孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カナダ  先住民女性数千人が殺人被害の可能性

2016-02-17 22:47:06 | アメリカ

(「先住民との融合」を大きなテーマに掲げた2010年バンクーバー冬季五輪開会式では、先住民のパフォーマンスが華やかに披露されましたが・・・・ 【2010年2月13日 asahi.com】)

先住民女性の死亡について、警察当局が適切な捜査を怠った
北米カナダのイメージは、広大な国土、雄大で美しい自然、隣接するアメリカ並の経済的豊かさ・・・・といったところですが、日本人にとってはあまり馴染みがないのも正直なところです。

国際政治における存在感も、「どうしてカナダがG7に入っているのだろう?」というぐらいに希薄です。(日本も同様ですが)

そんな“あまりよく知らない国”カナダについて、ちょっと驚いた記事がありました。

****カナダ先住民女性、数千人が殺人被害の可能性 政府が認める****
カナダのキャロリン・ベネット先住民相は16日、遺族から他殺を疑う声が出ていたのにもかかわらず、自殺や事故死、自然死として処理された先住民女性の数が数千人に上る可能性があると指摘し、警察当局が適切な捜査を怠ったと非難した。

カナダ連邦警察は、2014年に発表し昨年改訂した報告書で、過去30年間で殺害された先住民女性の数を1049人、行方不明者を172人としていた。だがベネット先住民相は、「悲劇の規模はさらに大きい」と指摘。ある女性人権団体は、実際の人数は4000人にも達するという見方を示している。

死亡者や行方不明者についての公式調査開始に先立ち遺族らと面談したベネット先住民相は、多数の事件が自殺、または過失による薬剤の過量摂取、自然死として片付けられたと述べ、「一部の事件について遺族が再捜査を望んでいることに疑問の余地はない」との見解を表明した。

ベネット先住民相は、後頭部を撃たれて死亡した女性や、両手を後ろ手に縛られた状態で死亡していた女性が、いずれも自殺として処理されていた例を挙げている。【2月17日 AFP】
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“(過去30年間で殺害された先住民女性の)実際の人数は4000人にも達する”“後頭部を撃たれて死亡した女性や、両手を後ろ手に縛られた状態で死亡していた女性が、いずれも自殺として処理されていた例”・・・・「民族浄化」とも言えるような蛮行が、あの豊かで美しいカナダで・・・。

【「今後はもっと多くの改善向上が期待できると思われる」とは言うものの・・・
カナダはアメリカやオーストラリア同様に移民の国です。
“OECD International Migration Outlook 2013のデータによると、全カナダ人口の5分の1、20%の人はカナダ以外の国で生まれた人だそうです。5人に1人が移民ということです。(ちなみに日本は1.1%。移民の割合は100人に1人)”【「カナダの人種問題|ウィニペグに住むカナダ先住民たち」 http://tbcanada.net/archives/1680 】

****カナダの先住民族****
カナダの憲法では、3つのグループが明確な先住民族として認定されています。

ファースト・ネーションズ(北米インディアン)、メティス(先住民とヨーロッパ人の両方を祖先とする人々)、イヌイット(北極地方の人々)の3グループです。

カナダにおける先住民の人口は約117万人で、全人口の約4%を占めています。この内訳は、約60%がファースト・ネーションズ、33%がメティス、4%がイヌイットです(2006年)。

カナダは10の州と3つの準州により構成されています。準州では徐々に地域住民による自治権の拡大が図られ、教育、保健など州とほぼ同様の権限が認められています。

一方、経済基盤が脆弱であるなどの理由により、連邦政府への財政的依存度が高いのが特徴的です。【アムネスティ日本】
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最も多いファースト・ネーションズ(北米インディアン)は、上記の数字では117万人の約60%ということで約70万人となりますが、前出【「カナダの人種問題|ウィニペグに住むカナダ先住民たち」】では約85万人とされています。

なお、カナダ政府のサイトでは、“登録されているのは約54万人”とされ、以下のようにも記されています。

****ファースト・ネーションズ (先住民族インディアン****
カナダで現在、インディアンと登録されているのは約54万人、カナダ国民のほぼ1.8%である。"登録"すると、連邦法によって一定の権利や特典、社会保障などを受 けることのできるインディアンとして認定される。

登録したインディアンのうち約55%が、彼らのために確保された「保留地」と呼ばれる特定地域に住んでいる。カナダにはこうした保留地が2,200か所以上あり、そこにざっと605のファースト・ネーション(部族集団)が居住している。保留地の大半は地方にあり、辺鄙な場所も多く、中には全く人の住んでいない保留地もある。【http://www.canadainternational.gc.ca/japan-japon/about-a_propos/faq-first_nations-indien.aspx?lang=jpn
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上記サイトでは、“ファースト・ネーションは、文化、社会、政治、経済、全ての面で復興を目指して、いま転換期にある。”としたうえで、各分野について説明、最後に“先住民の人々は、自分たちの未来を自らの手に取り戻しつつある。彼らは次第に他のカナダ人と同じ機会を得ることが出来るようになってきた。変化の勢いは、明確で力強い。今後はもっと多くの改善向上が期待できると思われる。”と結んでいます。

ただ、冒頭【AFP】などを見ると、そうした公式見解とは異なる現実も。

2008年に首相が同化政策について謝罪
なお、8年ほど前の2008年6月に、当時のハーパー首相は先住民に対する同化政策の過ちを認め、公式謝罪しています。

****カナダ首相、同化のための「寄宿学校強制入学」を先住民に謝罪****
カナダのスティーブン・ハーパー首相は11日、1874年に始まった同化政策の一環として、先住民15万人を寄宿学校に強制的に入学させて「深く傷つけてきた」として、先住民らに公式に謝罪した。

首相は下院で、議員のほか先住民の指導者、インディアン全寮制学校の卒業生らを前に、「カナダ政府は、先住民を深く傷つけてきたことを心から謝罪する」と述べた。

また、先住民の寄宿学校という考え方の根本には「先住民の文化や信仰は劣っていて適切ではない」という考えがあったと指摘した上で、「子どもたちを自分たちの家族や文化から切り離し、主要な文化に同化させるという方針は正しくなかったことをカナダ政府は認める。先住民の文化、遺産、言語を修復しがたく大きく損なったことを認める」と謝罪した。

子どもたちを同化させようとする試みは「カナダ史における悲しみの1章」だとも付け加えた。【2008年6月12日 AFP】
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カナダの同化政策については、“1874年以来、国内に住む先住民族の子どもたちは、教会が運営する132の寄宿学校に強制的に入学させられてきました。「先住民族の文化や信仰は劣って いて適切ではない」という考えのもと、独自の文化や言語が禁止され、英語を話し、キリスト教を信じるよう強要されました。さらに、校長や教師に暴力や性的 虐待を振るわれたと証言する先住民族もいます。カナダ政府は1970年代までこのような寄宿施設に対して、補助金を交付し続けていました。”【アムネスティ日本】とも。

2008年の2月には、オーストラリアのケビン・ラッド首相が、白人の入植に伴い2世紀にわたり同国先住民のアボリジニに対して行われた不当な行為について議会で謝罪して大きな話題となりました。
カナダ・ハーパー首相の謝罪も、そうした流れのひとつなのでしょう。

ただ、先住民が暮らしていた土地を“開拓”(あるいは略奪)して成立した「移民の国」にとっては、先住民問題は現実的に難しい要素をはらんでいます。

国連総会は2007年9月13日、世界3億7000万人の先住民の人権保護などをうたった「先住民の権利に関する国連宣言」を賛成143、反対4、棄権11で採択しました。

46条からなる宣言は、先住民にすべての人権と基本的自由を保障。同意なく没収された土地、資源の返還を含めた権利、固有文化を実践・復興する権利や、民族自決権などが盛り込まれています。

この宣言の採択にあたって、多くの先住民人口を抱えるアメリカ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアが国内法との整合性が取れないなどの理由で反対に回りました。

同意なく没収された土地、資源の返還・・・という話になると、こうした国々の現在の枠組みが根底から覆ることにもなりかねません。

また、何らかの補償措置がとられても、自立した生活基盤を失った場合、多くの問題が生じます。

****イヌイット****
・・・・1960年代、イヌイットの人々を定住させる政策が実施されたため、季節により移動していた 人々が定住し、その生活は大きく変わりました。

1970年代には、自治と土地請求権の確立をめざす運動が始まり、1993年にカナダ政府との間で土地請求 権合意が締結されました。これは、土地35万km2(うち3万6000km2は鉱業権を含む)、14年かけて支払われる140億カナダドル超の補償金、土 地・資源の管理運用に関する決定への参加保障をイヌイットに与えるものでした。

この合意により1999年4月、旧ノースウェスト準州が分割され、新しくヌ ナブト準州が誕生しました。
ヌナブトとは、イヌクティトゥト語で「私たちの土地」を意味し、人口の85%をイヌイットの人々が占めています。

自治は実現し たものの、高い失業率、薬物・アルコール依存や自殺などが問題になっています。【アムネスティ日本】
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犯罪への関与と差別・疎外の悪循環
また、多くが「居留地」に暮らし、政府からの経済的支援を受けているという現状は、アメリカ先住民同様に、援助に依存してアルコール浸りに陥る・・・といった問題も惹起します。

基本的には、先住民が社会から差別・疎外されるような構造がある限り、こうした問題の解決は難しいものがあります。

一方で、差別・疎外される人々は、生きるために犯罪行為に走ったり、支援に依存した覇気を欠いた生活に陥ったりと、差別・疎外を増長させることにもなり、悪循環となります。

欧州における被差別民族ロマなどもそうした現象が見られますが、カナダの先住民についても、犯罪との強い関わりも現実に存在し、それが差別を強めることにもなっているようです。

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この地域を車で通ってみるとわかるのですが、この地域に先住民たちが多く住んでいることがはっきりとわかります。先住民の人たちが路上にたむろしていたり、道でお酒を飲んでいたり、酔って暴れていたりという事を目にすることもあります。

ウィニペグに住むアボリジニー(ファーストネーションズ、メティ)の割合は全人口の10%にも満たないのですが、マニトバの刑務所に収監されている犯罪者のうち、なんとアボリジニーの割合が70%にも達しています。

ウィニペグの人たちが言う、「犯罪のほとんどが先住民が原因」というのは、決して人種差別的な感情や先入観ではなく、れっきとした事実なのです。【前出「カナダの人種問題|ウィニペグに住むカナダ先住民たち」】
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ある程度「事実」ではあるでしょうが、それは差別・疎外の結果でもあります。そしてその「事実」が更に差別を助長します。

犯罪以外にも、自己のアイデンティティを否定され、経済的・社会的にも疎外された状況にあっては、自殺も増加します。

****カナダ:先住民の若者、自殺率危機的に ****
・・・・カナダでは、ここ数年の自殺率は低下している。しかし、先住民コミュニティでは、それぞれの間でかなりの差はあるものの、状況は違う。

ファースト・ネーションの若者の自殺率は、非先住民族の若者より5~7倍高く、イヌイットの若者の自殺率は全国平均の11倍で、世界でも最上位に入る。

一部には、統計にはすべての先住民族が含まれるわけではないため、実際はもっと問題が深刻であるとする推測もある。

孤立、貧困、十分な住居や医療や社会福祉、そしてその他の基本的な施設の不足など、多くの要因がこの様な高い自殺率の原因になっている可能性がある。

Sweetgrass Coachingが書いているブログSweetgrass Coachingは、植民地化によってもたらされた痛みと無力感が原因だという。(後略)【2010年2月11日 Global Voices https://jp.globalvoices.org/2010/02/11/1389/
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ましてや、「自殺」として処理されていたなかに多くの他殺が含まれている・・・という冒頭【AFP】のような指摘になると論外です。

アメリカでは、黒人に対する白人警官の過剰対応が問題となっていますが、白人文化を根幹としてきた社会にはやはり根深いものがあるようにも。

徹底した調査によって、差別・偏見の実態を明らかにし、少しでも事態が改善されることを願います。
コメント (1)
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