孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  「期待を抱かせるが、誰も確信は持てない」

2015-02-14 21:25:47 | 欧州情勢

(ベラルーシのミンスクで会談する(前列左から)ロシアのプーチン大統領、フランスのオランド大統領、ドイツのメルケル首相、ウクライナのポロシェンコ大統 【2月12日 毎日】)

【「欧州の平和を二度と忘れてはならない」】
「過去に目を閉ざすものは現在にも盲目となる」との演説で有名なワイツゼッカー元大統領が1月31日に死去したドイツでは13日、東部ドレスデンを廃墟とした連合軍の空爆から70年を迎えた追悼式典が行われ、ガウク大統領は「我々は、誰が戦争を始めたかを知っている。どんな時もドイツが主導した戦争の犠牲者のことを忘れてはならない」と戒めています。

****欧州の平和を忘れてはならない」 独ドレスデン空襲70年で追悼式典****
ドイツ東部ドレスデンが第二次世界大戦中、連合軍の大規模空襲を受けてから70年を迎えた13日、現地で追悼式典が行われた。

式典にはガウク大統領や生存者ら関係者千人以上が出席し、戦争の悲惨さをかみしめながら、平和への誓いを新たにした。

空襲は大戦末期の1945年2月13~15日に英米軍によって実施され、約2万5千人が死亡した。「エルベ川のフィレンツェ」と呼ばれた古都の大半が廃虚と化した。一般市民に対する無差別爆撃にはドイツ側にも複雑な感情が残る。

ガウク氏は式典で、「ドイツ人の犠牲者を悼むとき、(ナチス)ドイツの戦争遂行による犠牲者を忘れてはならない」と呼びかけた。

英国から出席した英国国教会のウェルビー・カンタベリー大主教は「欧州の平和を二度と忘れてはならない」と訴えた。【2月14日 産経】
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驚異的なメルケル首相の「強行軍」】
欧州はギリシャ債務問題やイスラム過激派によるテロの脅威などの難題を抱えていますが、「欧州の平和」の直接的脅威となっているのがウクライナ東部における紛争です。

メルケル独首相は停戦に向けた協議に東奔西走していますが、その“超人的”とも思える活動に国内野党からも賞賛の声があがっているそうです。

****<独首相>ウクライナ危機打開で「強行軍」 野党も称賛****
「7日間で2万キロの旅」「ほとんど寝ない」「どうすればこんな業務をこなせるのか」--。

ウクライナ危機打開のため、ドイツのアンゲラ・メルケル首相(60)が欧米を短期間で飛び回る「強行軍」が独メディアで話題になった。
首相に厳しい野党からも「大変な敬意を払う」(左派党のリービヒ議員)と称賛されている。

首相は12日、ブリュッセルでの欧州連合(EU)首脳会議後の記者会見で「今週はどうだったか」と聞かれ、「特別な疲れはない。(木曜日で)まだ今週は終わっていない」と、仕事への意欲を見せて爆笑を誘った。

首相の外遊は、ウクライナに対する米国の武器供与案が報じられた後の2月第1週から始まった。

5日、急きょオランド仏大統領とウクライナの首都キエフ入りし、ポロシェンコ大統領と会談。その夜ベルリンに戻り、翌6日にイラクのアバディ首相と会談後、オランド氏と共に今度はモスクワに飛び、プーチン露大統領と5時間以上協議した。

首相は翌7日に独南部ミュンヘンで安全保障会議に出席後、北米へ。8~9日にはオバマ米大統領、ハーパー・カナダ首相と相次いで会談。

10日はベルリンで執務をこなし、11日にはワイツゼッカー元独大統領(1月死去)の追悼式参列後、ベラルーシの首都ミンスク入り。

12日にかけて約16時間の独仏露ウクライナの4カ国首脳会談に臨んだ。その足でブリュッセルでのEU首脳会議に出席した。

首相は通常の睡眠時間が4~6時間とされ、かつて女性誌に「ラクダが水分をためるように、睡眠時間をためることができる」と話した。【2月13日 毎日】
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特に11日がすごいです。
各国の国賓が参列するワイツゼッカー元独大統領追悼式を事実上取り仕切る立場にありながら、終了後すぐに世界が注目するミンスクでの4カ国首脳会談に向かい、16時間以上に及ぶ異例の長時間協議をこなしています。

この日はブリュッセルでギリシャ支援をめぐる臨時のユーロ圏財務相会合も開催されています。
参加したのはショイブレ財務相ですが、ギリシャ債務問題でギリシャのチプラス首相と並んでキーマンとなっているメルケル首相ですから、当然に連絡・指示が行われていると思われます。

相互不信のなか予断を許さない状況
八面六臂の活躍ぶりですが、そのミンスクでの4カ国首脳会談は周知のように、当面の流血拡大を阻止する基本的な停戦方法で合意にこぎ着けました。

合意できなかったときのことを考えれば、とにもかくにも合意できたことは大きな成果であることは間違いありません。
ただ、これまた周知のように、本当に停戦に至るのか・・・非常に危うい不安定な状況です。

ウクライナのポロシェンコ大統領の「期待を抱かせるが、誰も確信は持てない」という合意後の言葉が、現状をあらわしています。

協議中も、合意後も、停戦前に支配地を広げようと攻勢を強める親ロシア派と、守りを固める政府軍の戦闘が交通の要衝デバリツェボとその周辺を中心に続いています。

****ウクライナ東部の戦闘続く 28人死亡 危ぶまれる停戦****
ウクライナ東部では15日午前0時(日本時間同7時)から始まる予定の停戦が近づく中、13日も政府軍と親ロシア派武装勢力の激しい戦闘が続き、少なくとも一般市民と兵士の計28人が死亡した。

停戦前に支配地を広げようと画策する親露派と、守りを固める政府軍の戦闘が続いていることで、和平を達成する上で鍵となる停戦が本当に実現するのか危ぶまれている。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相はロシアに対し、停戦が破られれば欧州連合(EU)は新たな経済制裁の可能性も排除しないと警告した。

カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の先進7か国(G7)もウクライナ東部における武器の集積と戦闘に懸念を表明した。

米国務省のジェン・サキ(Jen Psaki)報道官は13日、ここ数日でロシアからウクライナ東部に重火器が運び込まれ、現在もさらに多数の重火器が輸送の途上にあるという報告を受けていると述べた。

15日からの停戦を決めた新たな合意はおおむね昨年9月に結ばれたものの守られなかった停戦合意に沿った内容だが、重火器を撤去する範囲の幅を兵器の種類に応じて50~140キロと9月の合意の2倍にしたほか、親露派が支配下に置いている長さ約400キロにわたるロシアとの国境地帯を住民選挙が行われた後にウクライナ政府に返すとした点などが異なっている。

親露派の支配地域には、交渉を経て一定の自治権が与えられることになっている。【2月14日 AFP】
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当事者であるウクライナ政府と親ロシア派の相互の不信感もまったく改善されていません。

****停戦合意守られるか 予断許さぬ状況****
・・・・ウクライナの内務省によりますと、デバリツェボからおよそ40キロ離れた町アルチョムフスクで13日夕方、住宅や学校の敷地にロケット弾が着弾し、7歳の子どもを含む市民2人が死亡し、5人がけがをしました。

これについてウクライナのポロシェンコ大統領は13日、訪問先のハンガリーでオルバン首相と会談した際、「これは市民への攻撃だけではなく、停戦合意への攻撃でもある。停戦合意は非常に危険な状況にある」と危機感を示しました。

一方、親ロシア派の幹部は、12日から13日にかけての戦闘で戦闘員2人が死亡したとしたうえで、「停戦合意が守られるかは疑わしい」と述べ、双方の不信が高まるなか、実際に停戦合意が守られるのか依然、予断を許さない状況です。【2月14日 NHK】
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欧米諸国は歓迎しつつも慎重に推移を見守る姿勢
アメリカは「ロシアの真剣度は、言葉でなく行動で判断する」と、15日午前0時に向けて、ロシアの対応を注視しています。

****<ウクライナ停戦合意>米「露の行動で判断」 15日注視****
独仏露ウクライナの4カ国首脳がまとめたウクライナ東部の新たな停戦合意により、停戦が15日午前0時(日本時間同7時)から実施される。

停戦合意について、欧米諸国は歓迎しつつも慎重に推移を見守る姿勢だ。特にオバマ米政権はウクライナ政府軍への殺傷可能な武器の供与や対露追加経済制裁といった「ムチ」を構えたまま、戦闘停止、兵力引き離しの実現を促す構えだ。

「ロシアの真剣度は、言葉でなく行動で判断する」。ケリー米国務長官は12日、合意成立を受けた声明でそう語った。停戦実現のカギを握るのはロシアの意向であり、実際に重火器や兵員を引き揚げ、ウクライナの主権を尊重しなければ制裁解除などには応じないとの立場を示した。

米国は「ロシアは言葉と行動が違う」(サキ国務省報道官)と対露不信感を募らせている。昨年9月の停戦合意(ミンスク合意)は履行されず、ロシアの武器・兵員の支援を受けた親ロシア派武装勢力が紛争を拡大したとの認識があるからだ。米政府高官は15日の戦闘停止について依然不透明であるとの認識を示唆した。

今回の4カ国首脳会談の前にオバマ米大統領は「ウクライナへの防御用の殺傷能力のある武器供与を検討中だ」と明言した。

シュルツ米大統領副報道官は12日、記者団に「我々の方針は変わっていない」と述べ、情勢に応じて武器供与について決断する姿勢を改めて示した。

12日の米上院本会議で次期国防長官に承認されたアシュトン・カーター前国防副長官は、4日の指名承認公聴会で「(武器を)供与する方向に大いに傾いている」と踏み込んだ。

ただ、供与には政権内に慎重姿勢もあり、ロシアとの全面対決は回避したいのが本音だ。ケリー長官も12日の声明で、合意が全て履行されれば対露制裁を緩和する可能性に早々と言及している。

欧州連合(EU)のトゥスク欧州理事会常任議長(大統領)も12日、「プーチン露大統領への信頼は限定的だ」と述べ、停戦合意に極めて慎重な態度を示した。

EUは同日、当面の追加的な経済制裁は見送ったが、事態が悪化した場合には実施の用意があることで一致。プーチン政権幹部ら19個人と9団体を対象とした渡航禁止などの制裁は16日に予定通り発動し、ロシアへの圧力をかけながら、恒久的な停戦実現を目指す。【2月13日 毎日】
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ロシアとの全面対決は回避したいのが本音であるにしても、もしロシア側に停戦合意を尊重しない行動があった場合は、国内で常に弱腰・優柔不断との批判を受けているオバマ大統領としては後には引けないところです。

その場合は、アメリカのウクライナへの武器供与という、「米ロ代理戦争」に向けたはしごを一段あがることになります。

ゴルビーが言及する「最悪の事態への恐怖」】
こうした危険な事態に、かつて冷戦終結を実現したソ連の最高指導者ゴルバチョフ氏は「核戦争」にも言及して警告しています。

****ウクライナ危機に「核戦争」への発展を危惧するゴルバチョフ****
ゴルビーが、ロシアと欧米諸国の「新冷戦」の行く末に危機感を募らせている。

死者5500人弱。ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力が争うウクライナ東部の戦いに、「核戦争」の可能性さえ口にする。

「熱くなりすぎた状態の中で、誰かが平常心を失えば、われわれはもう来る将来を生き残ることはできない」のだという。20世紀の“旧冷戦”を終結に導いたノーベル平和賞受賞者の憂惧は痛切だ。

「原因はNATO側にある
ミハイル・セルゲービッチ・ゴルバチョフ。1931年3月生まれ、83歳。ソ連時代を経験していない世代が急速に増えているロシア社会では、「ゴルビー」の愛称も色あせつつある。「過去の政治家」。口さがない一部の露メディアはそう呼ぶ。(中略)

ゴルバチョフ氏は、ウクライナ危機に、エスカレートする米露の摩擦、分断される欧州の姿を見出し、いったん葬ったはずの冷戦の亡霊が蘇ることに警句を発してきた。

1月初旬、「最悪の事態への恐怖」を指摘したドイツ誌シュピーゲルのインタビューで「私は分別のある人間であり、軽々しく口にしているのではない。状況を本当に懸念しているのだ」と言った。

「双方の信頼の喪失は壊滅的だ。モスクワは西側を信頼しておらず、西側もモスクワを信じていない」「この種の戦いは核戦争へと導くことは避けられない」

原因は、クリミア半島の併合や、ウクライナ東部の内戦に介入し、第2次世界大戦後の秩序を冒したロシア側にあるのではなく、北大西洋条約機構(NATO)の側にあるのだという。

「NATOの東方拡大は欧州の安全保障の秩序を破壊している。第2次世界大戦中、ドイツは東方への影響圏の拡大を図ろうとした。私たちは教訓を学ぶ必要がある」

米国を批判 「危険な勝利主義の精神構造」
冷戦への認識は、ウクライナ危機が激化するにつれ、その都度、深まった。
ロシアがクリミア半島を併合した昨年3月、欧米の対露制裁が発動されたことを鑑み「次なる冷戦を防がなくてはいけない」と述べた。そうして、ウクライナとロシアへ、両国民が受け入れられる解決策の実行を促した。

11月、ベルリンの壁崩壊25周年イベントでは、「われわれは冷戦勃発の縁にいる」と言った。
そして、ウクライナ東部での死傷者が激増する中で行われたシュピーゲル誌のインタビューでは「私はすでに、ありとあらゆる新冷戦の兆候を見ている」とさらに突っ込んだ。

ゴルバチョフ氏は現役時代から直截な表現を用いない。演説での言い回しは時に難解で人々にその意味を考えさせる。

対露制裁を主導する米国にはいま「危険な勝利主義の精神構造がこびりついている」のだという。
その上で「米国には政治的な根本改革、ペレストロイカが必要だ」と訴える。

「米国は緊張と不安定に乗じて、混乱状態に介入している。圧力の政治の展開を容易にするため、敵をわざと作り出している。米国はいまだに20世紀の古い政策の虜になっている。敵がいなければ、彼らは生きていけないのだ」(後略)【2月14日 Wedge】
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ゴルバチョフ氏はすでに「過去の政治家」であり、ロシア国内での政治的影響力も全くありません。
彼が何を言おうが、世界情勢には関係ありません。

ただ、在任中に「欧州共通の家」「新世界秩序」を打ち出し、核戦争の危機を消滅させた功績は世界平和にとって特筆すべきものです。

「核戦争」云々は「そこまでは・・・」とも思いますが、非常に危険な状況にあるとの認識は必要ですし、戦争は常に相手の対応を読み違えることでエスカレートします。

「NATOの東方拡大は欧州の安全保障の秩序を破壊している」というロシア側の見方についても留意する必要があるでしょう。

アメリカや日本からすれば価値観・政治体制を共有するNATOやEUの拡大は“当然のこと”のようにも思えますが、ロシアの立場にたてば、自国に向かって押し寄せる脅威にも映るのでしょう。

かつてのカラー革命や、今回紛争の発端となったウクライナ政変について、プーチン大統領はアメリカ・NATOなど外国勢力に支援された過激主義によるものとの批判を繰り返しています。

別に“外国勢力によって画策されたもの”とは思いませんが、アメリカなどのいろんな機関が関与したのは間違いないでしょうし、ウクライナの政変も反政府行動が暴力化することで実現した面もあります。

相手の立場にたったときにどのように見えるのか・・・そうした想像力が、持論を主張するだけの対立・衝突を回避するうえで有益でしょう。
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