】

そんな強面ドゥテルテ大統領のもとで、2017年にイスラム過激派が武装占領したミンダナオ島一帯では戒厳令が敷かれていましたが、マルコス独裁政権のような国民弾圧へ拡大するのでは・・・との危惧もあって、撤廃が求められていました。

 

****フィリピン、戒厳令を解除へ****

12月末に期限を迎えるフィリピン南部ミンダナオ島一帯に布告されている戒厳令について、延長することなく解除される可能性が極めて高くなった。

 

これは11月4日、フィリピン国家警察、国軍などからの進言を受けて内務自治省も延長しない方向でドゥテルテ大統領に「戒厳令解除」を提案することを明らかにしたことからそうした観測が強まっているのだ。

 

ミンダナオ島一帯の戒厳令は2017年5月25日に地元の過激組織「マラテグループ」が同島南ラナオ州の州都マラウィを武装占拠した事態を受けてドゥテルテ大統領が布告した。

 

マラウィ市武装占拠には中東のイスラム系テロ組織「イスラム国(IS)」と関連があるイスラム教徒のテロリストやフィリピン南部を活動拠点とするイスラム系テロ組織「アブサヤフ」のメンバーらが合流してフィリピン治安部隊と激しい市街戦を繰り返し、多くの魏犠牲者が出た。

 

同市は2017年10月に武装勢力が一掃されて解放されたものの残党テロリストなどが同島の他の地域などで活動を継続しているとの情報があり、軍や警察の進言もあり戒厳令はこれまでに複数回延長を繰り返し、現在も継続されている。

 

戒厳令下では治安部隊に令状なしの捜索や容疑者検挙を可能にするなど超法規的措置が許されていることからミンダナオ島では反政府組織やテロ組織の活動封じ込め、掃討作戦に一定の効果をあげていたとの評価も出ていた。

 

■ マルコス時代の悪夢への警戒

その一方でフィリピンでは戒厳令はマルコス独裁政権が1972年9月21日に戒厳令をフィリピン全土に布告して憲法を停止して学生や活動家などによる反政府活動への弾圧に利用、独裁政権の地歩を固めたことへの反省などから人権団体などを中心に「戒厳令の早期解除」を求める声も一部とはいえ強く残っているのも事実。

 

マルコス時代の戒厳令布告の記念日でもある9月21日にはレニ・ロブレド副大統領が「マルコス暗黒時代の日々を忘れてはならない。当時を知らない若者は戒厳令が単に政治的なものだけでなく国民生活の隅々まで影響を及ぼすものである」との声明を出して戒厳令に反対する立場を示していた。(後略)【12月9日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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結局、ミンダナオ島一帯の戒厳令は延長されないことに。

“フィリピン大統領府は10日、武装勢力との衝突によって南部ミンダナオ島などに出されている戒厳令について、ドゥテルテ大統領が延長しないことを決めたと明らかにした。有効期限の今月末に解除される。”【12月11日 産経】

 

政権基盤を更に盤石にしたいとのドゥテルテ大統領の思惑に沿った決定とも。

 

****中間選挙の勝利で政権基盤盤石に****

フィリピンではドゥテルテ大統領の2022年までの大統領任期の折り返しとなる今年5月の中間選挙(国政・地方選)でドゥテルテ大統領支持勢力が勝利をおさめた。

 

麻薬関連犯罪への超法規的殺人を含めた強硬な対応策や硬軟を使い分ける対中外交、さらに対米一辺倒だった前大統領時代からの修正、連邦制導入の検討などの多くの課題を抱えながらも中間選挙の結果で示された国民からの圧倒的支持を背景に現在も独自路線を貫いている。

 

戒厳令もこれまでの治安当局の努力で一定の成果をあげたと評価しており、戒厳令を解除することで「国内外からの投資」を促進し「マルコス時代回帰という批判」を回避してさらに政権基盤を盤石にしたいとの思いがドゥテルテ大統領には強いといわれている。(後略)【前出Japan In-depth】

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【政権基盤を盤石にして目指すのは・・・親子でフィリピン正副大統領に?】

フィリピンでは大統領の再選は禁じられていますので、ドゥテルテ大統領自身が次期大統領選挙に出ることはありません。

 

では、政権基盤を更に盤石にして何を目指すのか・・・長女(現在、地盤であるダバオ市の市長)を大統領候補に・・・と言う話は以前からありますが、ドゥテルテ氏自身も副大統領候補となって、親子で「ドゥテルテ王朝」を目指すという話もあるようです。

  

****親子でフィリピン正副大統領に? ドゥテルテ氏、22年選挙で****

2022年、フィリピンの正副大統領にドゥテルテ親子が就任も―。最近の世論調査でこんな可能性が浮上してきた。

 

副大統領候補の人気首位は現大統領のドゥテルテ氏(74)。大統領候補の1番人気は長女サラ氏(41)で、「ドゥテルテ王朝」の勢いを見せつけている。

 

調査は政治コンサルタント会社「パブリカス・アジア」が11月15〜19日に実施。22年の正副大統領選で誰に投票するかを中南部の有権者2千人に尋ねた。

 

大統領候補では、南部ダバオの市長を務めるサラ氏がトップで約35%。2位は約11%のポー上院議員、3位はモレノ・マニラ市長。【12月24日 共同】

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実際にこれまでも、ダバオ市長職について親子で回してきましたので、同じことを大統領職でも・・・という推測です。

 

“サラ氏は07年、同市長だった父のもとで副市長に当選。10~13年はドゥテルテ氏が副市長となり、入れ替わりでサラ氏が市長になった。13年からは再び父が市長に、サラ氏が副市長に。さらに16年、ドゥテルテ氏が大統領選に出馬すると、あらためてサラ氏が市長に当選して今に至っている。” 【6月27日 朝日】

 

なお、7月19日ブログでも紹介したように、長女のサラ氏は、父親ドゥテルテ大統領も真っ青のコワモテのようです。

 

“サラ氏の市長1期目の11年のこと。裁判所が命じた建物の解体現場で住民の反対運動が起きると、サラ氏は解体を数時間遅らせるよう求めたうえで現場に急行。話を聞き入れない裁判所の執行官にパンチを数発浴びせて、住民から喝采を浴びた。”【6月27日 朝日】

 

サラ大統領ということになれば、超法規的殺人もこれまで同様・・・ということいにもなるのでしょう。

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