(白い紙で覆われた絵をのぞこうとする少女。中にはイスラム風に顔などを隠していない女性の絵が描かれている【2月15日 Newsweek】)
【改革・穏健派躍進 テヘランでは全30議席独占】
欧米諸国との間で核開発問題で合意を取り付け、市民生活を疲弊させてきた経済制裁解除を実現した保守穏健派ロンハニ大統領の進める協調・改革路線が基盤を固めるのか、あるいは保守強硬派の巻き返しで政治的求心力を失う形になるのか・・・注目されていたイランの国会議員選挙が、専門家会議選挙と併せて26日に行われました。
専門家会議は、執行機関たる行政府の長である大統領を超える存在として、行政・司法・立法の三権の上に立ち、また、軍の最高司令官として国政の最終決定権を有する最高指導者の選出と罷免の権限があり、76歳と高齢の現最高指導者ハメネイ師の後継体制を決める可能性があります。
ロウハニ大統領は「経済的、政治的尊厳への第一歩が核合意だった。次の一歩はこの選挙だ」と、改革・穏健保守派への支持を訴えてきました。
改革・穏健保守派が議会での多数派を握れば、ロウハニ政権の求心力が高まり、外資がイランへ進出しやすくするための法整備などが加速し、経済も活性化するものとみられています。
一方、米国を「敵」とみなし、イスラム教シーア派聖職者や保守的な商人層を支持基盤とする強硬保守派は、ロウハニ大統領が掲げる外国からの投資増大が進めば、国内の産業や商業が大きな打撃を受けるなどと主張し抵抗を強めていました。
投票率については、“投票率(速報値)は約60%だが、同国内務省は開票が進むにしたがって「増えるだろう」としており、最終的には2012年の前回議会選の約64%を上回る可能性がある。”【2月27日 産経】とのことです。
保守強硬派は組織票に依存しており、投票率が上がれば、浮動票が改革・穏健保守派に流れると言われています。
“その改革派は、投票率を上げることに力を注ぐ。20日の集会で、アレフ元第1副大統領は「投票所に行き、候補者全員の名前を書こう」と繰り返した。合間にポップ音楽を生演奏し、親しみやすさをアピール。ロハニ氏も24日、国民全員の携帯電話に「投票に行こう」とメッセージを送った。”【2月26日 朝日】
まだ開票が続いている段階ですが、ロウハニ大統領を支持する改革・穏健保守派が躍進する形勢にあるようです。
****<イラン国会議員選>改革・穏健派躍進 核合意を評価****
イラン内務省は28日、26日に実施されたイランの国会(定数290)議員選の途中経過を発表した。
首都テヘランでは、ロウハニ大統領支持派の改革・穏健派連合が全30議席を独占。地方の選挙区でも議席を大きく伸ばす見通しで、核合意の実績を評価された大統領支持派が躍進する情勢となっている。
全国レベルでは現段階で、反大統領派の強硬派が過半数を維持しているが、改革派が影響力を強めるのは確実だ。最終結果は29日朝に発表される見通し。
また、最高指導者の選出権限を持つ「専門家会議」(定数88)でも、テヘラン地区では改革・穏健派連合が躍進。連合の主導的立場のラフサンジャニ元大統領がトップで、ロウハニ師が3位に続く。
内務省の発表では、投票率は約60%(暫定値)。強硬派系ニュースサイト「タスニム通信」によると、国会議員選は141人の当選が確実となり、強硬派79人▽改革派38人▽独立系18人▽穏健派5人▽不明1人。
一定得票に届かない候補は決選投票に進むため、現段階で勢力の断定はできないが、改革派は現有16議席から議席を伸ばす。
ロウハニ師は昨年7月、核開発を巡って欧米など6カ国と合意し、経済制裁の解除を引き出した。
また、2013年8月の就任以来、暴力と過激主義に対抗する取り組みの必要性を訴えてきた。27日にも、スイスのシュナイダー大統領との共同記者会見で、過激派対策への「世界的な協力」が必要と強調した。
議会で支持基盤を固め、核合意同様、強硬派が消極的な対外融和路線を促進したい考えだ。
イランは人口約8000万人のうち約6割が、1979年の革命を知らない30歳以下の若者。抑圧的な慣習に違和感を感じ、表現の自由や女性の地位の拡大などを掲げるロウハニ政権に同調する層が広がり、大統領派躍進の一因となっている。【2月28日 毎日】
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前回2012年の国会議員選では改革派は選挙不正への不信から多くが選挙をボイコットしており、選挙戦はもっぱら大統領(当時のアフマディネジャド大統領)派と反大統領派の保守派内の争いとなりました。
“改選前の勢力は改革派が1割、保守強硬派が4割程度。他に中道の保守穏健派や独立派がある”【2月27日 朝日】
国会は昨年10月、最終的に賛成多数で核合意を承認しましたが、議員290人中、賛成が161人、反対が59人、棄権・欠席が70人でした。
前回選挙の事情から、今回は改革・穏健保守派が増加するのは当然予想されていたところですが、首都テヘラン選挙区で全30議席を獲得するというのは、やはりロウハニ大統領の進める協調・改革路線への国民の期待が強いことが窺われます。
なお、定数290議席のうち、5議席が非ムスリムの宗教的少数派に割り当てられているそうです。
また、定数290に対して4844人が立候補していますが、投票は記名式で複数の候補者を書くことができる方式です。従って定数30を1111人が競う首都テヘランでは、最大30人の氏名を書けるそうです。【2月26日 朝日より】
集計はさぞかし大変でしょう。その割には早い段階で数字が出ているようです。
核合意・制裁解除で追い風に乗る改革・穏健保守派ですが、大きな壁は選挙の前の立候補段階にありました。
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国会議員への立候補申請者は過去最多の約1万2000人。
最高指導者ハメネイ師の影響下にある「護憲評議会」は事前審査で6229人の立候補を認めたが、1次審査で改革派約3000人のうち99%を「最高指導者への忠誠がない」などの理由で不適格と判断。最終審査でも認定されたのは少数だった。
一方、専門家会議の選挙では、イラン革命(1979年)を主導した初代最高指導者ホメイニ師の孫、ハッサン・ホメイニ師(43)が事前審査で失格とされた。同師は改革・穏健派連合に近い立場。連合勢力は祖父のカリスマ性を継ぐ人気にあやかり、国会議員選挙で追い風が吹くことを期待したが、勢いをそがれた。
ただ、事前審査に国民の不信が高まり、連合勢力には逆に好材料となっている。【2月26日 毎日】
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これまでも何度も取り上げてきたように、この不透明な資格審査が恣意的に運用され、改革・穏健保守派は選挙に参加することも難しい情勢にあります。
ただ今回は、ロウハニ大統領らの強い抗議で、ようやく一部が復活したことで、一定に選挙戦に臨むことが可能となっています。
【“弱腰”オバマ外交がもたらした世界の緊張緩和とイランの国内改革】
核問題の合意に関しては立場によって評価も分かれますが、個人的には、イランの暴走を抑え、世界の危険を緩和するものとして、また、イラン国内の民主化・改革を後押しするものとして評価しています。
****硬軟両様か蜜月化か 米・イラン関係****
ニューヨーク・タイムズ紙は1月17日付で「イランとの取引ゆえに、世界はより安全になった」との社説を掲載し、核合意の実施、制裁解除などを歓迎しています。社説の要旨は、次の通り。
外交で達成された歴史的進歩
多くの人が決して来ないと言ってきた時が来た。イランは2015年の米などとの核合意を履行した。その結果、世界はより安全になった。
国際原子力機関(IAEA)は1月16日、イランが8.5トン以上の濃縮ウランをロシアに搬出し、1万2千以上の遠心分離機を廃棄し、プルトニウム製造用のアラクの原子炉にコンクリートを注ぎこんだことを確認した。
1月17日、オバマ大統領は「イランが爆弾を作るすべての道を閉ざした」、イランとの関与が「重要問題の解決への窓」を開けた、中東での戦争によらず、外交でこの歴史的進歩が達成された、と述べた。
今後も取引が厳格に守られることを確保するという難しい問題はある。その確保は米、ロ、中、欧州の義務である。イランは核施設について継続的なIAEA査察を受けるので、だますのは難しくなる。それに爆弾のための核物質を作ろうとしても1年以上かかる。合意の前には2〜3か月でできた。
この合意は忍耐強い外交、オバマ大統領の核問題を交渉により解決するとの先見の明ある決意の有効性の証明である。また、ロウハニ大統領とザリフ外相は核合意と履行を建設的態度で追求した。
恩赦が示す将来的な両国協力の可能性
またWP紙のレザイアン特派員と他3人の釈放を祝うときでもある。米は制裁違反で逮捕されたイラン人7名を恩赦した。別に米国人1名も自由になった。紛争の解決には妥協がいる。これらは将来、米国とイランが協力する可能性を示す。
イランは10名の米水兵(誤ってイラン領海にはいった2隻の乗組員)を釈放した。イランの強硬派の軍が2隻に乗り込み、捕らえられた水兵の写真を公開(たぶんジュネーブ条約違反)した。
通常ならば、これは危機になっただろう。米国の強硬派はオバマとイランを非難しただろう。しかしケリー国務長官とザリフ外相の数回の電話の後、ハメネイは事件を解決しようとするロウハニとザリフを支持した。対決が核取引を危険にさらすと双方とも知っていた。
もちろん、核合意の順守も米人の釈放も、イランがその他の国連決議や米国法違反で批判されないことを意味しない。拘束された米国人がイランを出た後、オバマはミサイル実験に関与した11のイラン企業と個人に制裁を課した。
イラン批判者は、制裁解除でイランが1000億ドルの資金を得、地域の不安定化のために使うことを恐れている。しかしロウハニは来月の議会選挙を前に国民の生活改善を図ることに重点を置くだろう。
このイランとの取引は北朝鮮交渉へのモデルでもありうる。【2月18日 WEDGE】
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今回選挙の結果はまだ定かではありませんが、改革・穏健保守派が議会主導権を握る形になれば、“弱腰”との悪評高いオバマ外交による核合意は、イラン民主化を後押しし、世界の緊張緩和に資するものとなったと評価できると考えます。
もちろん、イラン国内の改革は平坦な道のりではなく、“今回の選挙結果にかかわらず、強硬保守派は、護憲評議会や最高指導部の親衛隊的性格を持つ革命防衛隊などを通じて政治・社会に強い影響力を持つだけに、今後も両者のせめぎ合いが続きそうだ。”【2月25日 産経】とも。
特に、経済制裁解除の変化がすぐにはあらわれない場合、国民の強い期待が失望に変わることでロウハニ政権への強い逆風となることが危惧されます。