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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港  「一国二制度」の幻想

2014-03-08 20:55:56 | 東アジア

(香港 3月2日 「明報」前編集長の劉進図氏が襲撃されたことへの抗議デモ 主催者発表で1万3000人、警察発表で8600人 プラカードに貼られたブルーリボンは報道の自由を表しています。  “flickr”より By LingHK http://www.flickr.com/photos/54955848@N05/12892460513/in/photolist-kDgekX-kDhTrf-kDgd8M-kDhTwW-kDhVob-kDhU11-kDhV7E-kDfHLt-kDgdQP-kDhUVY-kDgeca-kDgdLR-kDgeg8-kDge5X-kDhU7J-kDhVdw-kDhUG1-kDfKig-kDfJtF-kDfKS2-kDgesa-kDfK3g-kDgcX6-kDhUUL-kDfJwX-kDhTFU-kDhVDG-kDhUYd-kDfJ8F-kDgcHt-kDgds4-kvnkNe-kvEad2-jiedz1-kBTrBT-jRh33x-jRhS4k-kBKGEc-kDBngh-kFBuuK-kFBxW4-kFDEAb-kFBxjc-kDBm61-kDBmDA-kFC4t8-kFC4jk-kFC3W6-kFBv9R-kFBziT-kFBBcc)

自治より統制へ
中国では全人代が開催され、経済成長率、国防費、改革など様々な角度から報じられていますが、「一国二制度」の香港の立場にも影響するがあるようです。

****中国・全人代 自治より統制、重視へ 香港の“北京離れ”警戒****
香港の民主化をめぐり、“北京離れ”を警戒する声が、中国の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で高まっている。

首相の冒頭演説で、定番だった香港の「高度自治」を約束する発言が10年ぶりに見送られたのを皮切りに、現地の「自治」よりも中央の「統制」を重視する発言が、習近平政権から出始めている。

香港ではトップの行政長官が、2017年の次回選挙から返還後初めての「普通選挙」で選ばれる。香港の民主派は昨年来、北京の意向に縛られない候補者選びなど「完全に自由な選挙」を訴え、北京をいらだたせていた。

こうした中、李克強首相は5日の政府活動報告で、香港問題について「一国二制度」の原則に触れたが、1997年の香港返還後、朱鎔基内閣の一時期を除いて必ず盛り込まれた「港人治港」(香港人による香港統治)、「高度自治」への言及が見送られた。

中国政府筋は「表現をすっきりさせただけ」と弁明するが、香港では9月に予定されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会合が北京に開催地を変更させられた直後だけに首相演説の変化は中央の介入強化かと受け止められた。

張徳江・全人代常務委員長(党内序列3位)は、6日行われた全人代の香港代表団会合で、「行政長官は国を愛し、香港を愛するという基準に合致すべきだ」と述べるなど、中央政府の意向の枠内での選挙実施を表明した。

北京の空気を踏まえて、香港の親中派財界人、李嘉誠氏は中国メディアで「香港は甘やかされた子供のようなもの。ポピュリズムはひどくなるばかりで、あと5、6年も続けばダメになる」と発言。17年の長官改選に向け、北京と香港の距離がさらに変わりそうだ。【3月8日 産経】
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香港行政長官の選挙については、中国政府側が反北京的な人物は任命しないことを明確にしています。

****反中央の人物」任命しない=次期香港長官選で中国高官****
中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)香港基本法委員会の李飛主任が香港入りし、「普通選挙」が導入される見通しの次期香港行政長官選(2017年)について「中央(政府)に対抗する人物」が当選しても任命しない方針を示した。22日に開かれた香港政府主催の昼食会と基本法に関する座談会で語った。

中国共産党の一党独裁を否定する民主派の長官就任は、容認しない立場を明確にした形だ。【2013年11月23日 時事】
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ジャーナリスト襲撃の背後に“巨大な力”?】
また、香港ジャーナリストが拘束されたり、襲撃にあったりする事件も起きています。

****習氏批判書籍めぐり編集長拘束か 香港“メディア統制”じわり*****
中国の習近平国家主席を批判する書籍を4月に発行する予定だった香港の出版社、晨鐘書局の姚文田編集長(73)が昨年10月末から、広東省深セン市で3カ月近く当局に身柄を拘束されていることが分かった。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが22日までに報じた。

この書籍は、米国を拠点に中国の体制批判を続けている中国人作家の余傑氏(40)による「中国のゴッドファーザー習近平」。同紙によると余氏は、「書籍出版計画が姚氏が拘束された主な理由だ」と指摘した。中国当局は姚氏を密輸容疑で拘束し続けているもよう。

また、香港紙、明報は20日付の紙面で、「声と筆が封殺されても屈しないことは自明だ」などと、見出しのみで論評部分を削除した異例の“白紙コラム”を掲載。中国や香港の政府批判報道を続けてきた同紙の劉進図前編集長が、今月初めに事実上、更迭されたことや、その後の記事への検閲に抗議の意志を示した。

1997年7月の中国返還後も言論の自由が保障されている香港で、“メディア統制”とみられる動きがじわりと広がっていることに対し、民主派の市民らから反発が強まっている。【1月22日 産経】
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上記記事で“事実上、更迭された”とされている明報の劉進図前編集長は、何者かによる襲撃を受け重傷を負っています。

****香港有力紙「明報」前編集長が襲撃され重体―1月に突然交代したばかり、<背景で動く力>に関心****
香港の有力紙「明報」前編集長の劉進図氏が26日午前、路上で正体不明の2人に切り付けられるなどで重傷を負った。劉氏は1月に「経営上の理由」として編集長職を離れ、インターネット事業の運営業務に異動したばかりだった。香港社会は同事件に怒りを示すと同時に、襲撃の「背景」に強い関心がもたれている。(中略)

劉前編集長の異動については、同紙が報道内容を巡ってテレビ局と争議を起こしていたことに会社が不満を持ったなどさまざまな説があるが、はっきりとしたことは分かっていない。

「明報」は1960年代から70年代の文化大革命時代には中国共産党に反対する立場を明確にしていたが、その後は中国大陸関連では比較的中立な立場の報道が主流になった。

しかし最近は企業グループとして中国大陸部への不動産投資を行ったり、中国中央電視台(中国中央テレビ、CCTV)との共同事業を開始し、同時に共産党寄りの論調が目立つようになったとの指摘もある。

今回の襲撃により、劉前編集長を巡って「何か、巨大な“力”が働いているのでは」との見方が強まることは避けられない見通しだ。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は27日付で、「襲撃実行者が捕まる前に、事件の背景に何者かが存在したり、事件を起こした策謀があったと暗示させることは、最高に無責任だ」、「襲撃事件では香港警察の能力だけでなく、香港社会の成熟度も試されることになる」などと主張する社説を発表した。【2月27日 searchina】
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劉進図前編集長は中国共産幹部が海外に資産を隠し持っていることを暴露する報道にも関与したとされ、そのあたりでの“巨大な力”を指摘する向きもあるようです。

*****香港でマスコミへの襲撃が相次ぐ****
英エコノミスト誌
2月26日の朝、クルマから降りた劉進図氏は、近づいてきた男に背中と足を刺された。犯人はオートバイに乗った共犯者と共に逃げ去った。重傷を負った劉氏は病院に緊急搬送された。その後、同氏の容体は安定した。

これは初めての事件ではない。香港では近頃、劉氏と同じように中国政府に反発していると思われる標的に対する襲撃が相次いでいる。

昨年6月には、香港のメディア大手ネクストメディア・グループに覆面をした3人の男が押し入り、従業員を脅して、「アップル・デイリー(蘋果日報)」2万6000部を燃やした。同紙は反共産党のスタンスを取る有名な日刊紙だ。

同月、週刊誌「アイサン・アフェアーズ(陽光時務週刊)」発行人の陳平氏が、こん棒を持った男たちに襲われた。同誌は中国本土のデリケートな問題に切り込むことで有名だ。

さらに、中国に批判的なことで有名なトーク番組司会者、李慧玲氏が解雇されるという出来事もあった。

共産党幹部親族の隠し資産を暴露
冒頭で紹介した劉氏は1月まで、過激な調査報道で知られる中国語新聞「明報」の編集長を務めていた。劉氏の後任には、誰が見ても明らかに体制を支持する人間が充てられた。

このため編集部員たちは、抗議運動を繰り返すとともに、経営陣に対して劉氏解任の理由を説明するよう求める陳情書に署名した。だが、今のところ回答は得られていない。

劉氏襲撃事件の3日前、香港では数千人が報道の自由を求めて街頭デモを行った。明報のあるスタッフによれば、劉氏は人々の先頭に立って、「ニュース編集室に干渉しようとする見えざる圧力への抵抗」を示していたという。

劉氏の下で同紙は、一部の中国共産幹部が海外に資産を隠し持っていることを暴露する報道――非営利の報道機関「国際調査報道ジャーナリスト連合」による――の一翼を担った。

その資産の中には、習近平国家主席や温家宝前首相の親族が所有する企業の株も含まれている。これらの企業は海外のタックスヘイブン(租税回避地)に登記されていた。

香港記者協会のシャーリー・ヤン副会長は、劉氏が襲撃された事件を「香港の報道機関及び表現の自由への挑発」だと呼んだ。

この事件に中国政府が関わっている証拠は全くない。しかし、今は地方の政治家をしている元ジャーナリストのクラウディア・モー氏は、「従順でなければ痛い目に遭うだけだという、香港の報道機関への警告」のように感じられると述べた。

パリを本拠地とする国際的なジャーナリスト団体「国境なき記者団」が発表した、世界の報道の自由度ランキング2013で、香港は61位だった。2002年の第1回ランキングで獲得した18位をはるかに下回っている。【3月6日 日経ビジネス】
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【「一国二制度」の幻想
「一国二制度」のもとで、自由な選挙によって反北京の行政長官が選ばれるとか、反北京報道が自由に許されるというのは幻想にすぎないでしょう。

なお、香港市民には中国本土の人たちに否定的な感情を持つ人も多いようです。

****香港市民は本土の中国人に「否定的感情」 調査結果****
香港の市民には中国本土の人たちに否定的な感情を持つ人が多く、その割合はここ数年で最も高くなっていることが明らかになった。一方、日本人に対する感情は比較的、好意的であることが分かった。

香港大学が先月、香港の市民1000人以上を対象に実施した調査によると、回答者の31.8%が本土の中国人に「否定的な」感情を持っているとの結果が出た。

今年5月に行われた同じ調査でも同様の回答をした人は全体の35.6%だったことから、平均すると今年は2007年の調査開始以来、中国本土の人たちに否定的な感情を持つ人の割合が最も高かったことになる。

香港を訪れる観光客をはじめ、中国本土の人たちは香港にとっての重要な資金源となっている。
しかし、一方では香港の「資源」に対する負担となっているほか、物価上昇の原因にもなっている。香港では粉ミルクから不動産まで、あらゆる物が値上がりしている。

さらに香港の市民は、本土の「成り金」たちの「洗練されていない」社会的習慣にも不満を募らせている。

一方、香港の人たちは第2次世界大戦中の日本軍による占領で厳しい生活を強いられたにもかかわらず、今回の調査で日本人に否定的な感情を持っていると答えた人はわずか14.9%だった。

しかし、日本の政府に否定的な感情を持っていると答えた人は今年前半の58.8%から63%に増え、高い水準に達した。【2013年12月5日 AFP】
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もっとも、「否定的な」感情を持っている人の割合が30~35%ということは、他の多数は中国を受け入れているというふうにも読め、中国の香港統制は今後も順調に進むのではないでしょうか。

一方、中国政府は香港での「一国二制度」“成功”をモデルに、台湾統一工作を進めています。
台湾側の反応として“香港の「一国二制度」政策の失敗を狙って、台湾の国防部(国防省に相当)が香港で情報活動を強化している”【1月6日 産経】といった報道もありますが、このあたりになると真偽の判断は難しくなります。
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