孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  4月5日、「カルザイ後」を決める大統領選挙 連日のタリバンの妨害攻撃

2014-03-30 21:54:44 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン乱世を象徴する人物でもあるドスタム将軍 http://mltr.ganriki.net/faq06c.html )

【「持ち得る全ての力を使って活動家らや治安部隊を攻撃する」】
アフガニスタンでは4月5日に大統領選投票が行われます。
カルザイ大統領が三選禁止で出馬できないため、新人同士の争いになりますが、2014年末の米軍等外国部隊撤退を控えて、反政府勢力タリバンとどういう距離感で向き合うかなど、今後のアフガニスタンの行方を決める重要な選挙になります。

タリバンは、すでに“選挙妨害”に全力をあげることを表明しています。

****タリバン、大統領選妨害を宣言=アフガン****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンは10日、来月5日に予定される大統領選挙に関し、「持ち得る全ての力を使って活動家らや治安部隊を攻撃するようイスラム戦士に命じた」との声明を発表した。
今回の大統領選で、タリバンが明確な警告を発したのは初めて。【3月10日 時事】
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実際、このところタリバンによる政府関係者や治安部隊、外国民間人やメディアへの攻撃が相次いでいます。

****アフガニスタン:首都中心部で スウェーデン記者射殺****
アフガニスタンの首都カブール中心部で11日、スウェーデン公共ラジオのニルス・ホーナー記者(51)が路上で取材中に何者かに銃で頭を撃たれ、搬送先の病院で死亡した。(後略)【3月12日 毎日】
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現場は各国大使館が集まる首都でも最も警備体制が厳しい地区ですが、アフガニスタンで外国人記者が狙われるのは近年では異例です。
タリバンは関与を否定しましたが、その後タリバンの分派グループが犯行を認め、記者が英国の情報機関で働くスパイだったとしています。
タリバン内部にも、アフガニスタン政権への姿勢で異論があるようです。

****アフガン:武装勢力が警察署を攻撃 25人が死傷****
アフガニスタン東部ナンガルハル州の州都ジャララバードで20日、武装勢力が警察署を自爆攻撃し、約4時間にわたって警察と銃撃戦になった。
州政府によると、この攻撃で警察官10人と学生1人が死亡、警察官ら14人が負傷した。

旧支配勢力タリバンが犯行声明を出した。4月5日投票予定のアフガン大統領選挙を前にタリバンは攻撃を激化している。【3月20日 毎日】
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同日20日には、警備が厳しく、首都カブールでも最も安全とされるホテルが襲撃されています。

****アフガニスタン:ホテルにタリバン襲撃 外国人ら9人死亡****
 ◇AFP通信の現地記者と家族も
アフガニスタンの首都カブール中心部にある高級ホテル「セレナ・ホテル」内で20日夜、男4人が銃を発砲し、駆け付けた警察部隊と約3時間にわたる銃撃戦の末、全員射殺された。

このテロ攻撃で、外国通信社の現地記者などアフガン人5人と外国人4人の計9人が死亡した。旧支配勢力で反政府武装勢力のタリバンが「ペルシャ暦の正月を祝う催しに訪れた外国人や要人らを狙った」との犯行声明を出した。(後略)【3月21日 毎日】
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“(殺害されたAFP現地記者)アフマド氏のおいはAFPに、カルザイ大統領がタリバンを「兄弟」と呼んで和解を呼びかけていることに「大統領は4つの棺と子供たちの亡きがらをみるがいい」と反発した。”【3月23日 産経】

なお、カルザイ大統領が委員長を務める同国の国家安全保障委員会(NSC)は、上記セレナホテル襲撃事件は「アフガニスタン国外で」計画されたものだと述べ、パキスタンの関与を示唆しています。

25日にはカブールの独立選挙委員会(中央選管)の地区事務所が襲撃を受けています。

****アフガン:大統領選候補宅近くで銃撃戦 タリバン犯行声明****
アフガニスタンの首都カブール西部にある独立選挙委員会(中央選管)の地区事務所で25日、武装勢力の男2人が相次いで自爆し、ほかのメンバーと治安部隊との間で銃撃戦となった。警察によると住民2人が負傷した。旧支配勢力タリバンが「選管事務所を狙った」との犯行声明を出した。

攻撃された事務所は、大統領選挙(4月5日投票)の有力候補、アシュラフ・ガニ元財務相の自宅に隣接する建物。ガニ氏は遊説で首都南部に出かけており無事だった。(中略)

今回の大統領選は、2001年のアフガン戦争開戦以降、初めて選挙によって政権が交代する重要な節目だ。9人が立候補し、ガニ元財務相とアブドラ元外相の間で決選投票にもつれ込むとの観測が強い。

「反タリバン派」として知られるアブドラ元外相も先月、自身が乗った遊説車列がタリバンの銃撃を受けた。アブドラ氏は無事だった。

今月10日には西部ヘラート州のアブドラ陣営事務所が何者かの自爆攻撃を受け、警備員2人が死亡、職員4人が負傷した。【3月25日 毎日】
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この日は他に、北部のクンドゥズ州で起きた自爆攻撃、東部クナル州での銀行を狙った攻撃で、それぞれ5人が死亡しています。

28日には、アメリカNGOが使用するゲストハウスが襲撃されました。

****タリバンがアフガンの米ゲストハウスを襲撃、少女含む2人死亡 ****
大統領選挙を1週間後に控えたアフガニスタンの首都カブールで28日、旧支配勢力タリバンの戦闘員らが米国の地雷廃絶に取り組む慈善団体が使用していたゲストハウスを襲撃、少女1人を含む2人が死亡した。

アフガニスタン特殊部隊とタリバン戦闘員との戦闘は3時間以上に及び、その間、幼い子ども数人を含む外国人のグループは路上の発電機の後ろに一時的に避難した。

カブール警察のモハマド・ザヘル署長はAFPの取材に対し「通りがかりのアフガニスタン人の少女1人が死亡した。建物内からは、無事に31人の外国人を避難させることができた」と述べた。 また、アフガニスタン内務省によると運転手1人が死亡したという。(後略)【3月29日 AFP】
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襲撃された宿泊施設内には、キリスト教の教会もあり、タリバンは犯行声明で、「イスラム教徒を改宗する施設だから攻撃した」と述べています。

まだ続きます。
29日には、25日の地区事務所に続き、独立選挙委員会(中央選管)本部が襲撃されました。

****アフガン:カブールの選管、タリバンが襲撃 大統領選妨害****
アフガニスタンの首都カブール東部で29日、旧支配勢力タリバンの武装集団が独立選挙委員会(中央選管)本部を、銃やロケット弾などで襲撃した。治安部隊は約4時間後、武装集団の5人全員を殺害した。選管関係者に死傷者は出なかったという。(後略)【3月30日 毎日】
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文字通り“連日”の攻撃が行われる状況で、日本政府は選挙監視団派遣の中止を決定しています。

****アフガン選挙監視団、派遣見送り=政府****
政府が4月5日投票のアフガニスタン大統領選挙への選挙監視団の派遣を見送ることが27日分かった。
反政府勢力タリバンによる外国人を狙ったテロが続発するなど現地の治安が悪化し、政府は「派遣職員の安全が確保できない」と判断した。【3月27日 時事】 
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安全確保を考えるとやむを得ない決定でしょうが、タリバン側の思うつぼ・・・という感もあります。

群雄割拠の時代に向けて生気を取り戻すドスタム将軍
選挙戦の方は、テロをおそれて屋外で選挙運動を行う候補者の姿はほとんど見られない状況ですが、「反タリバン派」として知られるアブドラ元外相、かつて世界銀行などで働き国際社会にも顔が広いガニ元財務相、カルザイ大統領が支持するラスール前外相などが有力候補と見られています。

****カルザイ氏、水面下で工作か=前外相支持で候補辞退―アフガン大統領選****
4月5日投票のアフガニスタン大統領選で、元国王の孫ナイーム候補が26日、出馬を辞退し、有力候補のラスール前外相を支持すると表明した。カルザイ大統領が自らの影響力を保持するため、後継者にしたい前外相の当選へ水面下で工作を行っているとの見方も出ている。

カルザイ氏の兄も6日に立候補を取り下げ、ラスール氏支持に回ると表明している。ナイーム氏の辞退で、大統領選の候補者は8人となった。【3月27日 時事】 
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そんななかで、懐かしい名前を目にしました。
かつての内戦やタリバン政権崩壊時の混乱時に勇名を馳せたドスタム将軍です。

****ドスタム副大統領候補 復権なるか、アフガンの「不倒翁****
暴力と陰謀に彩られたアフガニスタンの現代史。その中で異彩を放ち続ける一人の実力者がいる。
ウズベク人の軍閥指導者、ドスタム将軍だ。

残虐とも評される勇猛ぶりと、変幻自在の合従連衡術でこの国の激動を生き延びてきた。その不倒翁は今、来月の大統領選で副大統領候補として再び政治の表舞台を目指す。

 ◆握手と寝返り重ね
(中略)この国では多様な勢力間の離合集散が珍しくないが、ドスタム氏ほど握手と寝返りを繰り返してきた人物は見当たらない。

1980年代の内戦で民兵団の指導者として頭角を現し、ソ連が支援するナジブラ政権から将軍に任じられた。
駐留ソ連軍の撤退でナジブラ政権の先はないと見ると反政府勢力の側に寝返った。

政権崩壊後、各勢力間の抗争が激化するが、ここでもドスタム氏は立場をめまぐるしく変える。当初は勇将マスード氏率いるタジク人主体の勢力と手を組んだが、その後、敵対するパシュトゥン人強硬派、ヘクマチアル氏と連携した。

しかし、その後、台頭するイスラム原理主義勢力タリバンに対抗するため再びマスード氏との共闘に転じ、タリバン政権打倒に貢献した。

カルザイ大統領との関係も接近と離反を繰り返した。2004年の大統領選ではカルザイ氏に対抗して出馬したが、09年の大統領選ではカルザイ氏の再選を支持した。現在は名誉職に近い軍参謀長の座にあり、カルザイ氏とは距離を置いている。

この間、部下の裏切りやカルザイ氏との対立などからトルコに3度亡命した。このほか暗殺未遂にも遭うなど何度も危機を乗り越えてきた。

 ◆徹底した世俗主義
堂々とした体躯(たいく)に太い眉、よく通る大きな声。その風貌と勇猛さから「現代のチンギスハン」とも評される。冷血というイメージも定着している。

犯罪者を戦車で踏みつぶして処刑した、タリバンの捕虜多数をコンテナに閉じ込めて運び窒息死させた、などという話が流布しているが、本人は否定している。

一方で、徹底した世俗主義者という顔も持つ。1990年代、首都などの戦乱をよそに北部で事実上の自治国家を運営、地元の大学には女子も通った。他地域からもタリバンの圧政を逃れ、自由を求めて多くの住民が流入した。もっとも、ドスタム氏の世俗主義は酒と女が好きだからと揶揄(やゆ)する声もある。

今年60歳のドスタム氏だが、権力への野望は健在のようだ。パシュトゥン人のガニ元財務相の副大統領候補として4月5日投票の大統領選に出馬している。少数派であるウズベク系の氏にとって、最大民族パシュトゥン人候補の片腕として立候補することは復権への現実的な選択である。

ガニ氏といえば元は学者の経済専門家だ。まるで不釣り合いなドスタム氏を副大統領候補に選んだのはウズベク人の固定票狙いらしい。

ドスタム氏は出馬に際し、過去の非を国民に謝罪するという前代未聞の挙に出て、話題を集めた。機を見るに敏なこの人らしい処し方であり、復権への強い思いの表れともいえる。

大統領選ではガニ陣営とアブドラ元外相の陣営が最有力と目されている。
仮に敗北してもドスタム氏はその先を見ているはずだ。今年末には外国軍の駐留が期限切れを迎える。支えを失った中央政府は弱体化し、群雄割拠の時代が再来すると予想する向きが多い。

それは北部に再び自らのミニ国家をつくるのに好都合と氏は見越しているに違いない。【3月29日 産経】
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カルザイ政権で“名誉職”的な軍参謀長の地位についたことは聞いていましたが、“部下の裏切りやカルザイ氏との対立などからトルコに3度亡命した”というのはドスタム将軍らしいとも言えます。

まさに“群雄割拠の時代”を象徴する人物ですが、この人が活気づくようだとアフガニスタンの将来も暗い・・・再び乱世に・・・という感もあります。

ドスタム将軍が静かに“名誉職”に収まっていることを願いますが、まずはタリバンの妨害が続く中で4月5日の大統領選挙が無事に行えるかどうかです。
おそらく、5日には決着せず、決選投票にもつれこむと見られています。
コメント
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