孤帆の遠影碧空に尽き

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イギリス・キャメロン首相  EU離脱回避に向けてEU改革を求める 改革案への国内外の反応は不透明

2016-02-03 22:43:53 | 欧州情勢

(キャメロン英首相(右)と会談するトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)=1月31日、ロンドン(AP)【2月2日 SankeiBiz】)

6月の国民投票実施に向けて「前進があった」】
イギリス国内には、増加する東欧などからの移民や、国家主権を制約するEUの存在に対する反発が強く、保守層を中心にEUからの離脱を求める声が強く存在しています。

歴史的に欧州大陸から距離を置いてきたイギリスは、フランス・ドイツ主導で進むEUによる欧州統合にはこれまでも懐疑的で、本来EU加盟国が導入することになっているユーロについてもデンマークとともに適用除外となっています。

イギリス・キャメロン首相自身はEU残留を望んでいますが、保守党内部にも存在するEU離脱(Brexit)を求める声に対応するため、EUからの離脱を問う国民投票を2017年末までに実施することを公約しています。

ただ、来年末まで不透明な状況が続くのは経済等への悪影響もあるため、今月中にEUの改革案をEUから取り付けて「反EU」の声に一定に応えたうえで、今年6月にも国民投票を実施して、首相としては残留の方向で決着したい意向です。

キャメロン首相は1月10日のBBC放送の番組で、「英国民が離脱を選択すれば、われわれ(政府)は従う。しかし、離脱は正しい答えではない」と述べています。

イギリス世論には、EUを離脱してもイギリスはやっていける、むしろ負担が少なくなるといった声があるようですが、果たして本当にそうなのか・・・経済界は残留を望んでいるようです。

離脱後のEUから大きな経済的影響を受けるにもかかわらず、離脱によってEUに対して何らの発言権もなくなる・・・という事態も想定されます。

政治的にも、欧州で孤立したイギリスがどれだけの存在感を示せるか?アメリカも、イギリスがEU内にとどまって影響力を行使することを望んでいます。

キャメロン首相の「大きな賭け」でもありますが、キャメロン首相にとってはEUからどれだけイギリスの意向に沿った改革案を引き出せるかが、賭けに勝利するうえでカギとなります。

キャメロン首相とトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)の会談で、そのカギとなるEU改革案されています。

****EU改革案まとまる 離脱賛否問う英の要請踏まえ****
イギリスでEU=ヨーロッパ連合からの離脱の賛否を問う国民投票が行われるのを前に、イギリスの残留を望むEUは、域内からの移民の急増に不満が高まるイギリスの要請を踏まえ、移民が受ける社会保障費の一部を制限するなどのEUの改革案をまとめました。

イギリスのキャメロン政権は、EUからの離脱の賛否を問う国民投票を早ければ6月にも実施する方針ですが、EUの「移動の自由」という原則のもと、域内からの移民が急増し国内で不満が高まっていることなどから、EUに対して規則の見直しを含む改革案の策定を求めていました。

EUのトゥスク大統領は2日、イギリスの要請を踏まえた改革案をまとめ、加盟国に提示しました。

この中では、EU域内の移民が急増し、受け入れ国の社会保障制度を過度に圧迫していると加盟国などが認めた場合、緊急措置として、移民の入国後、最大4年間は、低賃金労働者への手当など移民が受ける社会保障費の一部を制限する案を盛り込んでいます。

また、加盟国の議会の権限を強化するよう求めるイギリスに配慮し、EUが制定する法案に対して各国の議会の反対が一定の割合に達した場合は、法案の取り下げや見直しを行うなどとしています。

EUとしては、イギリスの要請に一定の譲歩を示すことで国民投票の結果をEU残留に導きたい考えですが、すべての加盟国が改革案を承認するのかや、イギリス国民の不満の軽減につながるのかが今後の焦点です。

英首相 改革案を評価
イギリスのキャメロン首相はEUがまとめた改革案について、「まだ取り組むべきことがある」とする一方、「前進があった」と評価しました。

特に焦点だった移民が受ける社会保障費については、「求めていたものは基本的に獲得できた。この国に来たばかりの人が労働者向けの手当を直ちに手にすることはできないということだ」として協議の成果を強調しました。

そのうえでキャメロン首相は、「協議がまとまれば、国民投票はかなり早まるだろう」と述べ、今月のEU首脳会議で加盟国の承認が得られれば、来年末までに実施する予定の国民投票を数か月以内に実施するという見通しを示し、その場合はEUへの残留を国民に訴えていく考えを明らかにしました。

ただ、EUに懐疑的なイギリスの議員は、改革案について「社会保障費の給付の制限を自国で決められないのはおかしい」などと批判していて、最新の世論調査ではEUからの離脱を支持する人が残留を支持する人を僅かに上回っています。

キャメロン首相のもくろみどおり、イギリス国民がEU残留を選択するのかは予断を許さない情勢です。【2月3日 NHK】
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憲法にあたる基本条約改正には手をつけず「解釈改憲」 国内外の高いハードル
改革案内容をも少し詳しく見ると、以下のとおり。

****<EU改革>議長、英に妥協案提示 移民の福祉制限など****
・・・・キャメロン英首相は、
(1)EU域内からの移民に対し税控除など福祉サービスを4年間制限する
(2)EUの「統合深化」の英国への適用除外、各国議会に事実上の拒否権付与
(3)ユーロ圏決定事項の英国への適用除外
(4)競争政策推進−−を要求していた。
(5)

トゥスク大統領の主な妥協案は、
(1)移民急増で英国の福祉制度に過度な圧力がかかる「例外的な状況」が発生した場合、最長4年間の税控除など福祉サービスを制限できる「保障措置」の導入
(2)統合深化の適用除外をEUが政治宣言。加盟国議会の計55%が反対すればEUの新法制の審議を停止できる事実上の拒否権を容認
(3)ユーロ圏内での救済措置を圏外の国に負担させないなど線引きの明確化
(4)規制緩和など競争強化−−。

英国側の要求を一応満たす内容でキャメロン首相は2日、「詰める部分はあるが、改革を確実にした」と述べた。また、国民投票について「合意すれば数カ月以内に実施する」として6月中旬の実施を示唆。従来主張しているEU残留の立場で臨む方針も示した。

ただ、福祉サービスを制限する「保障措置」は全加盟国が参加する理事会で承認を得る必要がある。
EUから英国に最大の移民を送るポーランドのドゥダ大統領は2日、「EU内での移動の自由と福祉受給は根本的な権利だ。細部を検討する必要がある」と慎重な姿勢を崩していない。

また、欧州委は英国に「保障措置は今すぐ適用可能だ」としているが、経済が比較的好調な英国が、現時点で移民問題で困窮する「例外的な状況」にあるか疑問だ。

ユーロ圏との線引きや競争政策促進も具体性は乏しい。

妥協案についてトゥスク大統領自身も「さらに議論が必要だ」としており、福祉制限で実害を受ける東欧諸国と英国の厳しい交渉も予想される。

一方、英国内では複数の閣僚や与党保守党の国会議員数十人がEUからの離脱を求め、キャメロン首相と対立しているとされる。

次期首相候補の一人とされるボリス・ジョンソン・ロンドン市長は「妥協案は全く満足できる内容ではない」と発言。EU首脳会議で合意しても国民投票の行方は不透明だ。

1日公表された世論調査では、EUからの離脱支持は42%で、残留支持の38%を上回っている。
 
◇苦しい「解釈改憲」
英国の改革要求に対するEU側の回答はほぼ「満額回答」にも見えるが、実は「抜本的な見直しはない」(英BBC)のが実情だ。それはEUが、憲法にあたる基本条約改正には手をつけず「解釈改憲」の形で、事態を乗り切ろうとしているからだ。

トゥスク提案では、改革案を「次の(基本)条約改正に盛り込む」という部分がカッコ付きになっている。英、EUとも合意できていないとの意味だ。

基本条約を素直に読めば、英国やデンマークなどを除き、共通通貨ユーロを導入するのは義務だが、妥協案は「自由意思」のように解釈した。

農業から情報通信までさまざまな部分で統合をはかる「深化」を目指すのがEUの原理だが、基本条約にある「統合深化」は「目標ではない」とした。

また「条約改正なしに改革はできる」(EU高官)という。条約改正には28加盟国の承認と、議会や国民投票での批准が必要で、反EU勢力が伸長する現状をみると非現実的だからだ。

しかし、憲法を変えなければ改革の大ナタを振るうことは難しい。結果として英国民には改革の内容はわかりにくく「これでは離脱しかない」(フォックス元国防相)との反発を呼んだ。

また、無理な解釈で英国だけでなく、統合の列から離脱する国を出しかねない危険もはらんでいる。【2月3日 毎日】
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憲法にあたる基本条約の改正は、各国の承認が必要になりますので、非現実的です。
そこで「解釈改憲」で・・・という、どこかの国の話のようでもありますが、当然に内容的には制約されたものになり、離脱を求める勢力をどこまで説得できるかは不透明です。

****イギリス離脱を止められるか、EU「譲歩」案の中身****
トゥスク案に含まれていないものは?
だが、もし移民の流入圧力が減らない場合、トゥスク案で示されている社会保障の制限はいつまで延長できるのかということだ。

キャメロンはEU域内移民が児童手当を国外送金するのを禁止じたいと考えているが、それについては、他のEU国に手当を送付する場合は、その国の生活水準に応じて減額されるとしているだけである。

4年間の「非常ブレーキ」にしても、EU域内移民による社会保障給付の請求を完全に封じるものではない。むしろ「段階的な」制限であり、期間を経るに従って、制限は緩んでいく。

キャメロン自身、早くも「我が国が改革を要求していた4分野の全てに進展がみられるが、まだやるべきことはある」とツイートしている。(後略)【2月3日 Newsweek】
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“EU離脱を求める2団体「Leave.Eu」と「Vote Leave」は、暫定合意の内容には中味がないと批判。英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首は、合意は「救いようなく」、「これまでまった意味がほぼない」と酷評した。”【2月3日 BBC】

“今月18、19日に開かれる次回の欧州首脳会議に向け、キャメロン首相は今後、ほかの加盟27カ国首脳の合意取り付けに奔走することになる。

キャメロン政権の閣僚は、EU離脱を支持しているとしても、全てのEU加盟国との最終合意が得られるまでは、政府方針を支持するよう求められている。

しかしBBCの政治担当編集委員ローラ・クンスバーグによると、「今月中旬までおとなしくしているか、少しずつ離脱論を主張し始めるか」が舞台裏で話し合われている。”【同上】

イギリス閣僚の6分の5が離脱に賛成の考えを持っているとも指摘されており、また、与党・保守党下院議員330人のうち、少なくとも210人が離脱が好ましいと考えているとも報じられています。【1月17日 産経より】

更に、今回合意案を、移民を出す側、つまり不利益を被る側のポーランドなど東欧諸国が了承する保証もありません。

“一部のEU加盟国からは英政府があまりにも多くの譲歩を勝ち取っていると不満の声も上がっており、首脳会議に先立って提案を売り込んでいくことは容易ではないとみられる。”【2月3日 AFP】

EU内部とイギリス国内と相反する両者を説得する立場にあるキャメロン首相ですが、非常に難しいところです。

難民等をめぐるイギリス国内の雰囲気
EU離脱で直接の問題となっている「移民」は東欧からの域内移民ですが、欧州全体が直面しており、イギリスも英仏海峡で阻止にあたっている中東・アフリカなどからの難民・移民に対する感情も、門戸を開くか、内向きの安定を選択するかという意味で、共通したものがあるでしょう。

イギリスでも他の欧州各国同様に難民らをめぐる緊張が高まっており、難民等へ対応で微妙な問題も提起されています。

****赤いドアの家」に難民?、嫌がらせ発生で緊急調査 英****
英国政府は21日までに、イングランド北東部で難民申請の希望者が居住する民家入り口などのドアが赤く塗られ、一部で卵や石が投げ付けられる嫌がらせ行為を受けているとのメディア報道があるとして緊急調査を命じたことを明らかにした。

ブローケンシャー移民相はCNNへの声明で、難民申請者の居場所などを広めるような措置への深い懸念を表明。
被害情報が伝えられたミドルズブラなどイングランド北東部の地域社会での緊急調査の実施を指示したと述べた。

ブローケンシャー移民相「差別行為を示す証拠が見付かったら、即座に対応する。いかなる差別行為も容認出来ない」と強調した。

同地域で難民申請者らの居住先の管理を担当する企業G4SはCNNへの声明で「難民申請者らを赤色のドアの背後に住まわせるような方針は断じてない」と主張。同社の下請け業者はG4Sが提供する全ての施設に赤色の塗装を施しているが、「これを差別行為と結びつけるのは異様だ」とも述べた。

同社は赤色のドアに絡む苦情を難民申請者からは受けていないが、下請け業者はドアを再塗装し、1つの色が目立つような形にはしない作業を行う予定だと説明した。

イングランド北東部の地方議会の元議員は20日、英BBCのラジオ放送との会見に応じ、2012年にG4Sに問題を提起したことがあるが、同社は対応しなかったと明かした。(後略)【1月21日 CNN】
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****亡命希望者の手首にバンド装着、いやがらせ誘発と物議 英国****
英ウェールズの公共施設で、食料配給を希望する亡命希望者の手首に色のついたバンドを巻かせたことが明らかになった。25日の英議会で政府は厳しく追及されることになりそうだ。

ウェールズ難民評議会は、カーディフの施設で起きたこの件について、第2次世界大戦中のナチス・ドイツがユダヤ人に黄色い星のマークを付けさせたことになぞらえて非難している。

同評議会のハンナ・ワーフ氏は「この問題は何度も、ウェールズ自治政府に提起してきた。(ユダヤの)人々にダビデの星(Star of David)を身に付けさせて目立つように強いたナチス政権を思い出させる出来事だ。人を軽んじ、餌に並ぶ動物のように扱っている」と非難した。

一方、リストバンドを使用した施設の運営を請け負うクリアスプリングス社は、移民が食料を要求するための単なる便宜上の措置だと述べているという。(後略)【1月25日 AFP】
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一方で、イギリス政府は難民の子どもを支援する施策も発表しています。

****保護者いない難民の子、英国が受け入れへ 人数は未定****
保護者と離ればなれになってシリアや北アフリカの紛争地から逃れてくる難民の子どもを支援する一環として、英政府は28日、こうした子どもを英国に受け入れる方針を表明した。今後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などと協議して、適切な受け入れ時期や方法を検討する。

英国は2020年までに2万人のシリア難民を受け入れる定住プログラムを実施中で、難民の子どもの受け入れは、これに上乗せして行われる。英国まで連れてくるのはあくまで「例外ケース」とし、最終的な受け入れ人数は未定だ。(後略)【1月29日 朝日】
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