(現在のイランの対外経済関係においては中国の存在が圧倒的です。欧米の経済制裁を耐え抜いたのも中国との関係が大きかったと思われます。【2月6日 ニュースィッチ】)
【「新しいページを開く」】
イランは、欧米など6カ国との昨年7月の最終合意に従って核開発の制限を履行し、国際原子力機関(IAEA)が1月16日に確認、これを受けて欧米と国連がイランに科してきた制裁の解除を宣言し、日本政府も1月22日に経済制裁を解除しました。
イランに対する経済制裁解除を受けて、当然ながらイランとの経済取引(イランへの輸出、イランからの原油輸入)が脚光を浴びています。
****イラン、欧州と巨額契約 計5兆円超 対IS、仏と協力****
イランのロハニ大統領が28日、核開発をめぐる経済制裁の解除を経て臨んだ初外遊を終えた。イタリアに続いて訪れたフランスでは、航空機大手エアバスに巨額の発注を決定。
長く敵対してきた米国への牽制(けんせい)もにじむ。ビジネスでの大盤振る舞いは、外交の布石ともいえる。
パリ中心部の仏大統領府(エリゼ宮)。官民の協定や契約の署名式を経て、ロハニ氏は、おだやかな笑顔で記者会見場に姿を見せた。
オランド仏大統領が「新しいページを開く」と持ち上げた首脳会談の成果は、まずビジネスにあらわれた。
AFP通信によると、エアバスが受注する航空機118機は約250億ドル(3兆円)超。ライバルの米ボーイングに先手を打つ形になった。
自動車のプジョー・シトロエングループ(PSA)はイラン大手との合弁会社を設立、石油の仏トタルはイランが増産に動く原油の調達を決めた。先だって訪れたイタリアの企業との契約も合わせると、5兆円を上回る契約額になったとみられる。
イランから見て欧州は、収入源である原油の有力な輸出先だ。逆に欧州から見れば、約7850万の人口を擁する大国イランは有望な市場だ。
イランへの期待は経済にとどまらない。過激組織「イスラム国」(IS)などによるテロとの戦いや、欧州へと向かう大量の難民を生むシリア情勢の安定への貢献だ。
ロハニ氏はこの日、「情報交換を重ねて、テロとの戦いを強める必要がある」と表明。ISは、イランの国教であるイスラム教シーア派を敵視しており、対ISでの協力を確認した。
シリアの将来については、イランは、いったんアサド大統領を退陣させて移行政権をつくり、その後の選挙でアサド氏の立候補を認めるという展開を描いているという。
ロハニ氏は「シリアの問題は『人』ではなく、テロ行為だ」とも話した。米国ほどアサド氏に対して厳しくない欧州諸国に向けた「協力が可能だ」とのメッセージともいえる。【1月30日 朝日】
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【出遅れ気味の日本も】
日本企業も、イランへの進出を狙っています。
今後、原油や天然ガスの輸出増加が見込まれており、また資源関連の他、自動車大手を含む幅広い業界で有望市場として事業拡大が期待されています。
*****千代田化工 制裁解除イランで改修工事 初受注へ検討****
プラント建設大手の千代田化工建設が、イランにある製油所の改修工事に関し、事業化に向けて検討していることが3日分かった。
受注が実現すれば、日本政府などが経済制裁を解除してから、日本企業がイランでインフラ事業を手掛ける初めての案件になるとみられる。(後略)【2月3日 毎日】
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ただ、イランとの関係においては、すでに中国が輸出入それぞれの約4分の1を占める存在となっていること、イランへの傾斜は、イランを敵視するサウジアラビアなどを刺激することなど問題もあ指摘されています。
****欧米に続き経済制裁解除。イラン進出「はやる心」と「懸念」と****
・・・ただ、課題もある。日米欧が経済制裁を科している間に中国の存在感が高まっていることだ。輸出入ともに最大の相手国は中国で、14年度で輸出の25・6%、輸入の23・9%を占める。だめ押しするように習近平国家主席は1月22日にイランを訪れ、経済関係の強化を打ち出した。
地政学的リスクもある。特に1月に入ってサウジアラビアと断交したことは不安の種だ。(中略)「断交しても、イラン経済には影響は少ない」(中村志信日本貿易振興機構テヘラン事務所長)とされるが、両国関係が一段と悪化し、中東情勢が不安定化する懸念はぬぐえない。
さらに今回、欧米と日本は一部制裁を解除したものの、すべての制裁を解除したわけではない。経済産業省は1月22日、大量破壊兵器の開発への関与が懸念される企業リストの中から、イラン企業73社を除外したが、現在も222社が残る。(中略)
日本企業の動向は?
制裁解除を受けてイランでは、日本向けの原油輸出拡大への期待が高まっている。イランからの輸入拡大は日本にも、原油調達先の分散化という利点をもたらす。
ただイラン産の原油は性状がかなり特殊で、処理できる製油所が限られる。イランとサウジアラビアの国交断絶で、中東情勢の緊迫感が高まっていることなどから、早期の輸入拡大には慎重な声もある。(中略)
さらに問題を複雑にしているのが、イランとサウジの国交断絶。エンジ会社は両国の国営石油会社と取引するケースが多く、「どちらかに肩入れしている心証を与えるのは得策ではない」(関係者)といった見方も出ている。(後略)【2月6日 ニュースィッチ】
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【イラン原油の増産で原油価格は】
世界経済の大きな関心事であるイランの原油輸出については、2段階で100万バレル増産が予定されているとか。
原油価格は1バレル=30ドル付近にまで低迷して、世界経済だけでなく、ロシアやサウジアラビアの動向など、国際政治へも大きな影響を与えていますが、今後イランから供給増加によって、更に価格押し下げの圧力が働くことが予想されています。
****イラン経財相「原油増産、2段階で100万バレル」 ****
来日したイランのアリ・タイエブニア経済財務相は4日、都内で日本経済新聞のインタビューに応じた。原油生産について米欧などの制裁解除を受け、今後日量50万バレルずつ2回に分け、計100万バレルを増産する方針を示した。
自動車など製造業への外資導入を進める考えも強調。フランスの自動車大手ルノーがイランの同業大手サイパとの提携で近く合意する見通しだと明らかにした。
タイエブニア氏は原油の増産規模について、すぐにでも100万バレルに達する能力があると指摘した。2段階で増やす理由は石油価格の下落に対応するためだと説明。
後半の50万バレルの増産については2016年の年央以降に「市況を見ながら」判断すると述べた。油価が低迷すれば、増産の規模を縮小したり、タイミングを遅らせたりする可能性を示した格好だ。
イランの原油生産量は現在、日量280万バレル前後とみられている。イランの増産にはサウジアラビアなどが警戒しているといわれるが、タイエブニア氏は「(サウジやイランも加わる)石油輸出国機構(OPEC)の加盟国の基本的な理解を得ている」と語った。
タイエブニア氏は、産業の裾野が広い自動車をはじめとする製造業への外資導入を進める意向を強調した。国内で多くの雇用を創出し、生産性を高めるためだ。
1月には仏自動車大手のプジョーシトロエングループ(PSA)が、同業のイラン・ホドロと折半出資で合弁会社を立ち上げることで合意した。5年間で4億ユーロ(約520億円)を投資する。
イランの核開発抑制が確認されたことで、米欧などは1月、イランへの経済制裁の解除を決定した。その後、中国の習近平国家主席がイランを訪れ、イランのロウハニ大統領がイタリア、フランスなどを歴訪。イランと主要国の間で経済関係の強化を探る動きが相次いでいる。【2月5日 日経】
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もっとも、原油価格は国際情勢の変化などで大きく動きますので、予想されるような価格低迷が続くのかどうかは定かではありません。
あまりの価格低下でサウジアラビアの国内が混乱し、王制が揺らげば、一気に跳ね上がることもあります。
ただ、以前と異なるのは、アメリカのシェールオイル生産がありますので、市場価格を調整する形でシェールオイル生産が拡大し、やがて価格は落ち着くことも考えられます。
原油など資源価格が低い水準で推移することは、日本経済にとって基本的には追い風でしょう。この追い風を生かせないようなら・・・・。
それにしても、1年半前の1バレルが100ドルを超えるような原油価格は何だったのか?
産油国は「濡れ手に粟」のぼろ儲けだったことでしょう。しかし、そのことが逆に資源依存体質からの脱却を遅らせることにもなり、石油など資源産出は「麻薬」のようなものにも思われます。
また、日本などの資源輸入国の立場で考えると、現在の3倍以上の価格でもなんとかやってきた訳で、経済というのは思った以上に、弾力性・対応力があるもののようです。その過程でどういう変化が生じたのかは、別途精査する必要はあるでしょうが。
【国民の期待が失望に変われば保守強硬派の揺り戻しも】
イランの経済制裁解除がイラン国内に及ぼす影響としては、制裁で苦しんできた経済が好転することで、欧米との交渉を主導してきた現在の穏健派ロウハニ大統領の政治基盤にプラスとなり、ひいてはイラン国内の民主化にも・・・という流れが期待される訳ですが、話はそう簡単ではないようです。
*****イランに経済復興ブーム 漁夫の利を得る強硬派****
核合意によりイランの経済制裁が解除され、8000万人の市場を狙って欧州や中国の企業などが殺到、同国に経済復興ブームが起きている。
制裁に苦しんできた国民の期待も大きいが、制裁解除の効果が末端まで及ぶには数年かかるとされ、漁夫の利を得るのは結局、実権を握る革命防衛隊など保守・強硬派だとの見方も強まっている。
まずは1000億ドル
制裁解除を見越した各国のイラン詣では昨年から始まり、特にフランス、英国、ドイツなど欧州各国当局者や企業の代表らが続々イラン入り、今年に入ってイラン詣ではさらに加速した。
例えば、制裁が解除された1月16日前後にはドイツのシュレーダー元首相やチェコの貿易相などもテヘランに滞在していた。
イラン政府は原油の生産を日量50万バレル増やすことを決定し、凍結されていた海外預金のうち1000億ドル(10兆円)が自由に使えるようになったことも発表した。
銀行9行が国際送金ネットワークに復帰し、貿易の決済ができるようになった。これに伴い使用できなかったクレジット・カードも利用可能になる見通しだ。
制裁解除の立役者である改革派のロウハニ大統領は先月末、イタリア、フランスを相次いで訪問し、両国との間で5兆円を超える巨額の商契約や企業の業務提携などに合意、経済制裁が解除されて自由の身になったイランをこれ見よがしに誇示した。
大統領は政治面でも、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いや欧州に殺到する難民問題などについて、オランド仏大統領らと突っ込んだ協議を行った。(中略)
ロシアも武器や防衛システム、原子炉建設などをイランに売りこむことに躍起になっており、トルコとの関係悪化で輸入ができなくなった農産物や食肉をイラン産に切り換えたり、観光ビザの撤廃を検討中とされる。
イラン・ビジネスを狙っているのは欧州だけではない。中国や韓国も多数の企業がテヘランに入っている。中国の習近平国家主席自ら1月にはイランを訪問してロウハニ大統領と会談、中国がイラン国内で高速鉄道を整備することで合意した。習主席は最高指導者のハメネイ師とも会談した。
これに対して日本企業は出遅れ気味だが、商社やメーカー、プラント企業などがイラン当局者や企業幹部との接触を図っている。弾道ミサイル発射実験で新たな制裁を発動した米国の企業もイランとの取引には慎重だ。
誰が甘い汁を吸うのか
イランの海外凍結資産はなお2000億ドル(20兆円)は下らないと見られており、石油の増産とも相まってイランの経済復興ブームが今後もしばらく続く見通しだ。
しかし経済専門家らによると、一般国民が制裁解除の恩恵を受けるようになるまでには少なくとも1年以上かかる、という。
このため、イランの権力バランスは制裁が解除されてしばらくは、ロウハニ大統領ら改革派や現実主義者らに有利に傾くものの、制裁解除の効果を身近に感じられないとなると、国民の期待が一気に失望に変わる可能性もある。
「失望は容易に批判に変わり、追い込まれているかに見えていた保守・強硬派がそこに乗じて揺り戻しに動く懸念が強い」(ベイルート筋)。
ロウハニ大統領は、革命防衛隊など保守・強硬派のこうした動きとも戦わなければならず、石油価格の下落の中でいかに国民の生活を向上させていくかがカギとなる。
専門家らによると、保守・強硬派が解除された資金の一部をすぐに入手することになるのは確実。復興がうまくいっても、いかなくても、どちらに転んでも同勢力が最終的には漁夫の利を得ることになる、という。
1月にイランと断交したサウジアラビアなどスンニ派湾岸諸国は、イランが巨額の解除資金をシリアのアサド政権支援やイエメンを支配するシーア派のフーシ派に対する援助に活用するのは間違いないと見て、不信感と警戒感を強めている。【2月5日 佐々木伸氏 WEDGE】
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革命防衛隊などは経済制裁下にあっても権益を独占する形で巨利を得てきたとも言われています。
こうした既得権益層を経済から排除して、成長の恩恵を広く国民に行きわたらせるのは至難の事業です。場合によっては血を見るような。
国民の変化・生活向上への期待という大きなプレッシャーを受けながら、ロウハニ政権が結果を出せるのか・・・これからの話です。