孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  「チョコレート少女自殺事件」に見る格差と民衆の不満、その不満を封じ込めようとする当局

2016-02-01 22:56:36 | 中国

(1月11日 広西省河池市の村で数万人の農民による抗議デモ 【1月21日 大紀元】 中国ではこうした抗議行動が毎日数百件起きているとも言われます。)

管理・統制を強める習近平政権
中国が管理・統制の厳しい社会であり、「言論の自由」も著しく制約されていることは今更の話ですが、特に、習近平政権は腐敗・汚職等の粛清運動を進める一方で、社会の管理・統制をこれまで以上に強めています。

****中国、治安強化の法整備 「国家安全法」「反テロ法」「NGO管理法」 民主派への弾圧懸念高まる****
中国の習近平政権がデモやテロの取り締まりのほか、活動家や外国人の監視を強化する法整備に乗り出した。

国家の安全や利益を守るとする「国家安全法」が全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で採択されたのに加え、テロ対策強化を目指す「反テロ法」や、外国の民間団体の活動を制限する「外国非政府組織管理法」(NGO統制法)も近く成立する見通しだ。改革派知識人の間で、締め付け強化に利用されることを懸念する声が出ている。

「国家安全法」は全人代常務委員会で1日に採択され、即日施行された。国家安全については「政権や主権、領土や経済活動など、国家の重大な利益が危険や内外の脅威にさらされない状態」と規定している。

安全保障上の任務としては、領土と海洋権益の防衛に加え、テロや暴動、少数民族への対策など、国内治安維持に属する内容も列挙。宇宙やサイバー空間、資源確保にも言及した。

北京の人権派弁護士は「国家安全の範囲をここまで幅広く規定する法律は世界的にも珍しい。警察や軍が条文を乱用し、人権活動家の弾圧などに使われないか心配だ」と話している。【2015年7月3日 産経ニュース】
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年末には「反テロ法」も成立しましたが、テロ対策の名目でネット規制も強まるようです。

*****中国で「反テロ法」成立・・・・ネット規制強化必至か****
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は27日、昨年から審議してきた「反テロ法案」を可決、成立させた。

通信事業者やインターネットサービス提供者に対し、テロ防止・調査のため暗号解読などの技術を提供するよう義務づけており、中国当局によるネットや情報技術(IT)への規制が一層強まるのは必至だ。(後略)【2016年12月27日 読売】
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人権活動に敏感な政権は、外国からの影響で中国国内で人権活動が広まることを警戒しています。

****中国人権弾圧】「外国NGO抑圧」か スウェーデン人拘束で波紋****
中国国内で陳情者支援などの人権活動に取り組むNGO(非政府組織)団体のスタッフで、スウェーデン人のピーター・ダーリン氏が、中国の治安当局に拘束されたことが大きな波紋を広げている。北京で活動する外国NGO関係者は「ダーリン氏が逮捕されたことは、私たちへの締め付けが厳しくなるサインだ。これからはますます活動しにくくなるだろう」と話している。(後略)【1月21日 産経】
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ダーリン氏は25日に釈放が発表されていますが、NGOへの引き締めは強まっています。

****女性権利NGOが閉鎖=民間引き締め、さらに強化―中国****
中国で女性の権利向上を目指した活動を展開した著名な北京のNGOが閉鎖に追い込まれたことが30日、関係者の話で分かった。習近平指導部による民間の社会組織への引き締め強化の一環とみられる。

このNGOは、「北京衆沢女性法律相談サービスセンター」(衆沢センター)で、著名な女性公益弁護士・郭建梅さんが責任者を務めている。郭さんはクリントン前米国務長官らとも交流があった。郭さん自身も中国版LINE「微信」で閉鎖の事実を明かした。

中国では1995年に北京で世界女性会議が開かれたことを契機に女性の権利問題への意識が高まり、郭さんは北京大学法学院に「女性法律研究サービスセンター」を設立し、弱い立場に置かれた女性に対する法律支援や公益訴訟を推進した。

ただ海外からの支援を得る国内NGOへの引き締めが強まり、北京大学は2010年に同センターを閉鎖。郭さんは衆沢センターを立ち上げたが、習体制になって「海外NGO管理法」の制定が進む中、同センターも閉鎖に追い込まれた。【1月30日 時事】 
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甘粛省で記者3人が失踪
報道や出版への圧力としては、中国共産党に批判的な書籍を扱っていた香港の「銅鑼湾書店」関係者5人が失踪した事件が、香港の「高度な自治」を認めた「1国2制度」を揺さぶるものとして注目されていますが、中国国内でも調査報道記者3人が相次ぎ失踪する事件が起きています。

****消される調査報道=記者の逮捕に波紋―「暗部」報道を警戒・中国****
中国甘粛省で1月7〜8日、地元紙の調査報道記者3人が相次ぎ失踪、うち1人が月末に「恐喝」容疑で逮捕されたことが分かり、大きな波紋を呼んでいる。

記者は拘束前に「社会の暗部」の取材・報道を続けており、当局から圧力や脅迫を受けていた。

言論統制を強める習近平体制は、社会に不公正や矛盾がまん延する中国で真実を伝える調査報道への警戒を強めており、全国の新聞社から徐々に調査報道部門が消えつつある。

 ◇逮捕に疑問
「蘭州晨報」「蘭州晩報」「西部商報」の記者が拘束されたのは甘粛省武威市。25日、2人は保釈処分となったが、蘭州晨報の男性記者・張永生氏(41)は逮捕された。28日には同紙が地元共産党委員会に宛てた公開書簡が明らかになり、拘束・逮捕の過程に「多くの疑問点」(同紙)が浮上した。

警察当局は張氏をサウナでの買春行為で拘束したが、警察の「おとり捜査」の可能性が指摘される。さらに警察は「記者の身分を利用し、何度も他人から金品をゆすり取った」として逮捕したが、同紙側は「(取材対象の)当事者が報道をやめてもらおうと記者に金品を無理やり送った」と反論した。

張氏は同紙で15年間勤めるベテラン記者。近年も小中学生の売血問題や幹部の自殺の背景などを報道し、当局は「社会にマイナス影響を与える」と捉えた。

地元幹部の昇進にも響くことから、張氏に「報道するな」と脅し続けた。張氏は同僚に「(当局の)宣伝部門は私を武威から追い出したくてたまらない」と漏らしたという。(後略)【1月31日 時事】
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【「チョコレート少女自殺事件」】
拘束された甘粛省地元紙の3記者については、昨年末に甘粛省で起きた「チョコレート少女自殺事件」との関連を指摘する向きもあります。

****中国で記者が連続失踪と逮捕――背後にチョコレート少女の自殺と両会(議会****
甘粛省で記者が相次いで失踪、逮捕されている。背後にはチョコレートを万引きし自殺に追い込まれた少女の追跡取材や、年一回開催される地方両会(県議会などに相当)と全国両会(国会に相当)(北京で開催)がある。

チョコレート万引き少女の自殺に抗議して暴徒化した民衆――貧富の格差と政府への不満
昨年12月28日、甘粛省金昌市永昌県の13歳になる少女が華東超市(華東スーパーマーケット)東街店でチョコレートを万引きした。

少女はその日の昼、水しか飲んでいなかった。昼食のために学校から家に戻ってみると、テーブルの上にはわずかな小銭が置いてあるだけだった。

華東スーパーがある広場でポップコーンを売っている父親に電話すると、その金で何か買って食べてくれという。

少女は家で水だけ飲むと、その小銭で父親のためにうどんを買い、父親に届けた。お前が食べろという父親に「おなか空いてないから、いらない」と言い、その場を離れた。父親は無理やり別の小銭を少女に渡した。

目の前には何でも売っているスーパーマーケットがある。
少女は思わず店の中に陳列してあるチョコレートに手を伸ばしていた。
家は貧乏で、チョコレートを買うお金などない。

スーパーの監視カメラが少女の行動を撮っていた。
店員に捕まり、客の前で激しい詰問が始まる。

「名前は?」「さっさと名前を言いなさい!」「学校はどこなの?!」「親の名前は?!」「親の電話番号を言いなさい!」
店主も出てきて、容赦なく罵声を浴びせた。

周りの客が、「もう、その辺でいいだろ?品物も返したんだし...。学校に戻してあげたら?まだ子供なんだし...」とかばうが、店主は引かない。

少女は屈辱のあまり何も答えられず、ようやく母親の電話番号を言った。

母親が来ると、店側はチョコレートの10倍はする150元を出せという(1元は約18円)。払わなければ警察に通報し、学校に通知すると脅した。

しかし母親は10元しか持っていない。

母親は娘を店で待たせ、ポップコーンを売っている夫のところに飛んでいき事情を話した。二人合わせてかき集めた金額は95元。急いで店に戻り、店主に有り金ぜんぶを渡した。

「だめだ! 足りない! 150元出さなければ警察に通報するぞ!」
押し問答をしている内に娘の姿が消えていることに気がついた。

ハッとした時には遅かった。少女は17階の屋上に行き、飛び降り自殺をしてしまったのである。

翌日、千人以上の民衆が華東スーパーを囲み抗議を始めた。30日になると群衆の数は万を越え、暴徒化してしまう。

警察3000人以上が出動し、それでも騒ぎは収まらずに、ついに蘭州軍区から3000人の武装警察が出動。大きな事件に発展してしまう。その様子を伝えた画像はほぼ削除されてしまって、今ではあまり見つからないが、その一部は「Yahoo香港」や「文学城」などの写真から伺われる。10人ほどが拘束された。

貧乏なのだ。

特に甘粛省やチベット自治区あるいはウィグル自治区などの辺境の地に行けば行くほど、貧富の格差は激しい。今回の暴動は、「貧富の格差」に対する民衆の怒りと全ての不平等に対する政府への怒りが、少女の自殺をきっかけに爆発したと言っていいだろう。

このような暴動は全国各地で毎日数百件は起きている。2014年に清華大学の教授が計算したところによれば、年間18万件ほど起きているという。少し前までは、(その昔、筆者がいた)中国社会科学院の社会学研究所が統計を取っていたのだが、年間10万件を越える段階で統計作業を中止している。

あまりに暴動が多いために、中国の治安維持費は軍事費を上回っているほどだ。

両会が始まろうとしていた
中国には年に一回開かれる「両会」というのがある。全国レベルで言うならば、立法機関である全国人民代表大会(全人代)とその諮問機関のような役割をする政治協商会議(全国政協)の二つを指す。3月初旬に北京で開催されるが、その前に1月に入ると中国全土の行政区分レベルで開催される。

甘粛省の場合は甘粛省政協が1月15日から19日まで、甘粛省人代が1月16日から20日まで、それぞれ蘭州で開かれることになっている。

1月13日には中国共産党甘粛省委員会宣伝部が「両会新聞宣伝工作会議」を開催し、甘粛省の全てのメディアがこれを報道することを要求した。

地方レベルであろうと、地方の両会から選ばれた全国両会であろうと、その期間にはいかなる「不祥事」も起きてはならない。警戒レベルは最高に達する。それが中国だ。

なぜ複数の新聞記者が連続失踪し逮捕されたのか?
1月7日になると、「蘭州晨報」(朝刊)、「蘭州晩報」(夕刊)や「西部商報」などの記者が相次いで消息不明になったことがわかった。

1月25日には、「ゆすり」や「脅し」を理由に3人が拘束されていたことが判明。

3人に共通していたのは、「チョコレート少女」の追跡取材をしていたことである。もう一つの共通点は、「社会の負のニュースも報道する」という勇気を持っていたことだ。

中国では、これは「勇気」ではない。「犯罪」に相当する。おまけに反骨精神を持っていた3人は、1月13日の中国共産党宣伝部の宣伝内容を報道しようとしなかったという「報道しない自由」をも使おうとしたという。これはもっと重い「犯罪」に相当すると言っていいだろう。

しかし、これらを逮捕理由にしたのでは、また暴動を招く。
そこで当局は「ゆすりや脅し」という理由を付けたのだが、どのような脅迫をしたのかに関して、理由が二転三転している。

3人のうち2人は釈放され、1人は逮捕されたが、その理由の中に「反政府的な公開状をネットに載せた」というのが付いていた。

逮捕状などに関する具体的画像を見たい方は、「観察者」というウェブサイトをご覧いただきたい。逮捕状そのものも貼り付けてある。政府を批判する公開状は、本人が書いたものではないと、所属の新聞社は言っている。

逮捕の正当性を裏付けるために「おとり捜査」も実行したようだが、要は「報道の自由」を弾圧したというひとことに尽きる。

習近平政権になってから、報道の自由への弾圧が一段と厳しくなってきた。
一党支配体制を崩壊させないために反腐敗運動の強化や国家新都市化計画により2.67億人に上る農民工の福利厚生問題を解決すべく取り組んではいる。

そのために経済の成長が鈍化し、人民に逆に不満が出てくるといけないので、報道の自由に対する弾圧が非常に厳しくなっている。

人権派弁護士ら、民主活動家からは「改革開放以来、最大の言論弾圧が起きている」という悲鳴が筆者のもとにも届く。

1月5日付の本コラム<香港「反中」書店関係者、謎の連続失踪――国際問題化する中国の言論弾圧>にも書いたように、言論弾圧は中国本土(大陸)だけでなく香港にも及んでいる。

しかし、このようなことをすればするほど、人民の不満は高まるばかりだろう。携帯を通してネットにアクセスする「網民」(ネット人口)は今年1月の統計で9億人に達した。

言論弾圧は逆効果だ。自由に発信する中国型LINE「微信」は、民主活動家や勇気のある記者の逮捕という旧来の言論弾圧手法では抑えきれない勢いになっている。

規制されればされるほど、人民の「知る欲求」と政府への不満は強まっていき、政府転覆へとつながりかねないだろう。

一党支配の限界を感じさせる事件であった。【2月1日 遠藤 誉氏 Newsweek】
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先ず、「チョコレート少女自殺事件」がどこまで「本当」の話かについては、あまりに「出来すぎた話」で、やや疑問もあります。

日本では1989年に「一杯のかけそば」が話題になりましたが、これも実話ではなく創作ではないか・・・との疑問が出されました。

話が本当かどうかはともかく、同じ「貧困物語」ですが、日本の「一杯のかけそば」では、一杯のかけそばを3人で分け合う母子を不憫に思ったそば屋の主人が内緒で1.5人分のそばをゆでて出すのに対し、中国の「チョコレート少女自殺事件」の店主は少女を激しく叱責し、法外な金額を要求するという差に、日本と中国の社会の違いが反映されているとも言えなくもありません。

鬱積する民衆の不満 それを恐れて封じ込めに走る当局
また、「チョコレート少女自殺事件」は、「アラブの春」の引き金となったチュニジアでの露天商若者の焼身自殺をも連想します。

中国でも、激怒した民衆は1万人以上にふくれ上がり、張応華・金昌市長のところまで行って、市長を殴打したそうです。

民衆の不満は、労働争議の形で噴出すことも。

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近頃、中国では景気減速している。そのため、多数の会社が倒産し、社長が“夜逃げ”するケースが多い。労働者らは社長が既に逃亡しているので矛先を変え、地方政府に賃金未払いを訴えて抗議デモを行う。

しかし、地方政府が、いちいち労働者に未払いの賃金を肩代わりする訳にはいかないだろう。際限がない。最終的には、公安や武装警察が出動し、これらの抗議デモを抑えている。【澁谷 司氏「甘粛省中1少女の投身自殺とその抗議デモ」】
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こうした民衆の不満が鬱積しているだけに、習近平政権は腐敗・汚職粛清で民衆の共感を手繰り寄せながら、一方で不満を「煽る」ような報道・情報は厳しく統制・管理するということになっているようです。

経済成長が順調であった時期は、成長の恩恵を配分することで不満は封じ込めることもできましたが、「新常態」ともなると、それも難しくなります。

「爆買い」に走る富裕層と「チョコレート少女」・・・政治はこの社会矛盾を直視する必要がありますが、政権維持が目的化し、人々の不満に向き合うことができないところが一党独裁の欠陥です。
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