(宗教研究に勤しむ男たち。エルサレムの超正統派が多く住む地域メア・シェアリームで 【11月27日 COURRIER】
寝ている人もいますね・・・まあ、熱心な人も、そうでない人も)
【ネタニヤフ首相起訴で国民の色分けが更に進む 総選挙は「何度やっても結果は同じ」】
イスラエルでは検察が11月21日、大手通信企業に便宜を図った見返りに、傘下のニュースサイトでの好意的報道を求めたなどとしてネタニヤフ首相を収賄、詐欺、背任の罪で起訴したと発表しました。
かねてより問題となっていた案件ですが、起訴されても直ちに首相を辞任する必要はないようです。
****イスラエル首相、起訴後の辞任義務ない 司法長官が判断****
イスラエルの司法長官は25日、背任などの罪で起訴されたネタニヤフ首相について、辞任する必要はないとの判断を下した。同首相は21日、疑惑が持たれていた3つの事件で背任などのほか、収賄の罪でも起訴された。
現職首相が起訴されるのは初めて。
野党や監視団体からは辞任圧力が強まり、与党の右派「リクード」は近く党首選を実施する。
イスラエルの法律では、ネタニヤフ首相は現時点で辞任する義務はない。首相は罪状を否認しており、政権にとどまる意向を表明している。
ただ、同国ではやり直し総選挙を受けた組閣作業が難航し、すでに政治的な混迷が深まっている。(後略)【11月26日 ロイター】
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ただ、ネタニヤフ首相が辞任する必要がなく、そのまま首相職にとどまれる・・・という白黒が決着しないことで、イスラエルの政治は、何度総選挙を行っても国論が二分し、ネタニヤフ首相側、反ネタニヤフ首相側、いずれの勢力も組閣に十分な議席を獲得できないという「混迷状態」が続いています。
****イスラエル、真っ二つ 渦中に首相、3度目総選挙か****
イスラエルで続く政治の混乱が、社会に分断をもたらしている。2度の総選挙を経ても組閣ができず、史上初の3度目の総選挙になる可能性が高まっている。迷走の中心にいるのはネタニヤフ首相。汚職で起訴されることが決まっても人気は根強い。在任13年を超える実力者への賛否で、国民の色分けが進む。
選挙の争点は何か――。有権者から返ってくる答えはほぼ決まっている。
「ネタニヤフにイエスかノーか。それだけだ」
70歳のベンヤミン・ネタニヤフ首相は、在任期間で歴代トップに立つ。「ビビ」の愛称で知られ、トランプ米大統領ら各国の首脳と巧みに渡り合う。
しかし、今年4月の総選挙では、軍の元参謀総長のベニー・ガンツ氏が立ち上げた新党の躍進を許し、議席数で並ばれた。組閣協議の不調を受けて9月に行われた2度目の総選挙でも大勢は変わらず、両者とも政権をとれない状況が続く。
ネタニヤフ氏に苦戦を強いる要因の一つは、汚職疑惑だ。大手通信企業に便宜を図った見返りに、自分に好意的な報道を求めたなどとされ、検察は11月21日、起訴の判断に踏み切った。
野党支持者らは「起訴されるのに首相を続けるなんてあり得ない」「民主主義の危機だ」といった声をあげ、「クライムミニスター(「犯罪」と「首相」を掛け合わせた造語)」と書かれたポスターを掲げる。
それでもネタニヤフ氏が政権を手放そうとしないのは、根強い支持基盤があるからだ。
11月26日、ネタニヤフ氏の起訴に反対するため、商都テルアビブで開かれた集会には数千人が集結。「ビビ! キング・オブ・イスラエル!」という合唱を地鳴りのように響かせた。
中高年世代が目立ち、両親と訪れたサリト・ハガグさん(52)は「ビビは経済を発展させ、治安も守る素晴らしい首相。汚職なんてウソ。彼を引きずり下ろすための陰謀だ」と話す。
建設業を営むラミ・ニッサンさん(56)はヨルダン川西岸のユダヤ人入植地からデモに駆けつけた。「この国は政治ではなく、司法に支配されている。こんなのは民主主義じゃない」
ネタニヤフ氏本人も選挙戦を通じて司法やメディア批判を繰り返し、「彼らは私を陥れようとしている」と主張。国内外に敵を作り上げて攻撃する手法は、トランプ氏をほうふつさせる。
過去2回の選挙結果を分析すると、テルアビブなど都会ではガンツ氏率いる野党が強い一方、地方や入植地ではネタニヤフ氏が圧倒的な支持を誇る。この点でも、米国の「ラストベルト」(さびついた工業地帯)の有権者たちがトランプ氏に熱狂する姿との共通性を指摘する声がある。
12月11日までに連立交渉がまとまらなければ、来年3月に再々選挙となる見通し。だが、有権者の間では「何度やっても結果は同じ」との見方が強く、混乱の出口は見えない。【12月1日 朝日】
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総選挙ではネタニヤフ首相の汚職体質が争点となっており、パレスチナ対応は争点になっていません。
野党「青と白」のガンツ氏は元軍参謀総長としてガザ地区への軍事作戦を指揮した経歴の持ち主で、対パレスチナ政策に関しては「ネタニヤフ氏とガンツ氏には、ペプシとコカ・コーラくらいの違いしかない」(パレスチナ自治政府のシュタイエ首相)とも。
ただ、ネタニヤフ首相がアラブ政党との協力を拒否し、イスラエル社会の分断を進めるのに対し、ガンツ氏は「多くの有権者が分断に『ノー』、統一に『イエス』と言った」と語っており、ユダヤ人・アラブ人に分断された社会の在り方については差異があるようです。
【兵役にもつかず、就労もせず聖典研究に没頭する超正統派ユダヤ教徒】
ネタニヤフ首相が組閣できないのは、自身の汚職疑惑のほかに、本来は保守強硬派という同じ立場にあるリーベルマン氏率いる「イスラエル我が家」党の協力が得られないことがあります。
ネタニヤフ首相はユダヤ教宗教勢力の支持を受けていますが、ネタニヤフ首相より過激な保守強硬派であるリーベルマン氏は超正統派ユダヤ教神学校生徒の徴兵免除廃止を求めており、宗教重視と世俗主義の対立という問題も表面化しています。
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・・・・だが結果的に、今回もキャスティング・ボートを握ることになったのは「イスラエル我が家」党のアヴィグドール・リーバーマンである。
前回の選挙では、連立の条件として、超正統派ユダヤ教神学校生徒の徴兵免除を廃止する法案の成立を訴えるリーバーマンとネタニヤフの間で連立合意がまとまらず、解散に追い込むかたちとなった。
今回の選挙では議席をさらに5から9に伸ばした「イスラエル我が家」は、与党が安定多数で形成される上でカギを握る存在となる。リクードも「青と白」も共に、前回の選挙から議席を減らしているため、多数派工作は組閣の上でますます重要となっている。・・・・【9月19日 Newsweek「イスラエル政治の停滞と混迷は続く......やり直し選挙の行方」】
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超正統派ユダヤ教教徒については
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外見的な特徴としては、男性は頭髪のもみあげを伸ばして黒い帽子・衣服を着用し、女性は鬘やスカーフで地毛を隠すことが多い。
ユダヤ教の教義を学ぶことを最優先と考え、近代的な教育に否定的で、就労していない者が多い。
イスラエル政府から補助金(一家族平均で月3000~4000シェケル)を受け、税や社会保障負担も減免されているが、貧困層が多い。超正統派への公費支出に不満を抱く世俗派ユダヤ教徒もいる。【ウィキペディア】
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とのことで、イスラエルの再建はメシアの到来によってなされるべきであり、人為的に行うものではないという信念からイスラエルの建国を認めていない一派も存在するとか。
私のように宗教と縁が薄い人間には理解しがたい存在ですが、イスラエルでも極端な宗教重視には批判・困惑もあるようです。
****イスラエル版CIA「モサド」がユダヤ教超正統派の男たちを採用する理由****
聖典の研究と傍受情報の鑑別はそれほど変わらない?
イスラエルで「ハレディーム」と呼ばれるユダヤ教超正統派が急増している。その男性たちは聖典研究に専念することを本分としており、女性たちが家族を支えねばならない。ハレディームは兵役を免除されている場合も多い。
この経済的損失は大きく、イスラエル政府は才能ある男性たちを社会になんとか組み入れようとしている。イスラエル諜報特務庁「モサド」もハレディームを積極的に採用する構えだ。
モサドに就職したいユダヤ教超正統派
これまでの十余年、29歳のヨシ(セキュリティ上の理由で、姓は伏せる)は単調な日課をこなしてきた。午前7時起床、8時まで祈りと朝食、それから14時間以上ユダヤ聖典の勉強、その合間に食事とさらなる祈り。
だがこの9月以来、ヨシは宗教的書物の代わりに、数学とプログラミングの教科書を読むようになった。コンピュータサイエンスの学位の取得を目指しているからだ。最終的には、イスラエル公安庁、ひょっとしたら「モサド」(CIAのイスラエル版)に就職できたらと願っている。(中略)
ヨシが参加しているのは、「パルデス・プロジェクト」と呼ばれるプログラムだ。ヘブライ語で「ハレディーム」と呼ばれるユダヤ教超正統派に、そのアイデンティティを維持しつつイスラエル経済にもっと参画してもらうことを目的としたものだ。
超正統派男性も働いて!
ユダヤの伝統で男性の神聖な務めは、学習だ。ハレディームにとってそれは、古代の文書を学び、神とより近い関係を築くことを意味する。
超正統派はイスラエルの人口の10%以上を占める。そのうちのおよそ半分の男たちは宗教研究に専念しており、その妻たちが家族を支えるために働いている。
イスラエル政府は来年までに、現役世代のハレーディ男性たちの63%を労働力に組み込みたいとしている。だが、そうなる可能性はほとんどない。
それでも、成長が減速しているイスラエルとしては、彼らにもっと貢献してもらう必要があると経済学者たちは言う。
「イスラエル民主主義研究所(IDC)」によると、もしハレーディ男性全員がほかのイスラエル人と同じくらい生産的だったら、その経済効果は年間50億ドル(約5500億円)以上になるだろうとのことだ。(後略)【11月27日 COURRIER】
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【遺跡発掘調査が暴動・地域紛争につながりかねないエルサレムで発掘調査が急増 背景には政治】
もう2,3年前になりますが、エルサレムを舞台にしたドラマをネット配信で観ていて、(内容は完全に忘れましたが)その特異性が非常に印象的だったのが、世俗的人間には理解しがたい上記超正統派ユダヤ教教徒の存在と、もうひとつが「遺跡」が非常に敏感な存在であるということ。
ユダヤ教・イスラム教の宗教対立が厳しいエルサレムの遺跡は、たとえ石ひとつ動かしても社会問題化する可能性がある非常に敏感な存在のようです。
そのエルサレムで近年発掘調査が盛んに行われているとか。
****エルサレムの発掘が盛んに、背景に政治的意図****
考古学の発掘調査をすると暴動を招いてしまう土地は、世界広しといえども、エルサレムくらいのものだろう。暴動ばかりか、地域紛争にさえ発展しかねず、国際社会の安定まで脅かしている。
1996年、イスラエル当局がかつてのユダヤ教の神殿の西壁に沿って続くトンネルの出口を、旧市街のイスラム教徒地区に設けた。すると、激しい抗議運動が起き、約120人の死者が出た。
これをきっかけに、ユダヤ教徒がハル・ハバイト(神殿の丘)、イスラム教徒がハラム・アッシャリーフ(高貴な聖域)と呼ぶ、聖なる高台の地下にある遺跡の管理権をめぐって論争が巻き起こった。この対立は、1993年のパレスチナ暫定自治宣言(オスロ合意)を事実上破綻させる一因ともなった。
「エルサレムにおける考古学調査は研究者だけでなく、政治家や一般の人々にも関わってくるだけに、非常に神経を使います」。イスラエル考古学庁(IAA)エルサレム事務所のユバル・バルフ所長もそう認める。
今やエルサレムは年間100件前後の発掘調査が実施される、世界有数の活発な発掘地となっている。
考古学がいつしか政治学に
パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長はこうした発掘事業に異を唱える。エルサレムの地下には1400年の歴史を伝えるイスラム教の遺跡が眠っているが、IAAはそれを圧倒するユダヤ教の遺跡を掘り起こそうとしている、というのだ。
エルサレムのイスラム教の聖地を管理する宗教財団「エルサレム・イスラム・ワクフ」(通称ワクフ)のイスラム考古学部門を率いるユスフ・ナシュハも、「ここでは、考古学はただ単に科学知識を求める学問というより、政治学と化しています」と話す。
IAAのバルフはこれに対し、発掘調査は公平に進められていると力説する。カナン人の時代であれ、十字軍の時代であれ、どの時代も研究対象として等しく価値をもつ、というのだ。
イスラエルの考古学者が世界でも最高レベルの専門的な訓練を受けていることは疑う余地がない。と同時に、パレスチナとイスラエルの紛争で、考古学が政治的な武器として利用されていることもまた事実だ。
イスラエル当局はエルサレム市内とその周辺の発掘調査の認可権限をもつため、パレスチナ側に対して優位な立場にある。【11月29日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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暴動・地域紛争を招きかねないエルサレムの地下ほど敏感ではないかもしれませんが、遺跡発掘と政治の関わりは日本の天皇陵にも存在します。
仁徳天皇陵など天皇陵の詳しい発掘調査が行われれば、日本史を書き換えるほどの事実も判明するかもしれませんが、管理する宮内庁は「陵墓は皇室の祖先のお墓です。今も祭祀が行われています。静安と尊厳を保つのが本義です」と発掘調査を基本的には認めていません。
現在の「天皇陵」に関する説明は、確たる証拠もないまま、江戸末期から明治にかけ幕府や維新政府が神武天皇から連なる万世一系として天皇を政治利用する意図から“創設”したものとの見方がありますが、そうした枠組みが揺らぐことを懸念しているのでしょうか。
【西岸地区での入植活動容認 総選挙での支持層固めが狙い】
話をイスラエルに戻すと、トランプ大統領がこれまでのアメリカの立場を翻して、11月、ヨルダン川西岸での入植活動を事実上容認する姿勢に転じたのは周知のところです。
****イスラエル、入植拡大承認 米政権の容認転換後初****
イスラエルのベネット国防相は1日、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ヘブロンの内側にあるユダヤ人入植地を拡大する計画を承認した。地元メディアが伝えた。
トランプ米政権が11月、西岸での入植活動を事実上容認する政策転換をした後、入植拡大が承認されるのは初めて。
入植活動は占領地の地位変更を禁じた国際法に違反するとされる。西岸などを領土とする独立国家樹立を目指すパレスチナは「米国の責任だ」と強く反発している。
入植拡大計画を承認した背景には、総選挙をにらみ入植者を中心とする右派層の支持を固める狙いもあるとみられる。【12月2日 共同】
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トランプ大統領・ネタニヤフ首相の動きは国際的には批判が多く出されていますが、それぞれ国内選挙における支持層固めの思惑が優先するようです。
いずれにしても、ネタニヤフ・トランプ両氏への評価で国民の色分けが進むのはイスラエルとアメリカ、よく似た状況です。