
(聖地のひとつカタラガマを訪れたシリセナ新大統領 “flickr”より By Maithripala Sirisena
カタラガマは宗教公園になっており、カタラガマ神殿のほか、大きな仏塔キリ・ヴィハーラやイスラムのモスクも敷地内にあります。
カタラガマ神はもともとタミル人の土着信仰の神様ですから、ヒンズー教徒タミル人には人気があったのですが、政府がここに巨大な仏塔キリ・ヴィハーラを建設したことで、仏教徒シンハラ人の参拝者が増加し、逆にタミル人の参拝は減少してきたそうです。【「地球の歩き方 スリランカ」より】
内戦が終わって、そのあたりは変化したのでしょうか。
新大統領の訪問も仏教高僧から祝福を受けるためと思われますが、国民和解が進み、カタラガマが名実ともに宗教・民族を超えた全スリランカ人の聖地となることを願います。)
【クーデター未遂 汚職容疑告発も】
1月8日に行われたスリランカ大統領選挙で、主要野党が推すシリセナ前保健相(63)が現職のラジャパクサ大統領を破り、10年ぶりの政権交代が実現したことは、1月9日ブログ“スリランカ 「権力の私物化」「親中国路線」を批判されたラジャパクサ大統領敗北 政権交代へ”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150109で取り上げました。
そのブログの最後に“ラジャパクサ氏は敗北を認め、すでに大統領府を離れているとされており、接戦の選挙結果でゴタゴタすることが多い中にあって、このことは喜ばしい評価できる点です。”と書きましたが、やはりことはそうすんなり運んだわけでもなかったようです。
****スリランカ前大統領にクーデター画策の疑い****
スリランカのシリセナ新大統領の広報担当者は11日、コロンボで記者会見し、大統領選に現職として出馬して敗退したラジャパクサ氏が開票中の9日未明、敗色が濃厚になったために開票作業を阻止しようとしたとして、クーデターを企てた疑いで捜査を始めると発表した。
ラジャパクサ氏は警察長官や陸軍参謀長らを呼びつけて開票をやめさせるよう指示したが、拒否されたとしている。【1月12日 産経】
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“シリセナ氏が投票翌日の(1月)9日に大統領就任の宣誓をするという異例の“早業”も、ラジャパクサ氏の動きを封じ込めるためだったとして、クーデター説の信憑性を高める材料になっている。”【2月4日 産経ニュース】とも報じられています。
****汚職容疑で前大統領告発=野党が出国禁止要請―スリランカ****
スリランカの左派野党・人民解放戦線(JVP)は14日までに、不正蓄財などの容疑で、ラジャパクサ前大統領とその親族ら計12人を汚職防止機関に告発した。
告発対象者の出国を禁じ、保有資産について捜査するよう求めている。地元メディアが報じた。
報道によると、告発されたのはラジャパクサ氏の一族や政府高官による不正蓄財や国家資産の悪用、土地の収奪行為など。
中国の支援による高速道路や鉄道建設で、同氏が費用を不正に水増しし、差額を着服した疑惑が浮上していた。
JVP関係者はAFP通信の取材に「ラジャパクサ一族が国外に逃亡し、正義から逃れることのないよう告発した」と説明した。【1月14日 時事】
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「権力の私物化」と批判されていた前大統領ですから、本人及び親族について、叩けば埃はいくらでも出るでしょう。
どこまでやるかの問題です。
今のところ、クーデター云々についても、汚職容疑についても、その後の情報は目にしていません。
【国民和解の推進】
「反ラジャパクサ連合」に乗る形で政権交代を実現したシリセナ新大統領ですが、前大統領が十分に取り組んでこなかった内戦後の国民和解を前進させることが求められています。
****<スリランカ>09年内戦終結・・・・いまだに帰れない国内避難民****
2009年に少数派タミル人武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)との内戦が終結したスリランカで依然として故郷に帰れない国内避難民がいる。軍に土地を接収されているためだ。
同国では1月の大統領選挙でシリセナ政権が誕生した。避難民キャンプの住民は「新政権に早く土地を返してほしい」と訴えている。
「ここには家がたくさんあった。病院も、学校も」。東部トリンコマリーから南へ約40キロのサンプール。ナゲシュワラムさん(36)は何もない草原を指して嘆いた。
サンプール村は06年4月、周辺にLTTEが潜伏しているとして政府軍による爆撃を受け、少なくとも住民7人が死亡した。「もうここには住めない」。ナゲシュワラムさんは妻と2歳の娘を連れて村を脱出。徒歩で2カ月かけて約100キロ離れた南東部バティカロアへ逃れた。
内戦終結後の09年にサンプールに戻ったが、目にしたのは一面の荒野だ。自宅付近は軍に接収され、フェンスが張り巡らされて入れない。近くの避難民キャンプに身を寄せ、5年以上が過ぎた。「早く自分の土地に帰りたい」と嘆く。
周辺では4カ所のキャンプがあり、約3100人が住んでいるという。元サンプール村民のウダイクマールさん(38)によると、政府は約7キロ離れた別の場所を定住先として提示した。
しかし、水利が悪く農業に適さないため多くの住民が拒否したという。政府や非政府組織(NGO)の支援はほとんどなく、仕事は月10日程度の日雇い労働だけ。「いつになれば帰れるのか。新政権に期待するしかない」
故郷に戻った住民も生活は厳しい。近くに住むバーラシンガムさん(71)は06年の攻撃で長男(当時27歳)を失った。
いったん別の街に避難し、終戦後に自宅に戻ると、屋根がはがれて家財道具はなくなっていた。13年に妻が死亡し、自宅の修繕もできないまま1人で庭の小屋に住む。「(内戦がなければ)村の子供たちは学校を卒業し、医師や技師になれたはずだった。今は怒りもわいてこない」とさびしく笑った。
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スリランカは1970年代から少数派タミル人による分離独立運動が本格化し、83年に政府軍とタミル人武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)が内戦に突入した。
LTTEは北部や東部を中心に支配領域を広げたが、2009年5月、ラジャパクサ前政権による徹底攻撃でプラバカラン議長が死亡し壊滅した。内戦による犠牲者は8万~10万人といわれ、国内避難民は約30万人に上った。
壊滅したLTTEに対しては、今もタミル人の間に共感が残る。
タミル人政党・タミル国民連合の地方幹部を務めるティルッチェルバムさん(45)は、10歳以上離れた妹と弟がLTTEの志願兵となり戦死した。「彼らは我々の権利のために戦った。LTTEはタミル人の別名だ」と語る。
ただ、LTTEは内戦中に住民を「人間の盾」にしたり、少年少女を兵士にしたりしたなどとして批判されている。一方、政府軍も終戦間際にタミル人に無差別攻撃を加えたとされ、国連などは国際的な人権調査を受け入れるよう求めている。【2月4日 毎日】
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2009年の内戦終結後、ラジャパクサ政権が手をつけなかった内戦をめぐる責任の追及や、多数派シンハラ人と少数派タミル人の民族和解は、今後のスリランカの安定化にとって不可欠な要素となる。
この点について、17日付の英誌エコノミストは、新政権発足後にスリランカを訪問したローマ法王フランシスコ(78)が、戦争責任の追及は「古傷を開くためではなく、むしろ正義、癒やし、和解を進めるために必要な手段」と呼びかけたことに言及。その上で、南アフリカの白人政権下の人権犯罪を調査する「真実和解委員会」式の方法を提案した。【2月4日 産経ニュース】
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シリセナ新大統領を実現した「反ラジャパクサ連合」は寄り合い所帯であるだけに、少数派のタミル人やイスラム教徒を優遇する施策や内戦当時の人権侵害に関する調査を行えば、これに反発する勢力も出てくる・・・ということで、取扱いには苦慮しそうです。
****寄り合い世帯に危うさ****
シリセナ氏の勝因は、05年の大統領選でラジャパクサ氏と接戦を演じ、都市中間層やインテリにも支持者が多いウィクラマシンハ氏や、スリランカ初の女性大統領として今も国民に根強い人気があるクマラトゥンガ元大統領との連携に成功したことだ。
さらに、ラジャパクサ陣営を去った仏教政党・国民遺産党(JHU)がシリセナ氏支持に回り、ラジャパクサ氏の金城湯池だった仏教徒の票をある程度切り崩したことも結果に大きく影響したと考えられる。
ただ、こうした「反ラジャパクサ連合」は危うさもはらむ。経済政策がタミル人やイスラム教徒に偏重すれば、民族主義色が濃いJHUをはじめ多数派シンハラ人仏教徒の反発は必至。
内戦を政府側の勝利に導いた英雄として人気を集めながら2010年の大統領選で敗れたフォンセカ元陸軍司令官の要職への起用も取り沙汰されているが、その場合はタミル人らの猛反発も予想される。【1月24日 日経】
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【「親中国路線」の修正】
外交的には、前大統領がとった「親中国路線」の修正が予想されてはいます。
中国は内戦当時、スリランカ政府軍に兵器供与を行いました。
09年の内戦終結後、人権侵害批判を受け国際的に孤立したスリランカと内政不干渉の中国は一段と接近し、開発援助や直接投資額は中国が1位に。中国からの電気製品や日用品の輸入も激増し、インドに次いで2位になっています。自由貿易協定(FTA)や人民元の貿易・投資の利用推進でも合意しています。【下記SankeiBizより】
“海洋交通の要衝であるスリランカ南部は、中国の支援で建設された港や国際空港がすでに完成している。これに加えて、中国の習近平国家主席(61)は昨年9月のスリランカ訪問時に、新たな開発計画を約束。習氏の訪問前には、スリランカのコロンボ港に中国軍艦船が寄港し、両国関係の緊密ぶりを対外的にアピールした。”【2月4日 産経ニュース】
シリセナ新大統領は「全ての計画の再検討」を明言しています。
****中国巨額投資に揺れるスリランカ 「契約は汚職の温床」密月関係の潮目か ****
インド洋の島国スリランカが1月8日の大統領選後、中国の巨額投資をめぐり揺れている。
ラジャパクサ前大統領の「強権的統治」への反発を追い風に勝利を収めたシリセナ新大統領は、中国との不透明な契約が汚職の温床になっているとして「全ての計画の再検討」を明言、中国との蜜月関係の潮目となりそうだ。
昨年12月、最大都市コロンボ。インド洋に面した風光明媚(めいび)な広場の前で埋め立て作業が行われていた。中国の習近平国家主席が同年9月にスリランカを訪れた際、約3年での1期工事完成を表明した「コロンボ・ポートシティー計画」の工事現場だ。
東京ドーム約50個分に相当する233ヘクタールを埋め立て、カジノや中華街を造る。ポートシティーの開発を主導する中国国営企業が20ヘクタールを獲得、さらに88ヘクタールを99年契約で借り上げ、残りはスリランカ政府に無償供与する。約14億ドル(約1645億円)の開発資金は全て中国輸出入銀行の融資などで賄う。
中国は自らが掲げる「21世紀の海上シルクロード」構想の要としてスリランカの地理的な重要性に着目。インフラ投資や資金援助を積極的に進め、2009年に終結した内戦での虐殺や人権侵害で国際的に孤立していた前政権を支えた。
しかし、大統領選では計画への反発や不満、採算性を疑問視する声が高まった。環境保護団体のヘマンサ・ウィサナゲ代表は「(中国が支援する計画には)義務付けられている環境影響評価(アセスメント)が事実上実施されていない」と憤る。
ラジャパクサ氏の地元である南部ハンバントータ近郊では、主婦レヌカさん(38)が「政府は新しい仕事をくれると言ったが、実現していない」と話した。
04年のスマトラ沖地震による津波被災後、政府と中国が進める南アジア最大級の港湾開発が原因で、2度の転居を強いられた。約400世帯の漁村は海岸から数キロ離れた地区に移され、レヌカさんら村人の大半が稼ぎを失った。
その港湾施設は15年中に第2期工事の完成を目指すが、物流会社幹部は「利用は韓国自動車メーカーによる積み替えぐらい」と打ち明ける。投資資金約10億ドルの多くが中国側の出資。付近には国際空港や競技場も建設された。
地元銀行役員は「入札もなく契約は不透明。借金が返せない場合、中国の債権が資本に転換されるだろう」と指摘。中国側の経営への影響がより強まる可能性がある。
港湾施設全体の管理権はスリランカに属するが、融資条件の緩和と引き換えに一部運営権を中国側に譲渡したとの報道も出ている。【2月3日 SankeiBiz】
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しかし、巨額の投資をもたらす中国を無視することも非現実的でしょう。
****国民和解、中国離れ・・・スリランカ新大統領に難題 ****
■対インド関係は拡大へ
外交面では、財政支援などで内戦勝利にも貢献したと言われ、近年スリランカへの接近を急加速させている中国との関係が最大の関心事だ。
2012年の中国からの借款は4.9億ドルと米国の2倍以上。過去10年間で約80億ドルに達した。今も中国の支援による巨大港湾建設プロジェクトが浮上している。
こうしたことから、スリランカは中国による対インド包囲網「真珠の首飾り」戦略の一翼を担っている、とのストーリーが語られてきた。
シリセナ氏自身はマニフェストの中で、間接的な表現ながら「外国の属国化」に警戒感を表明しており、港湾建設プロジェクトも白紙に戻す意向を示している。
ラジャパクサ時代の「中国一辺倒」は是正されそうだが、かといって自国に巨額投資をもたらす重要国を簡単に袖にするとは考えにくい。
対インド関係は改善に向かうだろう。インド南部タミルナドゥ州の有力政党はいずれも、同胞に対する人権侵害が指摘されてきたラジャパクサ氏を繰り返し批判。
前政権時代の13年には、政府がスリランカの人権問題で強い態度を示さないことに抗議して政権第2党のタミル人政党ドラビダ進歩同盟(DMK)が連立を離脱した経緯もある。
ウィクラマシンハ首相はかねて親インド派とみられており、シリセナ新大統領の登場は印・スリランカ2国間経済協力の拡大はもとより、インド内政の不安要因軽減にもつながるだろう。
ただ、インド洋経済圏構想においてアジアと中東・アフリカを結ぶ中継地点に位置するスリランカにとって、投資誘致や貿易など対外経済政策における今後の軸足はやはり「全方位外交」ということになりそうだ。【1月24日 日経】
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国民和解しても、中国離れにしても、非常に難しい舵取りとなりそうです。