孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  憲法効力は変えることができても、人の心は・・・

2016-02-09 23:16:06 | ミャンマー

(アウン・サン・スー・チー 家族の肖像 【http://imaonline.jp/library/exhibitions/4ffced2d1e2ffa4645000001/】)

スー・チー「大統領」実現に向けて、憲法効力の一時停止措置を検討
ミャンマーのスー・チー政権に向けての動きについては、1月31日ブログ「ミャンマー 政権移譲のソフトランディングを進めるスー・チー氏」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160131でも取り上げたように、軍部を背景にした現政権からの権限移譲が概ね順調に進んでいるように見えましたが、「大統領」を巡って厳しい交渉が行われているようです。

外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない現行憲法規定によって、スー・チー氏にはその資格がなく、総選挙前の記者会見では、憲法で国家元首とされる大統領の「上位に立つ」と発言。選挙後にもシンガポールのテレビ局のインタビューで「私が党のリーダーとしてすべての決定を下す。大統領には何の権限もない」と言い切っています。

そうしたことから、側近を大統領として、自身は「大統領の上の存在」として実権を行使するのでは・・・・と、一般的には見られていましたが、やはりスー・チー氏の「大統領」へのこだわりは強いようです。

軍人が25%を占める現在の議会情勢では正規の憲法改正は困難なため、憲法条項の効力を停止する特別法案で大統領への道を切り開こうとのことです。

****スー・チー大統領」へ法案、NLDが提出へ****
昨年11月のミャンマー総選挙を経て与党となった国民民主連盟(NLD)は、外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない憲法条項の効力を停止する特別法案を、近く国会に提出する方針を固めた。

NLD関係筋が明らかにした。英国籍の息子を持つNLD党首、アウン・サン・スー・チー氏(70)の大統領就任に道を開く狙いだが、国軍が激しく反対するなど曲折も予想される。

憲法の重要事項を改正するには、軍人議員も含めた全ての連邦議会議員の75%超の賛成を得た上に、国民投票で過半数の賛成を得る必要があり、きわめて困難だ。

だが、特別法なら議会の過半数の賛成で成立する。NLDは上下両院で単独過半数を占めている。【2月7日 読売】
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この方法自体は、昨年から「噂」されていたものです。

****<ミャンマー>スーチー氏、軍と攻防へ 「大統領の上」巡り****
・・・・英BBCの元記者、ラリー・ジェーガン氏はバンコク・ポスト紙で「スーチー氏は最終的に大統領ポストを手に入れる可能性がある」と指摘する。

憲法で「スーチー大統領」を阻むのは、息子が英国籍だという「親族の国籍条項」だ。NLD幹部の情報として、国軍がこの条項の「一時停止」を受け入れる可能性があるという。

国軍としては、憲法を超越するスーチー氏の立場を黙認するより、緊急避難的に「スーチー大統領」を容認した方が、憲法へのダメージは少ないとの判断がある、との見方だ。(後略)【2015年12月1日 毎日】
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「そこまでやるかね・・・」と思っていましたが、「やる」つもりのようです。
やはり「大統領」でないと、なにかにつけて「大統領でもないのに・・・」という批判がつきまといます。

また、憲法を超越する存在ではなく、憲法の定める最高指導者として統治にあたりたいということでしょうが、そのために憲法の効力を一時停止するという、いささか矛盾した流れとも言えます。現行憲法に瑕疵がある以上、やむを得ないとの判断でしょう。

ただ、“特別法なら議会の過半数の賛成で成立”とは言っても、今後の政権運営を考えると、大きな権限を有する軍部との合意が必要になります。

許される期限を目いっぱいに使って、国軍の合意を得るべく交渉がなされています。
国軍の方は、認めるとしたら相応の見返りを要求する話にもなります。

****新大統領の選出、3月下旬見通し スーチー氏就任模索 ミャンマー****
ミャンマー総選挙で大勝したアウンサンスーチー党首率いる国民民主連盟(NLD)が過半数を占める国会で8日、新大統領を選ぶ権限を持つ連邦院=上下院の全議員で構成=が招集された。マンウィンカインタン議長=NLD所属、上院議長兼務=は、大統領の選出手続きを3月17日に始めると宣言した。

テインセイン現大統領の任期満了は3月30日。NLDは当初、閣僚の国会承認手続きなどを考慮し、新大統領を2月中に選出する方向で検討していたため、ぎりぎりまで先延ばしにした形だ。

軍政下で制定された憲法が阻むスーチー氏の大統領就任をめぐり、国軍と交渉が続いており、スーチー氏は自身の就任を最後まで目指す意向とみられる。

スーチー氏は亡夫や息子が英国籍で、憲法の「外国籍の家族がいる人物は大統領になれない」との規定に該当する。NLDはこの条項の一時凍結を求め、国会で4分の1の議席を持つ軍と交渉している。

軍は国防、内務など3閣僚を指名する権限も持ち、新政権の安定的な運営のために軍の協力が欠かせないためだ。

関係者によると、交渉では、大統領が選任する地方の州や管区の首席大臣ポストのいくつかを軍が要求。折り合いはまだ付いていないという。

大統領は上院と下院の民選議員団がそれぞれ1人ずつ、両院合同の軍人議員団が1人の候補を選出。連邦院で3候補から大統領を全議員の投票で選び、落選した2人が副大統領になる。

今回、議長は三つの議員団による候補選出手続きを3月17日に始めると説明。新大統領選出はその数日後になる見通しになった。【2月9日 朝日】
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国軍の方も、“国軍は、自らの政治権益を認めた憲法に手を加えることに拒否感を示しており、憲法条項の一時停止を受け入れるには、NLD側に厳しい条件を突きつけてくると予想される。”【2月6日 産経】とのことですが、「スー・チー大統領」に全く応じられない・・・という訳でもないようです。

****ミャンマー情勢】与党、スー・チー氏の大統領就任に向け憲法条項の一部停止模索****
・・・・国軍内部では、軍政時代に自宅軟禁措置などで圧力をかけたスー・チー氏の「復讐(ふくしゅう)」への懸念が根強い。

一方で隣国の中国の軍事的台頭も警戒し、米国からの武器調達解禁を視野に、米国が支援してきたスー・チー氏の大統領就任を「特例で容認する」(外交筋)との見方が出ている。(後略)【2月8日 産経】
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スー・チー氏側は、法案審議において重要な役割を持つ法務諮問委員会の委員長に、軍政時代の実力者で、スー・チー氏とは協力関係にある前下院議長のシュエ・マン氏を起用して、準備を進めています。

****ミャンマー新議会、元軍幹部を法務諮問委員長に指名 シュエ・マン氏、スー・チー氏と連携して解任された前党首 憲法条項の一時停止も視野か****
ミャンマー新議会は5日、法務諮問委員会の委員長に、前下院議長のシュエ・マン氏を選出した。与党となった国民民主連盟(NLD)は、党首のアウン・サン・スー・チー氏の大統領就任に道を開くため、憲法条項の一部停止などを模索している。

元国軍幹部で議会運営に詳しい大物政治家の起用は、今後の大統領選出に影響を与えそうだ。

シュエ・マン氏は昨年、大統領就任に野心を燃やしてスー・チー氏と協力関係を築いたが、これがきっかけで国軍と対立関係となり、軍系の前与党、連邦団結発展党(USDP)党首を解任され、総選挙では落選した。

ロイター通信によると、同委員会の前身は、シュエ・マン氏が2011年に設立。約150本の法案成立に貢献してきたとされている。

現行憲法は外国籍の家族を持つ者の大統領資格を認めていない。スー・チー氏は英国籍の息子を持つため、大統領になるためにはこの条項の扱いが焦点になる。

憲法改正には議会の4分3超の賛同が必要で、25%を占める軍人議員が拒否権を握る。このため、NLDは、この条項を一時停止する法案を、8日から始まる連邦議会で動議することも視野に入れる。国軍が警戒する大物政治家のシュエ・マン氏が、法案の扱いで重要な役割を担うことになりそうだ。(後略)【2月6日 産経】
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息子が国籍を変える可能性は?】
ここまでグダグダと書いてきて、今さらの話ではありますが、実を言うと私は「外国籍の親族がいる人物の大統領資格を認めない」とういう現行憲法規定の内容をよく理解していません。

スー・チー氏の場合、亡夫と息子二人が英国籍ですが、“親族”の範囲に亡くなったご主人も入るのでしょうか?
もし、入るのなら、亡くなった方の国籍をどうこうすることはできませんので、即規定にひっかかることになります。

新聞記事の表現で見ると、【朝日】が“亡夫や息子が英国籍で・・・”という表現を使っているのに対し、【読売】【時事】は“英国籍の息子を持つ・・・”といった表現で、亡夫を明記していません。

もし、生存している息子さんだけが問題となるのなら、非常に言いづらい話ではありますが、「息子さんが国籍を変更する手続きに応じてくれたら、こんな話にもならないのに・・・」というのは誰しも思うところではないでしょうか。

もちろん、本人の意思に反して国籍をどうこうするというのは、あってはならない話です。
あってはならない話ではありますが、本人が協力してくれるなら・・・とも考えてしまいます。

ことは一国の憲法の効力を一時停止するかどうかという問題にかかわってきます。もし国軍との協議が不調に終わり、スー・チー政権と国軍の関係に溝ができるとことになれば、ミャンマー国民全体に影響が及びます。極端な場合、その溝が深刻化すれば国民の生命にも影響する混乱の危険性も否定できません。

実際、「大統領として、その身を国民に捧げるつもりなら、息子たちを説き伏せるべきだ」と主張する意見もあるようですが、スー・チー氏は「成人している彼らに対し、説得するつもりはない」と繰り返してきているそうです。

もっとはっきり言えば、スー・チー氏と長男のアレクサンダー氏は不仲だとも言われているそうです。
http://idagsnyheter.blog.so-net.ne.jp/2015-11-15より】

もとより、人の心は他人には(時には自分でも)よくわからないものですが、スー・チー母子の問題は、スー・チー氏が生きてきた過酷な人生によるところもあるのでは・・・とも思えます。

スー・チー氏が軍政によって自宅軟禁されたことで、夫・息子は彼女と離れてイギリスで暮らすことになります。
夫はスー・チー氏の政治活動をよく理解して彼女を支えていましたが、子供たちにはどのように感じられたことでしょうか?

出国するとミャンマーに戻れなくなってしまうため、ガンを患う夫も看病できず、葬儀にすら出ることができませんでした。

そうしたことが、子供の目にどのように映ったのか・・・・。

安易な決めつけは不謹慎ではありますが、敢えてTVドラマ的な陳腐な言い様をすれば、スー・チー氏は家族よりもミャンマーを選んだと子供の目に映ったとしても不思議ではありません。

国籍について言えば、息子二人はもともとはミャンマー国籍を持っていたようですが、軍事政権に剥奪されてしまい、イギリス国籍となったとも。彼ら自身もミャンマーの政治に翻弄されてきました。

こうした経緯を考えると、息子たちがミャンマーに対して複雑な思いがあり、スー・チー氏が「成人している彼らに対し、説得するつもりはない」としか言えないのもわかるような・・・。他人の勝手な思い込みでしょうが。

一方、先述のように「大統領として、その身を国民に捧げるつもりなら、息子たちを説き伏せるべきだ」との声もないことはないようですが、あまり大きな声にはなっていません。

もし軍部がそういう主張をするのであれば、母子がどうして今のような状況になったのか、すべて軍政時代の通算15年にも及ぶ自宅軟禁によるものではないか・・・という話にもなります。

現在は、スー・チー氏は過去の自宅軟禁について「報復」めいた言動は行っていませんが、上記のような話をしだすと感情的なものを呼び起こしかねないものがあります。

それは、スー・チー氏が国民の圧倒的支持を得ている現状で、国軍にとっても「パンドラの箱を開ける」ような不都合なことになってしまいかねません。

そんなこんなで、息子たちの国籍を云々は大きな声とはなっていないのかも。

すべては私個人の憶測にすぎません。
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