孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ・イスラム教徒を巡る“民主化の壁” 困難なスー・チー大統領への道

2014-03-01 22:21:11 | ミャンマー

(ミャンマーのムスリム少女  ミャンマー独特の“タナカ”を頬に塗っているのは、仏教徒ミャンマー人と同じです。 “flickr”より By Uncornered Market http://www.flickr.com/photos/71367872@N00/3139006245/in/photolist-5Moeck-5Ssmtk-6ekhLt-6ekjNr-6ekosT-6epvQ5-6hRHfv-7kMe36-7mg6oB-7msiq4-7msjB4-7sAf1v-7sAf3g-7sAf4T-7sAfa8-7sAfbr-7sAfdD-7sAfgK-7sAfi2-7sAfjg-7sAfki-7sAfmT-7sAfoe-7sAp1x-7sAp6D-7sAp8V-7sAp9Z-7sApbe-7sApc8-7sAphD-7sApkT-7sApp2-7sAx3c-7sAyRT-7sAyUg-7sAyVK-7sAyZ6-7sAz1Z-7sAz68-7sAz7M-7sAz9e-7sAzaV-7sAzfR-7sEdj5-7sEdkd-7sEdqS-7sEdsq-7sEdwq-7sEdyU-7sEdzQ-7sEnxd)

未だアンタッチャブルなロヒンギャ問題
2011年3月にテイン・セイン氏が大統領に就任して、それまでの軍政から民政に移管されてた当時は、実態は軍政と大差ないものと予想されていました。
しかし、その後の予想を超える民主化の進展は周知のところです。

当然ながらミャンマーの民主化が完璧に進んでいる訳ではありません。
それはミャンマーだけの話ではなく、東南アジア諸国はどこも大きな課題を抱えています。

タイはタクシン・反タクシンの政治闘争に明け暮れ、南部の宗教対立も多大の犠牲者を出しています。
ベトナムの共産党政権やカンボジアのフン・セン政権の強権支配も問題です。一党支配のラオスも同様です。
マレーシア、フィリピン、インドネシアの政権が十分に民主的で公正か・・・という話になると疑問もあります。

そういうことで、不十分さが故にミャンマー民主化を否定するつもりはありませんが、多くの課題が残されていることも事実です。
昨日、今日、ちょっと首をかしげたくなるようなニュースを目にしました。

ミャンマーの抱える大きな課題は、少数民族問題とイスラム教徒との共存の問題でしょう。
西部ラカイン州に住むイスラム教ロヒンギャの問題は、宗教問題と少数民族問題両方にかかわるだけに対立も先鋭化しがちです。

****ミャンマー政府、「国境なき医師団」に国内での活動停止命令****
緊急医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」は2月28日、ミャンマー政府から同国内での全活動の停止を命じられたと明らかにした。

国境なき医師団は、紛争が相次いでいるミャンマー西部のラカイン州で一次医療(プライマリー・ヘルスケア)を提供するとともに、同国全土で後天性免疫不全症候群(エイズ、AIDS)や結核の患者の治療にあたっている。

国境なき医師団は声明で「この一方的な決定に衝撃を受け、ミャンマー全土でわれわれの治療を受けている数万人の患者の運命を強く懸念している」と述べ、医療活動再開について政府と交渉中だと付け加えた。
28日には、ミャンマーにおける同組織の22年にわたる医療活動の歴史の中で初めて全国の診療所が閉鎖された。

■ロヒンギャ人治療に批判
1999年にノーベル平和賞を受賞した国境なき医師団は、ミャンマーに3万人以上いるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者やエイズ患者に医療を提供している最大の団体だ。

国境なき医師団は、無国籍のイスラム教徒で、貧困に苦しんでいるロヒンギャ人が厳しい移動制限下で暮らすバングラデシュとの国境に近い複数の辺地で一次医療を提供している。

国境なき医師団が、多数のロヒンギャ人が殺害されたと報じられた場所の近くにある診療所で負傷者を治療したと数週間前に明らかにして以来、同団体への批判が高まっていた。ミャンマー政府は大量殺人があった事実を強く否定している。 
治療の際にロヒンギャ人を優先したとの批判に対し国境なき医師団は「医療倫理と中立・公正の原則に従った」としている。【3月1日 AFP】
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ロヒンギャの大量殺害については、国連のキンタナ特別報告者が、事実を明らかにしようとしないミャンマー政府の対応を批判しています。

****信頼できる調査」を=ミャンマーの少数民族殺害疑惑―国連報告者****
人権状況を調べるためミャンマーを訪問していた国連のキンタナ特別報告者は19日、ヤンゴンで声明を出し、西部ラカイン州で少数派イスラム教徒のロヒンギャ族40人以上が殺害されたとの疑惑について、国連人権理事会がミャンマー政府の協力を得て「信頼できる調査」を行うよう求める考えを表明した。

声明によると、ラカイン州でキンタナ氏と会談した州警察長官はロヒンギャ族殺害を否定した。
しかし、キンタナ氏は「男女や子供の虐殺、女性に対する性的暴力、財産の略奪・放火」などの申し立てがあったと指摘。「これまでのところ、国内調査はこうした深刻な申し立てに満足に取り組んでいない」とミャンマー政府の対応を批判した。【2月20日 時事】
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ミャンマーにおいては、約80万人のロヒンギャはバングラデシュから不法侵入者として扱われ、国民とは見なされていません。

国際批判の高まりを受けて、2012年11月のアメリカ・オバマ大統領のミャンマー訪問の直前に、テイン・セイン大統領は潘基文(パンギムン)国連事務総長に書簡を送付し、「避難民の再定住から国籍付与に至るまで、異論のある様々な政治問題に取り組む」と約束、初めてロヒンギャへの国籍付与に踏み込んだこともありますが、その後の話は聞きません。

民主化運動のリーダーと目されていたスー・チー氏も、ロヒンギャ問題には慎重な発言に終始しています。
この問題に踏み込むと、ミャンマー一般国民の反発を買うため・・・とも言われています。

今回の「国境なき医師団」への対応を見る限り、ミャンマー政府にロヒンギャ対策を前進させる意欲はなさそうです。

異教徒間の婚姻を制限する法律
もうひとつ首をかしげたニュースは、仏教国ミャンマーにあって少数派であるイスラム教徒一般に対する対応に関するものです。

****異教徒間の婚姻制限検討を=ミャンマー大統領、議会に要請****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は、連邦議会に対し、異教徒間の婚姻を制限する法律の制定を検討するよう要請した。地元メディアなどが28日までに伝えた。

ミャンマーでは、多数派仏教徒と少数派イスラム教徒の間でたびたび衝突が起きるなど宗教対立が大きな社会問題となっている。

異教徒間の婚姻制限をめぐっては、イスラム教の勢力伸長に危機感を募らせる急進派僧侶ウィラトゥー師率いる仏教団体が昨年、130万人以上の署名と共に法制化を求める請願を大統領に提出。非仏教徒の男性と仏教徒の女性が結婚する場合、男性は仏教に改宗し、女性は親と地元政府当局者の許可を必要とするよう訴えていた。

大統領はこの請願に基づき、婚姻制限のほか、改宗の規制、一夫多妻制の禁止、人口抑制についてもそれぞれ法制化を検討するよう連邦議会に求めた。

これに対し、トゥラ・シュエ・マン連邦議会議長は27日、議会で討議する前に関係省庁がまず検討して法案を起草すべきだと述べ、政府に差し戻す考えを表明した。【2月28日 時事】 
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イスラム教徒との結婚は改宗を迫られることが背景にある措置です。ウィラトゥー師などのイスラム批判勢力は「彼ら(イスラム教徒)は人口を増やして経済力をつけ、国家を乗っ取るつもりだ」と非難しています。

ただ、“男性は仏教に改宗”とは言っても、イスラム法上では、棄教者は原則として死刑とされています。
ミャンマーにおけるムスリム社会で、どの程度厳しく運用されているかは知りませんが。

ロヒンギャ問題が契機となって、昨年はミャンマー各地で暴徒化した仏教徒がイスラム教徒を襲う暴動がミャンマー各地で発生しました。

そうした宗教対立を煽る急進派僧侶ウィラトゥー師のような扇動者によって、和解ではなく対立の方向に社会が動いていくのは残念なことです。

民主化を牽引してきたテイン・セイン大統領をしても、ミャンマー社会を規定する大枠から脱することは難しいようです。
議会において、スー・チー氏はどのように対応するのでしょうか。

【「数だけ見ればすぐに改憲するのは困難」】
こうした問題は散見されますが、大きな流れとしてミャンマーが民主化の方向に向かってきたことは事実です。
その民主化の流れが定着するか否かの試金石と見られているのが、スーチー氏の大統領選出馬が認められるかどうかです。

スー・チー氏排除を念頭に置いた現行憲法では、彼女には出馬資格がありません。
出馬のためには、与党が協力した憲法改正が必要になります。

****ミャンマー大統領就任へ改憲議論 スー・チー氏 正念場****
ミャンマーで2015年に行われる総選挙に向け、最大野党の国民民主連盟(NLD)党首、アウン・サン・スー・チー氏の大統領就任を禁じる憲法規定を見直すかどうかをめぐり、議会で議論が続いている。

ただ、「スー・チー大統領」に対する政権与党や軍の警戒は根強い。68歳という年齢からも、大統領になる最後のチャンスといえるスー・チー氏の挑戦は正念場を迎えている。

「国民の医療向上に、皆さんの協力が不可欠です」
ミャンマーの最大都市ヤンゴンで8日夜、NLDが初めて開いたチャリティーコンサートで、スー・チー氏は支持者にこう呼びかけた。薬剤や救急医療を行き渡らせようと、NLDが昨年2月に立ち上げたプログラムの1周年を祝う式典だ。資金協力した企業代表者らとの記念撮影に、スー・チー氏は何度も応じた。

ノーベル平和賞受賞者で国際的知名度は抜群のスー・チー氏だが、NLDは国内の支持拡大に躍起となっている。
「国民は民主化を切望している。過去数十年間、教育や医療など生活は改善されなかった。選挙で地滑り的な勝利を収め議会の圧倒的多数を握り、改憲に向けた環境をつくる」

NLDのニャン・ウィン報道官は、産経新聞の取材に、今回、狙い通りの改憲が実現できなくても選挙には参加し、スー・チー氏を将来、大統領にするために闘い続ける方針を示した。

08年に軍政下で作られた現憲法は、外国籍の家族をもつ者は大統領の資格がないと規定している。死別した夫が英国人で、子供も英国籍のスー・チー氏の大統領就任を阻むのが狙いだとみられている。

こうした憲法の改正の必要性を国際世論に訴えて圧力をかけるスー・チー氏に対し、テイン・セイン政権は譲歩し、議会に委員会を設置することを認めた。

議会側が意見を募集したところ、大統領資格について約6千件の意見が寄せられ、その9割以上が改正を求めるものだったという。

議会は今月3日、改憲について議論するため、計31人の新委員会を発足。その内訳は、軍人枠選出の議員が7人、現政権与党で軍人の受け皿政党となっている連邦団結発展党(USDP)が14人、NLDが2人、少数民族系政党などが8人となっている。

さらに上下両院の議席の25%が軍人枠で、改憲には議会の75%以上の承認が必要。「数だけ見ればすぐに改憲するのは困難」(ニャン・ウィン報道官)な状況にある。

改憲では、軍部の権益をどこまで認めるかも焦点だが、ある議員は「政権は軍の言いなり。年末にはNLDへの締め付けが再び強まる」と警戒している。【2月20日 産経】
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スー・チー大統領実現は難しそうですが、もし道が開けたとしたら、相当に踏み込んだ軍部との“取引”がった・・・ということにもなるでしょう。
建国の英雄アウンサン将軍の娘ですから、軍部としても取引できない相手ではないでしょう。
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